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流星のヴァルキリー  作者: 夢見 旅路
第5章 もう一人のヴァルキリー
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第4話 ヴァルキリー2号機・上

 パソコンを買い替えたタイミングで登録していた単語ツールが今になって間違っているのに気付いて修正をかけまくる…

 …自分馬鹿すぎる。

 過ぎた事を悔やんでも仕方ないので第4話です。

 宗教惑星系は独立した星系だ。星間連合にもダーナ帝国にも属さない中立を謳う。

 その一方で少なくない影響を両陣営に与えている。

 一つは宗教としての面。有史以来、確認できる宗教の中でも最古と呼ばれる十字星教は数多の銀河にその信者を持つ。そう数多の銀河だ。バルバス星系、ローグ・ハインケル星系などそう言った小さな枠組みを超えて多くの銀河に存在するのだ。この銀河に十字星教が現れたのは恐らく太陽系が出来た頃だと言われている。別の銀河でこの太陽の誕生を知った知的生命体がそこに生まれる新たな知的生命体―つまり地球人が及ぼす影響を観測する為だ。

 そして銀河と銀河に渡って信者を持つ十字星教は技術連合でさえ持ち合わせていない銀河間の交流手段を持っていると言う。それは公表される事なく代々の教主にのみ相伝されてきた。教主はその秘伝を生涯、公表する事を許されない。

 数多の銀河には今の人類と決して相容れる事の出来ない存在が三桁はあり、出会えばその日の内に戦争を起こすだろう知的生命体もいる。だが全ての銀河に於いても人類で言う所の闘争を嫌う個人はおり、そうして存在たちによって銀河と銀河の交流は慎重に行われている。これが十字星教の目的である。そして代々の教主の言葉を借りれば人類はまだ他の銀河の知的生命体と価値観を共有するのは不可能と断言できる、と。

 星間連合、ダーナ帝国共にこの意見を尊重する姿勢で宗教惑星系は独立で不可侵の場であると互いに定めた。

 そして恒星間の移動も未知のクロス・ディメンジョンによる不慮の事故で他の銀河に飛ばされる危険があるからという理由で十字星教が監視をしている。

 恒星間入港許可書を十字星教が管理しているのはその為である。

「見た事も詳細も分からない他の知的生命体だとか銀河だとかよく信じられるよな」

「何百年か前の地球人は異星人の存在を信じる事ができず恥を晒しましたからね。その教訓でしょう」

 ディーンがそう言うと成程なぁとだけ言った。

「で?話の続きだが何で帝国が滅びる話に繋がる?」

「これが只の条約破りになるからではありません」

 十字星教のみが知る他の銀河の中には科学や技術に於いて人類の数段先を行く者たちもいる。仮にその者たちに十字星教が助けを求めたらどうなるか。ディーンにもそれは全く分からない。

 強大な力を隠し持つ宗教惑星系は中立と言う立場を保つ為に星系内の食糧供給を全て星間連合とダーナ帝国に依存している。どちらかが供給を止めれば宗教惑星系は崩壊する。

「なのに何でウチに噛み付いて来たのかね」

 全く分からないとゼクスは眉間に皺を寄せる。

「食糧供給に関して解決方法を見つけたか…もしかしたら」

 そこまでディーンは口を開いたが首を横に振った。

 その様子に訝しながらカラスは

「しかし宗教惑星系を攻め落とすとしてもどの様な手段を用いると言うのでしょうか」

 そう疑問を口にする。

「カノータス中佐の懸念を横に置いておく様で申し訳ないのですが数で攻め落とすのは簡単でしょう。ですが無抵抗を貫くとは思えません」

「十字星教が抱える僧兵集団か」

 僧兵とは簡単に言えば十字星教の軍隊だ。戦艦の数は問題ではないが兵士の数と質が問題だ。兵士の数で言えば星間連合軍に匹敵し質で問えばダーナ帝国騎士団の武人とも渡り合える人材が幾人もいると聞く。

「専守防衛を主にしていて攻め入る為の戦力を有していないと聞きます。それ故に守る事に関しては卓越している―それが宗教惑星系の僧兵だと聞きます」

「概ねその認識で間違いない。だからと言って打つ手がない訳ではない」

 少なくとも13の手法をディーンは思いついた。だがそれをディーンは実行しようとは思わなかった。リスクも高いし確実ではない。せめてもう一枚、手札があればとディーンは歯噛みした。

