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WILD BLOOD  作者: 西禄屋斗
第8話 ひとりぼっちの神隠し 【 全 13 回 】
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ええ~、神隠し~ぃ? ありす、こわ~い!

 神隠し――


 昔、山里で子供たちが行方知れずになると、天狗や山の神の仕業とされ、そう呼ばれてきた。彼らは人間の世界とは違う異界へ連れ去られてしまうのだという。


 こういった伝承は、日本の各地に数多く残されている。


 神隠しに遭った子供は、そのまま戻って来ない場合が多いが、中には無事に帰って来た者もいた。


 或るときは行方不明になった場所から遥かに離れたところに、或るときは滅多に人が足を踏み入れないような山奥で、或るときはいつの間にか元の場所に何事もなかったかのように。


 帰還者による証言も様々だ。天狗と山の中で生活したという者もいれば、神隠しに遭っていた間の記憶がすっかり失くなっている者もいる。


 どうして神隠しに遭うのか、その原因や理由はまったく謎とされてきた。


 だが、今は天狗のような人間を超越するような存在はいないと断じられ、神隠しも悪人による()()()()()によるものだった、というのが大方の見解だ。


 実際、血の通った人間が身の毛もよだつような行為に手を染めることは、周知の事実である。それを昔の人々は、自らを納得させるために超常現象という理由をつけ、神隠しという作り話をしたのだ――というのが、現在の定説となっている。


 しかし――


 本当にそうなのだろうか。本当にすべての神隠しは悪意ある人間の仕業なのか。


 とはいえ、この現代に、それも多くの人々が生活する住宅街の真ん中で、神隠しの言い伝えが残されているとは。


 かおるあきらは、菅谷すがやの言葉を聞いても、すぐには鵜呑みに出来なかった。


「まさか、こんなところで?」


「出た! 得意のホラ話だろ? 他人を騙すんなら、もうちょっとマシな作り話をしたらどう?」


 最初から嘘だと決めつけて、二人はまったく相手にしない。


 一方で──


「ええ~、神隠し~ぃ? ありす、こわ~い!」


 と、ありすが両拳を口許で握りしめながら、いやいやと身体をくねらせば、その横ではつかさが引きつった顔で怖じ気づくという、対照的な反応を見せていた。


 そんなありすの肩を晶はバシッと叩いた。


「そんなの信じんなって! こんなところで神隠しだなんて。誘拐事件が多いとか言われた方が、もっと現実味があるってもんさ。──おい、武藤。アンタもびびってんじゃないよ。男だろ?」


 ありすを励ましつつ、晶はつかさを侮蔑したように見た。余所よそのクラスなので、噂くらいしか聞かないが、実際に見かけどころか態度や性格も男らしくないつかさを見ていると、何だか晶の方がイライラしてくる。


「う、うん……」


 逆に男っぽい晶に気圧されながら、つかさは平静を装おうとした。


 高校生四人を相手にする菅谷も苦労していた。これが小学生相手だったら、もうちょっと話を信じてくれただろうに。菅谷は頭をぼりぼり掻いた。


「そんな、オレが君たちを騙して、何の得があるって言うんだい? オレは確かな情報を元に話しているんだぜ」


 菅谷はそう言って、自分のスマホの画像を見せた。古い資料を撮影した写真のようだ。


「この坂時町さかときちょうってところは、明治の頃までちょっとした森が残っていてね、昔から神隠しに遭ったという人が大勢いたそうだよ。ちゃんと文献にだって載っているんだから」


