第6話 惑星デヴァンタール
この時代、全ての宇宙の航行はクロス・ディメンジョンに依存している。例えばある惑星Aから等距離にある2つの惑星にとる。全く同じスペックの宇宙船で同時に惑星Aに向かったとしても2つの惑星にあるクロス・ディメンジョンがどこに繋がっていてどれ位の数あるのか、それによって到着する日数は変わって来る。または数時間で済む事もある。
同程度の艦隊を動かしても星間連合軍の方が先に宗教惑星系へと辿り着けるのもバルバス星系が非常に多くのクロス・ディメンジョンに恵まれているからだ。
しかしそれは諸刃の剣でもある。扉が多いという事はそれだけ攻め込まれる箇所も多いという事だ。そのクロス・ディメンジョンを守るのに戦力を割かなければならない星間連合軍はダーナ帝国へ積極的に攻め込む余力が足りない。これもまた星間連合とダーナ帝国が長年に渡り拮抗を繰り返している原因でもあった。
「しかし急だね。いきなり宗教惑星系への遠征を命じられるとは思わなかったよ」
「最近思うんだけどこの艦って試験運用の最中なんだよな。本当は」
色々厄介ごとに巻き込まれ過ぎだろうとフィオは顔を顰めた。普通であれば試験艦にこの様な命令が下る事は無いが、
「まぁ話によると緊急を要する事態だ。仕方ないさ」
「確かに、まさかなぁ」
ライアンの言葉に頷きながらフィオは溜息をついた。
「まさかダーナ帝国が宗教惑星系へ攻めて来るなんて」
「どう言った事情があるにせよこれは大きな波乱の前触れだ。星間連合の民間人を早急に避難させなければ戦火に巻き込まれかねない」
それはフィオにもいやと言う程理解できた。脳裏に浮かぶのは惑星パルムでのあの光景。もう二度とあんな光景は見たくない。
「けど宗教惑星系にいる全ての星間連合の民間人を護送するなんて可能なのか?どんだけいるんだよ」
「試算では10万人程で輸送艦1隻あたりに五千人を乗船させる計画だね。不便な思いをさせる事は確実だけど幾日かは辛抱してもらいたい」
だけどとライアンは難しい顔をし、
「問題はダーナ帝国があとどれ位でこの宗教惑星系まで来るかだ」
「確かダーナ帝国と宗教惑星系を結ぶクロス・ディメンジョンは一つしかなくて明日か明後日には到着するんだろ?」
「あぁ。惑星デヴァンタール、ダーナ帝国が宗教惑星系と貿易を行う唯一の窓口であり、二つを結ぶクロス・ディメンジョンがある唯一つの惑星だ。そこから直ぐにこの宗教惑星系の本星へ向かう事ができるらしい」
敵陣の事でありライアンもあまり詳しくは知らないが時間は多くは無い。
「艦長は手を打ってあるって言ってたけど大丈夫かなぁ」
そうフィオがボヤく中、視線の先のテレビでは星間連合軍が緊急の記者会見を始めた。
星間連合軍の会見から二日後、ゼクス率いる<紅翼>騎兵大隊と傘下に入った2個大隊は予定通りに惑星デヴァンタールに到着した。ジェガス17世の宣誓の後、ディーンによって編成された大遠征の部隊は調整に時間が掛かった。本来であれば惑星パルムへ援軍として送る予定だった1個大隊に加え、その手腕で更にもう1個大隊をこの大遠征に付け加える事に成功したのだ。
攻め入る矛としてはゼクスと<紅翼>騎兵大隊は非常に優秀だ。しかし大隊と名乗っているがそれはあくまで双腕肢乗機の数によるもの。所有する戦艦の数で言えば空母2隻、そして精鋭騎士の性のだが双腕肢乗機の戦闘技術及び指揮能力は高くても艦隊戦にまではそれは及ぶことが少ない。専らゼクスは自分が出陣する時は他の艦隊に援軍を頼み空母を任せて先陣を切る位だ。指揮官としてそれは如何なのか、そうした疑問は昔からあるが残念な事に精鋭騎士を運用する上でこの形が一番戦果を上げるのに適していると言うのが歴史の証明だった。逆に言えばそれだけ精鋭騎士の力が優れている訳でもあるのだが。
