表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WILD BLOOD  作者: 西禄屋斗
第9話 あぶない夜は眠れない 【 全 12 回 】
70/159

美夜ちゃん、少女マンガの読み過ぎ!

「お、お邪魔します……わあっ!」


 風呂から上がったつかさは、おずおずと美夜みやの部屋のドアを開けた途端、グイッと腕を引っ張られ、危なく転びそうになった。その身体が美夜によって抱き留められる。


「ああ、嬉しい! お兄ちゃんとお姉さまと一緒に寝られるなんて!」


 美夜はご機嫌だった。それもそのはず。アキト一人を除け者にし、つかさと薫を独占しているのだから。


 とてもじゃないが今夜は眠れそうにない、と美夜から身体を離しながら、つかさは覚悟した。


「お風呂どうだった? 兄貴のヤツに襲われたりしなかった?」


 美夜はつかさからバスタオルを受け取ると、まだ濡れた髪を拭いてやりながら尋ねた。


「別にアキトが入って来ようとしたりとかはなかったけど……」


 と言うよりも、つかさが美夜たちと寝ることに決めてからというもの、アキトは不機嫌だった。てっきり男は男同士、一緒に寝るものだと信じていたのに、つかさに裏切られたせいだ。


 しかし、それはアキトにも非がある。あの、男でも女でも処女なら押し倒す、という性癖さえなければ、つかさが拒否することもなかったのだ。


 孤立したアキトはロクに口も利こうとせず、つかさに黙って、自分の使っていないパジャマを渡してくれた。ただし、サイズがあまりにも違い過ぎて、袖や裾をまくらないといけなかったが仕方ない。


「ホントにここで寝るわけ?」


 美夜のベッドに腰掛けたかおるが、つかさに冷ややかな視線を向けてきた。昔からの顔馴染みで、姉弟のような仲だが、さすがにベッドを共にしたことはない。


「薫、本当に申し訳な――ええっ!?」


 こんな事態になったことを詫びようとしたつかさだが、薫の姿を見た途端、そんなことなど一気に吹っ飛んでしまった。


 影人かげひとのものだろうか、何と薫は男物の白いシャツをパジャマ代わりに着ていた。


 シャツの下は下着だけらしく、裾からなまめかしい白い素足がスラリと伸びている。さらには大きく開いた襟元からは谷間を作った胸元も覗くことが出来た。


「………」


 高校生らしからぬ扇情的な眺めに、つかさの脳は完全に一時停止した。まるでエッチなグラビア雑誌から抜け出して来たかのようである。


「ちょっと、何処見てんのよ!?」


 つかさの視線に気づき、薫は両手で胸を覆い、膝を折り曲げた。そのせいで、逆に裾の部分が際どくなる。つかさは慌てて目を逸らした。


「な、何だよ、その格好は!」


 照れ隠しに、つかさの声は珍しく大きくなった。薫も顔が真っ赤だ。


「し、しょうがないでしょ! 美夜ちゃんのパジャマじゃ小さすぎて、私には合わないんだから!」


 薫はとっさにベッドの上にあったクッションをつかみ、膝元を隠した。つかさはもう、そちらを見られない。


 そんな二人を交互に見て、美夜は悪戯っぽく笑った。


「あれれ? まさかお兄ちゃんたち、恋人同士じゃないわよね?」


「違うよ!」


「違います!」


 つかさも薫も、即座に否定した。その点に関しては一致した意見らしい。


「つかさとはね、中学の頃から一緒なだけよ!」


「そうそう。まあ、知り合ったのはその前からなんだけど」


「その前からって、まさか親同士が決めた許嫁いいなずけだったとか!?」


 美夜が茶々を入れる。


「もう! 美夜ちゃん、少女マンガの読み過ぎ!」


 薫がクギを刺した。


 つかさは昔を振り返る。


「ボクの両親が生きていた頃、よく夏休みとか冬休みとかになると、こっちにいるお爺ちゃんとお婆ちゃんの家に来ていたんだ」


「へえー」


「ウチの両親はどっちも仕事が忙しくて、学校がない日、ボクの面倒を見るのが難しくてね。で、こっちの祖父母の家で世話になっているいるとき、近所でよく男の子を泣かしていた薫と知り合ったというわけさ」


