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流星のヴァルキリー  作者: 夢見 旅路
第4章 騎士の帝国
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第3話 <紅翼>ゼクス・バーバロイ

書き溜めていた分を只今、投稿中。

次の話の分くらいまではあるのですがそれ以降はまた投稿速度が落ちます。

 突然現れた大男に皇帝の間はどよめく。短く切り揃えた赤髪に擦り切れた野戦服。袖を捲って覗かせる太い腕は丸太の様だった。

 そんな恰好でこの城に入ろうものなら城門にいる兵士に止められるものだが、如何せん相手が悪かった。

 ジェガス17世は憂鬱な顔を更に沈めて溜息をついた。

「…何用だ。バーバロイ卿」

「おぉ皇帝陛下に置かれましては相も変わらずご健勝でいられる御様子。配下の1人として心より嬉しく思いますぞ」

 大男は殊更に大きな声でそう言った。

 しかし病魔に侵された人間に向かってご健勝は無いだろう。

 誰もがそう思った。ジェガスは益々、憂鬱な表情を浮かべ、

「余計な世辞はいい。答えよ<紅翼>」

 <紅翼>と呼ばれた男―ゼクス・バーバロイは獰猛な笑みを見せた。その顔を見ただけで気の弱そうな文官が何人か顔を青褪めたほどだ。

「カラス・ザーノスへの処罰を待って頂きたい。コイツはこんな所で使い潰して良い奴じゃありませんからなぁ」

 そう言ってゼクスはカラスの頭を乱暴に掴み撫で回した。

「バ、バーバロイ卿!!」

 揉みくちゃにされてカラスは思わず悲鳴を上げそうになる。ゼクスからすれば撫でているだけなのかもしれないが、その握力は南瓜すら砕くと聞く。実際カラスの頭蓋骨から不穏な音がさっきからしている。皇帝の処罰が下る前にどうにかなってしまいそうだ。

 徐々に顔を青白くしていくカラスを他所にジェガス17世は眉間に皺を寄せて言う。

「ならぬ。ザーノス卿は任務に失敗しまた貴重な帝国騎士団の戦力も損失させた。これを処罰なしにするには公平を乱す」

「いやいや。こう言ってはなんですがね陛下。今回の作戦は失敗しても仕方ないですよ」

 軽い調子で言うゼクスに周囲の文官たちから非難の声が飛ぶ。

「き、貴殿はそれでも帝国騎士の1人か!!」

「そうだ!!作戦が失敗しても当然とはどういう事だ!!どんな任であれそれを全うするが帝国騎士の勤めであろう!!」

「最強の精鋭騎士の名が聞いて呆れるわ!!」

 そんな罵倒が飛ぶ中、ゼクスはニヤニヤ笑いながら文官達の方へ顔を向けて、そして、

「―うるせぇぞ」

 瞬間、皇帝の間に沈黙が訪れた。誰もが言葉を発せないでいる。

 ゼクスの顔からは笑みが消えている。代わりにあるのは憤怒。いやそれさえも生温い。人はここまで恐ろしい表情が出来るのか。

「お前らの言う事は尤もだ。確かに俺たちは帝国騎士でその任を全うするのが使命。失態を犯せば責めを負うのも覚悟の上だ。だがなそれを決めるのはお前ら文官たちじゃねぇ。俺たちが忠誠を誓う帝国と皇帝陛下だけだ。権力に乗っかって無責任に吠える犬ころは黙ってろ」

 ダーナ帝国では軍務を司る帝国騎士団と内政を行う各官庁は独立している。カラスの処罰を巡りダーナ帝国騎士団の面々がこの場に座すのは当然であっても他の官庁から非難や処罰に関して口を挟まれる謂れはなかった。

 気の毒に気を失う文官すらいる。かく言うカラスも間近でその怒気に当てられて喉を鳴らした。

 本気になった彼を止められる者などここにはいない。

 ゼクス・バーバロイ。<紅翼>の名が授けられている通り彼もまた精鋭騎士の1人。それもカラスの様に裏方の工作員などでは無く表舞台に堂々と立つ武人だ。

 ジェガス17世が皇帝の地位に就く前より帝国騎士団に身を置き、数多の戦場で双腕肢乗機を駆り抜けてきた。その出撃回数は3万回以上。その全てにおいて彼は生存してきた。いかなる危機的状況であろうと切り抜けてきたゼクスは星間連合軍から<不死身男(グール・マン)>と呼ばれた程だ。