しかしだからと言って誰しもが精鋭騎士のお守りを好んで受ける訳ではない。艦隊戦こそが戦場の華と言って精鋭騎士に協力的ではない者たちもいる。特に大遠征となり集まる艦の数が増えれば比例してその様な考えを持つ者も増える。そう言った調整が出来るのは残念な事にディーンしかおらず準備に粛々と時間をかけて統制を取るしかなかった。
以前であれば大遠征などの場合、皇族が責任者となる事で上下の統制は楽に取れた。しかし皇族の長であるジェガス17世は病に侵され長くは動けず、皇太子たちは先の暗殺事件もあり戦陣に加える事は憚れた。他にも皇族は無論いるのだがこういった時に限ってお飾り以上に使えない者しかいない事が多く、有体に言えばいない方がマシだった。
「だからさ。陛下が一筆書いてくれればいいんだよ。俺かディーンの指示に従えってな」
「本気でそう言える貴官が偶に羨ましく思います大佐」
ディーンが極寒の眼差しを向けるがゼクスはけろっとした顔だ。まだ<紅翼>騎兵隊だった頃、こんな光景をよく目にした。懐かしいなぁとカラスは離れた位置から二人を眺めているが、
「何を関係ないと言う顔をしているザーノス少佐。貴官の悪評にどれだけ振り回されたと思っているのだ」
「はぁ。ですがわざわざ髪を染めるつもりはなくてですね…」
「……貴官はいい加減、黒髪である以外に避けられる理由をきちんと把握すべきだな」
何をしでかすか分からないと言う点ではカラスもまたゼクスやディーン同様に恐れられている。そして残念な事にその事に三者三様、気付いてはいない。
「まー過ぎた事はどうでもいいさ。それよか俺らは何でデヴァンタールに付いて早々に呼び出しを喰らったんだ?」
ゼクスはさも面倒だと言わんばかりに顔を顰めた。頼むからそんな事を言うのはやめてくれとカラスは思った。彼らの前には呼び出した人物の所まで案内する為の兵士がいるのだ。耳に入れば―と言うよりも当然、耳に入る―こちらを咎める視線を向けられる。
本人に何を言っても無駄なのでこれは自分たちで注意していかなければならないなとカラスはディーンと視線でやり取りする。嫌々ながらもディーンはその旨を了承した。この前の皇帝の間で行われた様な事をされては今度こそ不敬罪で首が飛びかねない。
カラスたちを呼び出したのはこの惑星デヴァンタールを治める領主にしてジェガス17世の第1子である人物。
名をニコラス。第1皇太子である。
ニコラス・デヴァンタール。第1皇太子にして宗教惑星系との貿易を任されている惑星デヴァンタールを統治する伯爵でもある。宗教惑星系は作物を始め家畜に至るまで殊更、食糧供給という面では向かない地質をしている。その為、食糧の全てを輸入と言う形で賄っているのだが代わりに良質な鉱山を幾つも持つ。その中にはコール・クリスタルも含まれており物資の枯渇が進むダーナ帝国では宗教惑星系からの鉄やエネルギーの輸入が滞れば深刻な事態になる。
生前、ルーツィエはこの事態を危惧していた。ダーナ帝国のエネルギーインフラを他国に委ねた状態ではないのかと。それは宗教惑星系によって間接的な支配を受ける事になるのではないかと言っていた。その点はディーンも同意見だった。
しかしニコラスは、
「我らダーナ帝国も食糧と言う交渉材料を持っている。安易に宗教惑星系が帝国の政に踏み込もうというのならこちらとしても交渉の手札を切るまでだ。加えて言うならば交渉の手札は別に食糧だけではない。貿易とはバランスなのだ」
売るとか売らないだけではない。買わないという選択もある。買い手がいなければ経済は回らずどれだけ多くの資源を宗教惑星系が保有していてもそれを星系内で消費する事も星間連合が全て買い取る事が出来ないのであればただ無駄に溜め込むだけだ。ただ留まり続け増える資源よりも流れ更なる価値を生み出す資源の方が価値は高い。また相手が買いたい物を交わせないと言うのも交易の手札。自分と相手の手札を読み合い札を切り合うのが交易の基本、
