オレはお前の何万倍もカッコイイはずだ!
ドォォォォォォォン! ゴゴゴゴゴゴォッ……!
間もなく図書室に到着――というところで、いきなり大きな雷鳴が轟き、廊下が真っ暗になった。
「ありゃ?」
アキトは辺りを見回す。
停電と同時に女性の悲鳴が廊下にこだまするのが聞こえた。さっき、トイレの前で別れたばかりの 薫 に違いない。一応、女の子らしい一面もあるんだな、とアキトは妙な感心をした。
どうやら電気が消えたのは廊下だけらしい。この先の図書室からは明かりが洩れているのが見える。仕方なく、アキトはトイレの方へ引き返した。
アキトは 吸血鬼 なので、停電で真っ暗になっても昼間と同じ程度には見ることが可能だ。
思った通り、先程の場所には薫がまだおり、壁際で竹刀を抱えるようにしながら身をすくませていた。廊下が真っ暗になってしまい、動くに動けないのだろう。もう加賀美アケミ捜しどころではない。
「おい」
「きゃあっ!」
暗がりの中でいきなり声をかけられ、薫は悲鳴を上げた。その表情は引きつっている。ただし、とっさに竹刀を構えたのだけは、さすがだと褒めておこう。
そんなことが分かるのもアキトに 暗視能力 が備わっているからである。
「オレだ、オレ」
竹刀で殴られては敵わない。アキトは薫との距離を少し取りながら声をかけた。薫もアキトの声だと、すぐに気づく。
「ど、どうしたの? 戻って来たわけ?」
努めて平静を装おうとしている薫に、アキトは吹き出してしまいそうになる。
「そりゃあ、あんな悲鳴を出されちゃあな」
「あ、あれは――急に停電になったんだから、しょうがないじゃない!」
「とか言って、今だってビビッているクセに」
「いきなり暗い中で声をかけてくるからよ!」
「だから、こういうときこそ《氣》で物事をだな――」
「ゴチャゴチャ、うっさい!」
「……ったく。停電でよく見えないんだろ? ほら、手を貸してやるよ」
アキトは手を差し伸べてやった。しかし、それすらも薫には見えない。
「いいわよ、別に」
一瞬、左手を伸ばしかけた薫だったが、この期に及んで強がりを見せる。面倒になったアキトは、その手を強引に握った。
「ちょ、ちょっとぉ――!?」
右手に持った竹刀で、薫は言うことを聞かないクラスメイトを叩こうとした。だが、こんなところで変な抵抗をしても詮ない。薫はアキトにされるがまま手を引っ張られた。
「停電してるのは廊下だけみてえだから、図書室まで行けば大丈夫だ」
ぐいぐい手を引きながら、アキトは図書室へ向かった。
大股で歩くアキトのペースに、薫まで早足にならざるを得ない。袴が濡れているせいで、下手をするとつまずいてしまいそうだ。
程なくして二人は図書室へ辿り着いた。扉のガラスを通して、廊下にまで明かりが届いている。ここまで来れば安心だ。
「ありがと……」
パッと繋いでいた手を離し、薫はバツの悪そうな顔で小さく礼を言った。さっきまでの強気な態度は何処へやら、ややしおらしくなっているのが可愛らしい。
「この借りは肉体で返してもらっても――」
アキトが軽口を叩こうとした刹那、薫から殺気が迸った。身の危険――いや、命の危険を察知する。
「お、お待たせ、つかさぁ!」
何事もなかったかのように、アキトは図書室の中へ逃げ込んだ。
そこには数名の生徒たちが残っていて、窓際で天候を気にしていた。ところが、肝心のつかさの姿が見当たらない。
先に帰っちゃいないだろうな、と室内をさらに調べてみると、つかさの鞄やノートだけが残されているのを発見した。どうやら校内にはいるようだ。
