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森の魔女と虚ろ人形

 新月を過ぎた月は少しずつその姿を現していく。この世界の月は現実の月より明るい。

 季節は梅雨。空には雨雲があり、月はその向こうにある。雨雲が無ければ、現実の満月よりも明るく地上を照らす。

 雨雲を通して地上に届く月の光は、現実の満月よりも少し暗い程度の明るさがあった。

 バンガローの窓から、明かりが漏れている。その明かりの正体は蝋燭ろうそく。長方形のしっかりとしたテーブルの上に置かれた皿の上に立てらている。

「梅雨空で、何だか雨が降りそうだな」

「この季節は仕方ないですよ」

 しっかりとしたテーブルに備え付けてある椅子に座りながら、窓の外を見ていた傀儡師の台詞に、影師はひねりもなく普通に言葉を返した。

 今、このバンガローには、四人の人の姿をしたモノがいる。傀儡師、人形、影師、陽炎。

「はい、人形はここにいます」

 傀儡師の左隣に座っている人形は右手を挙げて存在をアピールした。

「陽炎はテーブルの下にいます」

 その台詞に他の三人は同じ方向を見た。その先には、長方形の短い辺……バンガローの入り口から一番遠いテーブルの位置で椅子に”座っている”陽炎がいた。

「ボケというやつですね。本当の陽炎さんはそういう性格だったんですか?」

「そうなの?」

 人形と陽炎に聞かれた影師は首を傾げながら答える。

「さぁ? どうなんだろう。わからない」

「登場人物を書き分けるには、それなりに個性が必要なのでしょうか?」

 人形は丁寧な口調で誰ともなく尋ねた。

「全員が同じ調子で喋ってたら、区別がつかねぇし……必要だろ」

 傀儡師は、乱暴な台詞回しを意識して言葉を選んだ。

「ひょっとして、傀儡師さん無理してそんな言葉遣いを選んでるの?」

「仕方ないだろ。現実のアイツはキツイ言葉遣いが苦手だからな」

 面倒臭い……という表情を浮かべながら傀儡師は台詞を並べる。

「キツイ言葉遣いが苦手と言っても、思い浮かばない訳じゃないんですよ。ただ、使うのが好きじゃなくて、使い慣れていないだけです」

「そういう無駄に頑固なところがあるから、文章並べの上達も遅いんじゃねぇの?」

「基本的にダメ人間ですから……」

 影師は少し困った表情で台詞を並べる。

「……人形の感覚なんですけど、上達してると思います」

 人形は控えめに発言した。

「上達して無いとは言ってないぜ、遅いと言っているんだ」

「……ぅぅ」

 傀儡師の台詞に人形は俯く。

「人形さん。ありがとう」

「……ぅん」

 顔を上げた人形は、最初の頃、傀儡師にアドバイス? された笑顔を作った。

「まぁ、結局の所、俺は悪役という訳だ」

「苦労を掛けます」

「構わないさ」

 傀儡師は珍しく優しげな微笑みを見せた。

「傀儡師さんは悪役なんだ。じゃあ、陽炎はその手下でいいのかな」

「こいつは俺の手下なのか?」

 傀儡師は、陽炎を指さしながら影師に聞く。

「当初の予定では、陽炎さんは、傀儡師さんの人形の一つとして登場させる予定でしたが……変更されてるんですよね」

「なんで予定が変更になったんだ?」

「なんとなくの思い付きじゃないですかね。たぶん深い意味はないですよ」

「城に辿り着くのも思い付きで……って展開もありうるのか」

「どうですかね。……まぁ、このお話の目的は登場人物のキャラクターの書き分けです。ストーリー重視ではないんですよね」

「ストーリーは無くて、あるような感じか。……ある程度は、城に辿り着くまでを描いて欲しいものだな」

 傀儡師はとりあえず、話の流れをまとめた。

「ねぇ、それで、陽炎は傀儡師さんの手下なの? 肝心なところが抜けてるじゃない!」

 男たちの話を大人しく聞いていた陽炎が不満を漏らす。

「現状、俺の人形はこいつだけだ」

 傀儡師は隣に大人しく座っている人形の頭に左手を乗せる。

「……」

 無言の人形の表情は少し嬉しそうだった。

「悪役と一緒に城へ向かう。……森の魔女? ひゃぁひゃぁ」

 陽炎は前回の時に並んでいた文章を自分の設定と結び付けようとしていた。

「陽炎さん。微妙にキャラがブレてません?」

「自分の呼び名を森の魔女にしておけばよかった」

「スルーですか。……改名します?」

「……森の魔女、陽炎でいいかな」

 陽炎は”森の魔女”という通称? を手に入れた!

「人形も何か通称が欲しいです」

「人形という呼び名自体が通称みたいなもんだろ。お前は俺の人形……そうだな。虚ろ人形の人形だ」

 人形は”虚ろ人形”の通称? を手に入れた!

