結成
取りあえず、クソ変態生徒会長の手を止めようと、両手を掴む。そして、これでもかという位に握力を込めた。男子の平均以上の握力を持ち、中学生時代には怪力野郎と呼ばれた(嬉しくない)実力をここぞとばかりに発揮する。
「うわぁ、ゴリラみたいだね。」
「黙れクソ変態ホモ野郎」
流石に痛かったのか、月宮は一歩引いた。ゴリラとか言われて、思わず敬語が抜けて罵詈雑言を口走ってしまったが、それは最早しょうがないと思う。こいつが悪い。
素早く外されたボタンを元に戻し、月宮に向き直った。
今度は、警戒心を剥き出しにして。
「もー、そんなに殺気立たないでよー。怖い怖い。
でも、確信したよ?やっぱり君は女の子だ。
腰の骨格のつくりがね、男のものじゃない。」
そう言われてハッとする。先程、ワイシャツのボタンを下から外していたのは、腰の骨格を確認するためだったのか。
でも、骨格の作りが違う普通の一般人が気付く訳がない。
「…月宮先輩、貴方何者ですか?」
もしかしたら、『K』はこの人かもしれない、と思ってしまうのは軽率だろうか。
しかし、そうでもなければ、初対面で女だと気付いたり、腰の骨格の確認なんて出来ないのではないだろうか。
そう思ったあたしは、いつでも目の前の月宮の喉を掻ききれるように、右手首に仕込んである小型ナイフを忍ばせた。
「うん、25点かな。」
「は?」
おもむろに彼はそういうと、あたしのナイフを叩き落とし、右腕を掴む。
「なっ、」
早い……!反応できなかった。
直ぐに足首の拳銃に左手を伸ばすが、額に突き付けられたひんやりとした感覚でピタリと動きを止めた。
顔をあげると、月宮先輩が胸元から取り出した拳銃をあたしの額に突きつけている光景が広がっていた。
「…っ!」
信じられない。このあたしが遅れをとるだなんて。
「…はぁ、正直がっかりだよ。黒河 琴音ちゃん。」
「どうして、本名を知って……?」
「まだ分からないの?」
そう言われて、額に当てられた拳銃を少し離される。
「…!」
その拳銃は、見覚えのある型だった。
更に言うならば、あたしの拳銃と同じものだ。
……ジャンク専用の拳銃と、同じ。
「まさか」
「やっと気づいた?」
「……白神 唯?」
彼はにやり、と笑って「正解。」と呟いた。
白神 唯。
それは、ジャンクに加入してからたったの2年で、全ての構成員の実績を越え、ジャンクNo. 1の座に現在も居座り続けている最重要幹部候補だ。
でも、どうしてそんなやつが此処に?
「もともと、僕はここの生徒だったんだ。それでたまたま此処に『K』が現れたからそのまま殺し屋殺しの件の担当になったんだよ。」
「あたしは今回の任務、単独潜入って聞いてたんですけど」
「それは僕がボスに頼んだんだよ。君が僕のサポート役に相応しいかテストするために」
白神は、そういうと先程離した拳銃の先を再びあたしの額につけた。
「!?」
「25点。赤点だね。僕は足手まといは始末する質なんだ。」
彼はにこりと笑みを浮かべる。その笑みに、何故かあたしは恐怖を感じた。
冷や汗が流れる。
こいつ、冗談で言ってない。本気であたしを撃ち殺す気だ。
「……いえ、あたしは満点です。」
「何処が?もしも僕が『K』だったらすでに君は死んでるよ?」
「いいえ」
あたしが言いたいのは、そこじゃない。
「あたしは、サポート役でしたっけ?それなら、『K』を殺すのはあたしじゃない。あたしの役割は、貴方が殺しやすい状況をつくること。なら、この状況なら貴方は確実に『K』の背後から遠距離射撃で脳天ぶち抜けますよね。」
ハッとしたように白神は、背後を振り向く。背後には大きな窓。そして、その正面後ろには第2校舎の屋上が見えた。
絶好の、遠距離射撃場所。
白神はクスクスと笑いだした。
「いいね、君。10点加点してあげるよ。」
「そりゃどーも」
白神が拳銃を懐に仕舞うのをみて、あたしは床に落ちたナイフを拾い上げた。
「それじゃあ、これからよろしくね。白河 雪音君?」
そういうと、白神……。月宮先輩は手を差し出した。
「……お手柔らかに。月宮 碧先輩。」
あたしは、月宮先輩の左手を握る。
「っ……!!??痛っ!!!!!????」
握られた右手の骨がメキメキと痛む。
こいつ、力いれやがったな。
「さっきの仕返しだよ、ゴリラ音君。」
「誰ですか。ゴリラ音って。殺しますよ?」
最凶コンビ、結成。