ひょっとしてトイレにでも行ったのか、とも思ったが、だとすれば一番近い北棟のものを利用するはずで、途中でアキトたちとすれ違っていないとおかしい。
アキトは胸騒ぎがし、廊下に引き返した。
「どうしたの?」
さすがにずぶ濡れの格好のまま、多くの本が所蔵されている場所へ入るのはためらわれたのだろう。まだ図書室の入口の前で立っていた薫が話しかけた。
「つかさのヤツがいねえ」
「つかさが?」
「ああ、荷物はあるんだが……ちょっくら捜して来る」
それだけ言い残し、アキトは真っ暗な廊下へと出て行った。
北棟の廊下で出会さなかったのだから、トイレ以外に何処へ行ったと考えられるだろうか。三階の南棟は三年の教室ばかりだから可能性が薄いように感じられる。
アキトは鼻を利かせてみた。
狼男の 大神 ほどではないにせよ、吸血鬼 であるアキトにも鋭敏な嗅覚が備わっている。それほど時間が経過していなければ、つかさの匂いをキャッチできるはずだ。
「――こっちか!」
つかさの匂いはすぐに捉えられた。それを嗅ぎながら跡を辿る。
東階段へ出た。つかさの匂いは上と下に続いている。どっちだろうと考えていると、下の踊り場に誰かの傘と鞄が落ちているのを発見した。
アキトは踊り場に下りて、傘と鞄を調べた。こういうとき持ち前の 暗視能力 が役立つ。傘の柄には名札があって、「待田」と書かれていた。
実のところ、アキトは一度、沙也加を見かけたことがあるのだが、そのときは遠目でだったので、さすがに名前と容姿までは結びつかない。
しかし、傘と鞄にはつかさの匂いがついており、さらに下へは行っていないことが判明した。とすれば、残すは三階の上――すなわち屋上だ。
屋上への出口まで来ると異変は明らかだった。悪天候の中、扉が解放されたままになっており、凄まじい雨が中へ吹き込んでいる。つかさの匂いはここで途絶えていた。
「つかさぁ!」
アキトは屋上へ出た。一瞬でゲリラ豪雨の洗礼を浴びることになる。
そのとき、アキトはつかさ同様、人ならざる存在の《氣》を感じ取っていた。本能的に警戒心が高まる。
土砂降りの雨の中、そのまま駆けて行くと、前方に人のものらしきシルエットが浮かび上がって来た。
それは一人の女子生徒によって首を絞められているつかさであった。さらにもう一人の女子生徒が両者の足下に倒れている。
よく見ると、つかさの頸部を圧迫している女子生徒と、気絶して倒れている女子生徒はまったく同じ顔をしていた。だが、この雨のせいで鼻は利かないが、身にまとう《氣》から前者が人間ではないと、アキトには最初から分かっている。
「やめやがれ、この野郎ォ!」
つかさを襲っている女子生徒の顔面に、アキトは全力パンチを見舞った。その拍子に首を絞めていた手が離れ、池のようになった水溜まりへ女子生徒が倒れ込む。躊躇など欠片もない一撃だった。
アキトは膝から崩れ落ちそうになったつかさの身体を支えた。か細い首には指と食い込んだ爪の痕がくっきりと残されている。
「つかさ! つかさぁ! 大丈夫か!?」
力なく首を傾けているつかさに、アキトは必死に呼びかけた。死んでしまったのでは、と心配になる。
意識こそ失っているものの、どうやら生きていると分かったのは、唇が微かに動き、瞼が痙攣したときだ。あたかも恋人の無事を喜ぶように、アキトはつかさの身体を抱きしめる。
「よかった……つかさぁ……」
アキトは心の底から安堵した。
そこへ――
起き上がって来た敵が二人の背後に立った。
ガッ!
