10幕:嘆きの亡者とリンベル冒険団 2
「口寄せ、、、、我死夜髑髏」
ココは、はっとして階段の女を見つめた。
それはお兄ちゃんがたまにマロンを召喚したりする聞いた通りの術だった。お兄ちゃんの時は魔法陣は浮かび上がらないけど全く同じである。東洋の魔術、シャドーの忍術である。この前のダークシャドーでも演じた時に使用したしココたちの間で今話題のやつだ。
それにあの女の人はお兄ちゃんと同じシャドーであるらしい。
ココにとってその事実が気にならないはずがない。
ココも少しはシャドーというものを齧っているので気になるのだ。
だから唱えている呪文が途切れそうになるも何とか踏ん張った。
余計なことを考えれば今にでも呪文が霧散してしまいそうだ。洞窟崩壊前の死霊の件以来、ココアもココナも一度に唱えることができる呪文は2つだけ。それも二つ同時になると物凄く集中力がいるため体力が削られる上に身動きが取れなくなる。
どうしてもメリットに対してデメリットが多いのである。
左手で意思疎通の呪文を右手で体力回復の呪文を唱え続けているココにとって1分1分が物凄く長く感じられた。魔力量は問題ない、でもその魔力を扱うための魔力制御だけは違い、以前のように上手く扱うことができなくなった。まるでふんわりトロトロしたプリンを糸で掬うかのような、細く絡まった糸を頭だけで足だけで解くようなそんな感じだ。
目の前で黙ったままのココアちゃんの手を取りながら必死に体力回復呪文を掛け続ける。そして一方で意思疎通呪文をラズお姉ちゃん、グミお姉ちゃん、お兄ちゃんにココにココアちゃんに繋げている。今、皆で必死のやりとりが行われているのだ。
一方でラズが倒れた人たちの前で警戒を続け蒼葉が骸とコアンとの猛攻を必死で凌ぎグミが状況を整理しながら倒れた人たちを介護していた。ポーションにエーテルにと蒼葉が隠し持っていた薬品類が功を奏したのだろう。少しずつ動けるようになった人たちもその介護係に加わり何とか事態が好ましくなっていく、、、
-----------はずだった。
「お主らよくもわしを謀ったのぉ、、、そろそろ遊びは終わりじゃぞ」
ココの目の前に現れたのは先ほど消えた老人だった。
その老人は薄く透ける体を漂わせ天井から飛び出しココたちの前に差し迫ったのである。
「おのれやはりここかっ!?そこにおるではないかっ!!」
突き出す両手から衝撃が迸り何かが吹き飛んだ。
黒く大きな布のようなものが飛ばされた場には少年と少女が息を潜めていた。
ちょうどココの後ろでありさらにココアの真後ろとなる場、そして階段からは完全に死角となる場所だった。
実はココたちとともに飛ばされたティアと黒桃は蒼葉の機転により身を潜めていた。暗い状況を利用して黒い魔導布の布で身を隠された二人は、身を寄せ合いココアの介護をしていた。
つまりそれがバレたのである。
「むぅっ!?」(ココナ)
突如として不利に追い込まれた時にココがどうすればいいのか判断できなかった。
ぺちぺちと手を叩くも反応は今だに返ってこない。
お兄ちゃんは骸骨と女シャドーとに挟まれてココの声が全く届いていない。
回復呪文を止めるのか?
意思疎通呪文を止めるのか?
何を優先すればいいのか?
攻撃した方がいいのか?
結界で守った方がいいのか?
突然の事態に動揺を抑えることができなかったのは仕方ないことだろう。
最適解を選択するには幼く経験が足りなさすぎた。
集中力を失ったココが呪文を維持できるはずもなく霧散した。
そして周囲からはさらなる悪霊どもが次々と現れココたちを取り囲んだ。
血の気が少ない人間など眼中にないらしく誰もかれもが視線を一点に集中させている。
二人の少年と少女へと。
「さっさとやれぃっ!!」
「こ、黒桃くん。やばいです!!やばやばです!!!」
「ちょっとティア落ち着け!!揺さぶるなって、、、」
懐に手を忍ばせた黒桃が何かを取り出し突きつけた。
1秒遅れていたら二人は亡き者へと変えられていただろう。
そんな刹那のタイミングで少年は己の魔力を解き放った。
束の間の時間すら与えず異形の魔法陣が広がった。
【黄竜光帯陣】(黒桃)
四方に細長い紙の束が群がり光を帯びながら死霊どもを外へと弾かれていく。
二人を抜けココを通り抜け最前列にいたラズまでを飲み込む光の帯は術者を中心に数多の護符から生まれる光の結界を解き放った。
「こ、黒桃くんは凄いです!!すごすごです!!」
「くそっ、、、でも長くは持たねぇ」
「だ、ダメです。黒桃くん気合いです!!オラオラです!!」
「いや、、、ちくしょーっ!!だから長くは保てねぇんだよ!!バカココアいい加減起きろっ!!」
「、、、、」
それでも術を掻い潜り無理やりに亡者どもは近づき手を伸ばした。
光に体が弾け飛ぼうとも粒子となって消失し続けようとも止まることはない。
その体が片っ端から再生されていくからだ。
ココアちゃん!!