「それが今も続いていると?」


「いや……さすがに住民が神隠しに遭っていたら、もっと大変なニュースになっているだろうけど──でも最近、近所のイヌやネコなどのペットが姿を消しているんだ」


「イヌやネコ!?」


 真顔で話す菅谷に、薫と晶は吹き出しそうになった。


「まさか、それが神隠し?」


「あー、バカバカしい。付き合ってらんないよ」


 二人の女子高生にバカにされ、菅谷は顔を真っ赤にした。


「オレは真面目に話しているんだぞ!」


「だって、イヌとネコでしょ?」


「どうせ、ペット泥棒の仕業だよ」


「神隠しだなんて、大袈裟な」


「まったく、何を取材しているかと思えば、そんなくだらないことだとは」


「くだらない、だって?」


 二人の言い草に、菅谷は大人しく引っ込んでいられなかった。一番の大人であるはずだが。


「君たちは知らないんだ! 散歩に連れて来たイヌが、ほんのちょっと目を離した隙に消えたり、夜中、たむろしていたネコたちが、ある晩、一斉に姿を消していたり」


「い、一斉に……?」


「そうとも! ただのペット泥棒の仕業とは思えないようなことが、この辺で頻発しているんだぞ! こんなの、神隠し以外で何が考えられる!?」


 菅谷は熱弁を振るった。さすがの薫と晶もからかっていられなくなる。


「そりゃあ、オレだって天狗がさらって行ったとは言わないさ。ここは山奥じゃなくて、住宅街だからね」


「………」


「でも、神隠しとは何かの拍子でこことは違う世界――異次元へ迷い込んでしまう現象のことだったら? この公園の何処かに、その入口があったとしたら? そのうちイヌやネコだけでなく、人間が犠牲者になるかも知れないんだぞ!」


 一気にまくし立てた菅谷は息切れを起こした。深呼吸して、肩を上下させる。


「じゃあ、ねねちゃんも──もごっ!」


 不安そうな顔で呟きそうになったありすの口を、今度は薫と晶の二人がかりで塞いだ。


 菅谷の話を聞いて、ありすばかりでなく、薫たちもその考えがちらついたところである。もし、菅谷に知られたら、どんな突っ込んだ追及を受けるか分かったものではない。


 三人の様子がおかしくなったことを不審に思った菅谷だが、そこへちょうど携帯電話の着信音が鳴った。


「はい、菅谷です。──あっ、デスク。──はい。──はい。分かりました。今から社に戻ります」


 菅谷は電話を切ると、薫たちに向き直った。


「それじゃあ、オレは社に戻る。君たちも妙なことにならないうちに帰った方がいいと思うよ」


 そう言い残して、菅谷は公園から去って行った。


 その場に残された四人は、まるで申し合わせたように顔を見合わせた。


「どう思った? 今の話」


 晶が口火を切った。


「やっぱり、ねねちゃん、神隠しさんに遭っちゃったのかな~ぁ」


 ありすがぽつりと言った。


「ま、まさか。そんなことあるわけ……」


 否定しようとした晶だが、思わず言い淀む。


 四人の間に沈黙が降りた。


 そこへ――


「……不吉だわ」


「うぎゃあああああっ!」


 突然、背後でぼそりとした呟きが聞こえ、四人は跳び上がらんばかりに驚いた。


 そこにいたのは無表情な美少女だった。


黒井くろい──」


「ミサちゃん?」


 晶、ありすと同じ一年C組のクラスメイト、黒井ミサは、四人を驚かせたことに悪びれもせず、あたかも最初からそこにいたかのように立っていた。


「今の人が話していたように、確かにこの公園の空間は少し歪んでいるみたいね」


 ミサは公園の上空を見上げるように言った。見ただけで、そんなことが分かるのか。いや、彼女は人の運命を言い当てる魔女。不思議な力を持ち合わせていても当然かもしれない。


 そんなミサに晶が人差し指を突き出す。


「アンタ、いったい、いつからいたんだ?」


 しかし、ミサはそれに答えず、おもむろに右手に持っていたものを一同に差し出した。


「あっ」


 それは──


「ねねちゃんの──」


 メガネだった。


 晶はミサからメガネを受け取って、つぶさに調べてみた。


「うん、寧音のだ。こんな分厚いレンズのメガネ、なかなかないもの」


 晶が認める。


「何処にあったの?」


 薫がミサに尋ねた。


「……そこのベンチの下」


 ミサの答えは、常に無味乾燥といった感じだ。まるで、そこに死体が転がっていたみたいに指を差す。


「寧音って、メガネがないと、ほとんど見えないんじゃなかったっけ?」


 晶が言うと、ありすがコクンコクンとうなずいて見せた。


「じゃあ、寧音はやっぱり……」


 心配を口にしかけて、薫は途中でやめた。


 神隠し。


 天狗の仕業であろうと、異次元に迷い込んだのであろうと、普通なら信じ難いことだ。それを認めたくない気持ちがある。


 もし、寧音が神隠しに遭ったのなら、どうやって助けたらいいのか。


 生暖かい風が吹いて来て、立ち尽くすつかさたちの頭上の枝葉をざわざわと揺らした。

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