敵の攻撃が届く前に、アキトは蹴りを放っていた。だが、これはガッチリと受け止められてしまう。
アキトは振り向いた。
「ほう」
少しばかり感嘆の言葉が洩れた。なぜなら、そこにいたのは女子生徒の姿をした存在ではなく、アキトとそっくりだったからだ。
雨の中、二人のアキトが対峙した。つかさを抱いていたアキトは、そっとその身体を横たえてやる。
「何だ、こいつ。ドッペルゲンガーだとでも言うのか?」
ドッペルゲンガー。
西洋などでは、自分と同じ姿をした存在を見ると不吉だとされ、死や災いの前兆として物語に書かれている場合が多い。
元々は “自己像幻視” という現象で、肉体を離れた魂が己の姿を見る超常現象のひとつであったり、第三者がそれぞれ別の場所で同一人物を目撃する怪現象であったりする。
ただ今回の場合、目の前のアキトをドッペルゲンガーと呼んでいいものか、いささか疑問があった。
こいつはアキトになる前、気絶している女子生徒――沙也加の姿でつかさを襲っていた。ドッペルゲンガーがコロコロ姿を変えるのはおかしい。むしろ、複製能力を持つ妖の類ではあるまいか。それはまるで――
「邪魔をするな……」
もう一人のアキトが喋った。自分の声を聞いて、アキトはうなじの毛が逆立つような嫌悪感を覚える。
「オレの物マネをするんなら、こっちにも 出演料 をよこしやがれ!」
両者は真っ向から組み合った。指と指とを絡ませ、力比べに応じる。
五分かに思えた勝負は、すぐさまアキトの優勢に表れてきた。じわじわとパワーに押され、もう一人のアキトの膝が折れそうになる。
「――それにな!」
バキッ!
両手の塞がっているアキトは、一旦、頭を振るように後ろへ逸らすと、相手の鼻っ柱へ 頭突き を咬ました。普通の人間なら鼻骨骨折していてもおかしくない一撃だ。
「オレはお前の何万倍もカッコイイはずだ! その程度のそっくりさん具合じゃ、残念ながら本家本元からの公認は出せねえな!」
誰がどう見てもそっくりなのに、アキトはうそぶいた。
頭突き で顔面を潰されたもう一人のアキトは、後ろによろめき、そのまま尻餅をつくように倒れた。
姿は同じアキトのはずなのに、両者の力の差は歴然だ。
「どうやら、複製できるのは姿形と声だけみてえだな」
そう。この妖はそっくりな姿にはなれても、アキトが持つ 吸血鬼 の身体能力までは再現できなかった。
「まるで鏡だな。実像のねえ、虚像の鏡だ」
アキトは蔑むように結論づける。
すると、叩きのめされたはずのもう一人のアキトは、まるで許しを請うが如く、本物の足にすがりついてきた。
「邪魔をしないで……」
そのとき、すでにそいつはアキトの姿を捨て、新たな変身を遂げていた。一瞬、さすがのアキトも怯む。
右足にすがりついていたのは、つかさだった。もちろん、本物ではない。それが哀れを誘うような顔つきで、アキトに懇願する。
「ねえ……お願いだよ……ボクの邪魔をしないで……」
つかさがズボンの裾を掴む。シワになるまで、ギュッと握った。
「オレの次はつかさかよ……」
アキトの顔からスッと表情が消えた。
「ねえ……お願いだから……」
「うるせえぇっ!」
突然、アキトはつかさの顔をした妖を突き放した。その無体な仕打ちに、つかさの顔をした存在に怯えが混じる。
だが、そんな救いを求める親友の姿にもアキトは虫唾が走り、容赦しなかった。
「ただ 虚蟬 を作るだけしか能のねえ野郎だな! つかさにはそれが通用したかも知れねえが、このオレは違うぞ! そんな憐れみや慈悲なんざ、これっぽっちもねえ! つかさを傷つけた恨み、たっぷりと晴らさせてもらうぜ!」
アキトは残忍さを顕わにすると、倒れているつかさの 虚蟬 に暴行を加えた。殴る蹴るのオンパレードだ。あまりにも一方的で、嗜虐性にあふれた行為は、凄惨の一語に尽きた。
「や、やめて……助けて……」
虚蟬はつかさの声を出して、必死にアキトへ訴えかけた。しかし、それが逆に火をつけたようで、リンチはさらにエスカレートしてしまう。
「よりにもよって、つかさの姿になるなんて! このぉ! このこのぉ!」
「ひいぃぃぃぃっ……!」
