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まじかるココナッツ。  作者: いろいろ
1章
103/162

6幕:蒼葉と最低な1日 1

冒頭は今後のストーリーにつながるかもしれない、ちょっとした現世のエピソードです。


 

 祝祭日前夜はお店が最も忙しい。

 昼のランチ時とはまた違った忙しさである。


『マジカルドロップ』では終電の時刻が過ぎても完全な空席になることはほぼなく閉店間際まで注文が飛び交う。当然、従業員が働く時間は長くなりお店を閉める時刻は朝方近くになることも少なくはない。


 当然、古参の従業員である蒼葉も終始働きづめとなる。

 ホールに立つこともあればレジに回ることもある、でも基本はキッチンに籠ることが多い。

 受け持つ業務もバラバラな理由、それはお店の中のことがほぼ頭に入っているからだ。


 それでも最近、表に立つのは毎週末数回のショーの時、運良く人員に余裕がある時、もしくは指名客に顔を出す時くらいである。

 そもそもボーイの仕事も平日に余裕がある時か演奏をしてほしいと客に駄々を捏ねられるときくらいだろうか。


 だから今日もお店に来てからはキッチンで鍋やフライパンを終始降りっぱなしだった。

 数度の注文の大波が一旦収まった頃合を見定めたように可愛らしい声が響いて来た。


「「ごはんごはんーーっ♩」」


 スプーンとフォークが軽くテーブルに打ち付けられる。

 どこぞの御方からの催促の合図である。

 可愛いらしい声がゲストルームで歌われていることに気づいてからコック帽をかぶった男性に顔を向けた。

 不愛想だが懐が深くてとても優しい人だ。

 案の定、期待したとおりの声が返された。


「蒼葉、嬢ちゃん遅くならないうちに食わせてやれー」

「ヤクさん、りょーかい」


 副料理長のヤクさんに伺いを立ててから材料を見て鍋を振るう。

 ジャズをやるせいだろうか。

 あり合わせ、思いつき、その場凌ぎだと言えば聞こえは悪いが、自分の感性に従いその時その時にしかできない一品をイメージ通りに作り出した。


「出来合わせカルボナーラ生パスタ、あり合わせ野菜グラタン、思いつきデザート!!」


 休憩なしで夕食を食べずにぶっ通しで動き続けたのでテンションがおかしいらしい。

 怪訝な表情でスタッフから視線を集めるが気に留めることはない。


「蒼葉くん今日知らない間に失恋したんだって」

「何でも知らない間に好かれて告られて知らない内に振られたんだそうよ。それでとばっちり受けて昨日一晩中説教されてたんだって」

「何じゃそりゃ、、、気の毒に」

「しかも相手知らない女子だったらしいわよ。それも全くの人違いだったんだって」

「何というか災難だな」


 そんなことが話題になるも少しも気づく様子がない。

 そんな中、いつも通りの不愛想な顔をしたまま抑揚がない声が広がった。


「蒼葉、そのまま先に休憩入れよー」

「イエスマム」

「それ女上司に言う言葉だぞー」

「イエスマム」


 それぞれを敷き詰めた大きなプレート皿を左手だけで持ち右手に飲み物を抱えゲストルームへと参上した。


「お待たせしましたマム」

「「おぉぉーーっ!!」」

「はいどうぞ」


 オーナーの娘、月華ちゃんと常連客のリアさんが賛美の声を上げる。

 そのまま二人とも満面の笑みで目の前のご馳走に飛びついた。

 一方で蒼葉は椅子に腰を下ろしテーブルに顔を埋めたまますぐに意識が途絶えた。


「お兄ちゃん?」

「月華ちゃん今は寝させとこうね」

「、、、うん」

「食べ終わったら蒼くんに今回の採点の結果伝えなきゃだね」

「うん。じゃぁ、、、りあお姉ちゃんからね」

「うーん今回の料理の点数はどうしようかな、、、」


 20分後に伝えられた点数は思っていた以上に良い点数だった。

 そしてサービス点は最低点を更新した。






 だいぶ遅い時間なのだろうか。

 差し込む灯がないので現時刻が全く分からなかった。

 鉄格子の隙間からは通路奥に掲げられた魔石灯の灯のみがぼんやりと伝わるだけで周囲に何があるのかは分からない。


 冷たい石畳に薄いシーツのような布地で体を包み膝を抱えたまま座り続ける。

 少し前はちょっとだけ暑苦しかったのだが、今は違う。

 周りが石材だと少しひんやりとしているので気をつけなければ体調を悪くしそうだ。

 それに先ほどまでうたた寝をしたためだろうか、すっかり体が冷え切ってしまった。

 石畳との接触面積を減らせるように体を動かし腕を脇に挟めるもどうやら現実は変わらないらしい。


 ため息をついた。


 目の前に見える光景はそれでも変わらないらしい。

 そして現実は非情であるらしい。


 久しぶりに懐かしい顔ぶれが夢に出てきた。

 あの日常がだんだんと消えていく気配がする。

 もう二度と会えないということがどんなに締め付けられることか。

 そんな怖さが月日を経つごとに大きくなってくる。


 何度、そんなことを考えただろうか。

 分からないくらい繰り返した頃、収監の際に立ち会った男が近づいてきた。


「ほら、面会だ。てめぇ子持ちの癖に何やってんだよ」


 何もやってない。

 あと子持ちじゃない。

 でも掛けられた言葉は冷たく蔑んだ視線は穏やかだった。

 そして男と入れ替わりに二人の女の子が入ってきた。


「お兄、、、何やったの?まさか殺人?それとも泥棒?」

「あおばおにいちゃん?」


「てめぇも人の親なら二度とやるんじゃねぇぞ」


「・・・」


 不安そうな二人を安心させるほどの言葉は何も思い浮かばなかった。




看守(¬_¬):お兄ちゃん?



恐れ入りますが、、、ココアとココナたちの活躍の裏で蒼葉が過ごした1日に同情していただける方、もしよろしければ評価やブックマーク等いただけると嬉しいです。

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