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WILD BLOOD  作者: 西禄屋斗
第12話 ようこそ、悪の科学同好会へ 【 全 12 回 】
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あなたが記念すべき最初のお客様です

 黒井くろいミサの予言など知らない美夜みやは、あらかじめSNSから返信のあった待ち合わせ場所を訪れた。そこは校舎裏にあるゴミ集積場。すでに放課後であるため、生徒たちの姿は皆無だった。


「あのぉ……」


 不意に後ろから女性の声がして、美夜は振り返った。


 そこに立っていたのは、大きな丸メガネをかけたセーラー服姿の女子高校生だった。身長は百六十センチくらいだが、とてもグラマラスな体型をしており、セーラー服の裾が自然と持ち上がるほど、豊満なバストが突き出している。


 同じ女性でありながら、対照的に胸が未発達な美夜としては、ついつい女子生徒のバストに目が吸い寄せられてしまった。


「失礼ですが、ご依頼の方ですか?」


 おずおずとした様子で、女子生徒が尋ねた。美夜は相手のバストばかりを凝視していたことにハッとし、顔を赤らめる。


「あっ、ごめんなさい。えっと……今朝、ご連絡させていただいた 仙月せんづき 美夜みや と申します」


 美夜は焦りつつも、ペコリとお辞儀をして名乗った。すると女子生徒も少し緊張が解けたみたいに微笑む。


「そうですか。よく、いらっしゃいました」


「あなたが『T』さん?」


「いえ、私は『T』の助手のようなもので、お客様をお迎えに上がっただけです。これから『T』のところへご案内します。どうぞ、こちらへ」


 女子生徒は案内しようと、先に立って歩き始めた。美夜は次の質問をする間もなく、その背中を追いかける。


 美夜を出迎えた女子生徒──早乙女さおとめ 蜂子ほうこ は、まんまと獲物がやってきたことにほくそ笑んだ。


 無論、美夜にはそんな表情を見せぬよう気をつけている。今は《秘密結社 悪の科学同好会》の女幹部ではなく、琳昭館りんしょうかん 高校の一生徒なのだ。彼女を 田隈たくま 太志たいし こと《悪魔大使》の元へ連れて行くまでは、その正体を隠さねばならない。


 いかにも普通の女子高生に見える蜂子に対し、美夜も無警戒だった。年頃も似たようなもので――いや、実際は 吸血鬼ヴァンパイア である美夜の方が、蜂子の何十倍も生きているのだが――そんな彼女が何かを企んでいるとは、夢にも思わない。


 ゴミ集積場からさらに奥の方へと蜂子が案内したのは、校舎裏にぽっかりと口を開けた、地下への階段だった。


 ここには他にめぼしいものがないため、誰もこの入口の存在を知らない。学校に地下室があるなら、校舎内の何処かから行けるはず、という先入観もうまく盲点を突いている。


「足下にお気をつけください」


 蜂子が階段を降りると、美夜もそれに続いた。角度が急なので、一歩一歩が危なっかしい。一番下まで降り切るとホッとした。


 古く重そうな鉄扉を引くと、目の前は暗幕で塞がれていた。まるで劇場の舞台袖を訪れたかのようだ。


 蜂子が暗幕を払い除けるようにすると、その先にようやく学校の廊下らしきものが現れた。ただし、天井に蛍光灯はあるものの、埃を被っているせいで薄暗く感じられる。いかにも地下といった感じだ。


 美夜は入口の異様な雰囲気に不審なものを覚えなくもなかったが、蜂子が、


「秘密基地みたいで面白いでしょ?」


 と、まるで悪戯が見つかった子供みたいに微笑んだので、美夜は呆気なく警戒心を解いてしまった。


 蜂子は躊躇なく奥へと進んだ。左側には教室の入口らしきものが並んでいるが、何処も廊下と同様に使われていないようで、ひっそりと静まり返っている。まるで廃墟になった校舎へ迷い込んだかのようだ。