「虚ろ人形……ありがとうマスター!」

 嬉しそうな声がバンガローに響く。

「そういえば、お前は魂が無いという設定だったが……前々から思っていたけど、そうは見えないな」

 傀儡師は初期設定を思い出しながら人形に声を掛ける。

「それは、現実の世界の主の力不足でしょう……」

「そんなところだろうな」

 そんな話を聞いた人形は、魂が無い設定で会話に参加する方法を考え始めていた。

「まぁ、登場人物の書き分け自体が魂の形成みたいなものでもあるので、自然に会話に参加すれば問題無いはずですよ」

「そうなのですか。では、今まで通りに行きます」

「それでいいと思います」

 二人の会話を聞きながら、傀儡師は窓から外の様子を見てた。それにつられて陽炎も窓の外へ視線を移した。

「いつの間にか、結構明るくなってるね。月が満ちてきてるよ」

「らしいな。現実のアイツめ……この話の文章を並べるのを途中でだいぶ放置してたな」

 月の様子を見るために立ち上がり、窓の近くへ歩いていく。

「人形も……虚ろ人形も見ます」

 通称を装備して、窓辺に立つ傀儡師の側へ小走りで向かう。

「あらあら、可愛いものね。……じゃあ、森の魔女は影師さんとお話しでもしようかな」

「お話ですか。結構人見知りなんですよね……」

 姿に惑わされて苦手意識が湧き上がる。

「失礼ね。こんな健康的な女の子に向かって!」

 ショートカットで日焼けした顔に、怒った表情を作って台詞を並べる。

「すみません。陽炎さんが嫌いなわけじゃないんです。その姿に戸惑っているだけです」

「ひょっとして、この姿って影師さんの好み?」

 悪戯っぽく微笑みながら尋ねる。

「うーん、好みですか……。どちらかというと、色が白くて髪が長い方が好きかもしれません」

「……真逆じゃない」

「そうですね」

 ほがらかな雰囲気で台詞を並べながら微笑む。

「ということは、外見的にはあっちの人形さんの方が良いんだ……」

 陽炎は、窓辺の人形に視線を向けた。

 人形は色の白い顔で、隣にいる傀儡師の横顔を見ている。

「外見……少しそれについての描写をするのも良いかもしれませんね」

「とりあえず陽炎は……森の魔女は、ショートカットで日焼けした顔……日焼けかぁ」

 日焼けした顔という設定が少し嫌そうに言う。

「……」

 影師は陽炎の顔を見て何か思い出していた。

「何を思い出してるのかな? 影師くん」

「くん付けですか。キャラの書き分けに役立ちそうな感じがしますね」

「そう? なら、かげろ……森の魔女は登場人物をほぼ”くん”付けで呼ぶことにするよ」

「お願いします」

 陽炎に設定が追加された。

「で、何を思い出してたの?」

「ああ、つまらないことですよ。昔、陽炎さんの存在を意識しはじめた辺りの時……夏休みも終わって部活も引退して、放課後の時間が自由で……家に帰ってからゲームばっかりやってたな……って、思い出してただけです」

「影師くん、途中までは良いけど、後半はダメダメだね」

「ダメですか。……では、途中の台詞を活用して、陽炎さんの服装は、長袖のセーラー服かジャージのどちらかでおねがいします!」

「意味がちょっと違うんだけど! ……服装はセーラー服がいいな」

 陽炎の服装はセーラー服だったという設定が追加された。

「何だか陽炎さんの設定ばかりが決まっていきますね」

「大丈夫なの? それ死亡フラグじゃないよね? そもそも森の魔女がセーラー服ってどうなの?」

「……いいんじゃないですか?」

「あ、そう。じゃあ、いいや」

 あっさりと納得した。

「なに二人で設定決めてるんだ?」

「人形も文章の並びに挟まります」

 窓から外を見ていた二人も戻って来て、それぞれ席に着いた。

「とりあえず、人形……くんは色白という設定が出来てるよ」

「了解しました」

 人形自身も自分が色白という設定を認識した。

「服装はどんなだろうな。最初の頃、こいつの服を燃やすとか言ったりもしてたけど」

「なにそれ!? 傀儡師くんは結構、外道だね」

「まぁ、俺は悪役だからな。それにしても、俺にはためらいなく”くん”付けだな」

「影師も普通に”くん”付けでしたよ」

 三人の視線が陽炎に向かった。

「人形くんには”くん”より”ちゃん”の方が良いかと思ってちょっと迷っただけじゃない!」

「……ほぼってなってるからどっちでもいいだろ?」

 文章を遡って読み返して台詞を並べる。

「人形くんは”くん”でもいい?」

「はい。問題ないです」

 優しい口調で尋ねると、人形は笑顔で答えた。

「それで、人形の服装はどんなだ?」

「以前、城に行く理由だったかを確認した時、人形さんはドレスを着るという感じになりましたよね」

「そういえば、そんな文章もあったか。じゃあ、着物か? 人形だし、日本人形っぽい感じの格好で」

「でも、今までの道中を着物で来たというのは、少し厳しいかもしれませんよ」

 影師は細かい所を気にして台詞を並べる。

「……じゃあ、ジャージだ。お前は色気も無いただのジャージを着ている」

「はい。人形はジャージを着ています。……ジャージのファスナーを少し開けて胸元をアピールしています!」

 人形は着ているジャージの前のファスナーを下げた。

「虚ろ人形の癖に色気付きやがって」

「マスターの気を引いてみたかったんです」

 言ってから急に恥ずかしくなり、ジャージのファスナーをしっかり上まで閉めた。

「じゃあ、次は影師くんと傀儡師くんの服装だね」

「男共の服装なんてどうでもいいんじゃね?」

「ですね」

 面倒臭そうな傀儡師に、影師も同調した。

「そういうわけには――――」

 陽炎が台詞を言い終わらないうちに傀儡師がしゃべりだす。

「とりあえず現実のアイツの頭を休める意味も込めて、今回はこの辺で終わりにして、次回に期待しようじゃないか」

「……それでいい? 人形くん」

「人形はそれでもいいです」

「仕方ない。……今は保留だね」

「すまないね……」

 影師は三人に頭を下げる。

「じゃ、今回は終わりで――――」

 次回に続く。と、傀儡師の台詞を途中で奪って文章を並び終える。

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