5幕:鬼面の男と海の調査3
ラクスラスクから馬車で15分弱、海岸線の端から探索が始まった。
馬車の中で軽食を食べながら今後の方針と行動計画の算段はすでに済ませてある。
だから探査の手順は誰もが把握している。
要点箇所をマークした地図の端から一つずつ当たっていった。
それからさらに数時間、一同は最後の確認場所へと足を運んだ。
すでに海面に差す光は赤みを帯びてきている。
あと1時間もすれば遠くに見える地平線の彼方へと消えてしまうだろう。
昼間に比べたら暑苦しかった風もだんだんと心地よくなってきた。
じんわりと浮かべていた汗も時間の経過とともに消えていった。
これからの時間、なおも調査を継続するかは今は難しい時だ。
さらに夜まで時間を掛けるか、もしくは日を改めるかはこの時点では普段ならば判断がつかない。
辺り一面を一望できる切立つ崖の上からは眼科に見晴らしのよい砂浜が見える。
比較的白色に近いくらいの砂浜に青い海の色。
ここはもう少し経てば町から海水浴目当ての人々で溢れかえる。
日程にして2週間切るくらいだろうか、そろそろこの辺りの魔物討伐と常時での警備依頼が張り出される頃合いだった。
その砂浜の尖った先から1kmほど先には有名な『竜の祠』がある。
今は海中のためまだその姿を見ることはできないが、ある決まった時期の決まった日時にそこへたどり着く道が現れるのだという。
かつて『邪しまなもの』を封印したという話が残っている謂く付きのダンジョンである。
それはかつて存在したという『呪われた竜』だと文献には記されている話が世間的には一番浸透している。
出入りには国とギルド両方の許可、そして厳しい審査と条件が必要なため調査があまり進んでおらず公開されている情報は少ないという。その過去の文献も解読される前に秘匿され紛失したため分からず仕舞いなのである。またわざわざ危険地帯に首を突っ込む人間はあまりいなかったため今日まで気にされることはなかった。ほかにも変わった魔物が出没するだとか、海の満ち引きのため探索時間が限定されているためだとか仕方ないことではあるのだが、、、その辺りの情報だけは過去に行われた冒険者たちの調査から把握されていた。
そんな未知の存在が目の前にあるものの手に届かない距離のためだろうか、もしくは普段から少ない魔物の数ゆえなのか、この辺りはあまり危険視されることはない。
その『竜の祠』を含む周囲一帯を一望しながら赤い髪をした男はそっと呟いた。
「ざっとスケルトン20体くらいと言ったところか、、、人型、獣型、あとは鳥型か、、、どうかなパプリア?」
その問いに土地勘のある少年は考察しつつ率直に返した。
彼は以前、ココアにより吹っ飛ばされたラズのもう一人の王子様であり、あの日以降、なぜかとある女の子の弟子と化していた。
「キャロさん、このくらいだと数だけは普段と変わらない気がする。この辺りはアンデッド系も全く見なかったわけじゃないし結界石も壊れてるのは見当たらなかったから、他所からこちらに流れてくる魔物はいないと思う。でも、、、、スケルトンが砂浜に屯っているのはありえない」
「、、、」
「確かにそれだけでは判断がつかないし現段階だと情報不測だな。ならこちらから仕掛けて様子をみるべきか」
彼の言う通り砂浜一体は普段は観光地化しており遊泳可能時期にはそれなりの人が押し寄せる。だから農繁期以外も人が訪れるため定期的に魔物討伐が行われる。この辺りのことは地元民ならば多少の異常があればすぐに気づくだろう。
さらに最低限の保険として魔物が押し寄せないようにと辺りには等間隔で魔物よけの魔石である『結界石』を設置されている。
そんな場所に陣取るのは人や獣などの骨で構成されたアンデッドの兵隊たち、、、スケルトンである。剣や鎧で武装した人型から生きていた頃と変わらない様子の獣型。
目視でそれが少なくとも20体ほど確認できる。