「それを相手が見誤ると言うのなら交易の価値はない。こちらからお引き取り願うまでだ」
「デヴァンタール伯は豪胆な経営者ですわ。だからこそ惑星デヴァンタールを陛下よりお任されているのでしょうけど。いっその事、何か会社の一つでも興しては如何ですか?」
ルーツィエが冷笑を称えてそう言った。それは2つの意味を含んでいた。一つは皇帝には向いていないから起業するなりして皇族争いから出て行けと言う意味。もう一つは会社と言うのが比喩で独立して国でも興せ、つまり叛乱を助長する意味。
ルーツィエのその言葉にニコラスはフンと鼻を鳴らし、
「経済の流転は国家に於いて重要な意味を持つ。帝位に就くには必要な能力と言えよう」
国家経営と言う位だからなお褒めに預かりありがとうとニコラスはルーツィエの揶揄に対してそう答えた。経営者として優れていると言ったルーツィエに対して国家を担う立場には経営者としての知識も必要だとニコラスは答え、ルーツィエの揶揄を含んだ賛辞を帝位に就く者として相応しいと言う意味にすり替えた。
皇族同士の嫌味合戦はニコラスに軍配が上がった。
閑話休題。ニコラス・デヴァンタールと言う人物は帝国に必要な交易をコントロールするのに長けてそしてまた交渉事に関してはルーツィエと渡り合える技量を持つ者なのだ。
次期皇帝の地位を狙う第1皇太子派の頭目であり、その資質で派閥を纏め上げるその手腕はダーナ帝国の開祖、レオン2世の再来とまで言われるほどだ。
そんな人物からの付いて早々の呼び出し。ゼクスではないが嫌な予感しかしないとカラスは思っていた。
豪勢なデヴァンタール領主館の絨毯の踏む心地を立ったまま廊下で味わうこと10分、入室を許され執務室へと通される。
執務室では部屋の主はこちらに見向きもせず空間ウィンドウを幾つも開いて仕事をしていた。額縁の無い眼鏡を掛け鋭い視線を走らせている。その顔つきにカラスは成程と思った。よく似ているのだ。自分が忠誠を捧げる皇帝陛下のそのご尊顔に。
「ダーナ帝国騎士団ゼクス・バーバロイ、及びディーン・カノータス、カラス・ザーノス参上いたしました」
階級的に一番上のゼクスが代表して口上を述べ敬礼する。それに合わせカラスとディーンも敬礼を行った。しかし部屋の主であるニコラスは顔を上げる事無く頷き、何も言わない。
一体何で呼んだんだろうそんな思いが浮かんだが相手は皇太子、迂闊な口は開けない。そのまま3分ほど過ぎただろうか。ニコラスは全ての空間ウィンドウを閉じて顔を上げた。
「待たせたな。楽にせよ」
「は…」
ゼクスはやっとかよと言う顔で軽く脚を開いた。
「それで何のご用でしょうか殿下」
「国内で不穏な動きがある。1個大隊で構わない。ローグ・ハインケルに戻る事は出来ないか?」
突然の事に3人は思わず顔を見合わせた。今回の作戦に関しては参謀役であるディーンが一番詳しい。ディーンから説明した方が良いだろうとゼクスが視線で促す。
「お言葉ですが殿下。今回の宗教惑星への遠征はジェガス17世陛下よりの勅命である為、それに背いて引き返す事は出来ません。ですが殿下の仰る不穏な動きと言うのも我ら帝国騎士としましては無視する事は出来ません。恐れ入りますが具体的な事をお伺いしても宜しいでしょうか?」
ディーンが尋ねるとニコラスは頷き、
「惑星パルムでの話は聞いているか?精鋭騎士アイル・ガーランドが討たれた件、<ポラリス>による告発、そしてそれに伴う隠匿されたクロス・ディメンジョンの噂」
表情一つ変える事が無かった自分を褒めてやりたかった。少なくともカラスは3つとも耳にした事のない話だった。ゼクスを横目で見ればその顔は憮然としている。察するに彼も知らなかった様だ。となれば、