その時、ココはぎゅっと握り返されたような気がした。
【光の長剣!!】(ココア)
迸る光の軌跡が周囲を徹底的に切り刻んでいく。
その中心で仁王立ちする女の子は自身気な表情を浮かべながら、、、こう宣言した。
「待たせたわね!!この私が起きたからなら、、、もう大丈夫よ!!」(ココア)
「むうっ、、、」(ココナ)
さっきからちらちらっと登場の機会を伺っていた当人を知るココはこう呟いた。
「それはもうココがやったもん」(ココナ)
「えっ!?」(ココア)
「「「「、、、、、」」」」
そして絶妙な空気だけが場に流れたのだった。
迸る光の剣は死霊たちをまたしても還付なきまでに蹂躙しこの世から消し去った。
その事態に余裕満々だった老人の顔色が踵を返したかのように変わった。
「仕方ないのぉ、、、、」
何を企んでいるのだろうか。
老人は咄嗟に髑髏の化物の元へと近づいた。
えっ!?うそ!?吸収したっ!?
そしてその存在ごと取り込んだようにラズには見えた。
いや違う。
喰ったのだ。
その骸ごと全てを。
「ジジイ、、、人の妖魔を勝手に、、、」
釈然としない顔の元同僚を前に老人の体が少しずつ少しずつ変わっていく。
人とは違う魔業のモノへと。
ラズもグミも目の前で対峙するブルーベルですらその事態に動けないでいた。
変わり果てた姿へと変化しながら老人はその右手を上げ促した。
「取れる手は何でも使うのが生き残る手じゃが、、、お主らにそんな手はもうぶら下がってはおらんぞい。そろそろこの老いぼれも飽きてきたころじゃからこれで遊びは終わりにしようのぉ、、、こういうのは面白かろぉ?」
一人また一人が地面に出来た黒い渦から這い出てくる。
元同僚が操る影の穴や渦。
そしてこの老人が操作する何らかの力を伴った黒い渦。
情報が複雑怪奇するわけだ。
全てを元同僚だったコアンが行なっていたのではなく、むしろこの老人がほとんど裏で暗躍していたのだろうとラズは悟った。日中や夜勤でもほぼ同じくして顔合わせをしている彼女に多数の人たちを拉致、監禁から何から、それだけのことが可能だったとは思えない。漏れ出す不満から推察してもほぼ間違いはないだろう。
老人とコアンたちとの先ほどのやり取りの違和感が脳裏を過ぎる。
闇の組織の住人とはいえ今はなぜか穏健派らしいコアン。
一方で嗜虐心を隠さないアンデッドの老人。
ゲスの糞男はこの場にいないから除外。
この二人に対して生き延びる手段があるとすれば老人さへ倒せばコアンへの甘さ?に付け込んで見逃してもらえるのではないだろうか。
そんな甘いことを考える余裕が生まれたことこそ完全な油断だったのだろうか。
それとも急変した事態の連続に心や意識が追いついていなかったのだろうか。
もしくは覚悟が始めからできていなかったのだろうか。
黒い渦から這い出てきた人物を見てラズもグミも背筋を凍らせて固まった。
「クラム?」(グミ)
「ストーロどうしてさっきまでそこにいたはずじゃ、、、それに武具屋さんとこの女の子の、、、」(ラズ)
3人は怪訝な表情を浮かべながら口を開いた。
何を当たり前のことを聞いているのだろうかと言わんばかりに。
だがその視線はラズやグミを見ておらず焦点が定まってない。
「あれ?ラズお姉ちゃん、、、」
「グミ従姉ちゃん、、、」
「ココアおねえちゃん、、、いっしょにあそぼ」
「すとーろ?」(ラズ)
「、、、、」(グミ)
「クラム?ストーロ?」(ココナ)
「、、、」(ココア)
「ラズお姉ちゃん、、、僕死ぬの?死んでるの?」(ストーロ)
「なぁココア、、、俺、、、まだ人間だよな?ココナとした約束まだ、、、大丈夫だよな?なぁココナ?」(クラム)
「ココア、、、おねぇちゃん、、、」
「、、、、」(ココナ)
「、、、、」(ココア)
生気のない目をしているのは3人だけじゃない。
湧き出す人々の全てが何かがおかしい。
「不思議かのぉ?此奴らはな生きたままアンデッドに変えてやったんじゃぞい、、、意味かわかるかのぉ?」
「お前、、、」(蒼葉)
「動くなよ若人、、、動けばこの者たちを消失させても良い、、、が、ほら殺せるかのぉ?浄化させれるかのぉ?アンデッドになったといえども死んどらんのじゃてまぁすでに魔物となっておるがのぉ、、、、ほらこれでわかるかのぉ」
腕、足が飛びごろごろと転がった。
残された体が小さな体がそれを探し出そうと踠いていた。
ラズの目の前にバラバラになった最愛の弟が、、、
大切な弟が、、、
たった一人の家族が、、、
そして目が合った。
「ラズ、、、おねえちゃん?」
何かが壊れたような気がした。
ラズの中の何かが砕け散った。
たぶん二度と取り戻すことはできない何かなのだろう。
感情の爆発はもう抑えることはできなかった。
「いやあぁっぁぁっぁぁっぁぁぁ!!!!」
現実を知った少女の叫びは誰にも聞こえていない。
かつて生者だった者たちはそんな死んだ目をした少女を無視し前に躍り出た。
「さぁどうするんじゃて?」
黒くほくそ笑む老人を前に誰しもがこの後の現実を知ってしまった。
誰しもが動けないままだった。
たった一人だけを除いて、、、
出番なく消える我死夜髑髏(0д0∥):ソンナ,,,,,,
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