11幕:閉話3−1
陽が沈む少し前だろうか。
教会の扉が開くと同時に今日の主役が静かに躍り出た。
大きく豪快な手と細く綺麗な手が絡み合う姿は女神への宣誓が無事に終わった証だった。
その主役のうち一人、白いドレスを着たギルドの美人職員グミとすごく立派な服を着た冒険者ブラクが黄色い声援や温かな野次とともに迎えられた。扉の前から出口にかけては人々が所狭しと左右一列に並び二人を大歓迎で出迎えた。
ある者は両手いっぱいに赤や黄色の花びらを掲げれば、ある者は片手に輝く光の何かを散らしていく。その両者がうまい具合に混じり合い乱反射し輝く虹のヴェールを形成した。
この辺りに住む女性なら誰もが憧れる光景であり誰もが一度は胸を踊らせ夢見る光景だろう。
ラクスラスクで産まれる新郎新婦はこの幻想的な道を二人で歩いて初めて夫婦とみなされるのである。
ラクスラスクの絆を誓いし者だけが通ることを許された光の中を進む二人を見たココナはその初めて見る光景に目を輝かせた。
隣では、ココアちゃんがあれがあの有名なヴァージンロードよって呟いてるけれど、ココナには全く分からなかった。ヴァジルドウロ?とはいったい何のことなのだろうか。
全く聞いたことがないのである。
けれどこれだけは理解できた。
いつもココたち二人を温かく出迎えてくれるグミのお姉ちゃんがとてもとても綺麗でとても幸せそうにしていること。ココたちがいつもぶら下がったり飛びついたり肩車したりしてくれるブラクのおいちゃんが見たことがないほど強張らせた表情をしていること。そしてなぜかラズのお姉ちゃんが近くで号泣して周りから微笑ましい目で見られていること。ラズお姉ちゃんに力強く抱きしめられたパプリアが青い顔をして倒れそうになっていること。蒼葉お兄ちゃんがそんな二人を見て真っ青になっていること。
胸の奥から込み上げてくるものが何なのかは分からない。
ただ本当に綺麗である。
そしてとても幸せそうである。
知らず知らずのうちに手に力を込め過ぎたのだろうか。
同じようにぎゅっと握り返された。
「ぐみおねえちゃんきれい、、、」
「うん、本当に綺麗。ブラクかっこいいけど緊張してる」
「がちがちだもん」
「あれだと正真正銘本物の《鬼面》なんだから」
「なくこもだまる」
「「・・・・」」
「ココアちゃんもきんちょうしてる?」
「、、、、全く」
「ほんと?なんかいつもとちがうー?」
「もうココナったら、、、私は大人なんだから緊張してないの。だって立派な立派な大人なんだから」
「むぅっ、、、ココアちゃんのいじっぱり、、、うそくらいわかるもん」
「、、、だってあんな二人見てたらいっぱいいっぱい楽しくしなきゃって思うでしょ?だから失敗なんてできないし完璧な魔法を披露しなきゃいけないじゃない。昨日のうちにステージとかにはいろんな魔法陣を書きまくったとはいえそれだけじゃ、、、」
「それはちがうもん」
「違わないわ」
「むぅっ、ココアちゃんははじめてなんだからしかたないの。それにだいじょうぶだもん」
「大丈夫って何がよ?」
「やってみればわかるもん。だからそろそろ、、、」
「そうね、、、そろそろ抜け出す頃」
二人が道半ばに差し掛かる頃、赤くなった日差しが最後の輝きを解き放った。
その輝きは様々な色でできた幸せの道を真っ赤に覆い尽くし染め上げていく。
まるで開拓者が旅人が新たな世界へと旅立つように。
人が作りしものから神の世界、その頂にまで繋がる光の道を二人が移りゆくように自然な歩みを止めた時だった。
「ほらクラムもストーロもリチェ、、、じかんだもん」
「「「・・・・」」」
「いこっ?」
あまりの幻想的な世界に皆が固唾を飲んで見守っていた。
それだけの光景だったのだ。
しかしそれは仕方ないことでもある。
これからの予定を考えれば、すでに時間ギリギリなのだ。
だから二人のココは否応無しに、それぞれに静かに声をかけたのである。
「黒桃、、、ティーの花嫁衣装見たいんでしょ?」(こそっと)
「うわっお前えっ!?こんな時に何言って!!」
「黒桃くん静かに。もぉーこれはダメダメですよ」
本当に全くダメダメである。
ココは慌てふためく黒桃の手をティーに掴ませながら皆の顔を静かに見渡した。
さぁ素敵な魔法の時間の始まりである。