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WILD BLOOD  作者: 西禄屋斗
第7話 トラブルだらけの休日デート 【 全 10 回 】
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ご覧の通り、ここでアルバイトをしているの

「……つかさのバーカ」


 かおるはそう呟くと、自動販売機のボタンを押した。


 ガコン、という音とともにスポーツドリンクの入ったアルミ缶が転がり出る。取り出し口から商品を取り出すと、プルトップを開けてから左手は腰に据え――ちなみに肘の角度は九十度――、上を向くようにグイッと口にした。


 ごくん ごくん ごくん……


「ぷはーっ!」


 まるで仕事帰りのビールを楽しむオヤジよろしく、薫は一気に飲み干すと、手の甲で口許を拭い、グシャリとアルミ缶を潰した。


 そのとき、たまたま近くで薫を見かけ、おっ、可愛い娘だなあ、と見惚れていた大学生くらいの青年がいたのだが、その行為を目撃してしまい、驚いたように目を丸くする。


 ……確かに、空き缶を片手で潰す女子など、そうそういやしない。


 そそくさと逃げて行った青年にも気づかず、薫は自動販売機脇に設置してあった空き缶入れへ乱暴に放り込んだ。


「ふーっ!」


 一気飲みして、少しは気分が落ち着いた気がした。そして、後ろを振り返る。


 賑やかな音楽が鳴り響いていた。それに伴って聞こえる子供たちの歓声とゲームや遊具が発する様々な電子音――見上げれば、秋晴れの空が広がっていた。


 つかさと別れた薫がやって来たのは、南口のデパート屋上に設けられた遊技場である。


 遊技場と言っても、小さなメリーゴーランドや宇宙船を模した乗り物型のアトラクション、エアマットで出来たトランポリンなどがあり、ちょっとした遊園地のような感じだ。他にもレトロな雰囲気のゲーム機が軒を連ねている。


 ただ、薫が子供の頃からあったものなので、かなりデザインは古臭いし、いかにも安っぽい感じは否めなかった。昔は、それこそ夢の国のように思っていたが、今はとてもちっぽけで、ゴチャゴチャとした雑多なものに見える。


 それでも小さな子供たちにとっては、今も格好の遊び場だ。特に人気の高いのが観覧車である。


 ゴンドラの数こそ八台と少なく、一周するのにも一分くらいしかかからない代物だが、地上七階建てのデパート屋上にしつらえてあるので、街の景色を眺めるのには最適だ。


 また、屋上に観覧車があるというのも珍しいので、デパートのトレードマークみたいになっている。特に最近は、比較的、新しいものが集中している西城にししろ駅北口の方に人の流れが傾いているが、南口もまだまだ捨てたものではない。


 薫もどちらかと言えば、昔馴染みの南口デパートの方が好きだ。ここへ来るのも久しぶりである。


 走り回る子供たちを回避しながら、何処かのベンチで休もうと、薫が探しているときだった。


「……不吉だわ」


 ぼそりとした声なのに、まるで耳元で囁かれたかのようにハッキリと聞こえ、薫は顔を引きつらせながら、周囲を見回す。


 後方およそ五メートルくらい離れたところに、小さなテーブルに座っている女性がいた。なぜか喪服姿で、こちらに向かって手招きをしている。見覚えがあった。


「く、黒井くろいさん……?」


 さっきまでいなかったはずなのに、いきなり一年C組の黒井ミサが現れたような錯覚がして、薫は思わず後ずさった。


 しかし、ミサはゆっくりとした動作で、薫を呼び続ける。怪しさ丸出し。つい反射的に逃げ出したい衝動に駆られた薫だが、それも失礼な話なので、心臓のドキドキを鎮めようと努めながら、ミサに近づく。


 ミサは折り畳み式のテーブルに黒いビロードを被せ、その上に五枚のカードを伏せていた。一見してトランプでないと知れる。トランプより、もっと細長い形だ。


「黒井さん……こんなところで何をしているの?」


「ご覧の通り、ここでアルバイトをしているの」


「アルバイト?」


 怪訝そうな薫に、ミサはそっとテーブルの下を指し示した。ビロードに貼りつけられたA4サイズの紙に、手書きで『タロット占い・見料五百円』とある。


 まだ薫は経験がないが、ミサのタロット占いは校内でも有名だ。それをアルバイトとは言え、商売にしているとは。


「このことは内緒にしててね。見つかると大変だから」


 ミサはそう言って、薫に頼んだ。が、薫は眉をひそめる。


「えっ? でも、ウチの学校は別にアルバイトOKでしょ?」


 するとミサは首を横に振った。


「そうじゃなくて、デパートの人たちに……何しろ、無許可でやってるから」


「………」


 薫は開いた口が塞がらなかった。こんな白昼堂々、無許可の出店とは。遊技場にはたくさんのスタッフたちも働いているのに、よく見つからないものだ、と薫は何だか感心してしまう。


