友人
学園祭のステージ発表が終了し、明日の模擬店と女装コンテストに備えて、各クラス毎に明日の動きについての確認や、備品の設置などが行われた。言わずもがな、あたしは女装コンテストの1年3組代表として選ばれてしまったので、当日の流れについての説明を受けるために、視聴覚室に集められていた。
「おう、雪音。久しぶりー」
全然乗り気じゃないあたしは、適当に後ろの方の席に座っていたのだが、その隣に中性的な顔立ちをした美少年、深山風馬が腰掛けた。
「おお、深山か。」
案の定、1年1組のステージ発表では、深山が女役である人魚姫をやらされていた。正直、男がやる人魚姫なんて観れたもんじゃないと思っていたのだが、深山の女装姿は他のどのクラスの男子の女装より、むしろそこら辺のモデルやアイドルにも負けてない位に美しく、尚且つなんだか独特の色気を感じさせた。
それ程までに、彼の顔立ちは整っているという事なのだろう。ここが、男子校で無ければ、彼のファンクラブなんかがあっても、なんら不思議ではない。
寧ろ、この女装姿を全校生徒にさらすことで、そっち系に走る生徒が出てくるのではと懸念されるレベルだ。末恐ろしいことこの上ない。
「……あー。ほんと、誰だよ…最初に女装コンテストとかふざけたイベント提案したやつ」
今日のステージ発表で女装させられた事に苛立ちを隠せず、彼は悪態をついた。
「ほんとそれな」
「それが無ければ俺とお前という被害者は出なかったのになぁ……」
さっきから深山の言う言葉に共感しかない。あたしの周りにいる奴ら(佐久間、岸部先輩、月宮先輩)は、基本的に共感できない事の方が多いので、彼と話すのは幾分か心が休まるように感じる。単に、女装させられるまでに至った経緯が似ているからかもしれないが。
「……そうだ、雪音。明日一緒に模擬店回らね?」
唐突に、彼はあたしにそう告げた。学園祭の模擬店を一緒に回ろうと誘ってくれるあたり、彼も中々にあたしを気に入ってくれているのだろう。
「ん、いいよ。」
特に誰かと先約があった訳でも無かったので、素直に深山の誘いを受けることにした。
あたしの返事を聞くと、彼は満足そうに頷いた後、「チャンスがあれば、女装コンテストから逃げようぜ。」なんて言いながら悪戯っ子のように笑った。
次の日、学園祭2日目……
普段の登校時間よりも1時間も早い時間だと言うのに、校舎内はこれでもかというぐらい騒がしく、廊下には各クラスの模擬店を宣伝するようなポスターがずらりと隙間なく貼られていた。
あたしのクラスは外で出店を出し、焼きそばを売るそうで、その為の麺類や鉄板、既に切られている野菜などが配備されていた。模擬店の販売係はシフト制なのだが、女装コンテスト出場者は、模擬店開催時間終盤に集められるため、シフトは免除されることになっていた。
それでも、一応準備位は手伝わなければならないので、模擬店委員の指示を受けながら、軽く準備を手伝うことにした。その他のクラスの奴らも張り切って手伝っていたため、開始20分前には、既に営業できる状態が整っていた。
『全校生徒及び来校者の方々にご連絡します。9時になりました。これより、4時間、模擬店の開催時間となりますので、該当する生徒は営業を開始して下さい。』
校内放送で、月宮先輩からの模擬店開催宣言が流れると、主に三年生が歓声を上げ、売り子役に当たっている生徒が、すぐに近場の下級生に声を掛けていた。流石三年生。仕事が早い。
この模擬店ででた利益は全て、クラスで平等に分配されるらしく、年中金欠を極めている男子高校生にとって、これは本気の金儲けの場なのだという。
「あ、雪音!」
少し遠くから深山が走ってくるのが見えたと同時に、彼もあたしに気付き、声を掛けた。
あたし達は、校内が混雑していることを予想して、校門近くの男性が、両手に松明を持って万歳している正直、趣向がよく分からないオブジェクトの前で待ち合わせをしていたのだ。
「悪りぃ、準備がギリギリで手伝わされてた。」
「お詫びになんか奢ってくれ。」
「あ?調子のんな。」
綺麗なお顔に似合わず口の悪い彼は、今日も在宅です。