「陛下がどの様な作戦を取るのか。それが問題だな」

「と言うか第28次星間連合侵攻作戦はどうするんだよ。あれも進展が全く分からないぞ」

「……」

 実の処、ディーンは星間連合侵攻作戦に関しては少し情報を仕入れていた。と言うよりも順調に行けば再び惑星パルムに訪れる予定だったのだ。後詰の3個大隊を率いてだ。

 <青翼>が惑星パルムの重要施設を破壊し指揮系統に混乱を起こしている事は報告を受けていた。ディーンはその援護に向かう予定だったのだが今回の大遠征でその予定は変わるだろうと考えていた。

「失礼致します。バーバロイ大佐、カノータス中佐、それにザーノス少佐はこちらにおりますでしょうか」

 扉の外から問い掛けられゼクスが答えると年若い女性騎士が三人に敬礼をする。

「お話し中に申し訳ございません。ウンダー元帥より出頭する様にとの事です」

 カラスたちはお互いの顔を目配せした。嫌な予感しかしない。

 三人同時にと言うのが特に不安だ。

「懐かしいなぁ。<紅翼>騎兵大隊の結成当時の事を思い出すぜ。俺が前衛、ディーンが指揮と作戦立案。カラスが後方支援で大暴れしたよな」

「思い出したくもありませんね。特に暴走する誰かさんたちの後始末でシミッター少将にはよく呼び出されていましたしね」

「作戦が非情過ぎるとよく言われてましたけどね…」

 カラスがぼそりと呟く。


 数十分後、カラスたちに告げられたのは宗教惑星系への大遠征への出撃とその作戦内容であったが、

「カノータス中佐、この作戦の成否を問いたい」

「…手札は揃いました」

 ディーンはそう短く答えた。13の手法を思いついたディーンが欲した最後の一枚。

 しかし当のディーンの表情には不満と疑念が浮かび上がっていた。


 <ポラリス>のナンバー2の名は伊達ではなかった。惑星パルムで捕縛しオスカーの口から吐かせたテロ組織の情報は軍の上層部を卒倒させかけた。情報はあっても確証がなかった組織はまだいい。だが全く感知していなかった組織がバルバス星系に幾つか存在すると言うのは非常に良くなかった。すぐさま討伐部隊が編制され連日、艦砲は音を轟かせていた。

 その頭数を補うべくシルバー・ファング号も討伐部隊に駆り出されていた。

「本日、作戦に参加させて頂く重騎士槍級シルバー・ファング号の副艦長のハヤカワ中佐です。微力ではありますが宜しくお願い致します」

『…マクシミリアン大佐はどうした?』

 かつて共闘したロナルド・エインワースは艦長席に座るマイカを見て訝しい目をする。

「マクシミリアン艦長は本日、別の任務があり小官が艦長の椅子を代理する事になりました。重要な作戦を前に艦長が不在である旨をまずは謝罪させて頂きますエインワース大佐」

『甚だ遺憾だ、と言いたいところだがマクシミリアン大佐を前にそれを言い出してはキリがないからな。貴官も苦労するだろう』

 全くその通りですとは思ってもマイカは口をしない。ロナルドもマイカの心中を慮ってか何も言わず作戦は事前の通達通りに行うと言って通信を切った。

「いやー中々、人の良い艦長で良かったっすな。ハヤカワ艦長代理」

「スタッグ大尉。当てつけの様に艦長代理などと呼ばない様に」

「はぁ。ではどの様にお呼びすれば?」

 ロイがそう尋ねるとマイカは何を言っているのか分からないと言った顔つきで目を細め、

「副艦長で構いません。当然でしょう」

「…了解しました。ハヤカワ副艦長殿」

 ロイは笑いを噛み締めてそう言った。

 艦長はあくまでケインズ、自分はその部下だと言う意思を感じ取りロイはこの堅物様も大分、ケインズ色に染まって来たなと愉快に思った。

 そんなロイの様子に気が付かずマイカは座り慣れない艦長席で空間ウィンドウを開く。

「スタッグ大尉。作戦の確認です。事前に打ち合わせした通り、当艦は第9バルバス防衛艦隊と共に惑星ホールデン近域のデブリ帯に向かいます。そこを拠点に銀河連邦の情報収集をしていると言う旧派過激派がいるとの事ですので我々はそれを強襲します」

