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WILD BLOOD  作者: 西禄屋斗
第11話 つかさ改造計画 【 全 9 回 】
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『ボクらは一夜、ベッドを共にしました』――だろ?

「あっ――!」


 登校時間、武藤むとうつかさは曲がり角でバッタリ、クラスメイトの 忍足おしたり かおる と鉢合わせした。互いの顔を見て、二人はハッとする。


 だが、次の反応は真っ二つに分かれた。


「お、おはよう」


 つかさはぎこちなくも笑顔を作り、薫に挨拶した。


 一方──


「………」


 薫はひと睨みしただけで、すぐに無視を決め込む。そのまま先に立って、スタスタと歩き始めた。


「あ、ああっ……か、薫?」


 つかさはおどおどしながらも、薫のあとを追った。後ろから様子を窺うが、薫が怒っているのは明らかだ。それでも声をかけずにはいられない。


「あー、あのさぁ、薫……そのぉ……」


「付いて来ないで!」


 振り返らずに、薫は強い口調で拒絶した。剣道をやっているだけあって、その気迫は他を寄せつけない。


 つかさは思わず首をすぼめた。


「やっぱり、ダメか……」


 薫に聞こえないよう、つかさは小さなため息をついた。どうやら薫は、まだ先日のことを怒っているらしい。


 それは――


 先週の土曜日、つかさと薫は、クラスメイトの仙月せんづきアキトと、その妹、美夜みやに誘われ、兄妹が住むマンションへ遊びに行った。そこで二人は、美夜の策略によって一泊するはめに陥り、何とベッドまで共にすることになってしまったのだ。


 ……羨ましい話である。


 まず最初、二人は美夜を間に挟んで寝ていたはずだった。


 ところが、いつの間にか、つかさが美少女二人に挟まれる格好になり、夜這いを試みようとしたアキトが美夜の仕掛けたトラップの催眠ガスを作動させてしまったこともあって、前後不覚のまま朝まで熟睡してしまったのである。


 その翌朝、隣にいたつかさに薫が烈火の如く激怒したのは言うまでもない(※ 以上のいきさつは第9話を参照のこと)。


 特に二人の間で、何某かの過ちがあったわけではない。しかしながら、若い男女がねやを共にしたのである。薫にしてみれば、由々しき出来事だった。


 それゆえ、薫はずっとつかさに対しての怒りが収まらず、無視したり、ケンカ腰だったりと取り付く島もない状態が続いている。


 教室では、つかさの後ろに薫の席があるのだが、授業中に身の毛もよだつような殺気を一度ならず感じたことさえあった。


 何とか薫に許してもらえないだろうか、とここ数日、つかさはずっと思い悩んでいた。


「そんなに怒らないでよ……薫が驚いたのも無理はないと思うけど……」


 恐る恐る、つかさは声をかけてみたが、薫はおもむろに振り返るや、キッと睨み返した。その形相たるや――


「……ご、ごめん」


 つい反射的に謝罪の言葉が口を衝いて出た。


 美夜のベッドで一緒に寝ることになったのは、別につかさに責任があるわけではないので、謝る必要もないのだが、とにかく薫に機嫌を直してもらいたいとの一心で下手に出る。


 しかし、薫の怒りは沸点に達したままだ。


 つかさは知らない――目覚めたとき、つかさが薫の胸に顔をうずめるようにして眠りこけていたことを。さらに薫がパジャマ代わりに着ていたワイシャツは、すっかり前がはだけていたことを。


 あのときのことを思い出すたびに、薫は顔がカッと熱くなるのを感じた。つかさがスケベ心を起こしたとは、これまでの付き合いからも疑ってはいないが、たとえ不可抗力であろうとも乙女の柔肌に触れた罪は万死に値する。


 加えて、つかさには『疑惑のファーストキス事件』もあった(※ こちらは第7話を参照されたし)。今回という今回は、到底、許し難い。


 プリプリと怒った態度のまま、薫は早足で歩き出した。アッと言う間に、つかさを置き去りにして行く。それでもつかさは健気にも、そのあとを追いかけた。


 募るイライラが余計に薫の歩調をせかせかさせた。同じ方向に歩く数人の通行人を追い越してゆく。そんな中、一人の学生を抜き去った。


「おっ、不純異性交遊」


 冷やかすような声が薫の背に浴びせられた。


 ピクッと薫の耳が反応し、鞄から、このところいつも携帯しているハリセンを抜き放つ。そのまま振り向きざまにハリセンを叩きつけるつもりだった。


 ところが、あろうことかハリセンは空を切った。一年生ながら、すでに高校女子剣道界では全国レベルの腕前を持つ薫の一撃が躱されようとは――


 その人物は薫をさらに不快にさせる嘲笑を洩らした。


「どうした? いつものキレがないんじゃねえか?」


 スラリとした長身で、彫りの深い顔立ちは二枚目っぽいのに、薫のクラスメイトである仙月アキトはすべてを台無しにするような下卑た笑みを見せた。


「うるさいわねえ! 朝から、そんな不味まずいツラ、見せないで!」


 薫はツンケンして、先を急ごうとした。ところが、アキトはそれに楽々と付いて来る。


「朝から随分とご機嫌ナナメだな。まだ、この前のことで怒ってんのか?」


「アンタには関係ないでしょ!」


「ああ、関係ねえとも。残念ながら、な」


 つかさと薫が一泊した晩、アキトは夜這いを仕掛けたのだが、結局、美夜が自前で作った防衛システムを突破できず、リタイアさせられた。だから、美夜の部屋で何があったのか、実際のところ、アキトは知らない。


