9幕:海底神殿と謎の儀式1
暗闇の中で真っ白な光が差し込んだような気がした。
重い瞼を少しずつ抉じ開ける。
しかし映るのは薄暗いどこかの闇の世界だ。
いや目を凝らしてみれば、ぼんやりと何かの輪郭が分かる。
どうやら何かの結晶が微かに光を放ち僅かながらも光源の役割を伴っているようだ。
たぶん魔光石が少し含まれているのだろう。
自然に出来たダンジョンや遺跡には天然の鉱石がむき出しになっていたりする。その鉱石には魔石が含まれていることも多く自然間の魔素を取り込み発光しているものが見受けられる。
特に魔素を取り込み発光する魔石を魔光石などと呼び、こういった薄暗い場所では重宝される。
薄暗い世界の中でラズは体を少しずつ動かした。
どうやら怪我はないらしい。
ギルドにいたはずなのに突然、目の前が真っ暗となり気がつけば横たわっていた。
それからずいぶんと時間が過ぎたようだ。
お腹の空腹具合から少なくとも半日くらいは経っている感覚だ。
ここは一体どこなのだろうか。
湿り気混じりの空気からは海の塩の香りがするような気がする。
でも見覚えがない場所である。
少しずつだが頭が回転し始めたラズははっと思い出した。
自身と先輩のグミが神隠しにあったことに。
その調査を緊急クエストとして依頼に出そうとした矢先だったはずだ。
そうだ、、、先輩が先輩は無事!?
慌てて周囲を見渡すとラズと同じように攫われてきたであろう人たちが何人も倒れていた。その中で自身が知る制服の女性に真っ先に近づき確かめた。
呼吸は大丈夫、怪我もないみたい。
少しだけ体を揺すりラズはグミの無事を把握した。どうやら幸いにも大事には至らなかったらしい。
ほっとしたラズは続けて周囲を見渡した、、、ざっと見積もって20人弱。ラズとグミの他に男性から女性まで、また子供から成人したものまで共通性はないらしい。そして一番気になっていた人物はこの場で見つけることはできなかった。
彼女の弟ストーロは先に消えたのだと叔母は話していた。そして友人のクラムくんも同じくして消失したらしい。
この場にいないということは、ラズと同じように意識が戻って彷徨いているのかもしれない。
つまり無事なんだと願った。
そう信じたいラズは咄嗟に意識を取り戻したグミにこの場を託し置かれた状況を把握すべく動き出すことにした。
動ける人とともに探索してから1時間、だいたいのことは把握できた。
弟たちだけは一向に見つかることはなかったが、間違いなく海近くだろうと推測できる。
地元の潮の香りだけは小さい頃から記憶しており間違えることはない。
それに周囲の動植物、地形やその構成物からしても外れてはいないだろう。
冒険者ギルド職員という肩書きは伊達ではない。
ひょっとしたらここが噂の『竜の祠』かもしれないという安直な感を心の隅に押しやりつつ、ラズはその後何人か目覚めた人たちと手分けして事態の把握に勤めていた。
途中出くわした海洋生物型か獣型のスカルは数の力を利用して葬り去った。
幸運なことにシーリザードといった海辺周辺の地下などに巣食うであろう魔物は出くわしていない。ひょっとしたらアンデッドたちとの争いに敗れたのではと推測した。そのアンデッド系も今の所は獣型のスカル系のみのため多少の怪我くらいですんでいる。
これがゴースト系やゾンビ系といったものだと勝負は無残にも決していただろう。
実際、こんな場所で魔物に遭遇しない方がおかしいのである。
「ラズちゃん、、、あっちに何かがあったらしい。行ってみよう」
「そうですね。偵察して安全そうだったら皆さんを連れて来ましょうか」
案内された先はとてもとても大きな空間が広がっており異色な光景が広がっていた。
まず近づいただけでその異色の光源に圧倒されたのである。
「すごく眩しい、、、ここ何かな?」
閉ざされた場所の割にはそれなりに明るい。
そして次に驚いたことは大理石のような石でできた巨大な施設がラズたちを出迎えたことである。
考古学等に知識があるわけではないが、この場が何か重要な場である、、、大きさと壮大さから思い当たるもの、、、つまり神殿のような場所ではないかと推測した。
魔物の気配がないため近づき外から中へと侵入し観察していく。