「惑星ホールデンにも艦隊はいるでしょう?何で惑星バルバスから態々、艦隊を出すんですかね」

「惑星ホールデンはその組織に監視されていますからね。下手に艦隊を動かせば察知されてしまう可能性があります。ですが同時に敵の眼は惑星ホールデンに向いている」

 無論、連日の如く星間連合軍がテロ組織を潰し回っている情報が流れ警戒している可能性もある。だが、

「敵の数は情報が正しければ多くありません。警戒し籠城を選択するくらいなら逃げ出した方がまだマシでしょう」

 逃げ出した後ならそれはそれで良し。少なくとも近くから脅威が減ったと捉えるべきだ。星間連合軍の動きに気付かず強襲を掛ける事になっても戦力差から見て負ける訳がない。

「ここまでが参謀本部で立案された作戦になります」

「あーじゃあその後があるって事ですね?」

「えぇ。艦長からの指示で」


 シルバー・ファング号の事は噂では聞いていた。より正確に言えば<白蛇>ことケインズ・マクシミリアンの噂なのだが。

 良くも悪くも噂に堪えない人物でライアンも眉を顰めた事もある。だが同時に非常に有能な策略家だとも言う。まだその正体についてライアンも掴み取れていないところがあるが噂の一つが本当である事には理解した。

 曰く、シルバー・ファング号では上下関係が曖昧である。

 機体の整備方針についてフィオが中尉であるフランと言葉の暴力を用いて議論して、最終的にはお互いに手と手を握り合って和解していた。体育会系のノリと言うかちょっと着いていけてない。

「あーすんませんマックナー中尉。俺のヴァルキリーの整備、今から始めます」

「それは構わないのだけど君たちはいつもあんな感じなのかい?」

「はい?」

 良く分からないと言った顔で首を傾げるフィオにライアンは苦笑した。

「所属部署は違えどノーランド技術中尉の方が階級は上だろ?しかも整備班の班長に対して整備に関してあそこまで口出しするなんてちょっと凄いなって」

「あー…階級云々は偶に考えるんですけど。『それで意見を出し惜しみするくらいなら怒らせても言え』って皆言うんですよね」

「成程」

 理想の上官だとライアンは素直に思った。しかもその考えが末端にまできちんと伝わっている。ケインズの手腕が垣間見えた気がした。

「<スラスターユニット>は如何だい?推進力が桁違いに凄いから扱うのに苦労するって聞いたけど」

「確かに推進力はS2-27とかと比べ物にならない…ですね。だけどアクティブ・スラスターをうまく活かせば小回りもきくし脚部を回せば旋回や横移動も素早く出来て良いっすよ」

 階級云々を持ち出してきたと言う事はもしかして言葉遣いにも厳しい人なのかなとフィオは思ったがライアンは何時も通りでいいよと言うのでそうする事にした。

「その脚部を使うのが難しいらしい。まぁアクティブ・スラスターが3つに増えた様な物だから。同時に全て使い分けるのがネックになっているそうだよ」

「別に全部使い分ける必要なないんじゃないか?必要な時にだけ使えば良いんだから」

 その必要な時ってのが分からないのよとフランはフィオの横を通った時に呟いた。

「今までの双腕肢乗機には脚部と言う概念がないからね。どの様に使い如何やって活かすか。まだ検討の余地はあるさ」

「それってマックナー中尉の<ブーツユニット>に関係してます?」

 フィオはライアンの機体を指さした。

 フィオのヴァルキリーの横のハンガーに並び立てられた灰色の機体。フィオのヴァルキリーが塗装される前と同じ色をしているそれこそがライアンの機体だった。

 汎用型双腕肢乗機試作機、その2号機。

 開発コードをヴァルキリー2号機と呼ぶ。全体のパーツはフィオのヴァルキリーの予備パーツから組み上げたとあって形状は同じだ。ややヴァルキリー2号機の方が腕周りの装甲が厚くなっており、頭部の形状も異なる。

 そして大きく違うのはその<ブーツユニット>だ。フィオの<スラスターユニット>とは全く違う別物。人の足首に当たる部分にあるスラスターは<スラスターユニット>と比べて小さく膝裏にも小型のスラスターがある。それでも尚、<スラスターユニット>の方が推進力は勝るだろうと思われる。

