縁、自転車に乗る
勝平――高笑い。
勝平――仁王立ち。
縁――涙目。
縁――ペタン座り。
「流石は俺の編み出した反魂の術Extra! こんな不死身美少女をお持ち帰りできるなんて、良くやった!」
「なぜぢゃあ! 何故まろがこんな目にあわねばならぬのぢゃ! 前世でも、きちんと善行を積んでいたというのに~~」
俺がガッツポーズを決める横で、縁が思い切り泣いていた。そんな縁の肩に、俺は手を置くと、言った。
「ま。ま。こんなところに居ないで、ひとまず家に行こう? いつまでもこうしているわけにも、いかないだろ? な? ほら、温かい食べものもあるぞ? だから、な?」
もはや縁に他の選択肢なんかないことが分かっているせいか、余裕たっぷりで言う。なんとも言えない征服感が、俺の背中を駆け抜ける。気分は、ヒロインに卑猥な単語を言わせる、エロ漫画の主人公。
だが、そんな俺に対して、縁は全力の拒絶を返してくる。
「ふん! 誰が貴様なんぞの世話になるか! 幸いにして、この身体は不死身のようぢゃし、解呪する間ぐらい、ここで大丈夫ぢゃ!」
勝平――笑み。
勝平――予想通り。
「へぇ~。良いのかなぁ、そんなことで。死人が長くこの世に居るとマズいって言ったの、どこの誰だっけ? 俺と一緒に居る方が、解呪も早いとおいもうけどなぁ?」
「うぐ」
「人に会ったりしたら、良くないよねぇ?」
「うぐぐ」
「それに、飲まず食わずって、つらいよぉ?」
「うぐぐぐ」
「ほら、家においで?」
勝平――笑み。
笑み――悪魔の微笑み。
縁――唸る。
縁――葛藤。
縁――惨敗。
縁――お辞儀。
お辞儀――屈辱的。
「お世話に、なります」
勝平――勝った。
ああ、これでやっと、童貞を卒業できるよ。母ちゃん! もうすぐ、陰陽師の孫が生まれるよ!
縁の説得に成功した俺は、地面で頽れている縁を見下ろす。元々の目的がこれとは言え、こんな可愛い娘で脱童貞出来るとか、ワクワクが、止まらないよ。
俺が妄想に浸っていると、縁が、顔を上げた。こうなってしまっては仕方がない、と悟ったのか、その顔は、自転車の方を向いていた。
「う、うむ。それで、ぢゃな、その、貴様の家に行くのに、勿論、アレを使うのぢゃろ?」
自転車に対する興味が抑えられないけど、それを俺に知られるのは、めちゃんこ悔しいです、とありありと書かれている縁の顔。そこ顔を見ていた俺は、嗜虐心を刺激される。何とも、中身と見た目が正反対の人間だな、縁は。そんな大人びた容姿で、そんな子どもみたいな顔されたら、虐めてみたくなるのが、人情ってものじゃないか。
「あっれえ? もしかして、自転車が気になるのかなぁ? さっきもそうだったけど、本当は、自転車が何か、分かってないんじゃないのかんなぁ? 『あ、妖ぢゃ! 行くのぢゃ、白虎くん!』なぁんちゃって?」
勝平――嗤
縁――金的パンチ。
勝平――声も出ない。
勝平――倒れ込む。
縁――なんか、いやな感触がしたの。
縁――地面で手をごしごし。
縁――立ち上がる。
縁――歩行。
歩行――自転車に向かって。
「ふん! バカにするな! 振袖家と言えば、天皇に見えることを許された名家! これぐらいのもの、珍しくなどないわ!」
そう言って、ちゃっかりと自転車の上にまたがる縁。必死になって言い訳する縁の顔は、真っ赤で、いかにも、プライドを守るために一生懸命背伸びしています、という感じがする。その顔を見て、俺は、撃沈される。
ああ、きっと、生前に頭が良かったせいで、余計に知ったかぶりしてるんだろうな、という思考が、萌えと痛みでグシャグシャの頭に浮かぶ。
そんな、にやけ顔で金玉押さえながら地面に突っ伏している俺の目の前で、自転車にまたがった縁は、言った。
「見ておれ! こんなもの、こうすればよいのであろう!」
縁――知ったかぶり。
縁――ペダルを漕ぐ。
縁――自転車の正しい使い方。
勝平――ちょっと感心。
縁――ペダルを漕ぐ。
縁――スタンドを立てたまま。
縁――漕ぐ。
縁――当然、進まない。
車輪――空転。
音――カラカラ。
縁――無言。
勝平――無言。
音――カラカラ。
縁――スタンドの存在に気付く。
縁――自転車を降りる。
縁――スタンドに蹴りを入れる。
蹴り――ガン、ガン。
スタンド――解除。
縁――座席に戻る。
縁――何事も無かったかのように。
縁――ペダルを漕ぐ。
縁――出発。
縁――その場で倒れる。
縁――涙目。
縁――膝を擦りむいた。
縁――痛い。
痛い――心が。
縁――ひとしきり泣く。
縁――自転車を元に戻す。
縁――荷台に座る。
「さ、勝平とやら、案内せい」
縁――何事もなかったかのように。
勝平――撃沈
勝平――やヴぁい。萌え死にしそう!
縁――顔を真っ赤にして、プルプル。
「バカにするなあ!」
縁――白虎くん召喚。
白虎くん――相変わらず猫サイズ。
白虎くん――勝平に飛び掛る。
白虎くん――勝平の顔面を爪でひっかっく。
「痛い! この猫、爪が鋭い!」
「白虎くんは虎ぢゃあ!」
前世・・・三世一身思想の影響。多分、縁が死ぬ前の話。
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