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WILD BLOOD  作者: 西禄屋斗
第5話 心の檻に棲む野獣 【 全 11 回 】
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友達である資格なんてないのかも知れない

 背後からの視線をアキトはピリピリと感じた。振り向いて確認するまでもない。


 つかさだ。


 空手部員たちの中に姿がなかったので少し安心していたのだが、まさか反対側から現れたのがつかさだったとは。


 しかもタイミングが悪過ぎる。


 アキトは緊張しながら、つかさの次の言葉を待った。いつものように冗談で返すことが出来ない。


 だが、つかさは黙ったままアキトの横を通り過ぎると、倒れている坂田さかたたちに近づいた。そして、怪我の具合を診る。


 その後ろ姿がわなないているように、アキトには見えた。


「どうして……先輩たちをこんなひどい目に遭わせたの?」


 つかさは声も震わせていた。


 誰に何と思われてもいい。しかし、つかさにだけは信じて欲しい、とアキトは思わずにいられなかった。


「オレじゃねえ……」


 いつになく弱々しいアキトの声。


 つかさはアキトの方を振り向くと、キッと睨みつける。


「アキト以外の誰にこんな──!」


 そうなのだ。坂田たち空手部五人をここまで完膚無きまでに叩きのめせるのは、さらに数で上回る集団で暴行を加えたのでなければ、人間以外の存在──例えば、吸血鬼ヴァンパイア のようなものしか考えられない。


 アキトの正体を唯一知るつかさが真っ先に疑うのも無理はなかった。それにアキトと坂田たちには空手道場での因縁がある(※ 詳しくは第2話を参照)。


 そんなことは充分に承知しているアキトだった。だが──


「オレじゃねえって言ってんだろ、つかさ! それとも、このオレを信じられねえってのか!?」


「………」


 今度はつかさが動揺する番だった。


 アキトとは、まだ知り合ってから二週間ちょっとしか経っていないが、すでに古くからの知り合いのような仲だ。そんな友達を疑ったりしていいのか――と。


 しかし──


 アキトは人間ではない。容姿こそつかさたち普通の高校生と差異はないが、その中身は 吸血鬼ヴァンパイア である。


 どちらの味方をすべきか、つかさの心が揺れた。


 苦悩する親友の姿に、アキトは心の中で舌打ちする。


 つかさを苦しめるために言ったつもりではなかった。しかし、つかさは優しい男だ。アキトを完全に疑うことが出来ないのだろう。同時に、疑惑もまた拭い切れずにいるのだ。


 こうなったら残された道はひとつ──


「……分かったよ、つかさ。自分の身の潔白は、オレ自身で証明してみせる!」


「えっ、アキト!? 何を──!?」


 突然、アキトは身をひるがえした。


「オレが真犯人を見つけるって言ってんだよ! じゃあな!」


 そう言い残すや否や、アキトは敷地と外を隔てる高さ二メートル以上もあるフェンスに手をかけると、楽々と乗り越えた。


 空手部員たちは目で追ってはいたものの、呆気ない逃走に唖然とし、棒立ちの状態で見送ってしまう。我に返ったのは、アキトが姿を消してからだ。


「逃げるつもりか、仙月せんづき!」


「このことは先生たちに、ちゃんと報告するからな!」


 果たして、空手部員たちの罵声が聞こえたかどうか。今さら騒いだところで後の祭りだが。


 ただ一人、つかさはその場に立ち尽くす。どうしたらいいのか分からなかった。


 そんな騒ぎの様子を校舎の二階の窓から見下ろしている視線があった。


 琳昭館りんしょうかん 高校理事長の 玉石たまいし あずさ と新しくスクールカウンセラーとして赴任した 毒島ぶすじま カレンだ。二人とも微笑を浮かべていた。


 どちらも坂田たち空手部員が何者かによって叩きのめされるところから、一部始終を目撃していた。にもかかわらず、坂田たちを助けに行かないどころか、ただひたすら高みの見物とは、この二人、教育者としてどういうつもりなのか。


