まじかるココナッツびたー 『大人の冒険』3
「そうだ!!ラズさんたちも一緒に参加してみたらどうですか?」
そんな一言に突如、襲来した女性陣は不思議そうな顔を浮かべた。
普通、ラウンジは男性客を接待する場であり女性は対象にしていない。
そんなことは3人とも当然のごとく自覚していた。
そんな中、幸せそうな顔を浮かべていた青年は柔らかい太ももの天国から身を起こしながら続けた。
「最近は女性も一緒に飲んだりするそうですよ、僕たちの国でも流行してるんです。それに支払いはギルド長ですし、、、ね?ギルド長?皆で騒ぎたいですよね?ブラクさんもパプリアくんも?」
助けに渡りぶねとはこのことだろう。
折檻が止まらなかったギルド長。
土下座を続けざるえないブラク。
筋肉自慢の乙女の番になり息を吹き返したパプリア。
3人は唸るように顔を上下させた。
特にギルド長はいつもの調子が戻ったかのように声を張り上げた。
その姿はまさに元二つ名持ちの冒険者《変幻自在の双宴》である。
「ははっはははは。それがいい!!ラズたちもたまには社会見学が必要だ!!」
とある二人の人物からギロリと視線が向けられるが萎縮することはないらしい。
そしてそんな矛先を巧みに操るように青年は本人たちに低姿勢で話し始めた。
「グミさんすみません。旦那さんを無理やりこんな場に連れてきて、、、」
「そんなブルーベルさんが謝らなくても」
「いえ実は僕がこんな場所は初めてだからついてきてほしいって無理やり連れ出したんです。皆さんが接待してくれるって浮れてしまって、、、グミさんが婚約者だって聞いてたのにすみません」
「いえ、そんな、、、」
「グミさんって本当に幸せ者ですよね。ブラクさんグミさんのこと愛してるってずーっとそんなことばっかり話ししてたんですよ、ほんと羨ましいですよ」
「ブラクが、、、」
「ブラクさんったらグミさんのこと愛してるって本当熱いですよ。そうだ!?グミさん良かったらブラクさんと二人で参加してみませんか?ブラクさん絶対喜ぶと思うんです」
「そ、そう?」
「そうですよねブラクさん!!」
「、、、、、、、、、、、」
「ごめんね、早とちりだったのねブラク」
二人がその場から元いた席に戻ると青年は怒れるギルドの受付美少女に話しかけた。ただ彼女は今のやりとりを聞いていたらしく少しはほとぼりが下がっているようだ。
「ラズさん本当にごめんなさい」
「こちらこそすみません。ブルーベルさんを接待していたとは知らずに、、、」
「ラズさんも良ければ一緒に遊びませんか、、、すごく面白いゲームだったんですよ」
「面白いゲームですか?」
そしてこっそりと耳打ちした。
だがその顔色が黒かったことに気づくことはないだろう。
「これが面白くてキャロやパプリアくんに抱擁されたりとか口説かれたりとか」
「!?」
「キスされたりとか、、、王子様にお願いを聞いてもらったり、、、」
「!?」
ラズの顔が豹変したことは言うまでもない。
押し黙り変な表情を浮かべ出した彼女に青年は続けた。
「パプリアくんかなり酔ってるみたいだからラズさんがあっちの席に連れて行ってくださいね。お願いします、、、ちゃんと手を取ってくださいね」
「えっ?パプリアくん?」
フラフラしながら近づいてきたパプリアをラズに無理やり密着させるように押し付けると青年は長く息を吐いた。
それから終始、険悪な空気を纏うキャロたちへと顔を向けた。
一瞬だけだが自分の方へと視線が向けられたのをキャロは感じ取った。
やるなブルーベル。
正直な感想だった。
いとも簡単にこの場を収めてしまった。
視野が広い。それに行動力もある。瞬時に状況を把握して己の置かれた立場を利用する頭の良さ。
キャロは感心した。
そしてどうやら次は自分たちの番らしかった。
キャロを見て一瞬だけニコリと浮かべた表情はいったい何を考えてのことだろうか。
もしかしたら二人の距離感だけで彼は察したのかもしれない。
こちらはかなりの険悪な件だということを。
「アイラさん久しぶりですね、、、恋人さんをお借りしてすみません」
「ブルーベルさん?彼は恋人じゃないわ」
あぁそうだとも彼女とはそんな関係じゃない。
発言撤回だ。見損なったぞブルーベル。
しかしいつもとは口調や雰囲気が変わる彼女に青年は話し続けた。
「実はキャロは、僕がこういう場所は初めてだからって頑張ってくれたんです。僕のために女性陣たちと仲良くさせるためにって」
「そう、、、なの?」
「だから見た目酔ってないようで今日はめちゃくちゃお酒入ってるんですよ。場を盛り上げるためにさっきはパプリアくんと粗相してましたし、おかげで今日は色々とおかしいでしょ」
「そうかしら、、、」
「今日は無理してますからね」
怪訝な表情を浮かべたままの彼女だが、彼に言われてしまえばそう捉えるしかない。そしてこう助けぶねを出されたらキャロも乗らざるえない。
ブルーベルの向ける視線がそう言っている。
「すまない、、、実は君がさっきから3人くらいに見えているんだ」
「へぇー珍しいわね、、、そんなに酔うくらいは飲まないはずだけど」
「ごめんなさい。今日は僕が飲ませちゃったんですよ。だからアイラさんには申し訳ないですけど、彼をしばらくお願いできませんか?」
「えっ?」
「ブルーベル!?」
そう言うとブルーベルはキャロのバランスを崩しソファに転がした。
アルコールが入ってることもありキャロは思っていた以上に抵抗ができなかったらしい。
気づけば馴染みの顔と胸囲が普段とは違う距離と方向から視野に収まった。
「アイラさん最低でも1時間くらいはそのままキャロを動かさないようにしてくださいね。酔っ払いはすぐ大丈夫って言い出しますから」
「わかったわ、、、」
「おいちょっと待ってくれブルーベル!?」
「そうそう、それからこれ顔に掛けとくと楽になりますから」
ポンと出現した黒いハンカチをキャロの顔を隠すように放り投げられた。
、、、。
馴染みからの視線を気にしなくていいのはありがたい。
だがこれはこれで余計に彼女を意識してしまうようだ。後頭部に伝わる温もりや柔らかさだけでなく、添えられた手から伝わる彼女の本来の優しさが無下に伝わってくる。
ん、、、悪くない。
キャロはハンカチの隙間から皆の危機を救った立役者を遠巻きに見つめた。
どうやらとある人物が最初から彼だけを注意深く見ていたのだろう。
筋肉の洗礼を受けたであろう乙女が彼をブルーベルに目を輝かせていた。
そして彼は乙女の熱い抱擁を受けて、、、廃人になった。
あの役だけは正直、彼だけに任せたいところだ。
そんなところが大好き、惚れちゃうわと聞こえる気がするが、そんなことは今はどうでもいい。
伝わる肌の柔らかさはキャロの変に意識させた心をこうして和らげてくれている。
一方、助かった3人はその犠牲に感謝しつつも彼を助けるつもりはないらしい。そんな余裕もないのは当然か。忘れ去られた彼もこの後きっと天国へ旅立つのだろうが今はどうでもいい。そうは言いつつもあの青年に変な親近感を覚えたのは確かだが、、、、
考えることを止めたキャロは普段感じることがない温かさと柔らかさに安堵した。
そしてそのまま深く瞳を閉じたのだった。
改めてこの世の地獄を味わった青年(0д0∥):オ,オトナノボウケン,,,,,,,,,,,