嫌悪
今回いつもより短いです!すいません!
あの後、本来の目的通り生徒手帳の写真を撮影して、月宮先輩と某SNSアプリの連絡先をフルフルして交換した。「今日の夜連絡するね。」とだけ告げられ、あとは特に目立った会話もなく生徒会室をあとにした。
特にやることも思い付かず、かといって職員室に行くのも何となく億劫だったので、適当にその辺ぶらぶらして、出会った教師にでも指示を仰ごうと考え、廊下をうろうろしていた。
そこに、癖っ毛で茶髪の青年が猛ダッシュで此方に走ってきたので、思わずサッと左に避けた。その青年は何を思ったのか、あたしが避けて道を開けたにも関わらず、あたしが移動した左側にずれて、見事に体当たりしてきた。え、なんで。
割りと目一杯避けたために、後ろは壁だったので、思いっきり背中を叩きつけた。
「…あの、痛いんですけど。」
ヒリヒリとする背中を労りながら、ぶつかってきた相手に憤りを隠すことなく、怒気を孕んだ声で文句をつける。
「あー……、俺、サッカー部だからつい避けられたらディフェンスしたくなっちゃって」
てへぺろという効果音がつきそうなほど軽い調子でいってくる。正直、ディフェンスというよりはタックルで、サッカーというよりはラグビーの勢いだった。更にいうなら、あたしが求めているのは言い訳ではなく、謝罪である。
「廊下は走っちゃダメですよ?」
「めっちゃ初歩的な注意だね!?」
あたしは、「そんな初歩的な校則を無視してるお前が悪いんだから謝れよ?」という意味を込めて告げた筈なのだが、残念ながら伝わっていないようだ。
そこに、空気を読めないチャイムが鳴り初め、わらわらと生徒達が廊下を徘徊し始めた。あれ、なぜこいつは授業に参加していないのだろうか。なんて疑問を抱えていると、
「あ、佐久間さん。体調はもういいんですか?」
と、聞き覚えのある声がした。声の正体は、あたしのクラスの担任らしい佐藤先生だった。白衣を羽織っている辺り、彼は理科系の教師なのであろう。
佐久間と呼ばれた青年は、一瞬ギクリとして「少し良くなりました。」とだけ答えた。こいつさっき廊下猛ダッシュしてましたけど。全然具合とか悪くないと思うんですけど。
「じゃあ、保健室カード提出してください。」
その言葉に、佐久間は顔色を変えた。
「……もしかして、サボっていたなんてことは 無 い で す よ ね ?」
優しげに微笑んでいるつもりなのだろうが、目が笑っていない。更に丁寧な口調が何故か恐怖心を煽った。え、怖い。
「…いや、その」
「何ですか?」
「すいません。サボってました。」
90度に腰を曲げ、誠心誠意という感じで爽やかに謝罪する姿は、どこか運動部らしさを感じさせた。但し、彼はまだ廊下であたしにぶつかってきたことに誠心誠意謝っていないので、最初の最低な第一印象により、どうも汚して見てしまう。
「……はぁ。そろそろスタメンから外しますよ。」
「いや、マジですいませんでした。金輪際決してこのようなことは致しませんのでどうか許してください。」
佐藤先生の最早疑問系ですらない脅迫に、土下座する勢いで謝る佐久間。ここまできたら滑稽以外の何物でもない。
「では、罰としてそこにいる白河さんに学生寮を案内してあげてくださいね。確か佐久間さんと白河の部屋は同じだったはずですし。」
「「え」」
見事に佐久間とあたしの声がハモった。
「頼みましたよ?」
「うぃす」
秒で肯定の返事を返す佐久間。しょうがない、こいつにはスターティングメンバーの座がかかっているのだ。
佐藤先生が去っていくと、佐久間はふぅと荷が降りたように溜め息を吐き出し、助かった…と呟いた。いや、溜め息を吐きたいのは此方なんですけど。
「あ、俺たちルームメイトなんだな!俺、佐久間 琉生。1年生だから敬語は要らないぞ?」
「白河 雪音。俺、お前のこと嫌い。」
「え!?まだ会って間もないのに!?!?」
これが、ルームメイトとの出会いだった。