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WILD BLOOD  作者: 西禄屋斗
第8話 ひとりぼっちの神隠し 【 全 13 回 】
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何これ? キョンシー?

 つかさ、かおるあきら、ありすの四人は、押し黙ったように立ち尽くしていた。


 ミステリー・マガジンの編集者・菅谷すがやと学園一のオカルト通、黒井くろいミサからの指摘を受け、どうやら寧音ねねは神隠しに遭ったらしいとの結論に至った。


 しかし、よりにもよって神隠しとは。これがまだ誘拐の類なら警察に相談するという方策も立てられるが、このような超常現象に巻き込まれた場合、どうすればいいかなど、一介の高校生であるつかさたちが思いつくはずがない。


 ふと申し合わせたかのように、四人はミサの顔を見た。


「なあ、黒井。どうしたら寧音を助けられる?」


 “琳昭館りんしょうかん 高校の魔女” と呼ばれるミサなら、おどろおどろしい黒魔術を駆使して何とかしてくれるような気がして、晶は期待も込めて尋ねてみた。


 ところが、ミサの反応は無表情のまま。もっとも、彼女が感情を顕わにしたところなど、入学してからこの半年あまり、見たことなどないのだが。


「普通の人間が異界に足を踏み入れるなんて危険だわ。行ったが最後、戻って来られる保証もないし。第一、徳田とくださんが無事であるかどうかも分からないのよ」


 ミサは冷たく言い放った。


 同じクラスメイトとは思えない発言に、晶はカッとなる。


「黒井ッ! アンタ、何てことを言うんだよ!? 寧音のヤツはきっと無事さ! あいつがそう簡単にくたばるもんか!」


 ミサに食ってかかる晶。しかし、“琳昭館高校の魔女” が気圧されることは決してない。


「それは桐野きりのさんの希望的観測でしょ? 絶対なんてことは誰にも分からないわ」


「くっ……」


 ミサは怒りを押し殺しながら、ミサを睨みつけた。


 一触即発の雰囲気に、そばで見ていたつかさはハラハラするしかなかった。


 そこへ割って入ったのは、意外にもありすである。


「晶ちゃん、ケンカはダメ~ェ! ミサちゃんもぉ! 今はねねちゃんを助けることが先決でしょお!?」


 めっ、と子供でも叱るような調子でありすに諭され、晶は仕方なく力を抜いた。


「……分かったよ、ありす。お前さんの言う通りだ」


 晶は素直に降参し、ありすの頭をポンポンと軽く叩く。


 とはいえ、こうしている間にも、異界へ連れ去られてしまったかもしれない寧音はどうしているのか。また、四人は口をつぐんでしまった。


 こういうとき頼りになりそうな男を、つかさは思い出した。


「――そうだ、アキトは?」


 目には目を。人外の出来事には、常人ならざる者を。


 吸血鬼ヴァンパイア であるアキトなら、何かいいアイデアをひねり出せるではないか。


 そう言えば、手がかりを探そうと別れてから、アキトの姿が見えないが――


「まさか、あいつ、一人で帰ったんじゃないでしょうね?」


 薫が疑わしい目つきで周囲を見渡す。


 元々、誘拐犯のような扱いをされて気に食わなかったアキトだ。それくらい平気でやりかねない。


 やぶ蛇だったか、とつかさは額を押さえた。


 すると、ミサが、


「……ひょっとして、あの男のこと?」


 と、心当たりがあるようなことを言った。


「黒井さん、何処で見かけたの?」


 どうやら帰ったわけではなさそうだと分かり、つかさはホッとしながら尋ねた。


「こっちよ」


 ミサはつかさたちを案内した。


 そこは元々やって来た公園の入口だった。そこで中腰の怪しいポーズをしているアキトの後ろ姿を発見。ところが、様子がおかしい。


「アキト?」


 つかさが呼びかけても、アキトはまったく動かなかった。まるで彫像のように。その格好も珍妙だ。やや腰を落とした姿勢で、両手はまるでボールを下から捕球しようとでもしているかのようだ。


 アキトの正面に回ったつかさは、その顔を見て面食らった。アキトの顔に、紙で出来たお札のようなものが貼りつけてあったからだ。お札に書いてある文字は読めはしないが、梵字か何かだろうか。


 他の者たちもアキトを見て、怪訝な顔をした。


「何これ? キョンシー?」


 キョンシーとは、いわば中国版のゾンビである。旅先で死んだ者の遺体を運ぶため、死体自ら歩かせようと道士が編み出した法術なのだが、顔に貼ってあるお札を剥がすと、途端に暴れ出すと言い伝えられている。