とうとう、つかさの姿をした存在は責め苦に耐えられず、転がるようにしてアキトから離れた。
「逃がすか!」
アキトのキックが脇腹へ食い込む。その衝撃で、つかさの 虚蟬 は屋上のフェンスにまで弾き飛ばされた。
「ぐっ……ぐふっ……」
それでもなお、つかさの 虚蟬 は辛うじて立ち上がった。そして、フェンスに手をかける。
しまった、とアキトが思ったときは、もう遅い。つかさの 虚蟬 はフェンスを乗り越えると、そのまま風に吹き飛ばされるように落下した。
すぐにフェンス際へ駆け寄ってみたが、その姿は忽然と消えていた。この雨の影響もある。追跡は不可能だ。
「ええい! クソッ!」
止めを刺せなかったことをアキトは歯軋りして悔しがった。腹いせにフェンスを殴る。
「今度、オレの前に現れたら、ただじゃおかねえからな!」
聞こえているかどうか分からなかったが、アキトは吠えた。
逃げられてしまった以上はどうしようもないので、アキトはつかさたちのところまで戻った。
すると、つかさは倒れたままだったが、気絶していた女子生徒が意識を取り戻したらしい。起き上がろうと動いた。
「ここは……?」
ずぶ濡れの状態で外にいることに、沙也加は混乱しているようだった。そこへアキトが近づく。
「無理すんな。今、保健室まで連れてってやるから」
そのとき、アキトは初めて沙也加の顔をまともに見た。その刹那、とっくの昔に消したはずの記憶がフラッシュバックする。
「えっ……は、半田……?」
思わずアキトは沙也加のことをそう呼んだ。
怪訝な顔で沙也加はアキトを見返す。
「なぜ、母の急性で私を呼ぶの……?」
困惑したような声に、アキトはハッと我に返った。自分の迂闊さを呪うと、サッと沙也加の目を覆うように素早く右手をかざす。
それも一瞬の出来事――
アキトの手が除けられると、沙也加の瞼は再び眠ったように閉じられていた。
催眠術による記憶操作――次に沙也加が目覚めたときには、妖の存在に襲われたことも、アキトが誤って発した苗字についても忘れているはずだ。
しかし、アキトは天を仰ぐ。どんな雨も過去までは洗い流してくれない。
「まさか……こんなことって……」
雨が強く降りしきる中、アキトは沙也加の寝顔をじっと眺めた。
三階北側の女子トイレ。
そこは、この 琳昭館 高校に古くから伝わる学校の七不思議の中で、最も広く知られる怪奇スポット――
一番左側の洗面台にある鏡には、不思議なものが写る――と。
だから、このトイレには誰も近づかない――はずであった。
ところが――
今日に限って、二人目の来訪者がいた。
その女子生徒は臆することなく入口をくぐると、一番左にある鏡の前に立つ。周囲に古い意匠が施された鏡は表面が曇ってしまっており、その女子生徒の姿を写し出さない。
「鏡よ、鏡」
まるで呪文でも唱えるみたいに、女子生徒は鏡に向かって声を発した。すると鏡の表面に変化が生じる。曇っていたはずの鏡に、女子生徒の顔が写り込んだ。
「私に何か用かしら……?」
鏡に写った女子生徒が喋った。本人は口を開いていないのに。
これでは鏡というよりも、まるで自分の姿を録画再生したテレビモニターのようだ。
そのような奇怪な現象を前にしながらも、鏡を見つめた女子生徒に動揺などは垣間見られなかった。
「……不吉だわ」
言葉とは裏腹に、女子生徒は無表情のまま呟く。いつの間にか、手には小振りな金槌が握られていた。
それを見た途端、鏡の中の女子生徒の顔に怯えが走る。
「ど、どうするつもり……?」
「《虚蟬の魔鏡》……まさか、これほど危険なものだとは……」
「や、やめて……」
「誰も近づかないから大丈夫だと思っていたけど、こんなことになるなんて……私の考えが甘かったわ」
「やめて頂戴……お願いよ……」
「これ以上、犠牲者を出さないよう、叩き壊すしかないようね。――恨むのなら、恨みなさい。この私――“琳昭館高校の魔女” を」
自ら “魔女” を名乗る女子生徒は無感情に金槌を振り上げた。
「イヤよっ! イヤァァァァァァァッ……!」
鏡の中の女子生徒が恐怖に顔を歪ませて泣き叫ぶ。
カシャーン!
