9幕:海底神殿と謎の儀式2
平日はほとんど厨房の外に出ることはない。
ほぼ最低限のスタッフで回すことが多いためほぼ調理スタッフとして腕を振るう日々だった。
「蒼葉くーんピアノ弾いて欲しいってよー」(女性のホールスタッフ)
「これ火加減難しくてしばらく手が離せないんですよ、、、」
「蒼葉くーんピアノだって」
「仕込み途中だから動けないんですって、、、」
「蒼葉くーん美人のお姉さんが呼んでるよ」(女性のホールスタッフ)
「ヤスさん、行ってきます!!」(キリッ)
「おい蒼葉って、、、あいつ早いなー」(副料理長ヤス)
「蒼葉くんは後で賄い係の刑ね、デザート付き」(にこりとした女性スタッフ)
厨房を飛び出し簡易の衣装を取り替えて客席へと足を進めた。
窓際には一輪の綺麗な華が視界に入る。
その花弁は美しく凛としており、また肢体には毒のある棘があるように感じられた。
でも躊躇することはない。
甘美な香りにまるで囚われたかのようになぜか足が止まらなかった。
そしてその華の対面には小さくて黄色い一輪の花が力強く輝いていた。
小柄であどけないほどの様相が見る者が保護欲に駆られるような、、、そんな気がした。
にんまりと笑顔を浮かべ口元を汚した彼女にそっとハンカチを近づけ拭った。
そんな彼女は対峙する一輪の華とは違い溢れんばかりの活気さに満ちていた。
まるでたんぽぽのようなひまわりのような力強さだ。
「リアお姉ちゃん、、、私の勝ちだね」
にっこりと微笑む月華ちゃんに相対してリアさんの表情はむむむっと悔し顔をしており、、、正直な話、、、微笑ましかった。
「ぐぬぬぬっ、、、蒼くんまた月華ちゃんに負けたーっ!!」
「えっへん!!」
「何の勝負してたんです?」
「今回は蒼くんをどうやったら厨房から引きずり出せるかだよ」
「ん?ということは、、、」
疑惑の眼差しを持って受付に視線を向けると、、、疑惑のウェイトレスは逃げ出した。
全く、、、あとでこっそりと賄いのランクアップを上げなければ。
デザートもオーナーのこっそり隠したやつを。
本当に本当に何から何まで、、、、ありがとうございます。
ここぞとばかりに心を満たしていた時、二人のやりとりには進展があったようだ。
「りあお姉ちゃん約束。今度のらいぶの助手は月華に決定しましたー!!」
「ぐぬぬ、、、じゃあ私は月華ちゃんの助手でお願いしますっ」
「じゃあこれが台本だよ!!」
「それって!?懐かしいなぁ、、、昔プレゼントしたやつだね」(蒼葉)
「うん月華が大好きな絵本だよ」
「ということは、、、」
「そう、、、あのね、、、月華今度はお兄ちゃんとこれやってみたいです」
「うむ、、、、お兄ちゃんに任せなさい」(キリッ)
「じゃあママにお願いするの、、、月華お兄ちゃんに助けて欲しいな♩」
「あれ、、、ここにリアお姉さんもいますよー」(リア)
「リアさんもまた手伝ってくれるんですか?」(蒼葉)
「蒼くん、私は蒼くんの正式な助手だからね?」(リア)
「りあお姉ちゃんは私の助手だよ」(月華)
「そして蒼くんは私の助手!!」(リア)
「お兄ちゃんは私の助手であり、りあお姉ちゃんは私の助手だから我儘言っちゃいけません、、、だから」
「それは大人として言うこと聞けません、、、だから」
「月華お兄ちゃんの本心が知りたいな♬」
「こら蒼くんの本音が聞きたいな♬」
「「お兄ちゃんは誰の助手かな?」」
「「聞こえてる?」」
微笑ましいやりとりが続く中、蒼葉は厨房に戻ることにした。
聞こえてくる無理難題は聞こえないふりをして、、、、
【聞こえてる?】
【、、、、、は失、な、だニャ】
!?
【おっと、、、、、はまだ聞、、れ、、のかニャ】
どこの猫さんかな?
猫じゃらしもご飯も用意できてない。
【猫、ゃ、い】
絶対嘘だ。
喋る猫さんだ。
【、、、、、忘れる、、の、は、魔、の言、を唱、、る、、、】
【、、、、、】
懐かしい夢を見た。
起きる間際のことは思い出せない。けれどお店でのことはまだはっきりと記憶に残っている。
だからこそ二度と戻れないだろうとしか思えない懐かしい時間が胸を締め付けているような気がした。そんな不確かなものが妙にはっきりとした感情とともに引っかかり消えることはない。
生暖かな風が海の潮の香りとともに鼻腔を貫き不快さだけを際立たせた。
目に入るもの全てをはっきりと捉えることができず神経だけが余計に消耗されていく。
目が覚め歩き回ってから蒼葉たちは薄暗い闇の中を探索していた。
蒼葉とマロンを先頭にヤキニクとココ二人、そしてパプリアが殿を勤めている。
さすがに息は多少荒げているし綺麗だった身なりもすでに汚れている。それでも怪我一つなく地盤の崩落から奇跡的に助かったのはスライムのマロンがクッションになったおかげである。霊体の化物に受けた攻撃が一体何だったのか気がかりだったけど一旦棚上げして一同は出口を探し続けている。
どのくらい歩いただろうか。
幾度も休憩を挟みながら歩みを進める。
手持ちのマッピングシートはすでに厚くなっておりこのまま安易に書き続けていると纏めるだけで時間がかかりそうだ。
少し長めの休憩時に、パプリアくんと協力しながら簡易なマップに書き直し整理し終えた。
ここまですでにどのくらい時間が経ったのかは分からないけど、魔物と罠以外の心配は今のところない。日用品から食料品等々日頃からの蒼葉の心配性のおかげで救われているのだ。特に日常とは違う時間を過ごせる二人にとってはワクワクドキドキしっぱなしなのだろう。それにこんな時だからこそ大好きなおやつや保存食を口にできるのである。
喜ばないわけがなかった。
おやつの後、二人が何かこそこそしだしたので流し目で視界の中に捉えたままパプリアくんと相談する。食料等には問題がないので安全第一で行動することで一致した。
それにしても身体が重い。
謎の霊体のようなのと対峙してから体の不調が続いている。
明らかに身体が鈍くなったような気がした。
だからだろうか。
子供達の疲労度合いを気にせずにはいられない。
多少休憩頻度を多めにしているもののどこかで長時間の睡眠時間を確保するべきだろう。
汗が止まらないココアを新しい服に着替えさせた後で今後の算段を続けていると、、、変な音が響いた。
がこんがこん、、、と。
突如慌てた様子の二人が視界に入る。
そしてわたふたしながら蒼葉に近づいてきた。
「ココはココは、な、なにもやってないもん。スイッチなんかおしてないもん!!」
「蒼兄私も知らないわ。何も壊してないわよ!!最初から壊れてたの!!」
何だかとても嫌な予感が蒼葉の脳裏に響いたのだった。
ココナ (o*´∇`)o:すいっち〜
ココア o(´∇`*o):この出っ張り何?
パプリア 三゜Д゜)乂 ダァメ:師匠押しちゃダメですよ
好奇心に負けた二人 (゜Д゜;≡;゜д゜):あわあわ、、、
恐れ入りますが、、、ココナとココアのいたずらにほっこりされたい方、もし良ければブックマークや評価、twitter等でシェアしていただけると嬉しいです。