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リア充は最強?


  小さい頃は誰とでも遊んでたっけ。強そうなやつも、一人で突っ立ってるやつも、みんなで。

 でも、いつのまにか一人で突っ立ってるやつとは遊ばなくなった。ノリが悪いやつ、ダサいやつ、弱いやつ。

 そうやって人を分類して、関わらないようにしていた。


 それって、いつから?



※  ※  ※  ※



「宮本くん、ちょっといいかな?」

 呼ばれて振り向くと、来栖エミが立っていた。

「来栖じゃん。どうかした?」

「えーっと……、これ! 読んで!」

 しばらくもじもじしていたかと思うと、何かを決意したように俺に手紙を渡すと素早く去って行った。

 来栖は可愛いけど、たまに不思議だ。こんな様子でも告白は期待できないだろう。

 以前にも思わせぶりな態度で話しかけてきたことがあったが、ただ頼みごとをされただけだったという経験が何度かある。

 前の席に座った久保がひやかす。

「おい、やっぱ来栖っておまえのこと好きなんじゃねえの?」

 少し考える。そうだったら嬉しいんだけどなあ。

「いやー、ないわ」

「そうかぁ? とりあえずそれ読んでみろよ」久保はつまらなさそうにスマホの画面に目を向けた。

 複雑に折りたたまれた手紙を開いていく。

 まったく期待してないわけじゃない。

 俺は来栖が好きだ。というより、この学校のほとんどの男が来栖のことが好きだろう。

 長く伸びた栗色の猫っ毛。大きな目。スタイル抜群。誰かがハーフだとか噂していた。

 何より、いつも笑ってるのがいい。そして、誰にでも優しいから勘違いする男が多い。

 俺もその中の一人だ。他の女子ならすぐ俺に告白してくるのに。

 最近は、肝心の来栖に振り向いてもらえないならモテても意味がないとさえ思う。

 ため息を吐きながら綺麗な文字を読み上げる。

  放課後、E教室まで来てください

  話したいことがあります


           来栖エミ』

 ……これは。いや、期待したらいけない。だけど……。

「……久保。おまえの予想当たってるかも」

「まじで!?」




 放課後。

 俺はそわそわしながらE教室で来栖を待っていた。

 好きな人に告白されるのは人生で初めてだ。告白されたから付き合った、という経験はある。

 でも来栖の前では童貞のようなものだろう。自分でも何を言っているのかよくわからなくなってきた。


 十分ほど待った後、扉が開く。

(来た!!)

 しかし、そこにいたのは待っていた人物ではなかった。

「あれ、……高野?」

 間違ってたら申し訳ないな。名前はうろ覚えだ。

 同じクラスだがほとんど印象にない。軽く俺に会釈して入ってくる。

 そういえばいつもオドオドしてるな、こいつ。

 何か取りに来たのか。できれば来栖が来る前に帰ってほしい。

 しかし、彼は帰りそうにない。それどころか、空いた椅子に腰かけた。

(はぁ? 勘弁してくれ)

 

 待てども待てども、帰る様子はない。来栖も来ない。

 こうしていてもしかたない。スマホを開き、来栖にメッセージを送った。

『E教室であってるよな?』

 既読はまだ付かない。


 そういえば。

「なあ、高野はここで何してんの?」

「あ、く、来栖さんに貸した漫画、返してもらいに……」

「え!?」思わず大声を出してしまった。高野がびくっと肩を震わせる。

「ああ、ごめん。来栖と仲良いんだ? ちょっと意外だな」

 本当はちょっとどころじゃない。なんでこんなやつが来栖と漫画の貸し借りしてんだよ。

 内心イライラしながらも笑ってみせる。

 というか、告白じゃないのか。浮かれてたのが馬鹿みたいだ。

 来栖から返事も来ないし。もう帰っていいかな。

 教室から出ようとする。開かない。……開かない!?

 鍵はかかっていない。立てつけが悪いのか?後ろから出るか。

 ……やっぱり開かない。どうなってんだ。こうなったら窓から出るしかないな。

 窓に手をかける。が、びくともしない。だんだん焦りが出てくる。

 そうだ。山田なら部活でまだ残ってるはずだ。外から開けてもらおう。

 しかし、何度メッセージを送ろうとしても結果は『送信できません』だった。

 (なんでだよ!)