 そしてその武人としての腕と如何なる戦場からでも生きて帰って来ることから前皇帝から不死鳥のエンブレムと<紅翼>の名を授かった。

 誰もが認めざるえない帝国最強の精鋭騎士。

 その男の本気の殺気を受けてその身を凍りつかせない人間はそうはいない。

「…やめよ」

 そうはいない、が全くいない訳ではない。例えば今、皇帝の座に座るこの御仁。

「バーバロイ卿。これ以上、この場での狼藉は許し難い。弁えよ」

「……仰せのままに」

「ハルヴェイン大臣、今しばらく口を閉ざしておけ」

「し、しかい陛下!!」

「聞こえなかったか?」

 ジェガス17世から睨まれ大臣は口を閉ざして視線を泳がせた。

「バーバロイ卿に問う。先程の失敗を容認する発言は何を意味しての事だ。その如何によっては文官達の言う通り帝国騎士の誇りに反する事ぞ」

「恐れながら…この度の第28次星間連合侵略作戦そのものに問題があります」

 ゼクスはカラスやディーンすらも口に出す事が出来なかった事を平然と言ってのけた。視界の端でディーンが顔を抑えているのが見えた。

「作戦の進行に辺り、現場に情報があまりにも降りてこないのが現状です。一体、我々の目標は何なのか?漠然と星間連合を潰す為だと言われても納得は出来ません」

「それがザーノス卿の敗因だと?」

「それだけじゃありませんがね。何でも聞いた話だとザーノス少佐たちが相手にしたのはあの<雀蜂>なんでしょ?星間連合軍のエースの」

 そうだ。まさかあんな場所で星間連合軍のエースと戦う羽目になるとはカラスも思わなかった。その上、敵の策に乗ってしまい隊を分断してしまった。あの場にカラスが残っていればまだ<雀蜂>を抑えて損失を少なく出来たかもしれない。

「おいカラス、さっき報告書を読ませてもらったが狙撃特化の<カカシ>がいたんだろ?」

「え?あ、はい。そうですが…」

 <カカシ>とは星間連合軍の主力双腕肢乗機であるS2-27の事だ。巨大なアクティブ・スラスターが一本足の様に見える事からダーナ帝国ではそう呼ばれている。

「それって最近有名になってきた<鷹撃ち>じゃないのか?」

「まさか……」

 ゼクスの指摘にカラスは目を見開く。<鷹撃ち>はここ数年で名を馳せてきた狙撃手だ。双腕肢乗機の操縦技術だけでなく生身での狙撃も得意としているらしい。まだ詳しい情報は得られていないが年若い女だとの事だ。

「相手は試験艦です。その運用データを収集するのが目的で戦力も1個小隊しか積んでいないんですよ?そこに星間連合軍のエースを集める理由が無いかと」

 護衛だと言うのなら別にエースで無くても良い筈だ。そうでなくても高名なエースをクルーに引き込んでいるのだ。只の試験艦にしては過剰戦力だとカラスは思った。

「けどよ、その試験艦…アー何だっけ?名前があった気がしたが忘れちまったな」

「<重騎士槍>級という名前らしいです」

「そうだったか?まぁいいや。その<重騎士槍>級の艦長の名前、カラス知っていたか?」

「いえ…クルーの情報は硬くガードされていて入手できませんでした」

 カラスがそう言うとゼクスはだろうなと頷いた。

「報告書を読んでそうじゃないかと思ったさ。相手の艦長を知っていたらお前は手を出さなかった。俺だって手を出さないで取り敢えず1個師団は応援を要請するな」

「は…?」

「よーく聞いとけ?相手は…あの<白蛇>ことケインズ・マクシミリアンだ」

「……っ!!な、馬鹿なっ!!」

 思わずカラスはそう呟いて取り乱した。皇帝陛下の前で普通だったら不敬と捉えかねない。しかし誰もがそんな事を気にしてはいられなかった。大臣を始め、文官達も驚愕に表情を固め騒いでいる。

「それ、それは!!本当の事のですかバーバロイ卿!!」

 大臣は目を白黒さえながら尋ねる。

「おう。ここに来る前に情報部の奴等に問い詰めたらペラペラ話しだしたぞ。まだ未確認だとかどうとか言っていたが俺は間違い無く<白蛇>だと確信している」

 と言い切ったゼクスの言葉に誰もが息を呑んだ。

 <白蛇>ことケインズ・マクシミリアン。星間連合軍の士官としてこれまで幾度となく帝国騎士団が辛酸を舐めさせ続けられてきた。この場の誰もがその名前を知っている人物である。