「そ、そう、分かったわ。内緒にしておくから。それじゃあ、私はこれで」


 あまりミサとは関わり合いにならない方が良さそうだと判断した薫は、回れ右をして、この場から退散しようとした。


 ところが──


「待って、忍足おしたりさん……黙っててくれるお礼に、私がタダで占いをしてあげるわ」


 と、ミサが引き止めた。ギクシャクとしたロボットのような動きで、薫は首だけを回す。


「い、いやぁ……わ、私は別に占ってもらわなくても大丈夫だから……」


 逃げよう、と薫は思った。


 ミサの占いは、確かによく当たると評判だ。占いをしてもらった人たちから話を聞くと、的中率100%とも聞く。


 だが、その内容は必ず相手が不幸になるものばかりで、聞かなければよかった、と必ず後悔するという。


 片想いの相談をすれば、「諦めなさい、向こうには本命がいます、絶対に無理です」と言われ――


 失せ物を尋ねれば、「たとえ地面を掘ろうとも、海に潜ろうとも、一生見つかりません」と断じ――


 テストの問題が知りたいと言えば、「どんな努力をしても0点です」と突き放され、実際、テスト当日、高熱を出して欠席しなければならなくなったという不幸な結末――


 占いというのは、少なからず人の行動を決めるときの指針のようなものになるはずだが、ミサの場合はひたすら不吉な予言でしかない。聞かない方がマシだ。


 しかし、ミサは薫を逃がしはしなかった。


「不吉だわ。私の忠告を無視すると、あなたはとんでもない目に遭ってしまう」


 ぞぞぞぞぞっ!


 ほとんど脅し文句のようなミサの言葉に、逃げようとした薫の足が止まった。ひょっとして、学校のみんなに降りかかる災難は、ミサが故意に招いているのではないか、とすら疑いたくなる。


 冷や汗を垂らしながら、薫はミサに抗うことが出来なくなった。


「うっ……そこまで言われると……」


「さあ、どうぞ、こちらへ」


 ミサははかなげな微笑を浮かべながら、薫に座るよう促す。


 観念した薫はミサの前に座った。まるで死刑宣告を待つ被告人の心境だ。


「今日は簡単な占いにしておきましょう」


 そう言ってミサは、テーブルの上のタロットカードをすべて手にすると、優雅な手つきでシャッフルした。そして、再びテーブルの上に、五枚のカードを伏せて並べていく。


 ごきゅっ!


 緊張のせいで薫の喉が鳴った。さっきスポーツドリンクを飲んだばかりなのに、もう喉がカラカラだ。


 ミサの目が薫の顔を見据える。


「この五枚のカードは、あなたの未来を表しています。この中から一枚のカードを選んでください。それが、今日これから、あなたを待ち受けている運命――色々な可能性からひとつに絞るのです」


 それが悪いことなら、わざわざ選びたくない、と思う薫であった。とは言え、ここで逃げたら、もっと不幸なことが身に降りかかりそうだ。


「さあ、選んで」


 ミサの口調は静かなものなのに、なぜか逆らえない響きがあった。


 薫はテーブルの上にある五枚のカードを見つめた。穴が開くまで、ジッと。どれを選んだらいいのか。


 チラリとミサの様子をこっそり窺ってみたが、“琳昭館りんしょうかん 高校の魔女” は無表情――いや、少し口角が上がっているように見える。楽しんでいるのか。これから薫がどのカードを引くのかを。


「ええい! これっ!」


 考えてても始まらない。ままよ、とばかりに、薫は真ん中のカードを選んだ。


「運命は定められました」


 そう言ってミサは、薫が選んだカードをめくった。


 その瞬間、薫の肉体は雷に撃たれたような衝撃を覚える。


 高い塔に稲妻が落ちている図柄――


 《The Tower》


 薫はそのカードを見た瞬間、何か不吉なものを感じ取った。


 案の定、ミサの顔にはハッキリと分かるくらい、よこしまに見える笑みが浮かんでいた。いったい、どんな運命を暗示しているカードなのか――


 知りたい反面、訊くのがためらわれた。


「これは “タワー” のカード。忍足さん、あなた──」


 ミサが占いの結果について語ろうとした刹那――


 突然、薫は肩を叩かれた。


「キャッ!」


 思わず跳び上がらんばかりに驚いて、薫は悲鳴をあげた。緊張MAXだったところで不意を突かれたため、なおさらリアクションが大きくなった。


 それよりもビックリしたのは、彼女の肩を叩いた人物だ。


「わああっ、そない驚かんでもええやん!」


 それは少しくぐもった感じだが、聞き覚えのある関西弁だった。薫は振り返る。


「──っ!?」


 薫の背後に立っていたのは、ピンク色をしたウサギの着ぐるみだった。首にはカラフルな大きな蝶ネクタイをし、右手には色とりどりのたくさんの風船を握っている。薫は呆気に取られた。


「また会うたな、薫はん」


 ウサギが喋った。


「えっ? もしかして、寧音ねね?」


 薫が問うと、ピンクのウサギはうなずいた。そして、風船を飛ばしてしまわぬよう気をつけながら、左腕で被り物の頭を持ち上げる。


 中から現れる汗だくの寧音の顔。メガネが曇っていた。


「どや、ビックリしたやろ? ──どないしたんや、薫はん。顔色、良うないで」


 ウサギの着ぐるみを着た寧音が心配そうに尋ねた。


「ああ、それが黒井さんに──」


 そう言って薫は、ミサの方を振り返ろうとした。ところが──


「あれっ……?」


 いつの間に立ち去ったのか、ミサの姿はテーブルごと、いずこかへ消え失せてしまっていた。

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