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舞台

  数週間の準備期間を経て、ついに学園祭当日だ。いまは、生徒会主催のオープニングセレモニーが催されていて、生徒会長である月宮先輩が有名な某ゲームキャラクターである赤いおじさんの格好をして出てきたときには、鼻で笑ってやった。他の生徒会メンバーが、緑のおじさんや、喰破、桃姫の格好をして、なにやらがやがや騒ぎ始めた。幼稚な戦闘シーンを繰り広げる中、観客席の生徒達は盛り上がり、歓声をあげる。おい、月宮先輩。なに空中宙返りとか披露してんだよ。お前だけレベルがちげぇよ。

 若干一名、この学園祭の舞台にそぐわないレベルの奴が混ざっているせいで、まるで、どこかの有料舞台のような仕上がりに変わっていた。いいのか。そんな目立っていいのか殺し屋。

 桃姫を見事に助け出し、お礼にパーティに招待する、と言い出す桃姫。もちろん、此処は男子校なので、桃姫役の奴は男で、時々、丈の長いピンク色のドレスからスネ毛が見え隠れしている。あえてなにかコメントすることは差し控えることにする。

  そのパーティで、最も赤いおじさん(月宮先輩)の心を動かした演者を、国一番の演者として、栄誉ある賞を授与するとのこと。つまりは、演者のパフォーマンスが学園祭の各クラスのステージ発表のことで、最優秀賞のクラスは表彰される、ということだ。大層大掛かりなオープニングセレモニーだな。

 生徒達はすでに興奮状態。三年生あたりは、泣き出す人もちらほらいる。


  「絶対、優勝しような!」


  隣で、佐久間がそう声を掛けてくる。流石は運動部。目標が高い。というか、優勝を三年生に譲る気がさらさらないらしい。


 校長先生の話を聞き流して、ついに、一年生のステージ発表へとプログラムが進行した。1時間の準備時間の後、クジ引きで決めた順番通りに、ステージ発表が始まる。因みに、あたし達のクラスは三番目だ。

  衣装と言われたドレスに着替えて、クラスの連中に用意された化粧道具と黒髪のウィッグを使う。


  「久々に、女っぽいことしてるな。」


 メイクをするのは初めてでは無かった。仕事上、パーティ会場での暗殺任務では、お酒を飲むことも多く、未成年だという事がバレないよう化粧で年齢を誤魔化すことも多かった。だから、それなりにメイク技術はある方だと自負している。

  しかし、これではあまりにも男性的要素が無さすぎるのでは・・・?流石に女だとバレないか不安になってくる。


 「お、準備終わったか?」

  

 突然、更衣室に佐久間が現れて、咄嗟にドレスのスカートを握りしめた。

 佐久間も着替えを終えたようで、ロング丈の紫色のドレスを着て、黒いマントを被っていた。おい、白髪のウイッグ曲がってんぞどうした。


 「おおー、元々女顔だなーとは思ってたけど、それっぽい格好すると女にしか見えねぇな!」


 佐久間の言葉に、どきりと心臓の音が早くなるのを感じる。


  「んー、でもなんか足りないなぁ。」


  そう言って、佐久間は徐々にあたしとの距離を詰める。


 「な、なんだよ。」


 佐久間の手は、真っ直ぐあたしの胸部へとのびていった。そして、ぴとっと触ると一言。


  「やっぱ胸がねぇとな!」


ばしんっ


 「いってぇ!?!?!?」


  全力で殴った。グーで。


 「馬鹿なこと言ってないで、さっさとお前もメイク終わらせろ。」


  「それが上手くできねぇんだよ。」


  佐久間は幼子のように口を尖らせた。


  「ちっ。やってやるからそこ座れ。」


 「俺にだけ冷たいよね雪音って!!!」


 佐久間の曲がったウイッグを外し、ファンデーションを顔面に塗り始める。


  「んっ、こちょばい」


 「口あけんな粉入るだろ。」


 化粧に慣れてない佐久間は終始むず痒そうにしていたが、そんなのはお構い無しに手際よく化粧していく。女役は佐久間とあたししかいない。こいつもそれなりに女っぽくしないと、あたしだけ目立ってしまうかもしれない。それでは困るのだ。


  10分程度でメイクを完成させると、佐久間は鏡の前で、自分の顔を何度も見つめていた。


 「そんなに見ても、ブスはブスだぞ。諦めろ。」


 「うん、だからなんでそんなに雪音は俺に冷たい訳!?!?」


 そうじゃなくて、と付け加えて佐久間はあたしの顔を見た。


 「お前、器用なんだな。素直に、すげぇって思った。」


 そんな言葉を言って、佐久間はにかっと笑ってみせた。そんな風に褒められる事なんてあまりないので、どうにもこそばゆい気持ちになってしまう。


 「なに、照れてんの?」


  「照れてないし!」


 佐久間が調子に乗っても嫌なので、もう一発、背中を思いっきり叩いてやった。


 今度は、パーで。


 「いってぇ!!!!」


  そう言いながらも、佐久間は楽しそうに笑っていた。


  更衣室を出ると、佐久間が小道具確認してくる!と早々に教室へ向かって走り去っていった。あたしは特に教室に用はなかったので、ジュースでも買おうと一階の自販機へと向かった。


 いつも通り、安定のよーきお茶を買おうとして、売り切れのランプが点灯している事に苛立つ。ふざけんな、誰だよ最期の一本買ったやつ。殺すぞ。

 仕方なく十八茶にしようと思い、ボタンに手を伸ばそうとしていると、頭上になにやらひんやりとした感触を感じ、後ろを振り返った。


 「やぁ。」


  「げ。」


 岸部先輩が、よーきお茶を持って立っていた。


  「これ、好きでしょう?いつも飲んでるもんね。僕、君に差し入れしようと思って、朝コンビニで買っといたんだー。」


  「なんで知ってんだよ。」


 というか、お前から貰ったものなんて怖くて飲めねぇよ。


 「・・・あー、警戒してるのかなぁ?大丈夫だよー、毒とか入って無いからぁー。」


 そう言って、キャップを開けて一口飲んで見せると、ね?といい笑った。

  とにかく、よーきお茶に罪は無い。飲むかは別にして、一応貰っておく事にする。


 「それにしても、可愛いねその格好。白雪姫だよね。白河 雪音って名前からとったの?」


 「別に関係無いんで。退いてくれます?」


  「ふふっ。今日は神様より天使みたい。」


  「話を聞けこの野郎。」


 岸部先輩は、突然ぎゅっとあたしを抱き寄せると、ポケットからスマートフォンを取り出して、内カメラで写真を撮り始めた。誰かこの自由人なんとかして。


 「差し入れのお礼はこれでいいよ。ステージ発表頑張ってね?僕、観てるから。」


  そう言い残すと、岸部先輩は名残惜しそうにあたしから離れ、ゆっくりと人混みに消えていった。嵐のような人だな。マジで迷惑。









 『一年生のステージ発表開始まで、残り10分をきりました。ステージ発表に出演する一年生は、至急、会議室へお集まり下さい。』











 校内放送が流れ、あたしは慌てて会議室に向かった。














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