 しかしそこには相手への畏怖よりも強い憎悪がある。

 それは全て<カルゴニアの惨劇>に由来する。

 18年前、帝国のある惑星が星間連合によって占領された。最前線にある1つの惑星でそこにはこのローグ・ハインケル星系へ直接、空間転移できるクロス・ディメンジョンがあった。当時の帝国騎士団は占領された惑星カルゴニアを奪い返すべく大規模な軍勢を送り、その司令官にジェガス17世の叔父であるオブライト3世が選ばれた。オブライト3世は当時、次期皇帝と謳われていた人物で人望も厚く旅立つ際に惑星カルゴニアの奪還を帝国臣民に約束していた。

 オブライト3世が率いる軍勢はカルゴニアまで到着するとその周囲に浮かぶ星間連合軍の軍事衛星に気付いた。無論、向こうも気付いていた。

 戦闘はすぐに開始された。軍事衛星から放たれた一発のミサイルに対しオブライト3世の軍勢は一斉射をかけた。

 それが敵の罠と知らずにだ。

 軍事衛星の1つが火に包まれたその時、ある通信文が入った。それは目の前の軍事衛星からの救助信号でそれを送ったのは惑星カルゴニアに住まう臣民の物だった。

 その後の調査で判明したのだが星間連合軍は惑星カルゴニアの支配を円滑にすべく惑星の住人を軍事衛星へと移住させて監禁していた。軍事衛星内に多数の住民がいる事を知らずにオブライト3世が率いる艦隊はその衛星に攻撃をしてしまったのだ。そして最悪な事にその情報は悪い形で全軍に広まった。助けに来た筈の臣民を自分たちの手で撃ってしまったその衝撃に全軍が混乱に陥ったのだ。その混乱に乗じて星間連合軍は撤退、それを追う者と軍事衛星に囚われた住民を助けようとするものとで戦場は多いに乱れ多くの戦死者を出した。その中にはオブライト3世の名前もあった。

 帝国に卑劣な罠を仕掛け、仁徳に優れた皇族を死に追いやった星間連合の軍人―悪名高きケインズ・マクシミリアンを憎む者は帝国内でも多い。

 同時にその策謀に恐れを抱いている。

「ここ最近、表舞台でも裏舞台でもなりを顰めていた奴がいきなり出てきたんだ。いくら精鋭騎士とは言え準備不足じゃあどうしようもねぇって事ですよ」

「……」

 ジェガス17世は思案顔でゼクスの言葉を聞きそして言葉を漏らした。

「…仮にバーバロイ卿が言うように彼の艦の艦長が彼のマクシミリアンだとしよう。そしてその艦には<雀蜂>と<鷹打ち>の両名がいる」

 これが最前線だったらカラスはあの艦を旗艦だと勘違いしただろう。そうとしか思えない程の戦力なのだから。

「問題は理由だ」

「試験艦にどうして連合のエースを過剰に集めているかって事で?」

「そうだ。バーバロイ卿、何か意見はあるか」

 ジェガス17世からそう言われゼクスは暫し考え込む。それからすぐにニヤリと笑って見せた。まさか気付いたか、連合の目的に。1分と満たない時間で答えを出したゼクスにカラスは息を呑んだ。周囲の文官達も緊張を孕んだ目でゼクスを見つめる。

 そして

 

