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流星のヴァルキリー  作者: 夢見 旅路
第5章 もう一人のヴァルキリー
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第8話 教主と枢機卿

 記憶喪失のエルムの個人情報を確認する為に外出したら担当で出てきたのは教主様でした。そんな報告を受けたら流石に本人たちから詳しい事情を聞かない訳にはいかない。ケインズは疲れた表情でエルムとあとフィオを艦長室に呼び出した。

「さてある程度は報告書を受け取っているから良いんだけど幾つか改めて確認させて貰うよ。本当に教主のマシュー・ノル・トルトニアン猊下が出てきたの?」

「はい」

「顔見たの初めてだけどそう名乗っていたぞ」

 教主の顔を知らないって最近の子は…あぁいや違う。フィオだからか。あのシャルロットに対しての誰だお前発言からフィオの一般常識に関する信用度はそんなものだ。この年頃の子の社会教育は如何したら良いのだろうかとケインズは疲れた頭で考え始め、今はそんな場合ではないと直ぐに思考から追い払った。

「そう。因みに猊下には私やグラン提督が面談を願い出ているんだけど一切取り繋いでくれていないのが現状だ。今の宗教惑星系での世論の流れから行くと星間連合軍と顔を合わせる訳にはいかないのだろうね」

「エルムの場合はほら、私用だったわけだし」

「その手を考えなかった訳ではないよ?それでも駄目だったんだよ」

 星間連合軍の佐官や将官ですら門前払いだったのにエルムだけは合う事が出来た。いや彼女が持つ黒い恒星間入港許可書―大貴族や王族、またはそれに匹敵する地位の者だけが持つ事を許される―その重要性を思えばありえなくはない。しかしそれでも星間連合軍の制服に袖を通した彼女と会うのは世論を考えると危険ではないのか。

「それでも会わなければならない理由があったという事かな。さてじゃあ肝心の教主との話の内容だけど」

 ケインズがそう尋ねるとフィオとエルムは困った顔をした。話の内容も報告は受けている。だが改めて確認したいのだ。何せ少々信じ難い。

「本当に何もわからなかったと?」

「はい。教主様のお話ですとこの20年の間に私の恒星間入港許可書が使われたのはごく最近だけと言うんです」

「それまでは一度も使われた形跡がなくてそもそも発行された履歴も無いって言うんだ」

 恒星間入港許可書は本物である事は間違いない。素材や中の回路、システム至るまで偽造の形跡はない。そもそもこれを作れるのは宗教惑星系でのみでその作成には高位銀河の知的生命体よりもたらされた技術が必要になる。それは門外不出でありまた彼の技術連合でもその技術の複製は出来ないときている。

「登録情報もなし?」

「恒星間入港許可書に登録されていたのは私の名前だけでした。宗教惑星系のサーバーにも何も登録情報は無いそうです」

 おかしな話だ。年間に何千万件以上の恒星間入港許可書の更新と情報の管理をしていて宗教惑星系がミスを犯した事は一度もない。

 しかしある意味ではそれがヒントなのかもしれない。

 希少な黒い恒星間入港許可書、そして全く情報がない。そこか導き出せる答えを数通り考えてからケインズは答えを保留した。確証はないしエルムには申し訳ないが今は後回しだ。

「リュンネ君の件は残念だとしか言いようがない。だが悪いけど後回しにさせてくれ」

 今は教主派の動きが知りたい。どんな小さなことでもだ。

「教主と話した事を詳細に教えてくれるかい?何でも良いんだ、会話の端から何か分かるかもしれないからね」

 フィオとエルムは顔を見合わせ、

「エルムの事は引き続き調べてくれる事になったんだけど」

「はい。その後は大したことは…そうですね」

 エルムは頤に指を当て、

「十字星教に関して教えて貰った事くらいでしょう」


 話の流れからフィオとエルムが十字星教にあまり詳しくない事が、いや教養ゼロである事がバレてしまった。これが例えばほかの宗教、例えばブッキョーとかいう東洋人の一部が信仰している宗教に帰依しているとかならまだ良かったのだがフィオの場合は単なる無知である。しかも興味ないから知らんという。十字星教のお膝元でしかも教主の前でそれを露見してしまった事にフレデリックは些か顔を引き攣らせた。

