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まじかるココナッツ。  作者: いろいろ
1章
105/162

6幕:蒼葉と最低な1日 3

 

 もう少し経てば日が落ち気温も下がるだろうか。

 多少風は吹いているものの暑苦しさは変わらない。

 ちょっとだけ風通しを良くして湿度が低くなればまだマシだろうか、、、

 どうやら考えることは同じらしく視界に収まる民家や商店では窓や扉をあけ風の通り道を作っているらしい。


 町を歩き回りじんわりと汗を浮かべた。

 今日は確実に大人のお店に行かなければいけないと確信していた頃、裏道の角で一人のお姉さんに出くわした。

 人生で出会った中でも間違いなく上位に入る美女である。

 透き通るような水色の長い髪をした彼女がこちらをじっと見つめていた。

 それから浮かべたうっとりとした表情に蒼葉の心も視線も釘付けになった。


 洗練された動きに愛おしいほどの甘い雰囲気を持つ彼女はにっこりと微笑みながら語りかけてきた。そして蒼葉はそのお姉さんに誘われるがまま近くの建物の中に吸い込まれたのだった。


「そーなんですね、、、それは大変でしたね」

「いえ、子育ても中々慣れないもので、、、」

「私のお話に耳を傾けてくださったあなたならきっと大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」


 素敵な笑顔に釣られて蒼葉はお店の中で会話していた。

 初対面なのに距離を感じさせない雰囲気を持つ彼女はまるで昔からの馴染みのような感じがある。

 その上に可憐な彼女の一挙一動が目に焼き付いて離れない。

 こんなに優しくされたのはいつ頃だっただろうか。

 そんなことを考えているとこの世界に飛ばされた頃、手を差し伸べてくれた三姉妹を思い出す。

 一緒に料理して仕事して一緒にお酒を飲んで笑ってご飯を食べて、、、あの日々はとてもとても良い日々だった。心の底から感謝しても仕切れないくらいの恩義を感じていた。


 そんな蒼葉の様子を感じ取ったのだろうか、一区切り入れるかのように彼女はティーカップを差し出した。


「少しお茶にしましょうか、、、こちらをどうぞ」

「ありがとうございます、、、それならこれをどうぞ」

「えっ?」

「さぁどうぞ」


 香ばしい香りのお茶のお礼に掌から生菓子とフォークを取り出した。

 たっぷりの白い生クリームの上に小さなムーンフルーツを載せたショートケーキである。

 誰かの結婚式が近々あるとの噂を耳にしたので久しぶりに作ってみた。

 もちろん今日のちびたちのおやつでもある。


 促されるまま一口ずつ嬉しそうに頬張る彼女の表情が突き刺さる。


「美味しい」


 蒼葉が大好きな光景だ。

 美味しいものを食べた時、マジックを楽しんでいる時、素敵な演奏を聞いた時、人は最高の表情を浮かべる。

 そんな至福の表情を見たいがために蒼葉はどんなに辛くても続けてこれた。

 どんなに辛くてもチビたちが笑顔を向けてくれたからこそ今もこうして楽しめているのだ。

 ついつい過去話をしてた所為だろうか、感傷的になったらしい。

 そんな蒼葉にハンカチを差しのばした彼女は、、、、


「ブルーベルさん、、、きゃっ!!」

「アイナさん危ない!!」


 立ち上がろうとしてバランスを崩し蒼葉の方へ倒れ込んだ。

 細身で華奢な身体にも関わらず抱えているものは小さくない。

 程よいほどの膨らみが蒼葉に包み込むように覆いかぶさった。

 それは偶然だった。


 怪我させないようにしっかりと支えねばと手を回した時、、、二人が床にが倒れこむと同じくしてガシャンと響く音がした。


 天国が一転、、、地獄に落ちる前触れのような気がした。


「すみません、、、、これは家族の形見なんです」


 砕けた何かを必死で掻き集めながらその美女は泣いていた。

 顔を下に向けたまま一つ一つを引っ付けようとする姿が居た堪れない。


「実は弟の治療費で出来た借金、、、取り押さえられてしまって私が今ローンを組んで支払い続けてたんです。でも、、、もう二度と」

