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忠告

「ここは食堂!朝と夜は基本的に此処で食う奴が多いな。昼飯は弁当を洗って、前日の20時までに持っていくと次の日には弁当が作られてるぞ。忘れたら校内の学食で買うしかないからなー??」


 佐久間に寮の中を案内して貰っている。思っていたよりも建物自体はそんなに古くはなかった。

 外壁も白を基調として統一されているのだが、特に目立った汚れや老朽化はなかった。


 1階は基本的に共同スペースで、食堂やテレビルーム、大広間があり、2、3階に全学年の生徒用の部屋があるようだった。

 部屋は基本的に2、3人で1つの部屋を使用するらしい。


 「ん、ここが俺達の部屋な!2階の一番端で、88号室!覚えやすいだろ?」


 「おい、鍵よこせ」


 「横暴かよ」 


 部屋の中は、ある程度の生活感がありつつもそこまで汚くはなかった。ただ、サッカーボールや、汚れたスパイクが置いてあるところは、佐久間が普段使用している部屋だということを色濃く示していた。


 「二段ベットとお風呂とトイレ……あと水道もあるのか。」


 「そそ。小さいけど一応冷蔵庫と電子レンジと洗濯機もあるぞ」


 凄いだろ?と佐久間は自慢気に冷蔵庫を開閉し始めた。そのどや顔が少々苛ついたので、無視して自分の荷物を下段のベットに下ろし始める。

 佐久間はしょんぼりと項垂れながら静かに冷蔵庫を閉めた。





 「俺風呂入るけど、雪音も一緒に入る?」


 「却下」


 部屋に自分の荷物を収納してから約30分程経過して、時刻が19時を回った頃、唐突に佐久間がそういい放った。男同士でも一緒にお風呂に入ったりするんだなぁと呑気に思いながら丁重にお断りしておく。


 だってあたし、女だから。


 「んだよー!ノリわりぃなぁ。」


 「荷ほどきがあんだよ。さっさと入れ。」


 ぶつくさと文句を言いながらも、佐久間はタオルや着替えを抱えながら、脱水所へと向かった。宣言通り、あたしは荷ほどきに専念することにした。


 ピロン♪


 唐突に、スマートフォンから着信を知らせる音がなり、ディスプレイには『新着メッセージが1件あります。』と表示されていた。メッセージの送信相手を見てみると、月宮 碧という今日追加したばかりの名前だった。

 月宮 碧は、あたしの上司(一応)である、白神 唯の偽名。すなわち、白神 唯からのメッセージだ。


『深夜2時、寮の裏にある倉庫に来て。誰にも来るところを見られないでよ。』


 「……寝たいんだけど、なぁ。」


 ため息をひとつ吐き、愚痴をこぼしつつも仕事なのだから仕方ないと自分に言い聞かせた。時間に遅刻する訳にもいかないため、仮眠をとることにして、あたしはゆっくりと目を閉じた。




 深夜2時。




 「遅いんだけど。」


 「集合10分前なんですけどね。」


 「後輩は先輩よりも先にいるものでしょ?僕は30分前にはここにいたから、その10分前にはいないと。」


 「もうそれ深夜1時集合で良くないですか。」


 会って早々理不尽を押し付けられる。これがパワハラとか言うものなのだろうか。元々殺し屋という職種がブラック企業なので、訴えることなど到底出来やしないが。

 ……民間の普通企業だったら、優秀な弁護士でも雇って社会的に殺してやるのに。


 そんなあたしの心中を知らずに、月宮先輩は口を開いた。


 「まぁ、あまり長く深夜に部屋を開けているのも怪しまれるから、手短に用件を話すよ。

僕が掴んだ情報から、Kである可能性が高い人物が3人まで絞れた。


 3年4組の岸辺 波斗(きしべ なみと)先輩。生物部の部長をやってる。


 1年1組の深山 風馬(みやま ふうま)。どの部活も委員会も所属してない。


 そして、1年3組の佐久間 琉生(さくま るい)。君と同じクラス所属で、強豪なうちのサッカー部で、希少な1年レギュラーだね。


 この3人は共通して、ジャンクの構成員が殺された日、寮に居なかった。」


 「え、ちょっと待って。佐久間って、ルームメートなんですけど。っていうかそれ以前にクラスも一緒かよ。」


 「君には、佐久間と深山に探りを入れてほしいんだよね。その二人とはあんまり関わる機会がないからさぁ。」


 「それは構わないですけど。佐久間はKじゃないと思いますよ?馬鹿っぽいし。」


 ほら、廊下で前に人がいたら、ディフェンスと称してタックルしてくるという病気にかかってるところとか。


 「……、どうも引っ掛かるんだよね。佐久間って子。今まで一人部屋でしか寮で生活しないって言ってたのに、白河が同室になることにこうも簡単に受け入れたことが。



 一応、用心しといた方がいいよ。佐久間 琉生には。」


 珍しく真面目な顔で忠告するものだから、あたしは思わず固唾を飲んだ。

 

 佐久間 琉生がそんなに危険だと感じたことは無いが、仕事上嘘や変装で近付いてきた敵組織は数知れずいることは確かなのだ。月宮が言っていることあながち間違ってはいないのかもしれない。


 「あと、君は声が少し高い。仕草が女っぽい。もっと頑張って。」


 「声はボイスチェンジャーでも使わない限り無理だと思うんですけど。」


 警告と、指摘を軽く受けて、取り合えず30分程で倉庫を後にした。


 



 明日から、本格的な潜入が始まる。

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