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WILD BLOOD  作者: 西禄屋斗
第9話 あぶない夜は眠れない 【 全 12 回 】
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私たちは歴とした健全な高校生です!

 つかさの作ったライスピザはアッという間に平らげられた。つかさとかおるはその前に美夜みやのホットケーキも食べたので、かなりお腹は一杯だ。


 美夜から冷たい麦茶を出してもらい、ようやく一同はひと心地ついた。


「さて、食う物も食ったし、何かゲームでもして遊ぶか」


 こちらはまだ食い足りなそうなアキトが珍しい提案をした。もちろん、それに否はない。


「ゲームって何するの?」


 つかさはアキトに尋ねた。確かリビングにはテレビゲームの類は置いていなかったはずである。


 するとアキトが何やら企んだ目つきで、ニヤリと笑った。


「若い男女が集まってするゲームって言ったら、ひとつしかねえだろ? ──“王様ゲーム” だ」


「“王様ゲーム”? 何それ?」


 そっち方面にはまだ疎いつかさは、アキトの言うゲームを理解できなかった。美夜も同様だ。


 一方、顔を真っ赤にさせて異議を申し立てたのは薫だ。


「バカ! アンタ、何考えてんのよ!?」


 薫のえらい剣幕に、つかさと美夜はキョトンとした。だらしない笑みを漏らしているのはアキトである。


「絶対に楽しいって。ちょっとでいいからやってみようぜ」


「却下! まったく、アンタってやっぱりサイテー!」


 嫌悪感も露わに、薫はアキトに殴りかからんばかりだった。


「あのー、“王様ゲーム” って何?」


 おずおずといった感じで、王様ゲームを知らないつかさが質問した。するとアキトが答える。


「要はくじ引きをしてだな、一人の王様を決めるんだ。そして、王様が他の者に命令を下す。例えば、『王様の肩を百回揉め』とかな」


「へえ。いろいろな命令が出来るんだ。面白そうだね」


 つかさは単純に考えて言った。


 いつも空手部では先輩たちにどやされ、クラスの男子からもからかわれるつかさである。アキトが転校して来てから、そういうことも少なくなってきたが、遊びで誰かに命令を下す気分というのも悪くない、と想像したのだ。


