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袖振縁の受難  作者: 凉月
5/10

縁、洗濯機を知る

「おお、なんぢゃこれは! なんぞ、面白そうなものがあるではないか!」

 袖振そでふりえにし――千年前の陰陽師。

 縁――現代の大学生である江口えぐち勝平かっぺいの家の中。

「あー、はいはい。珍しいのは分かったけど、色々と弄繰り回さないでくれよ?」

 俺は、玄関から部屋の中を見るなり目を輝かせる縁にそう言いながら、靴を脱ぐ。縁は、俺にそう言う所を見られるのが嫌なのか、頬を膨らませて言った。

「ふ、ふん。珍しくなど、無いわ!」

「あー、そうですか」

「む! なんぢゃその態度は!」

 フグみたいになっている縁を無視して、俺はさっさと部屋の中に入る。縁も、膨れながらも俺に従う。

 縁――部屋の中を見回す(キョロキョロ)

 縁――興味津々。

 勝平――あれ、狭いとか言うかと思ったのに。

 縁――ウズウズ。

「うむ。ま、まあまあぢゃの」

「そーですか」

 縁――立ったまま。

 縁――早く弄りたいという声が聞こえてきそう。

「と、ところで」

 興味深そうに部屋の中を見回していた縁が、思い出したというように口を開いた。

「喉が渇いてしまったのぢゃが、水瓶はどこぢゃ?」

 そう言えば、こいつは千年間飲まず食わずだったんだっけ。ていうか、水瓶って……

 なんて俺が思っていると、縁が部屋の中を勝手に歩き回り始めた。どうやら、本気で水瓶を探しているらしい。

「ああ、いいよ。その位、俺がやるって」

 水道を知らないであろう縁に部屋を弄られても面倒だと思って、縁に向かってそう言う俺。だが、縁は、多少は俺に気を使っているのか、「い。自分でやる」と言って、部屋の探索を続行してしまう。

 大丈夫かな? と思いつつそれを見守る俺の前で、縁はとあるものに目を留めた。

「おお、なんぢゃ。こんなところに、井戸があるではないか。全く、家の中に井戸があるなど、変わっておるの」

 縁――歩いて行く。

 縁――脱衣所に向けて。

 縁――物珍し気。

 勝平――いや、それは……

「ん? なんぢゃ、釣瓶はどこぢゃ? いや。それよりも、この井戸、浅いうえに涸れておるぞ?」

 縁――勝平の視線に気づく。

「な、なんぢゃその目は! わ、分かっておるわ! この時代では、釣瓶など使わぬと申すのぢゃろ?」

 そう言いながら、縁は、ロックオンした物を、再び弄り始める。止めたほうがいいのか、それとももう少し縁を愛でたほうがいいのか迷っている俺の前で、縁の冒険は続く。

「こ、これかの?」

 物体――電子音(ピッ!)

「ぬお! などと驚いてはおらぬぞ! こ、これぐらい、まろの時代でも、当たり前ぢゃ!」

 勝平――いや、平安時代に、それは無いだろう。

「こ、これか?」

 縁――ボタンを操作。

 物体――縁の操作に従う。

 物体――放水ジャバァ

「おお、出たではないか!」

 縁――飲む(ゴクゴク)

 勝平――ちょ、待て!

「ん、なんぢゃ、ケチケチするな。水ぐらい、飲ませてくれても、良いぢゃろうが?」

 少しだけ嫌そうな顔をする縁。その縁に向かって、俺は少しだけ血の気の引いた顔で言った。

「あ、あのな、縁さんやい。それな、洗濯機って言うんよ? 平安風味に言うなら、洗濯桶と洗濯板? だからな、その水、あんまり、飲まない方が、良いよ?」

 縁の顔から、一瞬のうちに血の気が引いていく。

 今まで、赤くなるところは見たけど、青い顔は、初めてじゃないのか?

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