「コラッ! 誰よ、その原因を作っていたのは? アンタがよくいじめられていたから、私が助けてやったんじゃないの!」


 つかさの説明に、薫は心外そうな顔をした。


「まあ、そういうわけで、ボクらは幼馴染みみたいなもんなんだ。まさか、そのときはこっちで暮らすようになって、一緒の学校に通うとは思わなかったけど」


「私にとっては、手のかかる弟がもう一人増えたって感じね。ホント、つかさを見ているとイライラして、放っておけないって言うか」


「で、いつしかそれが恋愛感情に発展して行き──」


「だーかーら、違うって言ってるでしょ!」


 どうしてもそちらへ結びつけたがる美夜に、つかさと薫は、もう一度、熱を込めて異口同音に否定した。


 すると美夜がニンマリする。


「それを聞いて安心したわ! これで心置きなく、お兄ちゃんにアタックできるもん!」


 と言って、美夜は大胆にもつかさにしがみついた。つかさはその場でおろおろするばかり。薫に助けを求めようと振り返っても、我関せずといった表情だった。


「じゃあ、お姉ちゃんがそっち側で、美夜が真ん中、お兄ちゃんがこっちね」


 美夜がたったひとつのベッドで寝るポジションを説明した。つかさと薫が美夜を挟む格好である。


「ホントに三人で寝る気?」


 いつか冗談だと言い出すに違いないと薫はタカをくくっていたのだが、美夜はあくまでも本気のようだ。


「もちろん。この部屋にベッドはひとつしかないんだから!」


「ちょ……ちょっと狭くない?」


「身を寄せ合えば何とかなるよ」


「やっぱり、ボクは床で寝ようか?」


「ダメ。大事なお客様を床に寝かせるなんて、とんでもない! ちゃんとベッドで寝て!」


 つかさの提案は即座に却下された。どう考えても、普通のシングルベッドの上に三人も寝ては窮屈だと思うのだが。


「じゃあ、おやすみー」


 部屋の電気が消されると、美夜に促されながら、まず壁側に薫が寝た。真ん中に美夜。そして、最後はつかさである。


 やはり三人では狭すぎて、下手をするとベッドの端から落っこちそうだ。


「ほら、もっとこっちに寄って」


 美夜が落ちないように気遣って、つかさのパジャマを引っ張った。


 ――いや、これ以上と言われても。


「早くぅ」


 熱い息を耳元に吹きかけられ、つかさは身を強張らせた。美少女に密着され、脈拍が一気に上昇する。最初は背中を向けるようにしていたのに、ほとんど美夜に抱きつくような格好になった。


「キャッ! お兄ちゃんたら、大胆!」


「ご、ごめん」


「つかさ、美夜ちゃんに変なことしてないでしょうねえ?」


「してない、してない! ──と思うけど」


「いいの、いいの。気にしないから。さあ、ぐっすり寝ましょう。おやすみなさ~い」


 美夜はそう言うと、頭をつかさの胸に預けるようにしてきた。もう、つかさは金縛りに遭ったように動けない。


 その向こうにいる薫は、どんな顔をしているだろうか。つかさは気になった。どうも機嫌が悪そうだけれど。


 つかさは呼吸をするのすらためらわれて、身を強張らせながら、真っ暗な部屋の中で美夜の体温だけを感じていた。






 その頃、アキトは──


「フッフッフッ……」


 三人から阻害されて泣き寝入りするようなタイプでは、無論なかった。つかさが美夜の部屋へ入ったのを見届け、しばらく時間を置いてから行動を起こす。


 今さら言うまでもなく、アキトの目的はつかさと薫への夜這いである。ここで引き下がっては男がすたる、くらいの覚悟を決めていた。


 風呂から上がったつかさが美夜の部屋の中へ引っ張り込まれたのと同時に、各部屋の照明が自動的に消灯した。どうやら、美夜の仕掛けた防犯装置セキュリティ・システムが働いたらしい。


 アキトはスイッチを操作してみたが、電気は点かなかった。もしかすると、これもタイマー設定されているのかも知れない。


「何を仕掛けやがった、美夜のヤツめ」


 アキトは用心深く、周囲を見回した。幸い、アキトは 吸血鬼ヴァンパイア なので、暗闇の中でも見通すことが出来る。


 抜き足、差し足、忍び足で、アキトはこっそりと美夜の部屋へ向かう。


 廊下の手前でアキトの足が止まった。


 吸血鬼ヴァンパイア の目は、普通の人間には見えない赤外線すら感知する。美夜の部屋へ至る廊下には、これ見よがしに赤外線の網目が幾重にも横切っていた。どうやら、これに触れると何らかのトラップが発動する仕組みらしい。