 だがそんな事が気にならない位に際立っているのが脛の刃物だ。

 そう刃。膝から足首の位置まで伸びた一本の刃、非常によく研磨されているらしくフィオは航海班の班長が持つ日本刀を思い出した。

 刃の位置、そして長さからフィオはまさかと思ったが尋ねた。

「蹴るのか?」

「そうだよ」

 ライアンは面白そうにそう言った。

「これは聞いた話なんだけど…なんでも<ブーツユニット>を使わずに敵機を蹴り付けた操縦者がいるらしくてね」

 そう意地悪気に言われフィオは目を逸らした。その先には偶々フランがいた。物凄い形相で睨まれた。まだあの時の事を許して貰えていないらしい。

「これに感化された技術者がいたんだ。『面白い。蹴りも立派な武器だ』ってね。ただ普通に蹴るだけでは装甲が凹むだけだ。蹴るには何かしら武器がいる」

「それがあの刃って事か?折れたりしないのか?」

「衝撃を吸収するスプリングや刃の一部が欠けてもその部分だけ切り離せる構造になっていたりしていてその辺の対策はしてあるんだ。あと直ぐに交換できるように刃の予備も持ち込んでいる」

 カッターナイフみたいな感じかなとライアンは言った。

「自分で言うのもあれだけど、スラスターの勢いを乗せて蹴り付けるから躱すのは難しい。なにより意表を突ける」

「脚部の概念がまだ浸透していないからかぁ」

 まさにフィオがあの<黒翼>に一矢報いた理由であった。しかしそう考えると存外悪い手ではない気がしてきた。ただ蹴りと言うモーションから挙動が大きいのがネックだろう。

 それを伝えるとライアンは流石に気付いたかと苦笑し、

「勿論、蹴り主体で戦う訳にはいかないからね。アレはあくまで武器の一つさ。<ペネトレイトユニット>の主体ではないって事」

「<ペネトレイトユニット>?貫通?」

「おっと。実はまだ秘密があるんだけど…そっちは許可がまだ下りていなくてね」

 そう言うとライアンは肩を竦めた。どういう事だとフランの方を見る。フランは難しい顔をして、

「牛刀割鶏って知ってます?周先生からこの前教わったんですけど」

「ギュートーカッケイ?」

 フィオが個首を傾げるもフランはそれを無視する。後で辞書を引け。

 一方、言葉の意味が分かっているライアンは苦笑し、

「それが理由ではないんでしょうノーランド中尉?」

「…出力の安定が難しいのもありますね。仕様書を見ると48秒が限界とありますが実戦を想定するならせめて2分が最低ライン」

「これでも技術開発局では苦心して時間を伸ばしてきたのですが」

 そう言うとフランはハンと鼻を鳴らして笑い、

「それであの仕様書だって言うのならいい機会ですし奴らの高慢な鼻を叩き折ってやります。ランスター、後で仕様書見せるから150秒は維持させなさい」

「いや何の話だよ。あと結局、ギュートーカッケイって何だ?」

「それは周先生に勉強を教わりに行きなさい」

 フランは面倒臭そうに手を振って仕事に戻った。

 何にせよまた厄介な兵器開発に巻き込まれた気がするとフィオは思った。

「まぁ何にせよ今回の作戦で使用する事は無いよ。情報通りならこちらの方が過剰戦力だと言えるからね」

「いやーどうですかね」

 フィオは何処となく遠い目をした。

 最初に参謀本部から送られてきた作戦内容と敵戦力の分析を聞いてフィオもそう思った。

 けれどすぐにケインズは否定した。

 そしてフィオも他のクルーも納得した。

 ライアンだけがまだ猜疑的だが。

「…艦長の予測は当たるのかい?」

「こう言った悪巧みに関しては特に。いや外れた事ないんじゃないかな?」

 ライアンはまた一つケインズの噂の真相に確信がいった。


 ロナルドは星間連合軍の参謀本部から送られてきた作戦指示書に目を通した。

 作戦の内容は至ってシンプルだ。まず敵が潜伏しているとされるデブリ帯に艦隊を接近、すぐにシルバー・ファング号がジャミングを行い敵の目を潰す。その間に双腕肢乗機小隊を出撃させて艦隊の進路を確保する。そして艦砲を用いて敵の防衛設備を破壊し出鼻を挫く。