 うらぶれた地下室を案内されると、美夜の中に一度は引っ込んだはずの不安が再び頭をもたげてきた。こんなところに居を構えていること自体、いかがわしさを感じる。どうして人目を避けるように、このような場所を使っているのか。


 つかさたちには内緒にしておいたが、美夜が謎のT氏を訪れようと思ったのは、簡単な蘇生手術でペットを生き返らせてくれるというSNS広告をたまたま見つけたからだ。


 しかし、よくよく考えてみれば、そんなことが本当に出来るのか怪しく思えてくる。SNS広告には『T』というイニシャルしかなかったし。ひょっとして騙されているのかも、と美夜は今さらながら不信感を募らせた。


 とはいえ、ここまで来てしまった以上、ちゃんと確かめもせず、やっぱり帰ります、と引き返すのも勿体ない話だ。真偽のほどを見極めたい。


「どうかされましたか?」


「いえ、何でも」


 美夜はそのまま蜂子に案内してもらった。もし嘘であるなら、そのときはそのときである。それに多少の危険など、気にする必要もない。何しろ、美夜はただの女子中学生などではなく、歴とした 吸血鬼ヴァンパイア なのだから。


 やがて廊下の先に見えていた光が近づいて来た。どうやら、その部屋だけ電気が点けられているらしい。中からは何かが放電しているような低いブーンという音やバチバチッという音も聞こえてきた。


「ここです」


 蜂子が足を止めた。入口にある看板には、毛筆で殴り書きされた『T研究所』の文字が。さすがに美夜も言葉を呑んだ。


「ささ、どうぞ、中へ。まだ、ここに研究所を造ったばかりなので、少し散らかっておりますけれど」


 立て付けの悪い扉を何とかこじ開け、蜂子は美夜に入るよう促した。美夜は恐る恐る、首を覗かせるようにして入室する。


「失礼しま~す」


 おどけたような口調を出したのは、少しでも不安を紛らわすため。中へと入った美夜は室内を見渡した。


 やはり、かつては教室として使われていたのだろう。広さとしても、美夜が知っている教室と一緒だ。ただし、地下なので窓はなく、机や椅子などは片づけられ、代わりに手術室にあるような機材や小型の発電機などが持ち込まれていた。


 特に美夜の目を惹いたのは、唯一、教室の名残を残しているのは黒板だ。そこには難しい公式やら数値が全面を埋め尽くしていた。


「ようこそ、我が研究所へ。あなたが記念すべき最初のお客様です」


 演出がかった口調で、白衣の人物が機材の陰から登場した。彼が『T』に違いない、と美夜は思ったが、想像していたよりも若いことに驚く。案内をしてくれた蜂子同様、どう見ても高校生だったからだ。


「あなたが『T』さん?」


 美夜は、つい不躾ぶしつけに訊いてしまった。しかし、学生は気分を害した様子もなく、そうだ、という風に深くうなずく。


「初めまして、仙月美夜さん。私が『T』です」


 この『T』こと田隈太志──その正体は《悪魔大使》!──は、つかつかと歩み寄ると、客人である美夜と握手を交わした。そのとき一瞬だけ、そばにいた蜂子が剣呑な目つきになる。美夜も太志も、それには気づかなかった。


 挨拶をし終えた美夜は、改めて地下の研究所をキョロキョロと見回した。


「なかなか、設備が整っていますね」


「おや? お分かりになりますか?」


 太志は愛想良く応対しながらも、少し警戒心を抱いたようだった。ただの中学生にしては意外な反応だったからだろう。


「ええ。美夜も機械いじりは好きなので」


 美夜はこう見えてもトラップ作りの名人だ(※ そのトラップの数々は、第9話にてご覧いただけます)。そのため、機械メカには強い。室内にある機材のほとんどが何に使われるものか理解していた。


