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苦手意識

 この夜の空には月がある。それは丸へと近づきつつある時期の姿。

 森を歩く三人の月明かりで出来る影は少し薄い。

 彼らの目的地は城。しかし、その場所がどこなのか描写が無い。現状の設定上、ただ進んでいればいい……。だが、どれほど進めば辿り着くのかわからない……そんな状況で進むのは疲れるもの。

「いつかは辿り着くんですよね?」

 三人の中の一人が言った。その声は女のものだった。

「いつかは辿り着くだろう。仮に俺たちが進んでいるのが逆方向だったとしても、地球は丸いそうだから問題ないだろ」

 尋ねられた一番前を歩く男は適当に答えた。

「丸いと言っても一本道という訳ではありませんから、一周しても辿り着けない可能性が高そうですね」

 一番後ろを歩く男は周囲をの木々を見渡しながら言う。

「……永遠に辿り着けないかもしれないんですね」

「永遠か……。まぁ、現実のアイツがこの話の文章を並べることを放棄しない限りは……永遠に辿り着けない……ということは無い」

 女の不安に対して、今度は真面目に答えた。

「……」

 一番後ろを歩く男が沈黙を台詞にした。

「どうかしましたか?」

「いや、何かが思い浮かんだだけです」

 左手の人差指と親指で左の耳をつまむように触れながら答えた。

「……ほぉ、山小屋? ここは山だったか? バンガロー? ……とりあえず家っぽいのがあるぞ」

 一番前を歩く傀儡師は歩く先にある建物を指さして言った。

「ここは森です」

 傀儡師の台詞に人形は静かに丁寧な口調で台詞を並べる。

「まぁ、なにはともあれ、今回はあそこで休憩しよう」

「なんだか、人の気配がする気がしますね」

 影師は視線の先にある家を観察しながら言う。

「森か……魔女がいるかもしれないぞ」

「魔女ですか?」

「登場人物を追加ですかね」

 三人は進んで行き、その建物の玄関に辿り着く。そして、傀儡師はドアをノックした。

「窓から明かりは漏れていないけど一応な」

 建物の中に誰もいないと予想しているらしい。

「誰もいないのでしょうか?」

「……地の文が”らしい”と言っている。誰かいる可能性が高いな」

 傀儡師は地の文から先の展開を推理した。

「誰も出て―――」

 影師が台詞を並べ終わる前に、ノックされたドアが開いた。

「どちら様ですか?」

 ドアの向こうから、明るい声が聞こえてきた。

「城へ向かう一行だ」

「あー、お待ちしてた。どうぞ……」

 明るい声のぬしは、三人に中に入るようにうながした。

「お邪魔します」

 人形の言葉を合図に彼らは中へと足を進めた。

「何もない所ですが」

「確かに特に特別なものはなさそうだ」

 目につくのは長方形のしっかりとしたテーブルと、椅子だけ。細かく見れば他にもいろいろあるけれど、取り立てて描写するものはない……ということにしてある。

「そういう所も描写した方が練習になるんじゃねぇか?」

 傀儡師が地の文にダメ出しをした。……ぬぅ。

「このお話は登場人物、キャラクターを書き分けるのが主な目的だったような気がします」

 人形は、この話の練習目的を微妙に台詞にした。

「……どうぞ、空いている椅子にお座りください」

 座るように促されて三人はそれぞれ椅子に座った。……上座かみざなどの知識は持ち合わせていない……ので、とりあえず長方形の長い面に並んで傀儡師と人形が座り、反対側の長い面に影師が座る。影師の正面には人形がいる。