「まったく、オレも仲間に入れてくれってんだよな。いろいろとお楽しみだったんだろ?」


「誰がよ!?」


 もう一度、薫の対アキト用ハリセンが唸った。


 しかし、今朝のアキトはそれをひらりと軽やかに避けてみせる。いつも薫にやられっぱなしのはずなのに。


「はっはっはっ、甘いぜ、薫! お前のハリセンは、すでに見切ったわ!」


 高笑いするアキトに、薫は頭痛を覚えた。まったく、こんなのを相手にしていると血圧が高くなって卒倒でもしそうだ。


「おーい、つかさ」


 アキトは二十メートル後方にいるつかさに手を振った。つかさは小走りで、アキトたちに追いつく。薫のこめかみがピキッとうずいた。


「おはよう、アキト」


「おう、色男。可愛い顔して、やるときゃやるねえ」


 アキトはつかさをからかった。純情なつかさは、すぐに顔を赤くする。


「そ、そんなんじゃないよ、別に。ボクらは、ただ――」


 ここでつかさはチラリと薫の方を窺った。


 薫は無視して歩き続けている。会話に参加するつもりはないようだ。


 アキトは、益々、ニヤニヤした。


「『ボクらは一夜、ベッドを共にしました』――だろ?」


「アキトぉ!」


 つかさは耳まで真っ赤にさせながら、抗議の声をあげた。背中を向けたままの薫は、肩をわなわなと震わせている。


 しかし、アキトは平気な顔だ。


「何だよ、違うって言うのか? お前ら、美夜のベッドで一緒に寝たんだろ?」


「い、いや、それは……」


 確かに、一緒のベッドで寝ていたのは事実である。そのため、つかさは強く否定できない。


 二人の会話を聞くともなしに聞いていた薫は、とうとう黙っていられなくなる。


「つかさ! そもそも、アンタが──!」


 一喝しようと声を荒らげた薫だったが、振り返ると、なぜかそこに立っていたのはアキトだけ。さっきまでいたはずのつかさの姿がない。せっかく振り上げた拳のやり場に困る。


 すぐさま辺りを見回すと、いつの間にか、薫たちのさらに後ろにいた女子生徒のところへつかさが駆け寄って行くところだった。


「おはようございます、先輩!」


 それはつかさの憧れの存在、二年生の 待田まちだ 沙也加さやか であった。まるで菩薩のような微笑みをたたえている 琳昭館りんしょうかん 高校のマドンナである。


 沙也加は自分に挨拶しに来た可愛い後輩の少年に微笑んだ。


「おはよう、武藤くん」


 一年先輩である沙也加に名前を憶えてもらえて、つかさは有頂天だった。一ヶ月前は声もかけられなかったというのに。


 沙也加と談笑し始めたつかさを見て、薫はスッと目を細め、能面のような顔つきになった。


 見せる無表情とは裏腹に、その内では激しい感情が炎となって渦巻いているに違いない。近くにいたアキトがピリピリした殺気を感じ、身を強張らせる。


 薫よりも沙也加をあっさり選んだつかさの身が案じられたが、幸か不幸か、それ以上は何も起こらなかった。薫が黙って、さっさと学校へと向かってしまったからだ。


 アキトはその後ろ姿を見送りながら胸を撫で下ろし、寿命が百年は縮んだと思った。


「ふーっ、おっかねえ。こっちにまでとばっちりが来るかと思ったぜ」


 アキトは知らぬ間に掻いていた汗を拭った。


 つかさの方を見ると、行ってしまった薫にも気づかず、楽しそうに沙也加と会話している。


 再び教室で薫と顔を合わせたとき、果たしてどうなるか――


 アキトはつかさに待ち受ける過酷な未来に対し、胸の前で十字を切ってやりたい気分になった。


 ……あまり 吸血鬼ヴァンパイア がやっていいこととは思えないが。


「――ん?」


 何も知らない平和なつかさを見ているうちに、アキトはふと不審な人物の存在に気がついた。


 不審人物と疑われたのは隣のクラスである一年B組の 大神おおがみ けん だった。例によってカメラを手にし、やや離れた距離にある電柱に身を隠しながらシャッターを切っている。


「何だ、あいつ……」


 アキトは最初てっきり、沙也加を隠し撮りしているものだと思った。写真部に所属する大神が撮るのは、もっぱら好みの女性であることをアキトは知っている。それもパンチラだとか生着替えとか、犯罪紛いの類だ。


 ところが、よくよく観察してみると、沙也加を撮っているにしては、大神のいるポジションと被写体の顔の向きが合わない気がする。これでは横顔くらいしか撮れまい。むしろ、会話しているつかさの顔を正面から捉えているように窺える。


 つかさも沙也加も、隠し撮りをしている大神に気づいた様子はなかった。それをいいことに、大神は夢中で撮影しまくっている。


「おい、イヌ。何やってやがんだ?」


 こっそりと近づいて、おもむろにアキトが声をかけると、大神は飛び上がらんばかりに驚いた。


「あっ、兄貴!」


 大神は血相を変えた。まずい人物に見つかってしまった、といった感じだ。アキトはそれを見逃さない。


 ぬっと手を伸ばし、アキトは大神のカメラをつかんだ。


「何を撮ってたんだよ、イヌ?」


「い、いやぁ……そのぉ……これは……」


 苦手なアキトに問い詰められ、大神のこめかみを冷や汗が伝った。

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