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死者がつむぐ物語  作者: タカヒロ
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オレ4歳

 この小説は、オレが生まれて死ぬまで18年とあとちょっとの記録である。もちろんオレは死んでいるので、これはオバケが投稿していることになるが、どうかそこは気にしないでもらいたい。それと、我ながら過激な人生を歩んできたために、グロもありの『閲覧注意』だ。過激だからこそ18年しか生きることができなかったのだろう。そこも了承した人だけ、読んでほしい。文句は受け付けない。

 言ったからな?


 オレが生まれたのは23年前。つまりオレは5年前に死んでいることになる。いや、まて。2月の半ばが命日だから、まだ5年は経っていない。アレから5年か…長いなぁ…。しみじみと思う。

 記録とか偉そうなことを言っておいて、それはもうオレの記憶に頼るしかないわけなのだから、曖昧でもうしわけない。日記もつけていたのだが、それはケント(説明する)にとられてしまった。ケントがオレを偲ぶあまりか、それともただたんにオレのことが好きだったのか、その日記をどこかに隠してしまったために読み返すことができない。いや、読み返す気にもならない日記なのでケントにくれてやろう。

 さて、記録だ記録。誰が得するのかわからんが、書こうじゃないか。

 さて、何から聞きたい。違う。聞きたいか問うんじゃなくて書かなきゃな。

 オレの人生には、4歳、9歳、13歳、15歳、そしてオレが死んだ18歳の時に転機があったのだが、その年齢について詳しく書いていこう。もちろん4歳なんてまだガキだったし、かれこれ20年弱も前だから記憶もあいまいだ。脚色しながら書いていく。



 4歳の時のオレと聞いて、真っ先に思い浮かぶのが、イスにしばられているオレだ。

 イスに縛られて、口はガムテープでふさがれていた。誘拐…?…いいや、違う。虐待だ。当然、当時のオレに「虐待」なんて発想はないし、乏しい脳内の辞書にそんな言葉があるはずもない。じゃあ何に思っていたかって、ヒステリックに喚く母の、母なりの愛情だと思っていた。

「オマエはいつもそうだ」

 母の声が未だに鮮明に思い出せる。地を這うような低い声で、心の底からオレを恨んでいるような、そんな声だった。

 オレは涎とガムテープでべたべたになった口で、必死になって謝った。

 もちろん、ガムテープ越しにそんな声が聞こえるわけがなかった。それでもココロのなかで謝った。そう謝れば、母が()()()()()()()笑ってオレを抱いてくれると思ったからだ。母の名誉のために言うわけでもないが、普段の母は優しかった。だからオレもそう考えていたのだ。

 では何故、やさしいはずの母が、オレのことを縛ったのか。

 コトの発端は単純だった。オレが家の中で走り回っていてからだ。そうしてから、生まれてから疾患もちだった心臓が悲鳴をあげて、オレはよろけて転んだ。それを見た母が、発狂し、オレをイスに縛り上げた。

 当時は、じょじょにゆるやかになっていく鼓動を感じて、死んでしまうのではないかと思った。頭がふらふらとし、「どうして走ったのだろう」と後悔したのを覚えている。母は相変わらず、地を這うような低い声をだし、何かをしていた。涙で目があけられていなかったので、それまで母がなにをやっていたかは、いまだに不明である。

 キッチンのほうから、金属のこすれる音がした。まぎれもない、包丁を取り出す時の音だった。オレは怖気づいて、涙も止まった。瞬きをしてクリアになった視界に映りこんだのは、鬼のような顔をした、オレの母だった。


 母は包丁を、振り回した。

 包丁の刃先が触れたら血が出ることくらい、ガキだったオレも知っている。どうしてそこまでするのか、理解ができず、オレの体は硬直して目をつむることすらできなくなった。じっと刃先が向かう方向を、ひたすらに目で追いかけまわした。

 母が一歩前に出たと同時に、刃先がオレの右頬に触れた。ほんの少ししか当たっていなかったのか、痛みはあまり感じず、風とともに、からぶっただけだった。

 同時に、地を這うような母の声は、甲高い耳障りな声と変わった。耳障りな声を、今でも覚えている。空間を揺らすような声だった。

 耳をふさぎたくなったが、縛られているためにかなわず、オレは顔をそらした。

 何分、何秒、そうしていたかはわからない。しばらくしてから顔に生温かく鉄臭い液体がかかった。なにがどうなっているか、怖くて目があけられなかったが、玄関のドアをあけて、母がヒステリックな声をあげながら外へ飛び出したので、恐る恐る目をひらいた。

 オレの服は、真っ赤だった。

「血だ」そう判断すると同時に目の前が真っ白になり、意識が遠のく。完全に意識を失う前に、外から車のひどいブレーキ音と、人の悲鳴が聞こえ、なんとか正気が保てた。

 いつのまにか、母の声は聞こえなくなっていた。


 頬にあたる冷たい感触にはっとし、目が覚めた。

「タカ!起きたか…!」

 心の底から絞り出したかのような安堵な声が、父の声から伝わる。頬に触れる父の手は、じょじょに温かく変化していく。

「パパ…!」

 オレは父の胸に抱きついた。父の温かい心音がオレの体を包んでくれた。涙があふれ、怖かったと泣いた。涙を促すようにオレの背中をなでる父の手が心地よい。ずっと父に抱きついていたいような気分になった。

 ある程度おちつくと「タカ、耳をすましてごらん」というやさしい声が頭から降ってきた。オレは言われたとおりに耳を澄ます。ショパンのノクターン第二番がどこからか流れている。流れるようなピアノの音色にうっとりする。目をつむって音色に聞き惚れると、からだから自然と力が抜けた。

「おし、良い子だ。もう泣き止んだ」

 今度は父がオレを強く抱きしめた。



 今日はここまで。案外覚えてるもんだな。


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