5縁の武器
「な、き、貴様! ま、まろのとっておきの、カ、カ、カップアイスを、食いおったな!」
ある初夏の日の夜。もてない男子大学生の勝平の手によって墓から復活させられた千年前の陰陽師である縁は、濡れた身体を陰陽師服に包んで、髪から雫をしたたらせ、テレビを見ながらアイスを食べている勝平を指さした。
「え? これ? ああ、そういや、お前のだったか?」
一方の勝平は、特に縁の方に顔を向けもせずに答える。
「あ、ゴメンゴメン。今度買って来てやるから」
そう言って適当に謝る勝平だが、縁も怒りは、逆にヒートアップしていく。
「貴様! そこに直れ!」
「ん?」
俺テレビ観たいんだけど? という感じ面倒くさそうに縁の方に向き直る勝平。反対に、怒髪天を衝く勢いの縁。
「良いか、それは、まろが自分へのご褒美として買ってきた、ちょっと高級なアイスなのぢゃ! まろは、それを食べることと楽しみにして、ここ数日活動しておったのぢゃ! それなのに、それなのにお主は!」
食べ物の恨みを全身で表して怒る縁。だが、
「だから、悪かったって、今度買って来てやるから」
勝平は、駄々をこねる子供をあしらうようにして言った。
どの態度が気に入らなかったのか、縁は、暗い笑みを浮かべる。
「ふ、ふふ。そうか、今度買って来てやる、か。どうやら、お主は反省が足らんようぢゃの。その頭、血を抜いて風通しを良くしてやれば、少しは反省するのかの?」
そう言って、懐から一枚の符を取り出して、言った。
「出でよ、我が愛刀、「流星」! この不届き物の頭を、真っ二つにしてやるのぢゃ!」
瞬間、縁の手を中心にして眩い光が広がる。
「ちょ! 待て!」などと言って慌てる勝平だが、そんなことにも構わずに、光は一点に凝縮すると、刀の形を成していく。
「ふ、ふふ」
そして、縁の手には、全長二mはあろうかという、宇宙色をした大太刀が握られていた。
「ば、縁さん。落ち着いて話し合おう! な!?」
慌てて床にはいつくばる勝平だが、縁は無慈悲にも刀を振り上げた。
「問答無用!」
ガッ!
「ん? なんぢゃ?」
だが、振り上げたところで、切っ先から異音がしたかと思うと、太刀は空中で動かなくなってしまう。
不審に思った縁が見上げると、当然の帰結といえば当然の帰結だが、太刀の先端が、天井に食い込んでいた。
『あ……』
勝平と縁が、同時に声を上げる。上げた後で、勝平が最初に動いた。
「あのさ、縁さんやい。この家、借り物なのよ。返す時に、誰が修理費払うと思う?」
「それは勿論、お主ぢゃろうの」
「ね?」
「お、おう」
「え~に~し~!!」
「し、知らん! こ、これは、お主がまろのアイスを食べた罰じゃ!」
縁の方にずって行く勝平。太刀を手放し、後ずさる縁。
その時だった。
「あ……」
ズポッと、支えを失った刀が、天井から抜け落ちた。抜け落ちて、丁度下にいた勝平の後頭部に、直撃した。
「ぎゃん!」
二〇㎏もある物体が頭に当たり、悲鳴を上げて伸びる勝平。後には、縁だけが残された。
「ふ、ふん。食べ物の恨みは恐ろしいのぢゃ」
そう言うと、縁はそこらに転がっていた勝平の財布を手に取り、コンビニへと出かけるのだった。
参考:TEAS事務所著「真武器大全 刀の巻き」第一刷
「流星」は祢祢切り丸と流星刀を参考にしました。