「だろだろ? ほら、つかさもやりたいって言ってるぞ」


 味方を得て、アキトは図に乗った。


「美夜もやってみたーい」


 つかさに続いて、美夜も賛同した。


「おお、三対一だな。多数決で “王様ゲーム” に決定!」


 それに対し、薫は徹底抗戦する。


「ダメダメダメダメ、絶っっっっっっっ対にダメ! こいつが企んでいることなんて見え見えよ! 王様になったら、どうせロクでもない命令を出すに決まってるんだから!」


「えっ?」


 そこまで想像しなかったつかさは薫の言葉に顔色を変える。


「服を脱がそうとしたり、身体に触ろうとしたり! その他にももっといやらしいことを考えているに違いないわ、このドスケベは!」


 薫はアキトをそう断じた。


 アキトは特に否定もせず、だらしなく顔を緩ませ、涎を垂らしそうなくらいニヤついている。


「ぐへっ……げへへへへ……」


 今、明らかにアキトの頭の中では、ここではとても書けないような18禁の淫らな妄想が走馬灯のように駆け巡っているに違いない。


 その怪しげな様子に、さすがのつかさも身の危険を感じた。


「や、やっぱり、ボクもパスしようかな……」


「えーっ、それでも私、やってみたいなあ」


 ぽわ~んと頬を赤く染めながら、美夜がポツリと呟いた。つかさと薫を見つめる瞳が、心なしか潤んでいる。さすがはアキトの妹。


「み、美夜ちゃん……」


 これには薫も顔を引きつらせるしかなかった。


「も、もっとさ、普通のゲームをしようよ……例えば、トランプとかさ」


 つかさは早く “王様ゲーム” から別の思考に切り替えさせたかった。


 だが、この提案にアキトが異議を唱える。


「トランプだあ? 何を健全な高校生みたいなこと言ってんだよ?」


「私たちは歴とした健全な高校生です!」


 間髪入れず、薫が訂正する。しかし、アキトが納得するはずがなかった。


「何を時代遅れなことを。今どきの高校生はもっと進んでるぜ。これだから童貞と処女は困るんだよ」


「あっ、あ、あのねえ……!」


 薫は反論しようとするが、顔が真っ赤になってしまっている。つかさも同じだ。


 確かにこの二人、恋愛経験もないのだから、今どきの高校生からすれば遅れているだろう。


 それに目を輝かせたのは美夜だった。


「えー、お兄ちゃんたち、まだ経験してないの? ねえねえ、美夜が教えてあげようか?」


 中学生にまで言われて、つかさも薫もこれ以上ないくらいの羞恥心が込み上げ、顔を真っ赤にさせた。まったく、とんでもない兄妹の家へ遊びに来てしまったものである。


「とにかく、ダメなものはダメですっ!」


 薫は恥ずかしさを振り払うように大声を張りあげた。つかさもただひたすらうなずく。


 アキトはまだ諦めきれない様子だったが、先に美夜が折れた。


「まあ、しょうがないわねえ。今日のところはトランプで勘弁してあげちゃう」


「なっ!? 美夜、裏切るのか!?」


 突然の手の平返しに、アキトは気色ばんだ。


 美夜は吸血鬼ヴァンパイアならではの妖しい流し目を兄に送ってみせる。このときばかりは、ただの可愛らしい女子中学生などではなかった。


「お兄ちゃんたちを兄貴に取られるのは癪だしね。それに──」


 美夜は急に声をひそめた。つかさたちには聞かれないよう囁く。


「まだまだ時間はあるんだし。ゆっくり美夜のモノにしてあげるわ」


 ――と。






 こうして、まだ “王様ゲーム” に未練たらたらなアキトを加えて、無難なババ抜きが始まった。


 時計回りに、つかさ、美夜、薫、アキトの順である。


 アキトがプロの奇術師マジシャンみたいにカードを鮮やかにシャッフルし、手際よくそれぞれに配った。


「なあ、負けたヤツは罰ゲームってのはどう?」


 懲りずにまたしてもアキトが提案した。薫が怖い目で睨む。


「アンタねえ……」


「ただのババ抜きなんてつまんねーよ! 少しは何か楽しみがないと」


 アキトはゴネた。つかさは苦笑、薫はため息だ。


「で、負けたら何するの?」


 試しに美夜が訊いてみる。すると、


「野球拳みたいに服を一枚ずつ脱いでいくってのはどうだ?」


 と、またしてもアキトは邪なルールを口にした。


「アンタ、どうしても私たちを脱がせたいみたいね?」


 薫の反応は冷淡だ。殺気すら感じられる。


「だから、遊びだって、遊び。まったく、処女はシャレが通じねえなあ」


「わ、悪かったわねえ!」


「まあまあ、とにかく始めようよ」


 これ以上、二人にケンカさせてたら、一向にトランプが出来ないと思ったつかさが、ゲームのスタートを促した。


 四人はまず手札で重複する数字を二枚一組で捨て、ジャンケンで先攻を決める。勝ったのはアキトだ。


「よっしゃ!」


 アキトは勢い込んで、薫から一枚引いた。手札と同じ数字のカードを引き当てたので、テーブルの上に捨てる。そして、次に自分の手札一枚をつかさに引かせた。


 こうして、ババ抜きは順調に進んだ。


 現在、ババであるジョーカーを持っているのは、薫から引いてしまったアキト。皆、残りの手札が少なくなって来ている。早く隣のつかさに引かせるか、他の手札を捨ててジョーカー一枚にしてしまわないと負けになってしまう。


「そらよ」


 つかさの番が来て、アキトは手札を裏向きに差し出した。どれにしようか、つかさの指が迷う。


「じゃあ……これ」


 アキトは思わずニヤリとした。つかさが引いたのはジョーカーだったのだ。


 つかさは表情を曇らせたが、すぐに平静を装って、手札を切った。そして、次の美夜にカードを引かせる。


 美夜、薫と引いて、またアキトの番が来た。深く考えもせず、薫からカードを一枚引く。次の瞬間、アキトは絶句した。


 引いたカードはジョーカーだったのだ。


「……お前ら、オレをハメてねえだろうな!?」


 思わず口に出して言ってしまったのも無理はない。たった一周でジョーカーが手元に戻って来るとは。全員がジョーカーを引き当てないと、こんな偶然は起こらない。


 結局、そんな不運もあって、負けたのはアキトだった。他の三人は苦笑するしかない。


「罰ゲームの言い出しっぺが負けてりゃ、世話ないわね」


 薫が意地悪くからかった。アキトは悔しさに唇を噛む。


「く、くそぉ~、男・仙月せんづきアキトに二言はない! 罰ゲームとして、脱いでやろうじゃないか! とくと見とけ!」


 アキトはそう言うと立ち上がって、やにわにズボンのベルトをカチャカチャと外し、ジッパーを下げた。真っ赤なパンツが覗く。


「いきなり下から脱ぐなぁ!」


 薫のツッコミは素早く、伝家の宝刀ハリセンを何処からか抜き放った。


 ……どうやら、わざわざ持って来ていたらしい。


 すぱーん!


「ぐわぁ!」


 小気味いい音がリビングに響いた。薫のハリセンによって顔面をはたかれたアキトは、後方のソファを乗り越えるように、もんどり打って倒れ込んだ。


「ただいまー」


 玄関からそんな声が聞こえて来たのは、その直後だった。

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