 昔、日本でも映画やテレビドラマが放送され、一時、ブームを呼んだ。


 言われてみれば、アキトの顔に怪しげなお札が貼ってあるところなど、映画に出て来るキョンシーそっくりである。


 するとミサは、おもむろにアキトの顔に貼ってあったお札を剥がした。


 その途端、アキトは動き出し、なぜか前にいたつかさの股間へと手を伸ばした。


「なっ! 何するんだ、アキト!?」


 つかさは真っ赤になって、その手を払い除けた。内股になってアキトから離れようとする。


 あまりにもハレンチな行為を目撃した薫たちは呆気に取られた。アキトに突き刺さる軽蔑の眼差し。


 だが、アキト一人が事情を呑み込めない様子だ。


「あ、あれ……? どうして、オレ……」


 自分の両手を見たあと、アキトはぐるりと辺りを見回した。その中にミサを見つけ、顔色を一変させる。


「お、お前……!?」


 驚いた様子のアキトに、ミサは貼ってあったお札をヒラヒラさせた。


「どうやら効果は抜群だったようね。これは邪気を持った者を封じる呪符。初めて使ってみたけど、結構、役に立つわね」


 ミサは涼しげに言った。


 すると、ありすが呪符を受け取って、しげしげと眺めながらミサに質問する。


「これ、キョンシーのお札~ぁ?」


「違うわ。それは友達にもらったの」


「ともだち?」


 どんな友達か怪しみながらも、つい尋ねずにはいられなくなる。


「ええ、インドの呪術師なんだけど。最近、LINEで交流してるの」


「LINEで交流って……」


 類は友を呼ぶ、というか、やっぱりミサの知り合いだけあって、尋常な輩ではなさそうだ。


「他にもプラハに住んでいる三百五十歳のお婆ちゃんとか、英国で数々の迷宮事件を解決している霊能者とか、バチカンにもう一人いる闇の法王とか、世界各国の政治家から一目置かれる南アフリカの予言者なんかとも親しいのよ」


「えっ……ええっ!?」


「だからたまに、こんなアイテムを贈って来てくれたりしてね」


「あっ、そう……」


 ミサの説明を聞いていると、この世界は人々の知らないところで、とんでもないことになっているような気がする。だから薫たちは、当たり障りのない返事を返すのがやっとだった。


 そんなミサに呑まれていない人物が一人だけいた。アキトだ。


「お前なあ! いきなり何をしやがる!」


 呪符で金縛りにされたアキトがミサに怒鳴った。


 しかし、ケンカを売る相手が悪い。彼女は “琳昭館高校の魔女” だ。


「背後から私のスカートをめくろうとしていたのは誰? あれは自己防衛よ。だから、呪符であなたを封じたの。こんなに邪気をプンプンさせて。あなたみたいのが街中を歩き回っているなんて、不吉極まりないわ」


 女性の敵、という点では、ミサに同意見なのか、薫と晶は深くうなずいた。


 一方、つかさは別の意味でドキッとした。ひょっとしてミサは、アキトの正体が 吸血鬼ヴァンパイア だと勘づいているのか。


 もっとも、アキトはそんなことなど気にも留めていないようだった。


「こんな物騒なモンを持ち歩いておいて、よく言うぜ。こっちは、ちょっとした挨拶代わりのつもりだったんだ」


 アキトはそう言いながら、制服のスカートからスラリと伸びた黒いストッキングを履いた脚をじろじろと無遠慮に眺めた。


 すると、自分勝手な釈明をするアキトの背中に、いつの間にかこっそり回り込んだありすが、ミサから拝借した呪符を貼りつけた。途端にアキトの動きがピタリと止まる。まるで精巧に出来た蝋人形のようにピクリともしない。


「きゃははは、面白~い!」


 まるで新しい玩具に興じるかのように、ありすは呪符を貼ったり剥がしたりを繰り返した。アキトの動きは、まるでコマ落としのように、カクカクとしたぎこちないものになる。それを見ているうちに、ミサ以外のみんなが吹き出した。


「ええーい、やめんか!」


 完全に弄ばれたアキトは、隙を突いて、ありすの手から呪符を引ったくった。そして、憎しみを込めて、それをクシャクシャに丸めてしまう。


「ああーん、取られたぁ!」


 歯を剥き出しにして憤るアキトに怯えながら、ありすは慌ててミサの後ろに身を隠した。

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