「毒島先生、実験は上々のようですわね?」


 梓は満足そうに感想を洩らした。カレンがうなずく。


「はい。予想以上の成果でした。あの坂田という生徒も、かなりの成果を見せてくれましたが、それよりも凄い逸材を見つけられて、理事長には感謝の言葉もありません」


 礼を述べるカレンに、梓はやんわりと首を横に振る。


「本校へ毒島先生をお招きしたのは私です。協力は当然のことですわ。それよりも次は──」


 梓の視線は、校舎裏からさらにその外へと移った。まるで、立ち去ったアキトの後ろ姿を追うかのように。カレンも同じだった。


「はい。どちらが生き残れるか、私も非常に興味があります」


 そう言うカレンの目は熱に浮かされているみたいに、危険なくらい輝いていた。






「おーい、薫はん! こっちや、こっち!」


 忍足おしたり かおる が呼ばれたのは、剣道部の稽古が一段落して、防具である面を外したときだった。


 首を巡らせると、武道場の入口に一人のメガネをかけた女子生徒がおり、こっちへ来るよう、盛んに手招きしている。


 薫は頭の手拭いも外すと、髪を軽くほぐすようにしながら、その女子生徒がいる方へ近づいた。


「どうしたの? 何かの取材?」


 薫が尋ねると、その女子生徒──徳田とくだ 寧音ねね はニンマリと相好を崩した。


 寧音とは出身中学もクラスも違うが、入学して一ヶ月くらいで知り合った。新聞部の新入部員になったばかりの寧音が、記事になりそうなネタを毎日のように探し回っていた頃だ。


 剣道部に入部し立ての新人ながら、三年生ですら討ち負かしてしまう薫は、ちょっとした注目を集めていた。その大型ルーキーに目をつけ、取材を申し込んだのが寧音だ。


 見た目は美少女、剣の腕前は一級品という薫は、寧音にとっては理想とも呼べる取材対象だった。


 その後、寧音は薫に密着取材をし、彼女の素顔と六月に行われた都大会三位入賞を記事にした。


 これによって薫の名は校内中に知れ渡ることになり、今では二年の 待田まちだ 沙也加さやか と並ぶ、“ミス琳昭館” として双璧を為している。


 以来、二人はクラスの違いも関係なく、互いに交友を深めてきた。


「実は薫はんに聴きたいことがあるんや」


 寧音は妙に猫なで声で喋った。まるで牛乳瓶の底のようなメガネをかけた愛想の良さげな顔立ちとは裏腹に、その瞳の奥には獲物を狙う肉食獣のような鋭い光が宿っている。


 こういうときの寧音は何らかの特ダネを狙っている、とこれまでの経験から薫は知っていた。


 薫は顔をしかめて、こめかみの辺りを指で押さえた。


「それはいいけど――その妙な大阪弁、何とかならないの?」


 いつも気になっていることを薫は口にした。薫は生まれも育ちも東京だが、あまりにもひどいので看過できない。


 すると今度は寧音の方が不服そうに唇を尖らせる。


「何でやねん? ウチは大阪生まれやで。なんぼ今は東京で暮らしとるからって、言葉まで直す必要はあれへんやろ?」


 寧音は反論した。だけど、と薫。


「アンタ、大阪には一年くらいしかいなかったんでしょ?」


 以前、寧音の小さい頃の話を、薫は聞いたことがある。


 大阪で生まれた寧音は父親の仕事の都合により、満一歳にならないうちに東京へ引っ越して来たそうだ。物心がつく前にこっちへ来た寧音が大阪弁を喋っていたはずはなく、明らかに無理があった。


 だが、寧音はなおも言い募った。


「オトンもオカンも生粋の大阪人や。家では大阪弁しか喋らへんしな。ウチが自然に覚えても不思議やあれへん」


 そこまで言われては薫も返す言葉がないが、時折、寧音が喋る大阪弁は、東京生まれの薫が聞いていてもおかしいときがある。生粋の大阪人が聞いたら、怒られやしないだろうか。