「……殿下、その件に関しましては混乱を避ける為に今は情報を伏せておくようにと」
「その様に皇帝陛下が申しているのは知っている。だが現に貴様が知っているという事は何かしら関係しているのだろう」
そうだ。ディーンはアイルたちの惑星パルムまで輸送を担っていた。何かしら話を知っていてもおかしくはないし、彼の手先である情報部が掴んでいない筈もない。
「カノータス卿、今の3つに関しては情報部による綿密な調査を行う必要があるだろう。今この場で詳細を問うつもりは無い。しかしその件に関し付け加えて問題が発生した」
「と言いますと?」
「告発を行った<ポラリス>のメンバーが密入国をしてきたのだ。ここデヴァンタールにな」
その密入国者によるとダーナ帝国の有力者が自分たちの後ろ盾になっていると言う。惑星パルムでの活動もダーナ帝国に協力する為であり、アイル・ガーランドとも手を組んでいたとの事。そして、
「あの惑星パルムでの件は<灰翼>による作戦であると言っている。何か申し開きはあるかカノータス卿」
「…確かに。後詰として派遣する予定だった3個大隊が取りやめになったので私が代わりの策としてガーランド中佐に協力を行いました」
汚れ役を必要とする作戦にアイルは最初、難色を示した。しかし最後にはディーンの作戦を受け入れ行動を起こすと言った。まさかその後で<ポラリス>が関与してくるとはディーンも予想していなかったが。
「問題はそこだ。カノータス卿が立てた作戦に<ポラリス>が協力をしている。更に作戦自体もカノータス卿の独断により立てられたものでシミッター卿も知らなかった事だ。これらの事からカノータス卿が我が弟の暗殺犯である<ポラリス>と関係があるのでは疑われている」
その次に起きた連携は見事の一言だ。ゼクスの脚が一歩前に出たのを察知してカラスはニコラスから見えない位置でゼクスの服を引っ張って牽制し、ディーンはさりげなくゼクスの前に移動した。そうでなければゼクスが何を言い出すか分からなかった。
「ニコラス殿下。どうか私の話を聞いて頂きたい」
「許す」
ニコラスはそう短く答えた。
「では。まず申し上げますと私がガーランド中佐と連絡を取った時点では<ポラリス>が彼の地にいる事を知りませんでした。ガーランド中佐と<ポラリス>を引き合わせたのは帝国の協力者の一人です。名をメルクリウス」
ディーンがその名前を告げるとニコラスは疑い深い目を向けた。それもそうだろう。<水銀の神>を自称する名前に誰が疑わないでいられるか。
「メルクリウスは皇帝陛下が御自ら重用した者です。陛下直筆の勅命所が何よりの証拠。ガーランド中佐も2ヵ月前の事件の詳細を知らないが為に<ポラリス>と言うテロ組織と言えど陛下が勅命を下した協力者を無碍に出来なかったのではないかと思います」
大分嘘が混じっている。まずメルクリウスはジェガス17世が重用した人物である事は間違いないのだがディーンもアイルも信用はしていなかった。何か理由を見付けて殺しておくべきではないかとアイルからディーンは相談されていた。出来ればそれはメルクリウスの艦にいる時に言うのはやめて欲しかった。次にアイルは作戦に必要と判断すれば後ろ暗い人物だろうと利用する事に躊躇はしない。特に汚れ役が必要だったディーンの作戦には最適だったかもしれない。<ポラリス>と対面した時に何を言ったかは知らないが内心ではほくそ笑んで利用する事を決め込んでいた事は想像できなくない。
「そのメルクリウスとか言う輩、<ポラリス>と繋がりがあるのか?それとも旧派を名乗る組織の一つか?」
「それはありません。ただ言える事は宗教惑星系と関係があり、むしろ旧派を利用しているのではないかと」