学校の七不思議のひとつであった《虚蟬の魔鏡》は、“琳昭館高校の魔女” による金槌の一撃によって、呆気ないほど粉々に砕け散った。
ピーポー、ピーポー……!
ようやく救急車が三台、到着した。
通報から、実に二十分近くが経過している。局地的な大雨の影響で、学校周辺の道路が冠水し、迂回を余儀なくされたせいだ。
ずっと救急車の到着を待ちわびていた教職員たちは、少しだけホッとしたような様子だった。何しろ、急患が三名も出たのだ。しかも、この天候で本当に救急車が来てくれるか心配だった。
中でも校長の 信楽 福文 は太り気味の体型のせいもあろうが、しきりにハンカチで顔の汗を拭いながら、三台の 担送車 で運ばれる生徒たちを心配そうに見送っている。
一台目に乗っているのは沙也加、二台目につかさ、三台目には加賀美アケミが乗せられていた。
校内で行方知れずになっていた加賀美アケミは、やはり屋上で発見された。三人とも意識不明。しかも、ずぶ濡れという状態だった。いずれも体温が低くなっていたため、保健室での処置は不可能と判断し、病院への救急搬送が決断された。
教職員たちの中に生徒の姿もあった。そのうちの一人は、三人の発見者として名乗り出たアキトだ。いつもなら親友のつかさを心配するはずだが、なぜか今回は沙也加が寝ている 担送車 を目で追う。
「何見てんのよ?」
「うひゃぁ!」
無防備だった脇腹を不意につつかれ、アキトは身体をくの字にくねらせた。いつの間にかやって来た薫の仕業だ。すでにびしょ濡れだった剣道着から制服に着替え終えているが、なぜか竹刀は手にしたままだ。
「レディの寝顔をまじまじと見つめるだなんて、デリカシーがないわねえ」
「いやぁ、ついつい美人だな~って思って」
「当り前よ。二年の待田沙也加先輩って言ったら、この学校で一番の美人だもの」
薫もかなりの美少女だと評されていることに、当人は自覚がないらしい。
「待田沙也加、か……」
アキトは独り言ちた。それを薫が横目で訝る。
「何? つかさからこっちへ乗り換える気?」
「別に、そういうわけじゃ……」
「ちなみにつかさの憧れの人だからね。手なんか出したらどうなるか、私、知らないから」
「つかさの? ――ああ、あのときのか」
アキトは思い出した。まだ、この学校へ転校する前に訪れたとき、つかさと一緒にいた女子生徒のことを(※ その辺のことは第1話を参照してください)。
続けて、つかさが運ばれた。
こちらは目立った外傷のない他の二人に比べ、首を絞められた痕が生々しい。とにかく傷痕が残らないことを祈るばかりだ。
アキトは担任の竹田に事情を聴かれたが、知らぬ存ぜぬを通した。本当のことを話したら、ややこしいことになる。ただ、あとでつかさの唯一の家族である祖母のつばきには説明しておこうと思っていた。
最後は加賀美アケミだった。
「アケミ……」
一年D組のクラスメイトたちが心配そうな顔をしていた。
アキトは何となく、運ばれて行くアケミの顔を憶えていた。あれは確か、生徒会室で伊達 修造 と濃厚なラブシーンを交わしていた女子生徒だ。
あのときは、生徒会室に用があって現れた沙也加に邪魔されたような格好になったんだっけ、と思い出す(※ 第3話を参照)。
まさか、それを恨みに思い、《虚蟬の魔鏡》の力を借りて邪魔者である沙也加を排除しようとしてたとは、さすがのアキトも知るはずがなかった。この加賀美アケミこそ、今回の事件を引き起こした張本人だったのだ。
三人はそれぞれ救急車に乗せられると、一年生の学年主任である竹田と沙也加の担任である 大泉 が随行し、病院へと向かった。サイレンが雨音を切り裂く。
「つかさたち、大丈夫かしら?」
「大丈夫さ。きっと」
赤い回転灯が見えなくなるまで、アキトたちは救急車を見送る。
空に目を転じれば、長く降り続いたゲリラ豪雨も、ようやく弱まりそうな気配があった。
第4話おわり




