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 ……あぁ、危なかった。

  血糊を被った姿を見ただけで、自分が殺人衝動に駆られると思ってなかった訳ではないが、想定以上だったのは確かだ。やっと落ち着いてきた衝動に安堵しつつも、再発することのないように、周囲の血塗られた装飾品を見ないように、地面へと目線を下げることにした。


  繋がれた手錠の先では、あたしを誘導するように、一歩先を深山が歩いている。あれ以降いっこうに彼は話しかけて来ないどころか、こちらを見ようともしなかった。




「なぁ、雪音。」




「ん、なんだよ?」



 深山は、ピタリと脚を止めると、視線を前から動かさないまま、あたしに声を掛ける。その声質はどこか暗く感じた。



「その……ごめん。勝手に引っ張ってきたりして。


もしかして、お化け屋敷とか、苦手だった……?」



  不安に満ち溢れた、声。ここで初めて、あたしは彼に心配されているのだと気付いた。


  そもそもお化けなんて信じていたら、きっと人なんて殺せないし、実在しているのならとうの昔にあたしは呪い殺されているだろう。こんな作り物の血や空間に恐怖出来るほど、あたしは純粋ではない。


  ただ、あたしを心配してくれたのは、田崎さんが最後だったな、なんて思い返してしまい、なんとも感慨深い気持ちになる。こんな殺人狂は、恐れられることはあろうとも、決して心配なんてされることはない。久方ぶりに他人から向けられる、こちらを気遣うような言葉にじんわりと胸が暖かくなった気がした。



 まぁ、血糊を見ずに進めるのならば、それに越した事はないので、不本意ながら彼の気遣いを利用させて貰うことにしようか。



「……ん、ちょっと苦手、かも。」




「…ごめん。」




  あぁ、良心が痛い。謝るのはこっちなんだ。ごめん、深山。あたし正直一ミリも怖くないどころか寧ろ血生臭い所大好き。



「ちゃんと、責任持って、出口まで連れてくから。」



  そう言って、彼は手錠で繋がれている方の手を、ぎゅっと握った。



「…だから、ここから出れたら、……その、





友達に、なりたい……」











  握っているのと逆の手の甲で唇を隠しながら、隠し切れていない耳を真っ赤に染めて、彼はそう言った。

  後半は余程恥ずかしかったのか、随分と声が小さく、弱々しいものだったが、距離が近いので、辛うじて聞き取ることができた。







「え、なに?俺らって友達じゃ無かったの……?」




「……へ」



  ぽかんと口を開けて、深山は目を見開いた。間抜けな顔が可笑しくて、ついついあたしは笑い出してしまった。それが気に食わないのか、彼は足を速めてしまったので、「深山、怒んなよ。ごめん、ごめんって」と肩を震わせながら言ったところで、深山は機嫌を悪くする一方だった。







「……風馬でいい。」



「ん?」



「だから、名前で呼べば。俺も、雪音って呼んでるし。」



「了解、風馬。」



「……おう」







  風馬との心の距離は、この学園祭を通して、随分縮まったようだ。





遅くなりましたすいません!!!!!!

新年、明けましておめでとうございます。今年もマイペース更新になると思いますが、どうぞよろしくお願い致します。

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