第3話 学園生活②
4年生になった。
この学年では大きく分けて2つの派閥ができていた。派閥の中心人物というのがアキラの親友で学校2位のシンと同じく学校で成績トップのいわゆる天才といわれているシズクという女子である。
中心人物の二人は仲が悪いとかは一切なく、どちらかというと、その周辺にいる取り巻きたちがお互いの中心人物のどちらが素晴らしいかでよくケンカになっていた。
ちなみに俺はどっちでもよかったのだが仲のいい友達がシンの周りにいたのと、シン自体とは親友であったため、シンの派閥に所属している。休み時間や学校行事の時はいつもこの派閥同士で集まっていた。
今日も学内の授業で模擬試合を行うことになっており、シンとシズクが戦うことになっていた。
場所は学内にある校庭で同学年の生徒が二人を応援している。
もちろん二人が戦う時は周囲に人が入れないようにするため結界が張られている。
結界内にはシンとシズク、そして審判役にノーバン先生がいた。
「両者、準備はいいか?」
ノーバン先生の声に頷く二人。
それを確認した先生は開始を告げた。
最初に行動に移ったのはシンである。シンは剣を扱う接近戦主体の戦い方を行うため剣を構えてシズクとの距離を詰めるために走り出していた。
「我が生み出すは火の球、火球」
その最中に目くらましのために火球を地面に放つシン。
地面にぶつかった火球は土煙をあげながら消滅する。その隙にシズクの近くまで接近したシンがシズクに剣をふるう。
剣が当たる瞬間、シズクは後方に大きく飛んだ。
シズクは固有魔法を使える数少ない人間で、補助の魔法が使えるのである。
後方に飛んだ際に人間のジャンプ力では到底届かない位置まで行ったので補助魔法で脚力を強化したのだろう。
ここまではお互い予想しており、互角のやり取りを行っていた。その後
今度は私がといった感じで
「闇を照らす光の球、光球」
先ほどの火球と違いもろに目をつぶしにかかる。
光球による目くらましにより一瞬動きを止めてたシン。
「敵を貫くは風の矢、ウインドアロー」
魔法で生み出した風の矢でとどめをさしにいくシズク。
とっさの判断で矢を避けたがその段階でシンの負けが確定した。
シンの頭上には火球が近づいてきていたのである。
「そこまで」
飛んできた火球を風球で飛ばす先生。
模擬戦が終わり先生が解説を入れる。
最後の火球は、シンが土煙をあげた時にシズクが頭上に飛ばしたもので、火球の落下地点までシンを誘導して今回の勝敗を付けたのである。
こんな戦闘は学生ではまずできないだろうというのが生徒全員の意見であった。
別にシンが弱いわけではなくシズクが強すぎるのだ。これまでも何度かシンが戦っていたが何とか5分同士に持ち込むのがやっとである。
「お疲れさん。」
「本当に疲れたよ、同学年と模擬戦をしている気がしないな。特に最後の火球には参った」
周囲の生徒に励まされながら、俺のところに来たシンに向かってタオルを渡す。
正直、負けるのが分かっている勝負はしたくないな。
模擬戦後は普通に生徒同士で戦闘訓練を行い、授業を終えた。俺は接近戦も魔法もそれほど強くはなかったから、ペアの生徒にボロボロにされていた。
普段は模擬戦を行わないのだが、明日に大事なイベントを控えていたため、その練習を実施したのだ。
大事なイベントって言うのはもちろん・・・・・・
遠足である。まぁ、遠足?と考えていたがこの世界の遠足は狩りである。
森に入り、猪や熊を狩ってその日の夕食で生徒同士で食べるって言うのが恒例行事にあるらしい。
そして遠足当日
いつも通り派閥ごとに集まる生徒たち。その様子を先生はあきれながら見ている。
「え~、今日は天気が良くまさしく遠足日和といえるでしょう。しかしいくら動物を狩りに行くだけといっても、お互いに命のやり取りをすることになるため、気を引き締めて行動するように。では出発する。」
のんきに会話を挟みながら行動する学年のみんな。もちろん俺も仲のいい友達と話しながら歩く。
街にある森の中で先頭を歩いていた先生が止まり、生徒に向かって各々狩りに出ることを指示する。
今回の獲物は猪と熊と言うことを予め学校側から連絡されている。
シズクの派閥は猪を狩ることになり、俺のいるシンの派閥は熊を狩ることになった。
「熊って美味しいのかな?」
「そりゃあ、学校側が指定しているから美味しいんじゃないか」
などと話ながら森を進む。
シズクの派閥とは途中で別れており今はシンの派閥はだけである。
別れるときにどちらが先に獲物を捕らえられるか勝負をしていたが、気にしないでおこう。
なので、割りとのんきに話しているが、勝負もしているため直ぐに行動を出来るように準備していた。
森を探索し始めて数十分後、草が揺れる音が聞こえてくる。
シンの合図のもと、陣形を整えて獲物が出てくるのを待つ。
次第に音が大きくなる。
ビンゴ!