 怒らせてしまっても仕方ない。フレデリックは恐る恐る教主の顔色を窺うが、

「ではこれも何かの縁ですし、少し教義のお話をさせていただけますか」

 マシューはそう言って朗らかに笑った。流石は教主、これ位では気を悪くすることもないらしい。けれど最高指導者から直々に教義に関して教えを受けると言う有難すぎて困る展開になってしまった。

「私たち十字星教は星の意志という物を信仰しています。星は私たち人と同じく考え、営み、そして生きているのです」

「星…えっと惑星がですよね」

 フィオもそこまでは理解している。だが中々に実感はわかない。

「そうです。惑星も私たち人類同様に一個の生物なのです。水は彼らの血液であり、風は彼らの息吹であり声。ですが彼らとのコミュニケーションは私たち人類とは違う物。日々の中で彼らの意思を感じ取るのは非常に難しいのです。ですから私たちは日々の中で常に耳を傾け、彼らに寄り添わなくてはならないのです。星の意志とは言い換えると惑星が持つ魂の事なのです」

「魂…」

「魂でピンと来ない様であれば脳みそですかね」

 明け透けな言い方にライアンは驚いた。星の意志が惑星の魂であると言うのは十字星教の根幹となる教えであるのだが、

「ランスターさんも何か考える時は脳を使いますよね?そして考えた事を実行に移す時は手足を使う。けれど惑星には人の様な手足は無いので代わりに風や大地でそれを現すのです」

「でも脳みそならどっかにそれが形としてあるって事ですか?」

 エルムが質問する。フレデリックは一瞬やめろと言いたくなった。それを巡って3つの派閥が争い合っているのだ。即ち星の意志とは何処に宿り何なのかと。センシティブな話題なのであまり突きたくないのだ。

「人の体に脳がありそこで物事を考えていると分かったのは人類がこの世界に誕生してから大分経ってからでしょう。ですがそれ以前に脳で考えるという事が無かったわけではありません。脳と言う存在を知らずとも人は考えるという事は出来ました。なのでもしかしたらこの世界には惑星の魂が形としてあるのかもしれませんが私たちのはまだそれを見付ける事が出来ていないのでしょう。ですが、」

「それが何処にあるかは分からなくても星は考えて行動している、って事ですか?」

「えぇ。彼ら若しくは彼女たちは私たちに何かを伝えようとしてくれているのです。故に私たちがするべきは何を考え行動したのか、人の五感で考えるのではなく魂で考えるのです」

「考える?」

 えぇとマシューは頷いた。頬を風で撫でれば何を伝えたいのか。それを只の自然現象だと考えるのではなく何故、撫でたのかを考える。

「貴方が悲しんでいる時に風が頬を撫でたのならそれは星が貴方を慰めようとしていたから。何かを探している時ならそれを教える為。星が声に出さない事を考えるのが十字星教の教えなのです」

「それは…」

 エルムは何かを考える様にして口を噤みそして、

「人と人との間にも言える事ですよ、ね」

 マシューは少し驚いた表情を見せ、

「…えぇそうです。十字星教はただ星の意志を読み取ることを教えるのではありません。人と人との間にもそれを適する様にと教えるのが私たちの教えなのです。私たちはそれをこう説き教えます。『汝、星と接すると同じくし隣人に接せよ』と」

 彼女は意外と十字星教の教えを理解する下地があるのかもしれない。マシューはそう思った。

「でも不思議です」

「何がでしょう?」

 エルムは首を傾げる。

「今のお話と十字星教が恒星間の移動を管理しているのはどういう関係があるのでしょうか」

 記憶喪失だから仕方がない。そう思わなければやっていられないとフレデリックは虚無を見つめた。教義の根源というか迂闊に触れると聖職者の怒りを買いかねない問題をこうも踏み抜いていくエルムにライアンも緊張した。