「み、宮本、し、した、床」

「は?」

 突然の情けない声に反応して下を向く。そこには大きな穴がぽっかりと開いていた。


 それが、俺が最後にこの世界で見た景色だった。



※  ※  ※




 眩しい。まだ眠っていたいのに。目覚ましもまだ鳴ってない。

「……きてくだ……ませ」

 うるさいな。誰だよ、人が気持ちよく寝てんのに。

「ちゃんと時間には起きるか、ら!?!?」

 バシイィィィイイ!!突然頭に鋭い痛みが走る。

「――っっっ!?」

 あまりに突然の出来事に声も出ない。

「もうすぐ王がいらっしゃいますのよ!! シャキッとしてくださいまし!」

「……?」

「ほら、さっさと着替えてください。それとも、わたくしが脱がせてさしあげましょうか?」

 目の前の少女は皮肉っぽい笑みを浮かべている。二歳くらい年下だろうか。芸能人みたいに可愛い。

 けど、髪や瞳が濃い赤色なせいか、現実味がない。

 状況が把握できない。整理してみよう。

 俺は天蓋付きのやたら大きなベッドの中にいる。目の前にはメイド服?を着た少女。

 その前は?ええと、来栖に呼び出されてE教室に行ったら高野だったか、そんな感じのやつもいて。

 扉が開かなくて床が抜け落ちて……。

(? 余計にわかんねえな)