熊が出てきた。
すぐさま後衛にいるものたちが魔法を放つ。
熊は構わず前へ突っ込んでくるが、前衛に待機しているシンによって首を切り落とされた。
今回の遠足はこれで終わりである。
生徒同士で喜びを分かち合いっている。
この時、俺たちは重要なことを見逃していた。どうして熊が全力で走って逃げていたのかということを・・・・
喜びではしゃいでいる俺たちの傍で急にとてつもない圧力が襲ってきた。周りの生徒全員何が起こったのか分からない状態だ。
直後
「がぁぁぁぁ」
すさまじい雄たけびが聞こえ、禍々しい魔力の風にさらされる。
次の瞬間目に映ったのは、先ほど仕留めた熊より2回りは大きい熊が目の前の草むらから出てきていた。
普通の熊なら何事もなく倒せるのだが、この熊は明らかに違うと体が警報を鳴らしている。
これはやばい、どうしよう、逃げなきゃ
周囲にいた生徒が騒ぎ出す。俺も同じ気持ちだった。このままここにいたら確実に死ぬ。
「みんな、熊を置いて今すぐここから離れるぞ」
すぐさまシンの声が響く。
パニックに陥っていたメンバーもその声で少し冷静になり、すぐに撤退する。
しかし、目の前の熊がそれを許さなかった。
熊の近くにいた前衛の数人を前足で一気に薙ぎ払ったのだ。
瞬間、辺り一面に血の海ができる。
これまでの人生で一度も見たことがなかった世界にある絶対的な常識、「死」が目の前に広がっていた。
吹き飛ばされたものを見た生徒達。その光景に吐いてしまうものや、泣いてしまうもの、腰を抜かして立てなくなるものが続出した。
シンによる声も最早意味をなさなくなってしまった。
俺も吐きそうになったが必死にこらえる。ここで心が折れてしまったら逃げれなくなる。
シンは大丈夫なのかと視線を向ける。
シンは震えていた。自分の近くで友人を殺されたのだ、平常心でいられるはずがない。
そして震えた状態のシンが俺を見つけると笑顔を見せた。
そして口をパクパクした後俺のはるか後方を見つめ指さす。
この瞬間シンの言っていることがなんとなく分かってしまった。
“みんなを連れて逃げろ。後方には先生がいるからそこまで行け”
ということを。そのみんなの中にシンは含まれていないということも
俺はシンの役に立ちたいと思った。後方支援でも何でもと。あいつの努力と結果を見てきたから。
でも体は正直だった。逃げろと言われて素直に喜んでしまったのだ。
内心ではそんな自分が許せなかったが、それでもこのままいてもシンの邪魔になってしまう。そう判断した俺は周囲でまだ動けるものに声をかけ、動けなくなったものを連れて逃げるように促し、ほとんどの者が撤退したのを確認し、再度シンの方を見た。熊と戦っている。一つの判断ミスが生死を分けるこの場面でだ。
「シン、みんな逃がしたぞ。お前も逃げれるタイミングで逃げて来いよ。」
大声で呼びかけ、先生を呼びに全力で走り出した。
もと来た道を全力で走りる。一秒でも早く先生に現状を伝えるために。
少し進んだ時に先生がこちらに走ってきていた。
俺たちを見つけ安堵の表情をする先生に対し、現状を話す。再度話を聞き終えた先生はシンのいる方に向かい走り出した。
俺たちじゃ追いつけないほどの速さだった。そのまま、俺たちはおとなしく集合場所に集まりシズクの派閥と合流した。集合場所には上空からのモニターがあり、先生はそれで俺たちの様子を確認していたのだろう。いつもならこの時に言い合いが始まるのだが全員理由を知っていたため、無言で先生が戻ってくるのを待った。
モニターにはシンと熊が戦っている様子が映しだされている。遠くからのためどうなっているのか見えないが、シンが生きていることに喜ぶみんな。
その様子を少し離れた場所で俺は見ていた。
友と一緒に戦えなかった。一人で敵と戦うなんて自分じゃ無理だ。など色々と考えていた。
そんなことをしているとシンが熊に吹き飛ばされる様子が目に入る。必死にあがいていたが体が動かないらしい。
やられると思ったときに先生が姿を現した。既に風の矢や風球を準備していた。
魔法で熊の動きを抑え込み腕と首を切り落とした。
まさしく一瞬の出来事であった。
先生はこんなに強かったんだなという声が周りから聞こえた。
そして、シンの手当てをしたのちこちらに戻ってきた。
シンは重症であったため、先生が担ぎそのまま、街に戻った。先生はシンを病院に送るためそのまま行ってしまった。俺もついていきたいといったが今はやめておけと言われた。
そのまま家に帰り母に心配されながら一日を過ごした。
次の日、学校に行った俺は先生より目を覚まさないシンが半年の入院をすることが決まったと連絡を受けた。
放課後、シンの病室に行くと目を覚まさない息子のベッドの上でシンの母親が泣いており、その光景に酷く心を痛めた。
その日から放課後は魔法の練習に費やすようになった。次はともに戦えるようにと。
半年後、シンは無事退院できた。シンにお礼を述べられたが、合わせる顔がなかったため、次第に話さなくなっていった。
遠足で出現した熊の魔物がなぜオーサカの街に出現したのか、現在調査チームが調べているのだが原因は一切分からなかった。
この事件が起き、学園生活も終了間際に迫ったある日、先生から卒業試験のお題が発表されたのである。