「いえ、さっぱり何も分かりません」

 と断言した。

 凍りつく皇帝の間。殊更にジェガス17世の視線は冷たかった。今この場ですぐに無礼打ちにしろと言う命令が出てもおかしくない状況だった。

 今だ首に腕を回されて自由のきかないカラスはこのままでは間違い無く巻き込まれる。嫌な汗がダラダラと背中を流れた。

「………バーバロイ卿及びザーノス卿」

「うっす」

「…は」

 本当は膝をついて帝国式の臣下の礼を取りたかったがゼクスが邪魔で出来なかった。

 お願いだから本当にもう離して欲しい。これ以上、俺の立ち位置を悪くしないでとカラスは心の中で泣いた。

「退去を命ずる。またザーノス卿の処罰に関しても改めて審議を行い降す事にする。両名とも下がれ」

 とても寛容な皇帝陛下のお言葉にカラスは改めて忠誠を誓うのであった。


 皇帝の間を退去し、迎えに来た部下たちから安堵の笑みを送られその次に後ろにいるゼクスにギョッと目を見開いた。

「おうおう!!元気だったか小烏ども!!」

「ちょっ!!待っ!!」

「く、苦し!!と言うか尻!!尻触ってますバーバロイ大佐!!」

 ラウルとフローラを一辺に腕に抱きしめるが力加減の知らないゼクスに顔を青くしている。会う度にコレなのだからラウル達の苦労も大変である。

「……成程。大丈夫とはこの事でしたか」

 ドーラは納得半分呆れ半分で小さく呟いた。確かにこの御仁が出てくればカラスの身の安全は確実だ。しかしそれ以上に何かほかに問題を起こしていないだろうか不安になるのはゼクス・バーバロイがどう言った人物なのか理解しているからだ。

 そして酷く疲れた様子のカラスを見てその不安が正しい事にドーラは溜息をついた。

「バーバロイ大佐。この度は御助力ありがとうございます」

「気にするな気にするな。アホ共のやる事が見ていられなかっただけだ」

 頭を下げるカラスにゼクスは豪快に笑って見せた。

 ゼクスはダーナ帝国騎士団の中でも数少ないカラスの味方だった。帝国で忌み嫌われる黒髪である所など全く気にする事無く、初めて会った時からこの調子だった。

 あの時は本当に世話になったとカラスは今でも思う。潜入任務に明け暮れ心が荒んでいたあの若かりし頃、任務で一緒になったゼクスは強引とも呼べる勢いでカラスを引っ張り回し今の地位まで引き上げてくれた。

 自分の実力を認めてくれそしてそれが結果に結び付くようにしてくれたのは全てこの人の御蔭で会った。

 まぁそのせいで3度ばかし死にかけたが。

「バーバロイ大佐も第28次星間連合侵攻作戦で帝都を出ていたのですか?」

「あぁルベルス星系までな。惑星1つ制圧してきたから後は文官達と部下に任せてこっちに戻ってきた」

「……流石に早くないですか?まだ作戦が本格始動してから3カ月位ですよね?」

 カラスは思わず目を見開く。ゼクスはフンと鼻を鳴らし、

「ま、お膳立ては梟が全部してくれていたからな。あとは俺達<紅翼>騎兵大隊の本分を果たせばいいだけだったのさ」

 だからと言ってそれを実行できるだけの錬度を持つ部隊がこの帝国にどれだけいると言うのか。殊に<紅翼>騎兵大隊の錬度の高さは帝国随一だ。何せ率いる大隊長が帝国最強の騎士なのだから自然と部隊全体の質も上がる。

「聞く所だと<青翼>のガーランドも今、どっかに行っているみたいだな。何か知っているか?」

「恐らくは…」

 カラスは頷く。3ヶ月前に見たあの新型機とエンブレム。あれが本物なら<青翼>ことアイル・ガーランドは星間連合の何処かにいる事になる。そして、

「バーバロイ大佐がルベルス星系に行かれたと言う事はガーランド中佐はその反対側、デ・クラマナン星系ではないでしょうか?」

「成程ねぇ…あそこは開拓惑星が多いからな。資源的には狙い目か」

「バーバロイ大佐はどの惑星へ?」

「惑星ヨシュモン」

 聞いた事の無い惑星だった。カラスが首を傾げるとバーバロイは辺りを素早く見渡すと、声を顰める。

「侵攻ルートに関する話を知っているか」

「っ!!いいえ、こちらも探りは入れているのですか皆目…」

「だろうな。普通のルートじゃない。これだけは確かだ」

 バーバロイはそう言った。カラスはまさかと呟き、

「新しいクロス・ディメンジョンを見つけたと言う事ですか?」

「いやクロス・ディメンジョンかどうかも怪しいな。なぁ俺がその惑星ヨシュモンからローグ・ハインケルまでどれくらい時間かけて帰って来たと思う?」

「え…?私の場合はストロボーグ星系からまぁ2か月ほどでし、たが…あれ?」

 カラスは奇妙な違和感に気付いた。侵攻作戦から3カ月が過ぎた。カラスは早々に後退を余儀なくされたがゼクスはつい先日まで作戦に従事していた節がある。だがそれだと作戦期間と帰還するまでの日数がどうしても足が出てしまう。そう悩んでいるとゼクスは早々に答えを教えてくれた。