「──それより、薫はん、一年A組やったね?」


 寧音はポンと話を切り替えた。この辺の瞬発力は大阪人らしさを窺わせる。


「何よ、今さら。そうだけど?」


 先刻承知のはずの質問をされ、薫は警戒を強める。


「ほな、仙月アキトって転校生、知っとる?」


 そう寧音は切り出した。


 悪い予感が当たった。よりにもよってアキトの名前を出された薫は、途端に下卑たスケベ顔が目の前に浮かび、頭痛を覚える。


「……知らない」


 薫は一語一語を絞り出すように言った。寧音は怪訝な顔をする。


「ホンマに? 同じクラスやのに?」


「あーっ、知らないったら知らないのよ! あんなバカなことは!」


 極度のアレルギー反応を示す薫に、寧音はひとつ手を叩いて喜んだ。


「何や、知っとるんやないの! ちょうどええわ、話聞かせてくれへん?」


「……ハイハイ、あいつのことを話せばいいのね?」


 こうなっては寧音に敵わない。薫は観念した。


「まあ、一言で言うなら、底抜けに呆れるほどの単純バカで、ちょっとでも可愛い娘を見ると見境なく襲いかかろうとするスケベで、おまけにどうしようもない生まれながらの変態で、ガサツで、食い意地が張ってて、無礼極まりないわ!」


「ほうほう――それから?」


「何様のつもりなのか尊大なほど自信過剰で、思い通りにならないと、すぐにカッとするような子供みたいなところがあって、とにかく超がつくほどのどうしようもないヤツ――ってところかしら?」


「ずいぶんと長い一言やなぁ」


 ツッコミを入れながら、寧音は一言一句をメモした。本人にしか読めないような汚い字だが、その筆記スピードには敬服してしまう。


「――なるほど。どうやら思った通りの人物みたいや」


「どうして、あんなヤツのことを聞きたがるのよ?」


 薫は不思議に思いながら尋ねた。寧音が記事の対象として以外に、アキトなんかに興味を持つとは思えない。


 寧音は唇の端を吊り上げた。


「何言うとんねん。今、かなり注目されてんねんで、彼。『波乱を呼ぶ転校生』とか『歩くトラブル・メーカー』ってな」


「物好きねえ」


 それを通り越して、悪趣味な気もする。


「先日は空手部で道場破り、ついこの前は生徒会長の伊達だてはんとテニス勝負――こない立て続けに話題を提供してくれるんは、学校中探してもおらへんで。しかも、またさっき空手部と 再戦リターンマッチ して、ボコボコにしたそうや」


 最後の部分は薫も初耳だった。思わず、目を丸くする。


「空手部と 再戦リターンマッチ って――それ、いつのこと?」


「だから、今さっきや。副主将の坂田はん始め、五人が病院送りになりおった。救急車まで来てたんやけど、知らんかった?」


 そう言えば稽古中、救急車のサイレンが聞こえたような気もするが。


 しかし、それにしても──


「ホントにそれ、あいつがやったの?」


 薫は念を押すように尋ねた。寧音は即答でうなずく。


「何でも現場におったところを発見されたそうや。どうやら呼び出したんは空手部の方だったらしいねんけど。さらに容疑者である仙月はんは現場から逃走。今もって行方不明ちゅうこって、これで決定的やな」


「そう……」


「今、先生らは緊急の職員会議とかで、大変な騒ぎになっとるようやわ。停学処分はまず確実、下手すりゃ退学かも知れへんなあ」


 寧音がする話を、薫は何処か遠くで聞いているような気がした。


 確かにアキトという男は、寧音に説明したように粗暴なところがあり、空手部とも因縁があったが、ひどい怪我を負わせるほどの暴力を振るうとは、にわかに信じ難い。


 以前の空手部での一件も、つかさのために悪役を演じていただけであり、手加減だってある程度はしていたようだ。今回、病院送りにまでするとは。仮に空手部から挑まれたとしても、そこまでする必要があったのだろうか。


 いや、それよりも、つかさがこれを知ったら、どう思うだろう――


 アキトが転校して来てから、つかさは明らかに変わった。それはずっと薫が望んでいた変化でもある。まだ頼りない面はあるが、徐々に改善されればいい。


 つかさに変化をもたらしたのは、アキトである。そのことを認めないわけにはいかなかった。普段はどうしようもないバカなのに、あんなヤツでも役に立つことがあるとは、薫もただただ驚愕するしかない。