「ここまでくれば後は降伏してくる事も十分に考えられる」

 その筈だったのだが、

「エインワース艦長!!」

 当初の情報では敵の戦力は巡洋艦2隻に双腕肢乗機小隊が1個程度だったのだが、

「確認できている範囲で構わない。報告しろ」

「はい!!敵戦力は尚も拡大、旧式ですが戦艦クラスが5隻に巡洋艦が3隻、駆逐艦は10隻を超えました!!」

「数で言えば同程度、いや―」

 ロナルドは別の空間ウィンドウを開く。そこに映し出されたのはケインズから送られてきた作戦立案書だ。

 曰く、敵戦力がこちらの予測を超えていた場合の対処。

「どうしてあの男はこう、悪い予感ばかり的中させるのだろうな」

 ロナルドは呆れ半分にそう言う。

 もしもマイカ辺りが聞いていたらこう答えただろう。

「こういう悪巧みばかり得意だからです」


 流石はマクシミリアン大佐だなとライアンが言うと、

「「ああいう悪巧みばかり得意だから」」

 とフィオとフレデリック、アリアの声が重なる。他のクルーたちも頷いている。

「ま、敵も追い詰められて窮鼠にならざるを得なかったって事か」

 そうフレデリックは呟いた。

 指令を受けケインズがまず行ったのは近隣の宙域での対テロ組織への作戦の進行状況だった。既に壊滅に至っているのは良い。だが中には上手く逃げ出した組織もいる。

 そうした組織がバルバス星系から逃げ出しているのなら取り敢えず危険はない。だがもしも逃げ出さずに隠れていたとしたら?

「これまでオスカーの情報を得るまで知る由もなかった組織もいる位だ。潜伏と言う点では一流と見るべきだろう」

 再びこちらの目を掻い潜る事だって十分に考えられる。

「そうすると探し出すのに苦労する。だが考えが無い訳ではない」

「と言いますと?」

 そうロイが尋ねるとケインズはニヤリと笑い、

「簡単な事さ。相手の立場になって考えてみればいい。星間連合軍の艦隊に狙われて余裕綽々と逃げ出せるとまでは思えない。まぁ余裕はないだろう。命からがら逃げだして再起を狙い潜伏しました。さて何が問題になると思うマイカ君?」

 尋ねられマイカは頤に指を当て、

「元より資金面でもそこまで潤沢とは言えないでしょう。再起を図るとしたらそれ相応に元手が要ります」

「<ポラリス>の様な一級のテロ組織だったら伝手はあるだろう。だがそう言った組織ばかりではない」

「…ならば少ないなりに行動するしかありません」

 マイカはそう言い、

「奪うか若しくは共有するか」

「烏合だとしても集まればそれなりだ」

 ロイだけが首を傾げケインズに尋ねる。

「つまりどういう事です?」

「簡単だよ。一人で戦えないなら皆で戦えばいい。同じ追い詰められた者同士でね」

 そのケインズの予測は的中した。烏合の衆となったテロ組織は数を増やしこちらの想定を上回った。

「ここからは参謀本部の立てた作戦は当てになりません。艦長が事前に用意したプランを実行に移します」

「了解。双腕肢乗機小隊、発進開始」

 マイカの指示に従いリリアは船底のハッチを開けフレデリックとアリアに発進の許可を出す。マイカの後ろで待機していたロイは懐から琥珀色の瓶を取り出して中身を口に含むと、

「そんじゃあ後詰めとして準備してきますんで」

「任せましたスタッグ大尉。ですが出撃前に飲酒をするのは見過ごせません」

「当機体はアルコールで動くんで…そんな怖い顔しないで下さいよ。ちゃんとアルコール分解薬を飲みますから」

 そう言って砕けた敬礼をしてマイカに睨まれながら艦橋を後にする。

「あれで星間連合軍でもトップクラスのエースだと言うのですから頭の痛い話です」

 そう小声で呟くとマイカは気持ちを切り替え眼前の戦場を見据える。

 敵の数は想定以上。しかしそれは参謀本部が立てた想定だ。

「現在の敵戦力は?」

「戦艦5隻、巡洋艦7隻。駆逐艦は12隻」

「そうですか。艦長の予測よりも戦艦が1隻足りませんね。何処かに隠れていると考えられます。警戒する様にエインワース艦長に伝えてください」

 ケインズが予測した周辺のテロ組織たちの動きは戦艦1隻の誤差を除いては双腕肢乗機の数まで見事に的中させていた。


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