「答えは2日だ」

「な!!それでは直通ルートと殆んど変りないではないですか!!」

 カラスは驚きのあまり叫ぶ。

 各星系を結ぶクロス・ディメンジョンは複雑に絡み合っている。例えば同じ星系でもここ惑星ローグ・ハインケルと最も離れた惑星を行き来する場合、実は別の星系に向かうクロス・ディメンジョンを何度か通過して航行した方が距離は短くなる事がある。

 その様に複雑に絡み合っているのが普通であるクロス・ディメンジョン、それが僅か2日で最前線まで行き来できるとは。これは非常に有利であると同時に不利だ。

「中央から戦力の投入が容易いですが反面、侵攻に利用されたら恐ろしい事になりますね」

「だからこそ俺が選ばれたんだろうな」

 最重要地点を任されると言う信頼とそれに伴う実力を自慢する訳では無く当り前の様にゼクスは言った。

「だがさっきも言ったが今回の作戦、明かされていない情報が多すぎる。作戦の責任者も誰か分かっていない上に誰に揺さぶりかけても知らないって答えやがる」

 ゼクスはそう言って舌打ちをした。

 彼は情報戦とか工作活動からは程遠い人物だ。無論、その重要性を軽んじている訳ではない。しかし知りたい事があったら正面から聞きに行く。そう言って憚らない人だし実際にそうしている。

「で、だ。カラスやドーラなら何か知っているんじゃないかと思ってな顔を見に来たってわけよ」

「は、はぁ成程。しかし自分は今日まで謹慎していたので」

 カラスはちらりとドーラの方へ視線を向ける。

 ドーラも眉を下げて、

「お役に立てず申し訳ないのですが今だ情報を掴めていません。作戦に関わる情報はかなり重要にブロックされているようで」

「あーやっぱりそうか。となると後はディーンの野郎をしめるしかないか」

「いやそれはカノータス中佐がかわいそうと言うか何というか」

 カラスが苦笑するとゼクスはフームと腕を組み、

「ま、俺の方でも何とか情報を探り出してみるが何か分かったら教えてくれよなカラス」

「必ず」

 そう言うとゼクスは片手を上げて去って行った。与えられた任務が終わったとは言え、帝国最強の騎士にはその他にも仕事は多い。

 こうしてカラスを助けに来てくれただけでも感謝しきれない。

「さて。長居は無用だし帰るとするか。ドーラ、それにラウムもフローラも今日は付き合わせて悪かったな。帰りは我が家によって昼食をとってくれ」

「そ、そんな悪いですよ隊長!!」

 フローラは顔を赤くしながら首を横に振る。その一方で密かに慕う上官の家に上がれる事に胸を躍らせていた。

「遠慮するな。と言うよりも大して持て成せないからあまり期待されても困るがな」

 カラスはそう言って苦笑した。

 子爵の爵位を預かりはしているがザーノス家はある事情があり家計は火の車だ。国より授かっている子爵領も殆ど売りに出してしまった。今は何とか小さな土地とカラスの騎士団からの給料で家計を回している状態だ。

 それでも部下3人に奢ってやれない程カラスも薄給ではない。

「ありがとうございます!!隊長!!」

 無邪気に喜ぶラウルはフローラを連れて車を取りに向かった。途中ではしゃぎ過ぎだとフローラに頭を叩かれている。

「あいつ等はここが皇城だと分かっているのか…」

 ドーラは顔を抑えて嘆息した。

「はは。ま、ラウル達らしいじゃないか」

「あまり甘やかされても困るのですが」

「その分、ドーラが厳しくしてくれているだろう?帳尻はあっているさ」

 そう言ってカラスは肩を竦めて見せた。

「そう言えば、さっき大丈夫とはこの事か…って言っていたがあれはどういう意味だ?」

 まるでカラスの無事を知っていたかのような口ぶりだった。

 ドーラは一瞬、表情を固めた。それから僅かに顔を緩ませて、

「……エミリア様にお会いしました」

 そう告げた。その声は何処か嬉しそうでいて悲しげだった。

 カラスはその言葉に応える事は出来ず、胸元の十字架に手を伸ばした。そっと目を瞑れば何時でも思い出せる。これをあの方から頂いた日の事を。

「そうか…」

 そうカラスは小さく呟くだけだった。

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