 だが、今回の一件が本当だとすれば、それはまったくつかさのためにならないだろう。


 元々、つかさは争いごとを好まない優しい人間だ。ましてや、その被害者が同じ空手部の先輩だと知れば、心を痛めるに違いない。


 それでなくとも、今のつかさはB組の 木暮こぐれ 春紀はるき といういじめられっ子のことで悩みを抱えているのだ。この事件のことを知れば、余計につかさは傷つくはず。そのことが薫は心配だった。


「何処行くねん?」


 いきなり道場から出て行こうとする薫に、寧音は声をかけた。


「ごめん、急用を思い出した!」


 薫は振り向きもせず、校舎の方へと足早に去って行ってしまう。


 その後ろ姿を黙って見送った寧音であったが、やがてアキトのことを書いたメモをスカートのポケットに仕舞うと、ニヤッと笑みを浮かべた。


「まあ、ええわ。聞きたいことは聞けたし。あとはウチが面白い記事にしたる」


 と呟いて。






 ドアがノックされた。


「つかさ? 私だけど……入るわよ」


 返事を待ったものか、少しの間があってからセーラー服姿の薫がドアを開けた。


 つかさは自分の部屋のベッドに、まだ制服から着替えないまま仰向けになり、ジッと天井を睨んでいた。訪ねてきた薫に何の反応も示さない。


 部屋の照明は消した状態だ。窓からは夕日の照り返しが射し込み、部屋のものすべてを朱に染め上げている。


 中に入った薫は静かにドアを閉めた。


 あれから校内でつかさを捜したが、すでに下校したあとだった。


 そうと知った薫は剣道部の稽古を早退し――そんなことはかつてなかったので、部員たちは皆、一様に驚いていた――、こうしてつかさの家を訪れたわけだが、その様子を一目見て、すでにアキトの一件を知っているのだと察する。


「つかさ……」


 何と言っていいのか分からず、薫は胸を痛めた。つかさに何かを言い添えてやるために来たはずなのに。


 仰向けの姿勢のまま、つかさは右腕だけを動かし、それを自分の目の上に置くようにして覆った。深いため息が洩れる。


「……薫も聞いたんでしょ?」


「うん……」


 薫はうなずいた。つかさへ寄り添うように、寝ているベッドにそっと腰掛ける。さっきよりも間近でつかさの顔を覗いた。右腕で覆われた顔を。


「ボクは……どうしたら良かったんだろう……?」


「………」


「アキトと倒れている先輩たちを見た途端、ついカッとなってしまったんだ……アキトが先輩たちをやったんだって思った……でも……アキトは違うって……自分がやったんじゃないって……」


「そう……」


「ボクは……ボクは、そんなアキトの言葉を信じてあげることが出来なかった!」


「つかさ……」


 薫は自分の誤解に気づいた。きっと、つかさはアキトに裏切られ、傷ついているのだろう、と思っていたのだ。だが、そうではなかった。自分を責めていたのだ。


「……知り合って、まだ間もないけど、アキトは間違いなくボクの友達だ……そう思っていたのに……それなのに……その友達をボクは疑った……やってないってボクに訴える、アキトの言葉を信じないで……」


 薫はそっとつかさの腕に触れた。その腕から震えが伝わってくる。薫はいたたまれなくなった。


「ボクにはアキトの……友達である資格なんてないのかも知れない……」


「つかさ……そんなに自分を責めないで……」


 つかさは泣いていた。右腕で隠してはいるが、頬を涙が伝っている。


 薫も悲しくなった。自分では今のつかさに何もしてやれない悔しさが込み上げて来る。


 ずっとつかさには発破ハッパをかけながら励まして来た。クラスの男子から女の子のようだとバカにされ、祖父から教えを受けた古武道を会得しながら、空手部の先輩たちにしごかれ続けて来たつかさを。


