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袖振縁の受難  作者: 凉月
2/10

縁、自転車に乗る

 勝平――高笑い。

 勝平――仁王立ち。

 縁――涙目。

 縁――ペタン座り。

「流石は俺の編み出した反魂の術Extra! こんな不死身美少女をお持ち帰りできるなんて、良くやった!」

「なぜぢゃあ! 何故まろがこんな目にあわねばならぬのぢゃ! 前世でも、きちんと善行を積んでいたというのに~~」

 俺がガッツポーズを決める横で、縁が思い切り泣いていた。そんな縁の肩に、俺は手を置くと、言った。

「ま。ま。こんなところに居ないで、ひとまず家に行こう? いつまでもこうしているわけにも、いかないだろ? な? ほら、温かい食べものもあるぞ? だから、な?」

 もはや縁に他の選択肢なんかないことが分かっているせいか、余裕たっぷりで言う。なんとも言えない征服感が、俺の背中を駆け抜ける。気分は、ヒロインに卑猥な単語を言わせる、エロ漫画の主人公。

 だが、そんな俺に対して、縁は全力の拒絶を返してくる。

「ふん! 誰が貴様なんぞの世話になるか! 幸いにして、この身体は不死身のようぢゃし、解呪する間ぐらい、ここで大丈夫ぢゃ!」

 勝平――笑み。

 勝平――予想通り。

「へぇ~。良いのかなぁ、そんなことで。死人が長くこの世に居るとマズいって言ったの、どこの誰だっけ? 俺と一緒に居る方が、解呪も早いとおいもうけどなぁ?」

「うぐ」

「人に会ったりしたら、良くないよねぇ?」

「うぐぐ」

「それに、飲まず食わずって、つらいよぉ?」

「うぐぐぐ」

「ほら、家においで?」

 勝平――笑み。

 笑み――悪魔の微笑み。

 縁――唸る。

 縁――葛藤。

 縁――惨敗。

 縁――お辞儀。

 お辞儀――屈辱的。

「お世話に、なります」

 勝平――勝った。

 ああ、これでやっと、童貞を卒業できるよ。母ちゃん! もうすぐ、陰陽師の孫が生まれるよ!

 縁の説得に成功した俺は、地面で頽れている縁を見下ろす。元々の目的がこれとは言え、こんな可愛い娘で脱童貞出来るとか、ワクワクが、止まらないよ。

 俺が妄想に浸っていると、縁が、顔を上げた。こうなってしまっては仕方がない、と悟ったのか、その顔は、自転車の方を向いていた。

「う、うむ。それで、ぢゃな、その、貴様の家に行くのに、勿論、アレを使うのぢゃろ?」

 自転車に対する興味が抑えられないけど、それを俺に知られるのは、めちゃんこ悔しいです、とありありと書かれている縁の顔。そこ顔を見ていた俺は、嗜虐心を刺激される。何とも、中身と見た目が正反対の人間だな、縁は。そんな大人びた容姿で、そんな子どもみたいな顔されたら、虐めてみたくなるのが、人情ってものじゃないか。

「あっれえ? もしかして、自転車が気になるのかなぁ? さっきもそうだったけど、本当は、自転車が何か、分かってないんじゃないのかんなぁ? 『あ、妖ぢゃ! 行くのぢゃ、白虎くん!』なぁんちゃって?」

 勝平――ニヤニヤ

 縁――金的パンチ。

 勝平――声も出ない。

 勝平――倒れ込む。

 縁――なんか、いやな感触がしたの。

 縁――地面で手をごしごし。

 縁――立ち上がる。

 縁――歩行。

 歩行――自転車に向かって。

「ふん! バカにするな! 振袖家と言えば、天皇に見えることを許された名家! これぐらいのもの、珍しくなどないわ!」

 そう言って、ちゃっかりと自転車の上にまたがる縁。必死になって言い訳する縁の顔は、真っ赤で、いかにも、プライドを守るために一生懸命背伸びしています、という感じがする。その顔を見て、俺は、撃沈される。

 ああ、きっと、生前に頭が良かったせいで、余計に知ったかぶりしてるんだろうな、という思考が、萌えと痛みでグシャグシャの頭に浮かぶ。

 そんな、にやけ顔で金玉押さえながら地面に突っ伏している俺の目の前で、自転車にまたがった縁は、言った。

「見ておれ! こんなもの、こうすればよいのであろう!」

 縁――知ったかぶり。

 縁――ペダルを漕ぐ。

 縁――自転車の正しい使い方。

 勝平――ちょっと感心。

 縁――ペダルを漕ぐ。

 縁――スタンドを立てたまま。

 縁――漕ぐ。

 縁――当然、進まない。

 車輪――空転カラカラ

 音――カラカラ。

 縁――無言。

 勝平――無言。

 音――カラカラ。

 縁――スタンドの存在に気付く。

 縁――自転車を降りる。

 縁――スタンドに蹴りを入れる。

 蹴り――ガン、ガン。

 スタンド――解除ガチャン

 縁――座席に戻る。

 縁――何事も無かったかのように。

 縁――ペダルを漕ぐ。

 縁――出発。

 縁――その場で倒れる。

 縁――涙目。

 縁――膝を擦りむいた。

 縁――痛い。

 痛い――心が。

 縁――ひとしきり泣く。

 縁――自転車を元に戻す。

 縁――荷台に座る。

「さ、勝平とやら、案内あないせい」

 縁――何事もなかったかのように。

 勝平――撃沈グッハァ

 勝平――やヴぁい。萌え死にしそう!

 縁――顔を真っ赤にして、プルプル。

「バカにするなあ!」

 縁――白虎くん召喚。

 白虎くん――相変わらず猫サイズ。

 白虎くん――勝平に飛び掛る。

 白虎くん――勝平の顔面を爪でひっかっく。

「痛い! この猫、爪が鋭い!」

「白虎くんは虎ぢゃあ!」

前世・・・三世一身思想の影響。多分、縁が死ぬ前の話。


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