この神殿?はどうやらかなり歴史がある建物であることが推測できた。
壁一面に描かれたレリーフ、調度品に刻まれた文字や刻印はラズが知る年代の物ではないらしい。
それから手分けして中を片っ端から調査していくと最後に地下室が残った。
ラズはそーっと扉を開け中を確認した。
何かの気配がする。
何かが動き回る音、何か会話しているような音も聞こえる。
こっそりと中を確認するために僅かな隙間から覗き込むラズの背中に手がかけられた。
背後に迫る何か。
突然の事態にラズの心臓は鼓動は爆音を伴い高鳴った。
迂闊すぎた、、、そんな後悔が彼女の胸を締め付けた時、聞き慣れた声が聞こえたのだ。
「ラズお姉ちゃん遅かったね?」
それは大切な大切な家族の声だった。
そしてその目からは光が消え失せていた。
「急に怪訝な顔をしてどうしたんですぅ?」
「全く、、、してやられたよ、、、」
「何をですかぁ?」
「この僕がやり返されるとはね。ますます楽しみになってきた」
「もう少しまともな意思疎通できないんですかねぇ?」
「本当だわ。女口説く時だけなの?あなたの頭が回るのは?」
「ん?そちらこそ少しは手を使ってくれないか?僕の仕事が増えるんだが」
「あら?あなたこそ少しは頭を動かしなさいよ。レディに働かせるなんて甲斐性なしね」
「ん?どこに素敵なレディがいるんだい?」
「あらその目も欠陥品だったみたいね」
「ん。君の見る目も大概ナンセンスなんだが」
「「、、、、」」
せっかく手に入れた幼子の財布から石だけを抜き出し財布は偶然を装って手渡す予定だったとはいえ、、、まさか気づかれることなく自分から財布を抜く人物がこの世に二人も存在するとは信じがたいことだった。いつすられたかすら記憶にない。
師匠ですら上回る腕の持ち主かもしれないとキャロは感じていた。
不機嫌なオーラが漏れ出す中、3人は『竜の洞窟』を探索している。
侵入してから1時間弱、海岸地帯に隆起し現れた海の道を駆け抜け立ち塞がるアンデッド系の魔物たちを何事もなく切り伏せた。他に海洋系の魔物は幾度となくすれ違ったのだが、そのほとんどはなぜか対峙することなく3人を無視して逃げ出していた。
道中に存在するという魔物たちのほぼ全ては弱いものばかり。資料に残されていた高ランクの魔物は今だに見えていない。
『竜の祠』という名のダンジョンは国やギルドから制限が出されるほどの危険な場所だという。過去何度となく組まれた調査隊もそのほとんどが壊滅的な打撃を受け逃げ帰ってきたのだそうだ。海中に自然と作られたのかそれとも人為的に作られたのかは分からない。しかしその危険度はかなり高いらしく、その調査隊もほぼ休みなく魔物との戦闘に追われたのだと記されていた。またその地形の性質、突発的に変わる状況と環境に対応できず壊滅的打撃を受けたのだという。
推察するに海の動き、気象条件等に問題があるのだろうと推察はできる。
ある一定周期の時期に渡れる足場ができ、そしてその中に立ち入ることができる。中は天然の要塞といえるダンジョンであり救う魔物は多種多様。その規模も何もかもが情報不足で未知数。
それでも数少ない情報を頼りに3人はギルドの指名依頼を受諾し足を運んだのである。
ギルド長に頭を下げられたからというだけでもないし世話になったギルド職員が行方不明になったからという理由だけでもない。
もっとも他に気がかりなことがあるからだった。
つい先日、偶然目にした映像魔石の光景。
旧友から耳に入ったある組織の動きと情報。
そしてなぜかタイミングよく発生したラクスラスクの異変。
異常なほどのアンデッドの発生と近隣住民の消失事件。
、、、など。
一見関わり合いのないかもしれない繋がらないかもしれない諸要因。
この少ない手がかりから己の感が告げているのだ。
ここで間違いないと。
ここにこそ己が求めるものがあるのだと。
だからキャロは二人に声をかけ『竜の洞窟』に潜り込むことにしたのである。
ケモミミっ娘┐(´~`)┌:マタデスカ,,,ヤレヤレ,,,,
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