 しかし、そんなつかさを変えたのは、薫ではなく転校生のアキトだった。それもたったの一週間程度で。


 小さい頃から、つかさのことをすべて知っていたつもりの自分はいったい何だったのか――薫は己を顧みる。


 アキトに出来て、自分には出来なかったこと――


 それが悔しくもあり、ショックでもあった。アキトに対して、つい過剰な反応を示してしまうのも、そんな薫自身の負い目が原因なのかも知れない。


 今の薫にしてやれることと言えば、ただ悲しんでいるつかさのそばにいてやることだけだった。


 やがて夕日が沈み、部屋には暗闇が訪れた。


 それでも薫はつかさの横に座ったまま、ずっと一緒に居続けた。






「兄貴~!」


 ややひそめたような声が、静かな児童公園に響いた。


 昼間とは打って変わった静寂が、真夜中の空気を支配している。公園にポツンと立てられた外灯は電球でも切れかかっているのか、ネオンサインのような明滅を繰り返す。お蔭で周辺の闇は濃く深い。


 声の主らしきシルエットは公園の中央まで来ると、ぐるりと周囲を見回した。


「兄貴~!」


 もう一度、呼びかけがなされた。今度は少し大きめで。


 いきなり、そのシルエットの肩が何者かによって叩かれた。


「ひっ──!」


 思わず悲鳴を上げそうになるところを、背後から伸ばされた手が口を塞いだ。同時に点滅していたはずの外灯が、いきなり正常な明かりを取り戻す。二つの影は、その姿をさらした。


「大きい声を出すんじゃねえよ、このアホ。狼男のお前がビビってどうすんだ?」


 背後にいる男──仙月アキトは、そう言って呆れながら、舎弟である 大神おおがみ けん から塞いでいた手を口からけた。


 解放された大神はホッと胸を撫で下ろす。


「勘弁してくださいよ、兄貴。心臓が止まるかと思いましたよ」


 大神が情けない声で言う。これが満月の夜になれば不死身の肉体を持つ狼男に変身するとは思えない。


 それに構わず、アキトは辺りに誰もいないか警戒した。まるで全国に指名手配でもされているかのようだ。


「それよりも調べて来たか?」


 いつになくアキトの口調は真剣だった。大神も真顔で、胸ポケットからメモ帳を取り出す。


「はい──と言いたいところですが、ほとんど何も分かっていないのと同じです」


「何だとぉ?」


「いやいや、ちょっ、ちょっと! とりあえず聞いてください! ――まず、負傷した空手部五人の容態ですが、命に別状はないものの、まだ意識を取り戻しておりません。従って誰に襲われたのか、未だに犯人は特定不能です」


「てことは、オレが容疑者のままか?」


「はい。学校では他の空手部員たちによる証言から兄貴が襲撃犯だという見方が強く、処分を含めた対応策が職員会議で話し合われたようです」


「チッ! 完全に悪者にされたみてえだな」


 大神の報告にアキトは唇を噛んだ。やはり真犯人を見つけなければ、無実を証明することは難しそうだ。


「しかし、信楽しがら校長が結論を先送りにしているようで、即、兄貴が退学とかになることはなさそうです。まあ、事なかれ主義の校長のことですから、問題を大きくしたくないだけかも知れませんけど。ただ――」


「ただ?」


「不思議なのは理事長なんですけどね。こういうことに関して、いつもなら厳しい姿勢で臨むはずなのに、今回に限っては校長と考えを同じく慎重論を唱えているらしいです」


「へえ」


「いくら校長が優柔不断でも、理事長の鶴の一声があれば決断を迫られるでしょうからね」


「……お前、オレを退学にしたいのか?」


 ギロッ、とアキトが睨む。大神は慌てた。


「ち、違いますよ! 理事長の対応がいつもと違うように感じたと、それを言いたかっただけです!」


 弁明する大神に、アキトは何も言わなかった。それよりも考えるべきは今後のことだ。


「イヌ、とにかく怪しいヤツを探し出せ。校内で起きた事件である以上、内部犯に違いねえ。特に空手部の連中に恨みを持つ者――見つけたら、すぐ報告しろ」


 アキトは大神に指示した。しかし、大神は情けない声を出す。


「そうは言っても兄貴~、あの連中に恨みを持ってるヤツなんか、きっとゴロゴロしてますぜ。その中から絞り込むのは難しいんじゃ?」


 大神が言うのも一理ある。だが、アキトは鋭く目を光らせた。


「あの空手部五人を平気で相手に出来る人間なんていやしねえよ。そんなことが出来るのは、オレとお前みてえな人間以外の存在だ。そんなヤツが学校の中にゴロゴロいるもんか」

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