11幕:閉話1
あの事件から1週間が過ぎた。
今だに両手がズキズキと痛むけど、あの時ほどじゃない。嘘じゃない。
でもほんとは乱暴に動かしたら流石にズキリと痛むので外で遊ぶのにも一苦労している。
だけど後悔はしてない。
あの憎たらしいジジイの鼻をポキリと折ってやったからだ。
ざまぁおじいちゃんである。
ふと隣のベッドを見れば、気持ち良さそうに寝息を立てているココナの姿が見えた。
同じように両手に怪我をしているものの自分よりはだいぶ軽いらしい。
たぶん前衛と後衛での負担の違いとかだと勝手に推測している。
大剣を振り回した自分と比べたら両手に掛かる負担はかなり軽い方だったはず。
だから二人してあの後しばらくしてから、あまりの痛みに泣きじゃくって蒼兄に抱きついて、その際の衝撃でまた涙が止まらなくて、、、
その後、ちょっとした拍子で起こる痛みで度々目が醒める自分と違いココナはすやすやと気持ち良さそうにしている訳だ。
隣には黒くて小さなスライムのマロンも大人しくしており今は熟睡している。
ベッドの下には仔牛のヤキニクがいて日光に当たりながら寝そべっている。頭には小さな竜の頭の骨だけとなったトンコツがいて一緒に日向ぼっこ中である。
だいぶ暑くなってきたというのに2匹のこの穏やかっぷりは見ていて和むものがあった。だけどきっと数分後には暑くなりすぎてベッドの下に慌てて避難することになるだろう。だからマロンもびっくり目が覚めてキョロキョロするに違いない。
3匹の数分後の姿に思わず笑みを浮かびながらココアは先日の事件を思い出した。
洞窟での初めての大冒険。
骸骨とジジイとシャドー女との激闘。
蒼兄が使った得体の知れない魔法と魔道具。
生きるアンデッドとなったストーロやクラムにリチェの件。
大量に攫われた町の内外の人々。
助けにきたキャロやパプリアにブラクたち。
その中にはラズさんやグミさんといった顔なじみの人たちがいて、また先日お世話になったイケメンたちがいてグミさんに指輪の話をしていたような、、、
結局、誰一人死ぬことなく無事に救出されて全員が即日の緊急入院コース。
ストーロやクラム、リチェも今は別の部屋で検査漬けの日々を過ごしているものの特に変わったことはないらしい。ちゃんと日に何度か会える時間があるから様子が変じゃないか気をつけてるけど、、、問題はなさそうだ。
それにしてもあれは一体、、、何だったのだろうか。
ココアは深く思案した。
全てが片付いたあの後、蒼兄がまた訳のわからない魔法を使ったからだ。
「もう生きたゾンビ?訳分からないよ。あぁもう皆、、、こんなに目を真っ赤にさせて怖かったんだね。お腹痛かったのかな?もう大丈夫だからね、、、、1、2、3、痛いの痛いのどっかに飛んでけ」
「「「「!?」」」」
確かフードを被った変なチビ神官がこのことを知った時、驚愕してたはず。
表情は見えなかったけど、尻尾が逆立ちしてたのはわかったからきっとそうなのだろう。
生きるゾンビを元に戻す方法なんて、、、ひょっとしたら聖属性の呪文にはあるのかもしれないけど、少なくともココア自身は聞いたことがない。
この神官には今も定期的に3人を中心に診察してくれており自分たちも度々お世話になっている獣人である。両手の怪我も実際は無理な魔術行使による長時間の過負荷状態が主な原因だと言ってたはず。当初の予測とは違う結果だったし医療関連のことはまだまだ知識不足だからもっと勉強しないといけないみたい。
ちなみに数日前まで蒼兄も入院をしてたんだけど、、、ぷっ。
、、、両手が痛い。
それと自分の舎弟がもう一人。
ココアは可哀想な出来事を思い出しながら、くすりと思い出し笑いした。
蒼兄とラズさん、パプリアの話があまりにも可笑しかったからだ。
3人を不思議な魔法で治した後、舎弟のパプリアが突撃してきた。
もう決着は付いてたから無駄に終わったんだけど、このことに感激してたラズさんとパプリアのラブフィールドが展開されてあの場がとても暑苦しい空気に嘖まされた。側から見てるととても甘酸っぱい雰囲気で何度も見てられるもんじゃない。
でも最初のうちはきっと顔がニヤニヤしてたに違いないけど。
だって他人の色恋沙汰ほど面白いものはないんだから。
「ラズちゃん大丈夫?怪我はない?変なことされなかった?」(パプリア)
「パプリアくん?どうして、、、こんな危ないところに?」(ラズ)
「君を助けるために決まってるじゃないか?どんなに危険だと分かってたって僕は君を助けにいくよ。僕は君のためならどこにでも駆けつけるさ」
「パプリアくん、、、」
「ラズちゃん、、、」
「おー!?パプリアくん無事だったんだ、、、良かった」(ブルーベル)
「ブルーベルさん!!あの後、、、めちゃくちゃ大変でした」
「あ!?やっぱり?あの絶壁どうすることもできないよね。それにあそこ真っ平らだし危険だし一人だとめちゃくちゃ寂しかったでしょ?あの加減は絶望だよね」
「ほんとですよ。あのまな板のような崖は洒落にならなかったんですよ。本当に師匠たちも無事で良かった」
「、、、絶壁?、、、真っ平?、、、寂しい?絶望?まな板?」(ラズ)
「え?」(ぶるーべる)
「洒落にならない?」
「え?」(パプリア)
「あぁぁぁああぁぁん!?」(ラズ)
「誰の絶壁が寂しいですって!?」
「誰の胸が成長が絶望的ですって!?起伏が絶望ですって!?」
「誰の将来がまな板のままですって!??!?!?!」
ドスッ!!