「では……ここに座ります」

 新しい登場人物は、テーブルの短い面に座った。そこから見て左正面には傀儡師がいる。

「とりあえず、落ち着いた感じだな」

「そうですね」

 傀儡師の台詞に人形が答える。

「……なんだか影師の影が薄いな。微妙に駄洒落っぽいぞ!」

「はは、ちゃんといますよ」

 今回の登場人物に影師は何か思う所があるらしい。

「なんだ? 知り合いか?」

「姿形は……でも、本物の中身は知りません」

「影師さんの過去の記憶にある人物の姿……。自分のことを何と呼べばいいのかな……」

 少女の姿をしたソレは、台詞の通り考え込む。

「森の魔女は老婆だと思ったが、姿は少女だったか」

 傀儡師は少女の姿と描写された女を見て言う。

「森の魔女かぁ……老婆はともかく、影師さんにとっては魔女という描写はある意味正しいかもね」

「……まぁ、おかげ様で永遠を理解するのには役立ったよ」

 影師は頭を軽く掻きながら静かな目をして言う。

「ほー、何やら因縁がありそうだな」

「因縁があるんですか」

 影師と人形は興味を抱いた。

「期待するほどのモノはないよ。この姿の時でさえ、中身をよく知らない。それほど話をしたこともないし」

「影師さんが少年だった頃の記憶にある姿。この姿の本当の中身を知ることは……永遠にないだろうね」

 意地の悪そうな、それでいて残念そうな表情で少女は台詞を並べる。

「影師にも子供の頃があったんだな」

「そりゃ、ありますよ」

 影師はこの状況に少し慣れてきたらしく、口調に余裕がある。

「決めた。陽炎かげろうと名乗ることにする」

 陽炎は、ショートカットの髪型で日焼けした顔に、笑顔を浮かべて名乗った。

「よろしくね」

「まぁ、流れからして一緒に城へ向かうことになるだろう。よろしく」

 人形と傀儡師は改めて挨拶をした。

「よろしく」

 影師も流れで挨拶する。

「影師さんは、陽炎が一緒に行くと迷惑かな?」

「迷惑ではないよ」

「じゃあ、一緒に行く」

「よし、決まりだ。もう少し休んだら出発しよう」

 傀儡師は、本心では先を急いでいる。

「お城の場所に心当たりありますか?」

 人形は陽炎に尋ねた。

「全く心当たりがないなぁ」

「陽炎さんの記憶と同時期には城のことは、記憶の奥底に埋もれていたからね」

 影師は陽炎に対して微妙に苦手意識があるらしい。

「苦手意識? 何かを一応はっきりさせておく?」

「まぁ、そうだね。その方がスッキリしそうだ。……陽炎さんのその姿を登場人物として出した。これはすでに出ている”答え”を再確認するという感じかな。……あるいは自分をいじめてみたくなっただけかも」

「微妙に未練がましい?」

「さて? どうかな。今となっては、もう必要が無い答えだし……」

「答え……お話の中とはいえ、存在を与えられた今なら答えることが出来るよ」

虚構きょこうの答えか……。本物の答えを知ることは、この先も恐らく永遠にない。それでいいと思っている。あの頃という永遠は終わってしまったから。本当の陽炎さんはオレを救ってはくれなかった」

「救われなくても永遠を終わらせた。強くなったんだね」

「強くなったというより、力を得た感じですよ」

「あ、そう。……とりあえず、この陽炎に何か特別なことを望んでいるわけではないみたいだね」

「記憶にある姿、そして中身が違う。……ある意味、人形なのかもしれない。……傀儡師さんの手駒てごまとして? ……使い方次第ではあるじにとって厄介なキャラクターになりうるのか? ……なるほどね」

 影師は何やら納得してスッキリしたらしく、陽炎に対する苦手意識がうすまるのを感じた。

「苦手意識が薄まってなによりだね」

「苦手意識と言っても、今も昔も、憎いとか嫌いという訳じゃないのだけど。……なんとなくね。……助けて欲しいと願ったけど叶わなかった。でも、今までもこれからも陽炎さんへ憎いとか、そういう感情を抱くことは無いと思う」

「そうなんだ。意識してまた好きになっちゃったり?」

「たぶんそれも無い。その記憶はあっても、その想いは遠い遠い時の向こう……、だからこそ……その結果として今のオレがある」

「……わかるような、わからないような感じだけど。とりあえず、ちょっと傷つくな……」

「うぅ……」

 影師は陽炎の台詞に少し怯んだ。

「あら? 意外と隙がありそう」

「……隙をつかれると、意外と警戒心が上がりやすいんですよ」

「そうんなんだ」

「そうなんです」

 影師と陽炎の会話がひと段落した。

「……話は終わったか?」

 椅子に背中を預けて顔を下に向けながら、軽くうたた寝をしていた傀儡師がその恰好のまま聞いた。

「ええ。終わりました」

 影師は椅子の背もたれに背中を預けてリラックスしながら答える。

「このお家の中を探したら、お城への道のりの手掛かりがあるかな?」

 人形は先ほどから考えていたことを口にした。

「どうなんだろう。陽炎も今回ここに配置されただけだから、よくわからない」

 陽炎は前からここで時を過ごしていたわけではない。

「まぁ、地の文が”取り立てて描写するものはない”と文章を並べたから。ヒントがある可能性は低いな。”ということにしてある”ってのが気にはなるが……そこまで考えていたとは思えない」

「そこから、後付をするつもりかもしれませんよ」

「どうだろうな」

「とりあえず、探してみましょう」

 最初に言い出した人形は立ち上がると、壁際を調べ始めた。

「陽炎も探してみます」

「じゃあ、オレも」

「仕方ない。俺もさがすか」

 四人は城への道のりの手掛かり……ヒントを探し始めた。

 という感じで次回へと続く。

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