10幕:嘆きの亡者とリンベル冒険団 1
修正しました。
「ココナちゃん!?」
両手から伸びた光の帯、その行き着く先とは正反対の方を見たラズには中心にいる人物に心当たりがあった。ラクスラスクに訪れてからラズがとても目を掛けている小さな冒険者だ。ほぼ毎日顔を出してはギルド内を冒険したりラズのところに顔を出したりしてとびきりの笑顔を見せてくれる。思ってもみなかった彼女の名前を咄嗟に口にした。
どうしてこんなところに?
なんで?
「ラズおねえちゃん、もうだいじょぶもん!!」
この状況じゃなかったら思わず抱きしめたいような可愛さと知っていながらもラズは必死に周囲を見渡した。突如として先輩が消えたのである。
全く状況が掴めない中でさらに驚いたことが起きた。
煙のような瘴気が薄まる頃にもう一人の青年が飛び出したのだ。
冴えない表情を浮かべる彼の両手には亡き者となったはずの女性がいる。
その唖然とした表情の女性を抱きかかえた青年はラズの元へ近寄りその体を静かに預けた。
それは先ほど最後にラズに何かを呟き死神に命を奪われたであろう、、、大切な先輩の姿だった。
考えるまでもなく彼女はラズは先輩を深く強く抱きしめた。
もう絶対に離さないといわんばかりに。
彼女の心臓の鼓動と温かさ以外は何も耳に入らなかった。
だから返される力強さを二度と離さないように、、、抱きしめた。
それから数分。
ラズの意識が改めて追いついた頃だった。
「はっ!?せ、先輩?怪我は?痛いところは?ちゃんと生きてますか?先輩先輩!?」
「ちょっとラズ!?落ち着いて!!私も理解できてないから」
「あれ!?ココナちゃん?ブルーベルさん!?あれあれ!?」
「「!?」」
パニックに陥ろうとする二人のことを遮るように青年は静止した。
普段の柔らかな顔色とは雰囲気そのものが違う真面目な表情だ。
ラズの心臓がドキリと鳴ったような気がした。
彼の視線ははるか奥、階段の方へと向けられている。
「ラズさん、グミさん、状況は?」
そんな青年の一言に二人はすぐさま切り替えた。
全員が邪竜復活の生贄として何らかの術で攫われたこと。
一人は死霊術師、一人は元同僚の職員の闇組織の一員、あと一人はゲス野郎だということ。
他にも攫われた人たちがいるかもしれないということ。
ここがBクラス以上立ち入り禁止のダンジョンだということ。
全員がほぼ間違いなく衰弱しているということ。
全てを端的に説明するにはどうしたらいいのか、ラズがパニック中の頭を唸らせているとグミが咄嗟に口を挟んだ。
「ブルーベルくん、あいつらが神隠しの犯人で邪竜復活の生贄として龍の祠までみんなを攫ってきたの」
「、、、、最悪」
掻い摘んで伝えたことは信じがたかったらしく彼がとても落ち込んだようにラズには感じられた。
でもその言動と表情は違い油断してはいないようだ。
駆け出しの冒険者のはずなのにこの異様なほどの落ち着きと佇まいがラズには信じられなかった。
魔法陣から離れた位置、地下へと上り下りする階段の中央には依然としてあの不気味な老人が佇んでいる。そして隣には同僚だった女、、、コアンがこちらを観察していた。隣には先輩に不徳を働いたゲス男もいる。
先ほどまで何を話していたのかは分からないが今のラズにははっきりと彼らの声が聞こえた。
「おいおいジジイ何召喚してんだよ」
「ジジイ余計な仕事増やしてくれましたね」
「けっけっっけ、、、ジジイジジイと連呼しおってちと待たんか。それにしても何度も何度も邪魔をしおって、、、ん?小童どもの魔力が今まで見たことがないほど素晴らしいのぉ。あれだけあれば血もいらんかものぉ、、、、ワシは他にやることができたから後は任せたぞい」
「これだからジジイは、、、」
「はぁ、、、まさかここに来てまたあいつですか」
「確かお前の因縁の奴だったな。ぷっ!!可哀想に、お前がイジメるからロクな装備身に着けてねぇじゃねぇか。こりゃ見るからに退屈しそうだ、、、俺様は他の客を相手にしてくるか。どうやら上の奴らは遊べそうだ」
「ずるいですよ、全く。これだとあの手配書も偽造の人違いでしょう。まぁちょうどいいタイミングですし、この件含めてあいつに全てを押し付けるって腹でしょうし乗っかるとしましょう」
「まぁた弱いものイジメかよ」
「ただの当てつけですよ、ただ少しは隠蔽工作くらいしとかないといけませんからね」
「貴様ら御託は良いわ。あの小童二人は確実に捕らえるんじゃ。それからあの仔牛の方は動けんようにすればよいが彼奴の頭こそが邪竜の頭じゃ」
「あの骨がですか、、、頭だけじゃないですか」
「ったくそんなことはどうでもいいんだよ。口うるさいジジイは女に好かれねぇぞ」
「ほんとですよ。それからジジイも少しは働けってんですよ」
「全くのぉ、、、これだから一言多く喚く女はいかんのじゃ。だからお主は伴侶がおらんのじゃ」
「うっさいジジイ」
「あの餌相手ならこれで良かろうて、、、、来たれ屍人よ」
「ったく、、、あんな弱そうなの私一人で十分ですよ」
「まぁ老人からの恩義は受け取るもんじゃて」
手配書?