「…利用だと?」
「これは今回の大遠征に関わる話なのですが…」
そう言ってディーンが話した内容にニコラスは思案を巡らせる。確かにそれはメルクリウスが宗教惑星系と関係があると考えさせられる話だ。そして旧派とは関係が無い事もだ。
「帝国の外に顔が聞くという事か」
「えぇ。恐らく武器の密輸入や情報の仕入れ…そう言った事を普段は生業にしているのではないかと思われます」
ただそれはかなり控え目な評価だ。本来はもっと何か大きな組織に関わる人物か何か―そうディーンは睨んでいる。しかしそれが何なのか皆目見当がつかずディーンは口にはできなかった。
「成程。筋は通るな」
ニコラスはそう言って頷いた。納得してもらえたかと思うのは未熟者の早とちりだ。
ディーンは顔に出ない様に苦渋の面を仕舞い込んだ。
「だがそれが事実かどうか確認を取る必要がある。その間は例え皇帝陛下の勅命を受けている貴様らであろうとこのデヴァンタールの門をくぐらせる訳にはいかない」
ディーンの話がいくら正しかろうとそれを証明する手段がなければ意味はない。もしもディーンが本当に<ポラリス>と繋がっていたとしたら帝国は裏切り者を外に出してしまう事になる。最悪、このまま宗教惑星系にて旧派へと寝返るかもしれないのだ。
それも数多の戦力と共にだ。それを防がなければならない惑星デヴァンタールの統治者としてニコラスは命じた。
「カノータス卿。貴様をこの場で拘禁する。加えてバーバロイ卿とザーノス卿はカノータス卿との接触を禁じ、また遠征艦隊も調べが終わるまで動かす事を禁ずる。これは惑星デヴァンタールを治めるデヴァンタール伯爵としての権限であり帝室規範に基づく正当な権利行使である」
全くの正論である。執務室の外で待機していた兵士たちが中へと入って来てディーンへと銃を向ける。
「ニコラス殿下。どうか銃をお下げください」
カラスはニコラスに願い出る。
「我らは忠実なる帝国の騎士です。帝国の安寧を想う殿下の御命令をカノータス中佐は理解しております。どうかカノータス中佐の名誉を汚す事なき事を」
「…良いだろう。カノータス卿」
「ザーノス少佐の述べた通りです殿下。私に向けられた嫌疑が晴れるまでこの身を殿下に御預け致します」
ニコラスは頷き兵士たちに銃を下ろすように命じ、丁重な扱いでディーンを連れて行く様に指示した。兵士たちも精鋭騎士のディーンに敬意を持っておりその身を拘束しながらも丁重な扱いで彼を連れて行った。
一方で納得のいかない表情を浮かべているのはゼクスだ。ゼクスはディーンが帝国を裏切るなど微塵も考えていない。疑いの目を向ける必要も無いとさえ考えている。
「不服そうだなバーバロイ卿」
「えぇそうですね」
だが仮にも軍人でありそしてダーナ帝国を守る騎士たるゼクスもこの措置が必要である事は頭では分かっている。
「申し訳ありませんがこちらも陛下の勅命を受けて動いてますんでね。この件に関しては本国に連絡を入れさせて頂きます」
「構わない。私が命じたのはカノータス卿との接触を禁じた事だけだ。それに本国の方でもカノータス卿の話の裏を取って貰えるならそれに越した事はない」
ニコラスとてディーンを信じていない訳ではない。敵である<ポラリス>の言葉と自国の騎士の言葉のどちらを信じると問われれば考えるまでもなく後者だ。だがそれは信頼の問題であって事実の確証ではない。故にその確証を得る為に事が早く済むのならニコラスにとっても有難い事だ。
連行されていく途中でディーンは兵士に尋ねた。密入国してきたのは誰なのかを。
兵士が答えた名前は<ポラリス>の元ナンバー2である男だった。
その名前を聞いてディーンは全てを理解した。
「あの<白蛇>め…」
戦場であったら必ず殺してやるとディーンはその瞳孔を細くし憎悪を滾らせた。