「いつまでボーっとしてますの? ……もしかして、本当に脱がせてほしいとか? キモっ」

 冗談では言われたことがあるけど、女子からこんなに本気でキモがられたのは初めてかもしれない。

 とりあえず、置かれていた服に着替えた。

 赤毛の少女に連れられて長い廊下を歩く。無駄に天井が高い。映画に出てきそう。

「あのさ、名前教えてよ」

 沈黙に耐え切れず、質問する。何を言っても怒られそうな気がしたけど、これくらいなら許してもらえるだろうか。

「ああ、忘れていましたわ。わたくしはエミリア王女の従者、アンナと申します」

 駄目だ。話についていけない。

「そっか。俺の名前は「存じ上げております。宮本ヒロト様」

 いろいろ訊きたいことはあるけど、アンナが「これ以上何も話したくない」という雰囲気を前面に出してきて何も言えなかった。

 廊下を何度も曲がり何度も扉を抜けて辿り着いたのは大広間だった。目の前には玉座。サンタみたいなヒゲのおっさんが座っている。

 いよいよ映画じみてきた。これ、来栖に写メりたい。絶対盛り上がる。

「王様、彼が例の……」アンナが玉座の前に跪く。

「おお、よく来たな! 勇者よ!」

「こんにちはー……って、え?」

 城に玉座に王ときて、勇者。俺は一体何を見せられているんだ。

 夢だろ。だいぶ愉快だ。頭痛くなってきた。

「突然のことじゃ。驚くのも無理はない。アンナ、説明してやれ」

「かしこまりました。――では、わたくしが説明いたします。ここは貴方たちのいた世界から見たところの《異世界》ですわ」

 絶句。

「今、我が国アクスフレールは深刻な危機にあります。魔界の王が100年の眠りから覚め、こちらの世界を侵略しはじめていますの。

 そこで、エミリア様に魔王討伐の適正を認められた貴方たちの力で魔王を再び眠らせる為に呼び出したというわけです」

「勿論、報酬は弾む。できる限りの願いなら叶えてみせよう。心配しなくていい。魔王討伐が終われば元の世界にも帰してやろう」

 馬鹿にされてるのかと思った。

 信じられない話だけど、本当のことなんだろう。わざわざどっきりのためにこんな大がかりなセットしないだろうし。

「いくつか訊きたいことがあるんだけど、いいですか」

「おお、何でも訊くがよい」

 王様は満面の笑みを浮かべてこちらを見ている。珍しい生き物でも見るかのような目で。

「さっきから『貴方たち』って言ってますけど、他にも誰かいるんですか? それに、俺そんなに強くないと思うんですけど」

「それは、ユースケ様のことですわ。貴方と一緒にこちら側へ来られたでしょう?」

 ユースケ様。一緒に。もしかして高野のことだろうか。あれは現実だったのかもしれない。

「戦闘の件は心配せんでもよい。これから能力を授ける儀に出てもらおうと考えておったのだ」

 それはよかった。それよりも、気になることがある。

「……今すぐ帰してもらうことってできませんか?」

 これが一番訊きたかったことだ。正直、楽しそうだけど、現実っていうの? 元いた世界での生活もあるし。

「すまないが、それは無理じゃ」

「理由を、訊いても?」

「それは……、こちらの都合で……」

 睨みたい気持ちをぐっと抑えて口角を上げて頷いた。

 まだ彼等のことよく知らないし、こんなに理不尽なことを簡単にやってのける王だ。最悪の場合、殺されるかもしれない。

 すると、何故か王は目を丸くした。

「……彼とは違って、随分物分かりのいい青年のようだ。アンナ。彼をエミリアの元へ案内しなさい」

「承知しました」

(?? 高野は何かあったのか?)



※  ※  ※



 人生で初めて馬車に乗って、かなりテンションが上がった。

 今日はおかしな日だ。これがしばらく続くことを考えたら少し落ち込む。

(一日くらいならいいんだけど)

「着きましたわ、エミリア様にご挨拶を」

 景色を見ている間に着いてしまっていた。鬱蒼とした森の中。何だか不安になる。

 挨拶って言われても。普通でいいか。

「初めまして、宮本ヒロトで……」

 この栗色に靡く長い髪は、この柔らかな雰囲気は――。

 顔は白いベールで覆い隠されているが、すぐにわかった。

「……来栖?」

「宮本くん」

 やっぱり来栖だ。アンナは後ろで訳が分からないとでも言うかのような顔をしている。

「エミリア様、この者とお知り合いなのですか?」

「ええ、私が選んで連れてきたと言ったでしょう?」

「てっきり、関わりはないものかと……」

「なあ、俺を呼び出したのって、この為?」

 二人の会話を遮る。

「そうだよ。何も説明せずに連れてきちゃって、ごめんね」

 あっさりと肯定された。本当に俺って馬鹿だ。

 調子乗って久保にあんなこと言わなきゃよかった。

「来栖の頼みなら言ってくれれば聞くのに」

「……ありがとう」

 なんでそこで照れたような顔するかな。だから勘違いするんだって。

 ああでも本当に可愛い。

 しばらく二人で見つめ合っていると、アンナが焦れったそうに口を開いた。

「お二人とも、目的を忘れていませんか。ユースケ様もお待ちしていますわ」

「えっ」

 隣を見ると高野がいた。いつからそこにいたんだ。

「俺はず、ずっといた」

 全然気づかなかった。影薄すぎだろ。

「そうね。では、今からお二人に能力を授けます」

 しばらく祈るように手を結び、目を開けると井戸に香水瓶の中身を一滴垂らした。

 来栖が着ているレースが幾重にも重なった煌びやかな衣装はまるでウェディングドレスのようだ。そして頭には薄いベールとシンプルな冠。

 しばらく見惚れていると、来栖が瓶の中身を俺と高野の頭に散らした。

「はいっ、これで終わり。高野くんは治癒魔法、宮本くんはすごかったよ! こんな強い人、過去の勇者にも一人もいなかったってレベル!」

 来栖に褒められると悪い気はしない。この世界も良いかもしれないと思った。

「アンナ、説明をよろしく」

「かしこまりました。ユースケ様の能力は文字通り、怪我や病気を癒すことができる能力。ヒロト様の能力は、特殊な訓練を行わなくても剣一振りで中級の魔物くらいなら吹き飛ばすことができますわ。

 修行や、経験を積んだ場合の強さは未知数。攻撃魔法も大抵のものは使えるようになります。……ただ、一つ。欠点が」

 アンナが急に俯いて黙ってしまった。

「な、なんだよ。言ってくれよ」

 そのとき、後ろから足音がして振り返った。

「それはわしが説明しよう」

「お父様!」


「その能力には、大きな代償が伴う。使うたび、人から嫌悪感を抱かれる存在になってゆくという……恐ろしい呪いのような代償じゃ」


 目の前が真っ暗になる感覚。やっぱりこれは悪い夢だ、と思った。

























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