誰のことだろうか。
最近、発行されたものといえばSクラスの手配された奴のことだろうか。
少なくともあいつらの視線は自分たちじゃなく彼に向いているらしい。
確実に人違いだとラズは悟った。
そして二人が視界から消え去るのと入れ替わりに何かが階段を降りて来る。
その数、十数体の人型のようなもの。
ただしその顔に生気がない。
「屍人、、、、ゾンビ!?」
異様に鼻につく匂い。
肌や皮膚の状態、生気のない様子、そしてこの世の者とはいえない瞳を持った者。
死霊術師が死体に魔に侵された魂を封じ込め、魔物となって生まれ変わった者。
それがゾンビだ。
学術的なことは今はいい。
今はこの状況をなんとかしなければ、、、
ラズは拳に力を込めながら自体を見守った。
「ちょっと冗談だよね、、、、」
そんなラズの耳に冒険者らしからぬ声がひっそりと届いたのだった。
動き出すスピードは全く早くなく少しも俊敏さを感じない。
見た目以上に遅いと言っていい。
あれが本当に異次元のような速さで食らいついてくるのだろうか。
--------ゾンビ:死体に何らかに侵された魂が入れられることで動き出す魔物。
そう記憶している。
以前、お世話になった冒険者ギルドのツルピカ教官が教えたことだ。
厄介なのは何らかの病原菌を持っているかもしれないということ。
魔力や呪文を扱える者がいる場合があるということ。
以外にタフネスだということ。
数が多い場合、非常に面倒だということ。
だっただろうか。
とりあえず腐った肉を纏う魔物なのだから近づいて欲しくないし気持ち悪い。
正直な話、接近したくないしナイフすら触れさせたくない。
後で消毒しなければ、、、調理に使えなくなるし、、、触りたくない。
だから蒼葉は迫りゆく亡者どもへ向け4本のナイフを投げつけた。
ゾンビにではなく階段の両隣に向けてだ。
そのナイフ同士の柄には細い糸が結びつけてある。
炎には弱いが軽くて細く視認しづらく上部な魔物が生み出す糸である。
それを2本1組、合計2セット。
ゾンビが地面に降りる寸前くらいに糸を張るように、そして糸が引っかかるようにタイミングを合わせて投稿した。
階段直下纏まったゾンビたちを支点にナイフだけが宙を飛び弧を描きつづけ、糸にぐるぐる巻きにされたゾンビたちは身動き取れずにその場でのたうち回った。
そこへ聖水入りの瓶を投げつけた。
汚い者は洗い流すに限る。
聖属性を持つ『聖水』が炸裂しゾンビたちはだんだんと動かなくなっていく。
「ふっ、、、やっぱりゾンビは一網打尽に限る」(ドヤ顔蒼葉)
「お前、、、、そんな程度の相手に粋がってんじゃないですよ」(かなりキレ気味なコアン)
一瞬だけゾクッとするようなオーラが漏れたような気がした。
だから何が起きたのかはすぐに把握できた。
トドメを刺したはずのゾンビが新たな命を得たかのように動き出したのだ。
だから、、、
「火遁屍人滅炎の術!!」
左手で作った死角を利用して口に含んだ液体を霧状に吹きかける。同時に右手の死角で用意した火種を利用し、、、爆炎を叩きつけた。
燃え上がる青白い炎は瞬く間に屍人たちを炎上させ、残された命の灯火を消し去った。
聖水入りのポーションと聖油入りのポーション。
武具屋のオヤジさんのところで手に入れて品は多岐に渡る。
備えあれば患なしである。
「に、忍術!?まさかお前シャドー!?、、、この野郎、どこの里の抜人だ!?」
「消えた!?」
完全な死角外からの一閃だった。
刃物の鈍く光る輝きに気づかなければ今ので終わっていたのかもしれない。
そんな決死の一撃をダガーで逸らしつつ身を躱した。
だが流れるような所作から垣間見える視線と動きは逃すつもりはないようだ。
上下左右の死角からの斬撃、刺突の連撃は終わらない。それでも何とか致命傷だけは避けられた。致命傷だけは、、、、全身に切り刻まれた傷跡からは血が滲み出ているか滴り落ちているに違いない。あまりにも傷が多すぎて全身が火傷を負ったように熱い。
バカにされた魔導布コートのありがたみを感じながら両手にダガーを構えた。
「この恥知らずの裏切り者が、、、お前はここで確実に殺す!!」
いきなり激昂した女は指をかじり手のひらを地面に翳す。
瞬間、周囲に光る紋様のようなものが浮かび上がった。
それは今までに見たことがない刻印や紋様などで構成されている。
「口寄せ、、、、我死夜髑髏」
黒い闇のような影が散乱した骨の上から周囲全てを覆い尽くしゆっくりと引き摺り込んだ。
そしてその場から何か大きな何かが這いずりだそうとしている。
やがて黒い影をぶち破り大人の3倍の大きさはあろうかという人型の髑髏が現れたのだ。
白くて大きな手に白い頭でできた人型の髑髏。
窪んだ眼球があった位置には赤く嗜虐を覗かせる瞳が輝いている。
辺り一帯に漏れ出す瘴気が只者でないことを物語っている。
そんな中でまるで目の前の獲物を見定めたように青年だけに赤い目を向けて髑髏は吠えたのだった。
ピンチを救われたラズ:((*゜д゜*))ドキドキ これがまさか、、、
恐れ入りますが、、、、ちびたちの活躍に期待したい方、ラズの心のざわめきが気になる方、もしよろしければ評価やブックマークやシェア等していただけると嬉しいです。