「銀河を跨ぐと中々、話が通じる相手と言うのが少ないのです。私たちは望まない争いを少しでも回避するべく相互補助する為に十字星教と言う教えと共に宇宙の渡り方を教えているのです」

「宇宙の渡り方?」

 星海図の読み方だろうか。フィオが考えているとマシューに一人の侍女が耳打ちをする。

「あぁもうそんな時間ですか。リュンネさん、申し訳ないのですが別の用事がありましてまた日を改めてお会いしたいのですが」

「分かりました。教主様には私の為にお時間を作って頂いた事、深く感謝します。それと教義に疎い私に教えを説いて頂き有難う御座います」

 そう言ってエルムは頭を下げる。フィオも一緒に頭を下げる。正直、十字星教には興味がないのだがそれとは別に敬意を払える年長者に教えを受けた事、それは頭を下げて礼を述べるべき事なのだ。教養とは関係なく礼儀を良く知る二人にマシューは一層笑みを深くする。

「私も貴方がたと語り敢えて楽しかったですよ。もしも十字星教の事をまだ知りたい様でしたらお土産を用意してあります」

 それからとマシューは言い、

「そちらのお嬢さんもその焼き菓子が気に入ったならお土産に用意しましょう」

「この空気でずっと出された菓子を喰い続けられたお前をマジで尊敬するわ」

 すでに4皿目に手を伸ばしていたアリアはマシューの言葉にこくこくと頷いた。

 当然、フレデリックの言葉なんて耳に入ってはいない。


「…そうか。それでアリア君はお土産に焼き菓子を貰って君たちは」

「はい。この十字星教の入門書っていう本を頂きました」

「教典とは違うんだよなこれ」

 そう言って二人が見せたのはデカデカと赤文字で<なぜなに?十字星教の入門編>と書かれた明らかに幼年学校で使う様な教科書だった。出版元は宗教惑星系で編集者にはマシュー・ノル・トルトニアンと書かれている。ケインズはどういう表情をすればいいのか迷った。突っ込みたい所も多いし言いたい事も多いけど二人の報告からは残念ながらケインズが知りたかったことは分からなかった。

「それで確か、次に会うのは明後日だっけ?」

「そうです。教主様がお時間を作って頂けて」

「正直、こんだけ調べて2日後に新しい発見があるとは思わないけどな」

 エルムの事が遂にわかると思っていたフィオは不満を述べる。

 それよりも最高指導者が気軽に2日後に予定を開けてくれた事に疑念を覚えてくれとケインズは思ったがエルムの持つ恒星間入港許可書が王侯貴族クラスの物だと考えるとありえなくはない。だが一先ずは、

「分かった。ではランスター少尉とリュンネ二等兵に命令を下す。明後日までにその入門書を隅々まで読み切って十字星教について学んでおく事。マックナー中尉とハヤカワ副艦長による特別授業も用意するから絶対に覚えるように」