 やや緊張した面持ちになりながらも、何とか笑顔を作ろうと太志は努力した。


「そうだったんですか。でしたら、こちらの説明も早く済ませられるかもしれませんね。──私がしている研究とは、ズバリ、サイボーグ手術です」


「サイボーグ手術……」


「家族同然だったペットが死んでしまうのは、非常に悲しいことだとは思いませんか? そこで私は亡くなったペットにサイボーグ手術を施すことで甦らせ、かつての愛情を飼い主の方に取り戻していただければと思ったのです」


「なるほど」


「もっとも最近は、クローン技術でペットと再会するなんてことも可能になりました。ですが、結局は命あるもの。人間の寿命ほどには生きてはいられません。その点、サイボーグならば、もう二度と死ぬこともありませんしね」


「確かに。もし、それが実現すれば、ずっとペットと一緒に暮らすことも可能になるということですね?」


「その通りです。私たちは、そのお手伝いが出来ればと」


 パッと顔を輝かせた美夜に、太志は白々しく言った。


 この太志──《悪魔大使》が行おうとしているのは、確かに改造手術をペットに施し、甦らせることが目的だが、それは飼い主のためではない。世界征服の先兵たる怪人として誕生させるつもりなのだ。そして、そうとは知らない飼い主さえも。


 そんな企てがあることなど、露ほども疑っていない美夜は、太志が語るビジョンにすっかり心酔した様子だった。ペットが甦るということはもちろんのこと、そのような形で科学の力が証明されることに興奮する。


「でも、そんなに素晴らしいことなのに、どうしてこんな学校の地下なんかでひっそりと行い、しかもSNSにちょこっとしか載せないんですか? もっと大々的にやれば、世間から注目も浴びますし、スポンサーも名乗り出るんじゃ?」


 ふと思った疑問を美夜は口にした。太志はメガネのズレを直す。


「おっしゃる通り、もっとオープンにすれば、サイボーグ技術は加速度的に進歩するでしょう。しかし、中にはペットを機械化することに、倫理的な嫌悪を覚える人もいますからね。それに――」


「それに?」


「どこぞの軍需産業や軍備を拡張したがる某国が、この私の持つサイボーグ技術を悪用しようとするかもしれない。私はそれを一番危惧しているのです」


 ……悪用しようとしているのは自分自身のクセに、よく言う。


「私は真にペットを愛する人だけ助けたいのですよ」


 自分でも歯の浮くような台詞セリフを太志は喋った。


 ところが、美夜は崇高な理念を掲げる太志のことを完全に信用してしまったようだ。目がキラキラと輝いている。


「だから名前も伏せているんですね。なるほど、分かりました。ぜひとも、美夜の大事なゴエモンを甦らせてください!」


「ゴエモン? ああ、あなたの死んでしまったペットのお名前ですね? 分かりました。微力を尽くします。──して、そのゴエモンとやらはいずこに?」


 実は美夜が学生鞄ひとつで現れたことに、太志は当初からずっと訝っていたのである。


 すると美夜は思い出したように、


「あっ、忘れてました! 詳しい場所が分からなかったので、この学校宛てに運んでもらうよう頼んだんだった! 即日便にしたので、もう、そろそろ届くはずなんですが」


「即日便?」


「ええ。私が運ぶのは大変なので、宅配業者さんに頼んだんです」


 それを聞いて、太志は顔色を青ざめさせた。


 学校宛てに送ったということは、とりあえず受け取り先は職員室ということになるだろう。


 悪の秘密組織という手前、何事も極秘に運ぶのが鉄則であり、このことを先生たちに知られてしまうのは非常によろしくない。最悪、荷物の中身を確認でもされたら、《秘密結社 悪の科学同好会》の活動が露呈してしまう恐れがある。


 太志は目配せで、《ビューティー・ビー》こと早乙女蜂子を、荷物が届くであろう職員室へ差し向けた。そして、目の前の美夜に作り笑いを浮かべる。


「わ、分かりました。こちらに運び次第、サイボーグ蘇生手術を開始しましょう」

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