9幕:ココと蒼葉のホルクスの街へお出かけ2 『ハンカチは最強の凶器です』
「ルーリさん、こっちを見るたびに思い出し笑いをするの禁止。」
彼女はこっちに視線を送るたびに笑い出すのだから何ともいたたまれない。
二人のハンカチワークが生み出したアートはそれはそれは傑作だったらしい。
本人たちは顔を拭いてすぐにきゃっきゃきゃっきゃ笑い転げた。
すぐさま二人の幼女を捕まえて二人のハンカチで同じようにしてあげた。
最高の出来だった。可愛い可愛い変質者だ。
ココとローロちゃんがお互いに見つめあって、すぐにまた笑い出す。
あと残るは一人だけだ。
「ルーリさん一人だけ綺麗なままはずるいと思うよ。お姉ちゃんだけすごく綺麗だから、二人とももっと綺麗にしてあげたいよね。」
ハッとしてじわじわと詰め寄る二人の幼女は目の前のお姉さんに今にも飛びかからんと目標を定めている。その目はまさにかわいい狩人のそれだ。
「ルーリおねえちゃんココがきれいれいするね。」
「お姉ちゃん覚悟するです。」
「ちょっ!?蒼葉くんのバカ!!ローロ、ココ、ちょっと待って!!いやーー!?」
綺麗な美少女が出来上がりました。
ココとローロちゃんのお化粧はとてもセンスがあるものでしばらくはこのままで放置してあげたいなとお兄ちゃんは思います。
ただ美少女台無しになったルーリさんは全身をワナワナと震えさせている。
背後に赤いオーラが見え始め抑え込んでいた真の力が込み上げてきているかのようだ。
そしてポッケからさらに汚れたハンカチを取り上げ目立つように掲げたのだった。
それはそれは誰にでもわかるように。
「あーおーばっくん?ほらもう一つ汚れたハンカチ覚えてるよね。串焼き屋さんで二人を拭いた一番汚れたやつ。」
「あーソースまみれのね。それがどうしたの?」
「そうよ、ローロ、ココ、主任命令よ。二人とも準備しなさい。」
彼女から凄まじいほどのオーラを感じる。
そのオーラはいともたやすく幼子を撃ち抜いたようだ。
「お姉ち、主任、了解であります。蒼葉お兄ちゃん上司命令には逆らえません。」
「しゅにん?ココもりょうかいであります。おにいちゃんさからえません。」
ローロちゃんとココもすでに臨戦態勢だ。
二人との距離がこんなに縮まるなんて嬉しいけど、、、、、今じゃねぇ!!
ルーリはそのソースだらけのハンカチの面の逆側を右手に持って倒れている蒼葉に上から襲いかかった。全身で力づくで。
「ルーリさん、待った待った。あのね人はもっと話し合うべきだと思うよ。それからね年頃の女の子がそんな力づくで男の人に迫るのはまずいと思うの。色々と当たって柔らかいし嬉しいけど自重しないと。それからそれからココとローロちゃんを巻き込むのは大人としてどうかと。あと権力を振りかざすのは、、、、。」
「先に仕掛けたのはそっちだけどね!!ローロ、ココ、行きなさい。さよなら、蒼葉くん。」
「ぎゃーーーっっ!!!!」
3人合作でそれはそれは綺麗なアートができあがりました。
だから、こうして未だに4人で大笑いしている。
みんな顔と服がソースだらけ、そして地面を転がりまくったので泥だらけ。
おかげでお互いの距離がすごく縮まったんだなぁと実感できた。
だから未だにルーリさんは思い出し笑いしてる。
ただし顔と服は悲惨は変わらずのままだけど。
それでもローロちゃんとココはニコニコだ。
「こんなところお姉ちゃんに見つかったら後で絶対大目玉食らうよね、ローロ。」
「ですです。レールナお姉ちゃんにこんな冗談は通じません。」
真面目系長女のレールナさんは二人のお母さん的な役割も担っている。
叱るべきところは叱らなければならない立ち位置で、そして怒らせるとそれはとてもとても怖いのだそうだ。
もっとも二人は知る由もなかったのだが、、、。
商人ギルドの建物の一角から4人が遊んでいた姿が目撃できたことを。
とあるお店の長女が隣町への会合へと出かけるはずが、予定が遅れてたまたまその一角にいたことを。
そして会議のために配布されたレジメがくちゃくちゃとなったことを。左手に持っていたコップにピシッとヒビが入ったことを。
今日のこれからの予定は一旦白紙になった。
全身ソースまみれ泥まみれなのだ。だから今日は亜麻猫亭に戻って各々で時間を潰すつもりだ。
少し歩いて思い出した様にルーリさんが尋ねてきた。その表情は少しだけ険しいような気がする、それに腰に両手を挙げた格好で少しだけ威圧的だ。でも顔は笑顔のままだ。
「そうそう蒼葉くん言うことあるよね?」
「何のことだかわかりません。」
身に覚えがない。
ニコニコしながらルーリは蒼葉に語りかける。
「さっきのことだよ。」
「さっきのこと?」
心当たりがない。
全身ソース事件のことは無事解決したはずだった。
お互いに痛み分けだ。
「さっき何が当たって嬉しいって?」
この娘ちゃんと覚えてた。
とても柔らかいものやらこれやらだいぶご馳走になった。ほんといい思いができたと思う。
「えーと、や、柔らかいもの?」
「それで?」
危ない。
にこりとした笑顔から向けられる視線に殺気が見える。
これは間違えてはいけない。
人として間違えてはいけない。
「とても良いものでした。美味しゅうございました。」
「それで?」
蒼葉はちゃんと手を添えてルーリに軽くお辞儀をした。
だが笑顔変わらず視線が怖い。
だからこう答えた。
「ご、ごちそうさまでした。」
臨時とはいえ飲食店従業員なのだ。
いただいたものには礼儀を持って、誇りをもつべきなのだ。
そしてお礼を尽くさねばならない。
だが正解とは判断できない。
だから蒼葉は恐る恐る答えたのだった。
だが間違いだったようだ。
それに元はと言えばルーリさんが自分で飛びついてきたのだ。
だから、、、
「でもルーリさんの自業自得でしょ。」
本音で答えてしまった。
「ほーう。いい度胸じゃない。許すつもりだったけど、、、」
しまった。余計な一言だった。
ルーリさんの目つきが変わった。
そういって彼女は凶器を取り出した。
先ほど猛威を振るった伝説のエモノを。
「ルーリさん、ごめんなさい!!」
「おそーーい!!ローロ、ココ、蒼葉くんを捕まえなさい!!」
その後、蒼葉は三次被害が出るまでルーリに追いかけられたのだった。
ルーリ:(。-`ω´-)# 蒼葉くーーん?
蒼葉:人( ̄ω ̄;) ル、ルーリさま、、、
二人の上下関係が決定した瞬間。