 じゃないと相手に失礼だよとケインズが締めくくると二人は顔を見合わせる。

 一応、ケインズが命令だと言ったので敬礼で返すのが正解か、そう考え二人は滅多にしない敬礼をケインズにすると退出した。

 長い軍歴の中でもこんな命令を下したのは初めてだ。最近の若い子の教養不足って深刻なのかなとケインズは遠い目をして、

「あ、アリア君にも後で注意しておかなきゃ」

 何だが自分のキャラの役回りじゃない気がする。そんな事を考えながら背もたれに寄り掛かると、

「…うん?」

 ある事が引っ掛かった。話を聞いている時には、その話の内容にインパクトがあり過ぎて気付かなかったが、

「なんでお土産の入門書が2冊もあったんだ?」

 まるでエルムとフィオの為に用意していたかのように感じられる。

 何か裏がある。ケインズの脳裏に警鐘が鳴った。


 色々聞きたい事はあったがゼクスは一つだけ、本当に呆れかえっている事を訊く事にした。

「お前、どんだけ根回ししているんだよ」

「は?何がでしょうか」

 ディーンは眼鏡のブリッジを指で押しながら首を傾ける。これは本当に分かっていないなとゼクスは嘆息した。

「拘束されて2日で解放とかありえんだろ。こっちはもっと少なくとも1週間は足止め喰らうかと思っていたぞ」

「まさかテロ容疑で拘束されるとは思っていませんでしたから。2日も掛かってしまいました」

「うん。やっぱお前って変人だよな」

 自分が拘束された時のことまで考えて部下に指示を出しその上で早期に開放されるために本国の子飼いの情報部にマニュアルを作成しておくなど常軌を逸している。

「何事も備えを用意しておくのは戦略家としては当たり前の事でしょう。戦場とは始まる前までにどれだけの準備が出来たかで勝敗が決まるのです」

 有名な話ですよとディーンが言うとそれくらい知っているとゼクスは返し、

「その上でお前は変人だって俺は思っているんだよ」

「…?これ位普通では?」

 ゼクスは諦めた。この謀略家には何を言っても仕方がない。

「で?どうするよ。今すぐにでも出発できるが何だかんだ2日は足止め喰らったんだ。安全に行くのなら1週間はかけて進軍した方が良い」

 なにせ4個大隊の規模なのだ。遅れを取り戻そうと無理をすれば逆に足を絡ませかねない。

「いえ急ぎましょう。期日が明確に決まっているのです。それに間に合わなければ」

 ディーンは厳しい表情をし遥か先の惑星ヘブンズゲートを睨む。

「この作戦は失敗します」


 教主派。それは現教主であるマシューを中心とする派閥であり一言で言えば中立派だ。星間連合とダーナ帝国の戦争に対して中立の立場を貫き、干渉を行わない。どちらか陣営に肩入れする事も戦争自体に反対することもない。只、星の導きに従って祈るのみと教え説く。一方で両陣営に対して門戸を開き来るもの拒まずの姿勢は極めて異例なグレーゾーンを作り上げた。敵国ではあるが、いやむしろ敵国であるからこそ値が張る物もある。嗜好品に限らず特殊な医薬品やその原材料、あくまで戦争に関わらない範囲内での交易はどちらの陣営にも需要はあった。宗教惑星系はその場を提供したのだ。

 実に300年。それだけの期間を保ってこられたのは十字星教と言う基盤だけでなく歴代教主と枢機卿の存在。


 疲れ切った報告を受けた翌日今度はケインズがフィオ達と同じ建物に呼ばれる事になった。急な話にケインズはやや面を喰らいながらも門をくぐった。

「…来たぞ」

 隣に座るウルス・グランがケインズに言う。歴戦の少将も流石に緊張しているらしい。若手と言え相手はケインズの3倍は生きている。

「お待たせいたしました。星間連合軍の勇士の皆様方をお出迎えできて光栄です」

 柔和な笑みを浮かべるその人物は実年齢を感じさせなかった。アンチエイジングは珍しい事ではないがこの方の種族ではそれはあまり好まれていない。

「こちらこそ名高いドレイク枢機卿のご尊顔を拝する事が出来て感激です」

 ドレイク・リシュターナ。新派を率いる枢機卿の一人で長寿族だ。

 十字星教の教主と枢機卿は古くより長寿族のみが就く事が出来る地位だ。教義によると高位銀河の存在がこの銀河に十字星教という監視組織を作り上げた時に共に高みの銀河より遣わされたという。他の銀河からの移民か、それとも遺伝子研究による産物なのか議論はされているが結論には至っていない。

「どうぞこちらへお座りください。あぁ君、飲み物を用意してくれ」

 傍に使えていた侍女の一人にそう命じた。侍女が部屋から退出すると、

「まずはこれまで会談の時間を取れずにいた事をお詫び致します」

 ドレイクは二人に頭を下げた。侍女を下げさせたのはこの場面を見させない為だろう。

 世間ではまだ星間連合は<王家の路>を隠し続けて来た悪者だ。教義のスタンス上、枢機卿が星間連合軍に対して頭を下げる訳にはいかないという事かとケインズは考えた。

「いえ。貴重なお時間を割いて頂きこちらこそ申し訳ない」

 ウルスがそう言うとドレイクは有難う御座いますと言い頭を上げた。

「それでは早速で申し訳ないのですが話を進めさせて頂きたい」

 ウルスはそう言うと今回の軍事行動があくまで星間連合の市民を保護する事を目的としておりその為に協力を願いたいという旨を伝えた。この事は既に伝わっている事ではあるが敢えて言葉にする事で念を押す。

