10幕:嘆きの亡者とリンベル冒険団 3
「ココナ!!ココア!!」
背中越しに声が届いた。
力強くて優しく温かな声だ。
そして今まで聞いたことがないほどに怒っている声だった。
「、、、、、」
「ココナ、、、お兄が、、、蒼兄が呼んでる」
目尻に溜まった涙は今にも決壊しそうだ。
いや泣いていないのがおかしいくらいに満ちていた。
それだけのことが目の前で行われたのだから。
しかし突如として色々なことがありすぎて理性と心が全く追いついていない。
それは自分だって同じだ。
ココアは最初に湧き出した感情を前にして必死に奥歯を噛み締めていた。
「ココナ、、、呼んでる」
「、、、、だって、、、クラムが、、、、ストーロが、、、、リチェが、、、」
「分かってる!!」
突如として湧いた自分への悔しさと憎らしさ。
自分が余計なことを企んだせいで事態をさらに窮地へと追いやった。
3人を他の皆を救えたかもしれない。
例え間に合わなかったとしてもあんな最悪のことをさせなかったかもしれない。
もしあの時、母の言うことが理解できていたなら、そもそもこんな状況にすら陥っていなかったかもしれない。
それに自由に魔法さへ魔術さへ使えれば、、、、
こんなことにならなかったのかもしれないのに。
握りしめた両手の拳から赤い何かが滴り落ちていた。
顔にかかった血はすでに固まったが、拳の血は綺麗なほど赤いままだ。
そんなココアの手が急に擽ったくなった。
ふと横に視線を向けると顔なじみの子牛が二人の間に割り込み手をぺろぺろとしてくれた。
ヤキニクと名付けられた子牛はさらに二人の頬を同じように舐めてくれる。
二人ともすでに涙が流れていたらしい。
「ヤキニク、、、、」
さらにぽむっと何かが頭の上に乗っかった気がした。
ココアとココナの順に繰り返し飛び乗ると二人の右手と左手を握らせるように形を変えて輪っかになった。
「マロン、、、、」
何を言いたいのか聞かなくても分かったような気がした。
冷たくて震える手からは何の力も感じない。
だからココアから少しずつその冷たい手を握りしめた。
ココアは前を見つめた。
勘違いじゃないだろう。
自分たちよりも大きな背中が今はさらに大きく、そしてとても頼もしく感じられる。
「そっか、、、忘れてた」
大切なことを思い出したのだ。
絶対に忘れてはいけないことだ。
「ココナ、、、蒼兄なら絶対何とかしてくれる!!」
「、、、、なんで?」
「忘れたの?」
「?」
「ココナが言ったこと私は忘れてないんだから、、、蒼兄の本当の正体!!」
「、、、あっ!?」
その時、ココアが握りしめていた手が強く握り返された。
そして冷たくなっていた手がだんだんと熱を帯びていく。
「蒼兄は、、、」
「あおばおにいちゃんは、、、、」
「「大魔導士!!」」
だからココアはさらに強く握りしめた。
ぎゅっとお互いの存在を確かめるように。
そんな二人の胸の中に力強い言葉が響いた。
「リンベル冒険団」
その声は安心を与える声だ。
その声は元気をくれる声だ。
その声は勇気が湧き出す声だ。
だからいつものように二人はお腹から声を出した。
大きく、そして力強く。
「我らは無敵の」
「「冒険団!!」」
「弱気を助け」
「「強気を挫く!!」」
「邪の道逝くならば」
「「闇を纏って追い払う!!」」
「邪魔する者は」
「「魔法の杖でぶっ飛ばす!!」」
「闇夜に舞し者」
「「深遠なる刃を研ぎ澄ます!!」」
「だからこの場であんたを」
「「倒す!!」」(二人のココ)
その言葉は皆で歌った大切な言葉だ。
二人が大好きな熱い物語の言葉だ。
ココナはココアの手をぎゅっと握りしめた。
ココアも負けじと握り返した。
だから二人の瞳の輝きはもう曇ることはない。
「よくもやってくれたわね!?」
色々と吹っ切れたココアは目の前の異形の者となった化物に啖呵を切った。
体のうちから漏れ出す魔力は猛々しく蠢いており、その瞳はガーネットのようにルビーのように燃え上がっていた。
それはココナも同じだ。
溢れ出すココアから漏れ出す魔力に負けじとココナも魔力を放出し身に纏った。彼女が持つグリーンエメラルド色の瞳は宝石以上の輝きを解き放っていた。
魔力の制御は全くできなくなった。
魔法は使えないし魔術の操作も危うい。
同時に併用できるのは二つだけ。
それも精一杯頑張って二つだけである。
でも体内に秘める魔力の量は誰にも負けない。
「ココナったらもう遅いんだから」
「むぅっ!?だってだって、、、」
「よく考えたらあいつらが全部悪いんだから!!」
「はっ!?せきにんてんかだもん!!ってっぜったいぜーったいゆるさないもん!!」
「当たり前よ!!私の舎弟に手を出したからにはボコボコにしてあげるわ!!」
「ココアちゃんがいつのまにかがきだいしょうになってる!?」
「私がこの町のリーダーなんだから当然よ!!」