 やはり部屋のドアへ通じる廊下は、一番厳重に防犯装置セキュリティ・システムが仕掛けられているようだ。


「ならば、作戦変更」


 トラップを回避すべく、アキトは別ルートを選択した。すなわち、窓からの侵入である。


 ここは十三階。しっかりとした足場があるわけではないが、身の軽い 吸血鬼ヴァンパイア ならば、わずかな凹凸(おうとつ)に手足の指をかけ、壁伝いに移動することなど造作もない。


 アキトはまずバルコニーから外へ出ようと思った。


 ところが──


「チッ!」


 バルコニーはシャッターによって塞がれていた。もちろん、簡単にこじ開けられる代物ではない。試してみたが、ビクともしなかった。


「くそぉ……」


 アキトは唇を噛む。知らない間にこんな物まで設置したのかと思うと、我が妹ながら恐ろしくなってくる。


 だが、窓は何もバルコニーだけではない。考え直したアキトは自分の部屋に引き返した。そして、自分の部屋の窓を開ける。


「なぬっ!?」


 アキトは思わず呻いた。自分の部屋の窓に鉄格子がハマっていたからである。今朝まではなかったはずだ。


 ここまで徹底した美夜の防犯装置セキュリティ・システムに、アキトは舌を巻いた。と同時に、自分への挑戦に対して、むしろ闘志を掻き立てられる――そういう男だ。


「こんなもん!」


 アキトは力尽くで鉄格子を押し拡げとした。が──


 ビビビビビッ!


 鉄格子をつかんだ途端、アキトの全身を電流が貫いた。鉄格子には高圧電流が流されていたのである。


「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーっ!」


 アキトは痺れて、そのまま背中から床に倒れ込んだ。


 そのとき、美夜の部屋で寝ていたつかさは、恐ろしい悲鳴と大きな物音を耳にして、何事が起きているのかと不安になった。


 だが、美夜はつかさの隣ですやすやと寝息を立てている。まるで何も聞かなかったかのように。薫も反応もなし。


 気のせいか、とつかさは思い直し、懸命に目をつむって、眠りにつくことだけを考えることにした。


 一方、当のアキトは高圧電流で黒焦げになり、しばらくはヒクヒクと痙攣していたが、さすがは 吸血鬼ヴァンパイア の驚異的な生命力、すぐさま復活した。


「んなっ、クソォォォッ……!」


 ちょっぴりダメージを残しているのは致し方ないか。蒸気機関車のように、口から黒い煙が漏れている。


 それでも、こんなことで怯むアキトではない。


「……やってくれたな、美夜のヤツめ……高圧電流とは味なマネを! そっちがそう来るなら!」


 次にアキトは、みんなで特上寿司を食べたダイニング・キッチンへ向かった。ここに窓はないが、他に求める物がある。


 アキトは天井を見上げて、ニヤリと笑った。


 それは屋根裏点検用の小さな出入口だった。ここから屋根裏を伝って、美夜の部屋に忍びこもうという算段である。さすがの美夜も、ここまでは手を回していないだろう。


 アキトは人ひとりがやっと通れるような蓋を外すと、ひょいっと天井裏へ身を潜り込ませた。


 天井裏の暗闇にアキトの目がネコのように光る。さすがに腹這いにならないといけない狭さだが、とりあえず何とかなりそうだった。


 アキトは匍匐前進ほふくぜんしんで美夜の部屋を目指した。今度は美夜のトラップもなさそうだ。


 いや──


 その考えは甘かった。順調に進んでいたはずのアキトが、突如として殺気を覚える。


「──っ!?」


 ブスッ!


 いきなり眼前を上から下へ何かが貫通した。ギョッとして目を剥くと、目の前にあったのは先が鋭く尖った槍である。このまま進んでいれば、串刺しにされていたところだ。


 とりあえず間一髪で命拾いし、アキトは大きく息を吐き出した。


 ……それにしても、時代劇などでよく見かけるシーンだが、どうして槍はいつも忍者や間者の鼻面近くに突き立てられるのだろう?


 それはさて置き、これで安心している場合ではなかった。アキトの全身が続けて危険を察知する。


「やべぇっ!」


 ザクッ! ザクッ! ザクッ!


 アキト目がけて、四方八方から槍が突き出された。天井裏は非常に狭いため、それを転げ回るようにして避ける。埃まみれになるなんて言っていられない。これはまさしく命の危機だ。


「美夜ーぁ! オレを本気で殺す気かーぁ!」


 アキトは暗い天井裏の中で、一人、絶叫した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