 星間連合は宗教惑星系とダーナ帝国との諍いに介入するつもりは無い。ここで星間連合とダーナ帝国の戦争をする気はないのだと。

「グラン提督のお話は良く分かりました。敬虔なる信者の為にも微力ながらご協力致しましょう」

 ドレイクがそう言うとウルスはひとまず胸を撫で下ろした。

 さて次だ。ケインズは気を引き締める。

「ご理解を頂けて幸いです。ドレイク枢機卿のお力添えがあれば市民も安心して避難が出来るでしょう」

「有難いお言葉です、マクシミリアン大佐。ですが私の力では及ばない事もあります」

「それは…やはり教主様のことでしょうか」

 ケインズがそう尋ねるとドレイクはキョトンとした顔をして、

「あぁ。いえ、そうではありません。確かに教主様とは教義上では対立をしていますがそれはあくまで解釈の違いによるもの。信者と星の意志を愛する気持ちは同じです。信者の身命が危ぶまれるというのならそれを妨げる事などお互い決して致しません」

「では旧派?」

「そうですね…彼らもまた危惧するに値します。ですが私が気掛かりなのは星の意志なのです」

「星の意志、ですか」

 ケインズは顔には出さなかったが面倒な事になったぞと思った。

 宗教を否定する気は毛頭ないしその重要性だって理解している。だがこうした局面だと軍事の理屈(現実)と教義の理屈(理想)が反する事の方が多い。

「星の意志は本来、平和を望む物です。この地で戦いの火が起こるとなれば平和を愛する星の意志が何をするか分かりません」

「しかし我々の行動は戦いとは反対の物、人命を救う為の行いなのです」

「人の眼にはそう見えるでしょう。しかし星の意志がそう感じるとは限りません」

 ドレイクは首を横に振る。

「彼らは私たちとは全く違う視点でこの世界を見ています。人の善意が必ずしも星の意志にそう映るとは限らないのです。我々は気難しい星の意志をよく観察しなければなりません」

「仰る通りかと」

 ケインズは作り笑いでそう答えた。出来ればさっさと結論を言って貰いたい。結局、何がしたいのか。

「宜しければ星の意志が皆様方のご加護になる様に祈らせて頂けないでしょうか」

 枢機卿の祈りが無料な訳がない。金かとケインズは思った。隣に座るウルスも同じ事を考えていた。

「有難いお申し出ですがそれに見合う対価を我々では…」

「いえいえ。祈りを捧げるのは聖職者として当然の使命です。対価など求めたり致しません。全ては信仰の為です」

「流石はドレイク枢機卿であられる。感銘を受けました」

 ケインズを真似てかウルスも作り笑いを浮かべる。信仰の為とは言ったがケインズもウルスも新派ではない。かと言って教主派でもないし旧派でもない。ドレイクが有能なら既にその事くらい調べ上げている筈。

 深読みするなら新派への参加を求めている。ケインズはウルスと目配りをする。

 参加しますか?

 するわけないだろう。

 言葉を交わさずとも分かった。

 ケインズはふむと手を顎に当てて考えた。いい機会かもしれない。ドレイクの口から出てきたのだし話の流れとしては尋ねてみてもおかしくはないだろう。

「しかし星の意志ですか…あぁいえ、勿論私も十字星教を崇める者として当然に信じています。ですが以前よりどうしても訊いてみたい事がありませいて」

「構いません。信者の疑問に答えるのも私どもの務めです」

 ではお言葉に甘えましてとケインズは言い、

「枢機卿は星の声をお聞きになった事はありますか?」

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