「とりあえず範囲型の聖呪文使う?」(ココア)
「いやここは任せてもらおう」(キャロ)
「・・・」(鬼面)
「えぇーココもやるもん!!」(ココナ)
「レディたちはまだだよ」(キリッとしたキャロ)
そんなキャロの返しにココナはホッペを膨らませ抗議した。
ぷんぷんとした可愛いらしい仕草にほっこりとした空気が流れるが彼が口を挟むまでもなくもう一人が口出しした。
「ぶぅー」
「むぅー」
ー意思疎通の呪文並行中ー
【ココナ、今は我慢するの!!あとでこっそりと特大呪文ぶっ放すんだから】
【ほんと?】
【だって後でってことは最後に見せ場があるのよ!!一番かっこよく決められるのよ】
【おぉーなるほど!!ココアちゃんあたまいいー!!】
【だって私は大人だもん】
【でもココアちゃんさっきおんぶしてもらってたのに、、、】
【・・・】
「そうレディたちは最後の『切り札』であり『奥の手』なんだ。だから新手が出てきたときは頼むよ」(キャロ)
「そうですよー。ココナ様もココア様もこちらの『奥の手』ですからね」(パプリア)
【【切り札!!最後の奥の手!!|】】(瞳が輝く二人)
かっこいいフレーズにワクワクする気持ちを抑えたちびっ子たち。
彼女たちを守る位置で魔術剣士のパプリアは身構え、さらなる奇襲に対応するため鬼面は背後で背中の二振りの金棒に手をかける。
そしてローグであるキャロは物音立てずに風のようにその場を消え去った。
それから10分後、空を飛んでいた鳥型のスケルトンが何かの衝突で吹き飛ばされ海に沈んだ。
何かが回転しながら空を駆け巡っている。
綺麗な弧を描き、彼の手元に戻ったのは2対のブーメランだった。
戻ったブーメランを持ち、間髪入れずに飛び出したキャロの再度の一撃により獣型数体が崩れ去った。
的確に急所へと叩き込んでいるのだろう。
その場に崩れたまま微動だにする気配はない。
大抵のアンデッド系の魔物は身体に核を持っている。
それは彼らの最大の急所にして生命線だ。
その核さへ傷つかなければ、例え腕が壊れようとも足を失おうとも消滅する恐れはない。
そんなアンデッド系の核は生み出した者や種類に応じてバラバラだし、個体同士で違う場合もある。
一般的な人型のスケルトンの場合、頭蓋骨を支える頚椎部分にあることが多い。
他に背骨など致命的な弱点が無いわけではないが、少なくともそこを砕かれれば二度と立ち上がることがない唯の骨と化すのだ。
キャロは種類ごとの核の在処を看破し動きを先読みしながら的確に撃ち抜く。
残り3体の人型も何も装備していない裸体のままだ。
通常、鎧といった防具から剣や槍の武具を装備していることが多い人型も弱点がむき出しのままであれば地に返すなど造作もない。
こちらに先行した一体を交わしながら振り向きざまに裏拳で頚椎を砕くと残す二体へと対峙する。
今の段階で何か起きる気配はない。
ここはギミックの罠が存在するダンジョンではないし倒しても問題はないだろう。
そう判断するとキャロは右手のブーメランをあさっての方向へと投げ捨てた。
砂浜から先ほどまでいた崖上まで直線距離で200メートル。
見上げてもはっきりと視認できる距離である。
そこから小さな二人のレディと視線があったようだ。
一人がぷいっとあさっての方へと視線を逸らせば、もう一人は軽く手を降って後ろのパプリアに引っ込めさせられていた。
そんな微笑ましい光景に軽く笑みを浮かべながらキャロも手を挙げ合図を送った。
そしてちょうどタイミングよく彼の手元へ先ほど投げたブーメランがタイミングよく飛来する。
そのまま掴み取ると砕け散った残骸へと足を運んだのだった。
もちろん残す二体は起き上がることはなかった。
瞳が輝くココアとココナ(๑• ̀д•́(๑• ̀д•́ )✧:切り札!!
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