この日一番の鈍い音が響いた。
「ぐふっ、、、、、、」(ぶるーべる)
「あれブルーベルさん?」(パプリア)
「・・・・」(ぶるーべる)
「誰がまな板のペチャの未来が残念無念ですって!!!!」(ラズ)
「ごほっ、、、、、ラ、、、ズちゃん、、、、、、そんな、、こと言って、、、、な、、、、」(パプリア)
「「・・・・」」
「あちゃー、、、この馬鹿ラズ猛省しなさい」(グミ)
「あれ?ブルーベルさん?パプリアくん?何が起きたの?あれあれ????」(我に帰ったラズ)
「「「「これがラクスラスクのギルド名物、、、惨劇のラズハラ」」」」(居合わせた一同)
「あれあれ?あれ????」(ラズ)
「「・・・・」」
あれはお腹が捩れるくらい面白、、、いや可哀想な出来事だった。
蒼兄せっかく可愛いラズさんと仲良くなれたのに、、、あの日以来なぜかラズさんの前では最大級の警戒態勢で心底不思議がってたし。でもパプリアと両思いそうだから蒼兄の出る幕はなかったみたい。
ちなみにココア自身も彼女の前では余計な一言だけは口に出さないように心がけている。
余計な一言だけは、、、
でも思い出しただけでお腹が引きつるし、おかげで両手は痛いし、でも笑えるし痛いし、、、しばらくは話題に尽きないようである。
それにこの手の話といえば、あの件がある。
とてもとても楽しみな件である。
しばらくはこれだけで顔がニヤニヤして止まらないだろう。
そんなことを思っていると魔時計の針が2本とも同じ真上を指し示した時だった。
ガタッと静かな音がした。
ちょうど頃合いだ。
思った通りのタイミングで病室の扉が静かに開かれたからだ。
「ふーん時間ピッタリじゃない?」(ココア)
「なんだよ人を呼びつけといてココア?」(黒桃)
「そうだぞココア?こっちはリハビリで忙しいんだぞ」(クラム)
「へぇーいいのかしら、、、そんな態度で?」
「ふざけんなよココア!!」
「いつまでもココアの好き勝手にさせるわけねぇーだろ!!」
「ふーん、、、、二人ともそんな態度だと誰かに何かがバレちゃうかもなんだから?」
「「ぐっ・・・」」
どうやら自分の言う通り狙い通りの時間に駆けつけてくれたらしい。
走って駆けつけたであろう二人の舎弟は尚も息を切らしながら扉に体を預けていた。
自分と同い年くらいの少年クラム。
そして先日の件で保護された少し年上の少年黒桃。
二人は随分と気が合うようで友人のストーロと合わせて3人で連むことが増えたらしい。
そんな二人にはある共通点がある。
とても似通ったというより、、、ほぼ同じような共通点、、、いや致命的な弱みを持った二人だ。
その事実を知るのは今のところ自分だけだったりするわけだけど。
その事実、いや秘密を知られた二人の顔は心底、迷惑そうなというか、怪訝そうな視線で自分を見つめている。まるでこの先に自分たちが無理難題を押し付けられるような、、、そんな表情を見せる二人にココアはニヤリと笑みを浮かべながら宣言した。
「じゃあ今から会議よ!!お題は結婚パーティーの余興についてなんだから!!」
「「おー、、、」」
「気合が足りないわよ!!」
「「おーー、、、」」
「バラすわよ?」
「「おーぉぉぉおーーーーっ!!!!」」
その後、看護師さんに静かにしなさいと叱られた後、一同は遅れてやってきた友人たちを交えて議論を白熱させたのだった。
無我の境地に陥ったラズ(# ゜Д゜):誰が断崖絶壁ですって?
圧倒的強者のココア(`・ω´・) :ほらバラされたくなかったら、、、どうするんだっけ?
クラムと黒桃( ゜д゜) ゜д゜):コ、ココア様~