「す、すみません、、、」

「亡き父の形見だったんです」

「もしかして、、、すごく高いやつなんじゃ、、、」

「いえ100万くらいです、、、でも今の私だとすぐには払えない、、、だから」

「ひゃひゃくまん!!だ、だから?」

「私が身体で返すしかないんです」


 泣きながら震える彼女を見て背筋が凍りついた。

 自分は何ということをしてしまったのだろうか。

 人の人生をどん底に叩き落としたのである。


「せ、せめて頭金でもあれば、、、なんとか待ってもらえるはず」

「ど、ど、どのくらい?」

「わかりません、、、あるだけ揃えて土下座すれば何とかなるかもしれません」

「???」

「ブルーベルさん私、、、知らない人に抱かれたくない」

「!?」


 蒼葉の手持ちは残すところ数万クールだけ。

 ここ何日かの売上げから経費を差し引き、さらに必要な食料や装備類一式を購入して、、、手持ちは数万なのだ。

 しかもこれは生活費である。

 このラクスラスクで三人で暮らすための生活費であり子供達を食べさせる大切なお金なのだ。


 口座に貯まっているお金はどのくらいか分からないし今は使えない。

 冒険者の身分証明で使われるペンダントは壊れているらしく事務処理を受け付けないのである。

 手持ちの装備品も今は全て武器屋の親父さんのとこである。


 そんなことを天秤に掛けたとしても目の前で涙を流す彼女の足しにもならないだろう。

 その真っ直ぐな視線は心を締め付けるようで蒼葉の良心を呵責しているかのようだ。


 自分は人の不幸を自分の責を見つめずに自分たちのことばかり、、、自分のせいでこの人はどん底に。


「せめて誰かがお金を少しでも貸してくれたら、、、でもいいんです」


 涙顔で見つめる様は天使のようだった。

 少しだけはにかみながら彼女は続けた。


「私のせいなんです。私が悪いんです。あなたには責任はないんです」


 床に落ちたハンカチを拾い見つめる。


 あれ、、、ひょっとして、、


 ふと閃いた。

 実物が一つも欠けることなく全て目の前にあるのだから、今度はいけるんじゃないだろうかと。

 革製品はダメだったけど、なぜかこれは大丈夫そうな気がするのだ。

 手に取ったハンカチを集めた破片の上に覆い、そして目を閉じる。

 これってひょっとしてできるんじゃ、、、いやできる!!

 そう確信しながら念じた。

 想像した。

 思い描いた。


「う、、、そ、、、」


 ハンカチをそっと取り上げると、、、そこには砕け散ったはずの茶器があった。


 何が起きたのかはまだ整理できていないようだ。

 一瞬、素に戻った彼女を前に蒼葉は心の底から安堵した。




 お店のバックヤードで彼女は身震いしていた。

 彼女が手取り足取り掌の上で転がしてきた男は数え切れないほどだ。

 しかしあのような理解が追いつかない対応をした人間は初めてである。


 壊れたものを修復する力?それとも何かの魔術?

 大昔には時を戻す大魔導が存在したという。


 でもありえない。


 逸る気持ちを抑えつつ冷静を装いながら振り返る。

 茶器は傷一つなく元どおりになり、そして暖かいお茶が注がれていた。

 しかも自分が入れたお茶よりも美味しく感じられた。


 そして壊れた箇所には傷一つついていない。


 何なのかは分からない。

 ただ彼が彼女の興味を最大限に引いたことは確かだった。


 いつものように男からお金をいただくだけの簡単な作業だった、、、

 これではまるで自分が化かされたかのようだ。


 騙しのプロが素人に騙されたなんて、、、


 壊れたはずだった茶器にそっと手を触れる。

 そのまま彼女はある事を決意したのだった。



美人に弱い蒼葉(0д0∥):まさかあれが巷で噂のは、はにーとらっぷ?



恐れ入りますが、、、蒼葉のようなハニートラップの餌食になりたい方、もしよろしければ評価やブックマーク等いただけると嬉しいです。

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