「でもクラムもストーロもリチェもともだちだもん!!」
「よいのぉ実によい!!これほどの魔力があれば邪竜は完全復活どころか全盛期ですら軽く超えてしまうじゃろうて、、、さぁ終わりにしようかのぉ」
大人でも軽く3倍の体格差を誇る髑髏ベースの魔物。
ココたちからすればその大きは想像を絶する大きさだ。
「ココア出し惜しみはしないわよ!!」
「うん!!」
二人は掛け声と同時に前へと突っ込んだ。
同時詠唱は2つだけ。
そんなことは今の二人には関係ない。
全身を魔力で分厚く覆い尽くした。
魔導布で出来た服も帽子も靴も全ては二人にとって相性がとても良い装備品だ。
とても軽くて動きやすい。
その上、魔力を通しやすく順応しやすい。つまり装備者の魔力に比例して防御力が上がる優れ物だ。
だから魔力制御は拙くなっても致命傷を貰う確率は限りなく低いのである。
逆に言えばそれだけの魔力を身に纏っているのだ。
ココナは意思疎通呪文を止め、その上で身体を強化する呪文を唱える。
ココアは相手を観察しながら短縮した二重詠唱を行った。
一つは相手を調べる呪文。そしてもう一つは聖属性を纏う呪文である。
詠唱破棄は出来なくとも今のココアなら造作もない。
ココナがまだ不慣れでもそれはココアが代わりに頑張ればいいだけだ。
針の穴に糸を通すのが難しくても他のやり方をやればいい。
時間がかかるのならそれだけの時間を稼げばいいだけだ。
それに短縮を前提とした新たな制御用の魔法陣をその場で構築すれば制御も操作も減ったくれもない。
手持ちの魔石たちに魔力を込め周りにぶん投げ即興で作った魔法陣を展開する。
「行くわよココナ!!」
「うん!!」
ココアは詠唱しながらココナは印を結びながら地に手を付けた。
それは二人で同時に起動させた聖属性と光属性を持つ光の結界である。
この広い地下室の半分を埋め尽くす規模だ。
【六行 聖光結界陣】
【光遁 聖光壁の術】
「ほぉ?そんなに重ねがけしたところで役に立つのかのぉ?」
あの舐めた顔が気にくわない!!
でも今に見てるがいいわ、、、私を私たちを舐めてくれたこと心底後悔させてあげるんだから!!
そんなことを思いながらココアは煽り返した。
「それはどうかしら?おじいちゃんには難しいんだから」
「ひみつだもんねー」
「ほぉーっ?おイタがすぎるようじゃのぉ」
【ココナ弱点は骸骨の首で間違いないわ!!あそこだけ魔力の密度が違う】
【でもあそこまでとどかないもん!!】
【大丈夫よ!!私に作戦があるんだから!!】
パフを掛けるのもデバフを掛けるのも戦闘前の準備段階。
準備にどれだけ時間を掛けるかが成功のカギだと蒼兄は教えてくれた。
あの済ました顔をした散々舐めてくれたジジイをぶちのめすんだから!!
だからこれから始めるのは奴を倒すための、、、ただの前準備、だからただの作業。
私の大切な舎弟に手を付けた罪は重いんだから!!
ココアは大剣をココナは杖を魔法陣から取り出し身構えた。
隣にはココナがいる。
マロンと繋がり介すことで意思疎通呪文を唱えなくても二人は互いに考えることが分かる。
例え距離が離れてもマロンが細く紐のようになってくれれば距離なんか関係ない。
一度唱えれば効果が続く呪文を重ねがけし自分たちにパフを相手にデバフを与え続ける。効果継続が続くことで同時詠唱する必要はないが、効果量は減少する。それでも今の自分たちには取れる手札が多いに越したことはない。
でもこれは目に見える布石。
ココアたちにも、、、そして相手にも。
「いまだもん!!」
ココナの叫び声が轟いた。
それは誰に発した言葉だっただろうか。
大剣を振りかぶったココアが身体強化を唱えながら突貫した。
天井すれすれまで飛び上がり大剣を掲げ重力を利用して一気に叩きつける。
、、、が大剣越しに伝わる衝撃が小さなココアの手に帰ってくる。
すごく硬い!!
ただ奴の防御した左手の骨のせいで傷が入らなくても纏う瘴気や透ける体からは何かが消失していくのがわかる。覆われた霊体にはダメージが入っているのだ。
着地と同時に右手がココアを捉えようとするが、そこに風の塊が炸裂し化物とココアを引き離した。
「ナイスアシスト!!もう一回!!」
「むぅっ!!ずるいもん!!ココもやりたいもん!!」
徹底的に上空から大剣を叩きつけるココア、その隙をカバーするココナ。
そしてちょこまかと動き続けるちびっ子たちに手を焼く巨体の髑髏。
だから分からなかっただろう。
いつの間にかマロンが二人の側から消えていたことに。
そして熾烈な戦いは攻防を極めたのだった。
使い魔たち(๑• ̀д•́ (๑• ̀д•́ (๑• ̀д•́ ):出番!!
成長し続ける子供を垣間見る蒼葉( ー̀ωー́ ) :、、、、。
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