氷の仮面
なんだかんだで、朝になった。既に両親は仕事で出かけている。テーブルには、お母さんが作ってくれたおにぎりと味噌汁があった。
私はそれを食べ終えると、すぐに準備へと向かう。
新しい制服を身にまとい、髪をとかす。すべての準備が整い、玄関へと向かった。
「行ってきまーす。」
誰もいないけど、この一言いうだけでなんだか結構違うんだ。なんでだろ?
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「○○中学から転校してきました、緒方奈々です。」
先生にみんなの前で自己紹介を求められたので、淡々と簡潔に自己紹介を済ませた。
「じゃあ、緒方の席はあそこな。」
そういって先生は、窓際の列の一番後ろを指差した。私はそこへ向かう。その途中で、少しざわめきが聞こえてきた。
「○○中学って、エリート中学じゃない!?」
「そうだよ、そんな人がなんでこんな普通校に来たんだ・・・?」
「・・・。」
私が前に通ってた中学は、この辺でもトップ校といわれるエリート校だった。私も小学校の時に自ら望んでそこを受験した。
休み時間になっても、誰も私に寄り付かない。というか、どこか壁を作ってる。まぁそりゃあそうだよね。お高くとまっているようなエリート校にいたやつなんか誰も寄り付かないわな。うん、これでいいんだ、これで。
誰にも干渉されない、私の望む場所。やっと手に入れた。そう思った矢先だった。
「・・・さん、緒方さんっ!!」
「ふえっ!?」
急に声をかけられたので、なんとも間抜けな声を出してしまった。
「緒方さんいいの?なんか勝手に委員会決まっちゃってるけど?」
「へ?」
隣の人が指差す黒板にはこう書いてあった。
学級委員 男→瀬川 女→緒方
「はいっ!?なんで私が学級委員なの!?」
私は思わず立ち上がって、先生に問いかけた。
「あぁ、この学校では学級委員を投票で決めるんだ。その結果、女子は緒方が一番多かったんだ。拒否権なしだ。」
「そ・・・そんな・・・。」
なんてこった。私の理想の世界は一瞬にしてぶち壊された。しかも学級委員とか、絶対エリートだからって私に押し付けただろ!?
「緒方と瀬川は放課後部活行く前に学級委員の集会あるから来いよー。」
そうして、1時間目の授業が終わった。
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「・・・マジかよ。」
集会が終わった後、私たちはクラスごとに次の授業参観の資料作りをやることになった。正直言って、マジでめんどい。早く家帰って録画しておいたアニメ見たい。
そんなことを考えていると、教室のドアが開いた。
「調子はどう?緒方さん。」
同じ学級委員の、瀬川彰人。彼はどうも委員長になったらしく、先生になんかいろいろ話をされていたようだ。
「別に・・・大丈夫。」
私はすぐに資料に目を落とした。・・・時だった。
「っ!?」
突然耳に流れた風に驚いた。その方を振り向くと、瀬川彰人がいた。
「あ、顔赤くなってる♪」
「・・・何してんの。」
「だって緒方さん、俺が心配したのにそっけないんだもん、ちょっといたずらした♪」
「ふーん・・・。」
不意打ち食らったので、ちょっと動揺してるよ私。どうしよう・・・。
「てか、なんなのあなた。」
「へ?」
「なんで私に話しかけるのって。誰もが寄り付かなかった私に、どうして話しかけたの?」
可能な限り冷たく言う。そして突き放す。それが私の望むこと。しかし・・・。
「じゃあ逆に聞くけど、いちいち理由って必要?」
「はっ?」
「世の中にはさ、なんとなくってもんがあるの!いちいちかったい理由つけるとか、意味なくない?」
「・・・・・。」
何言ってんだこいつ。言葉も出ないくらい、単純な答え。てか、また不意をつかれた。
「・・・なにそれ、意味わかんないんだけど。」
「今はわからなくていいよ。これからよろしくね!あ、奈々ちゃんってよんでいい?」
「どうぞご自由に。」
「じゃあ奈々ちゃん、さっさとコレ片付けよう!!」
そして瀬川君は資料に手を付けた。
それと同時に、私の胸の奥はなんだかもやもやし始めた。