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流星のヴァルキリー  作者: 夢見 旅路
第4章 騎士の帝国
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第1話 霧の海

 貴女との出会いが私にとって人生の幸福でした。

 幼かった自分はそう言って一輪の花を手渡すので精一杯だった。今に思えばたったあれだけの花を手渡すのに自分はどれだけ緊張していたのだろうか。

 それでも手渡しただけの甲斐はあった。

 彼女の手で掛けて貰った十字架。頬に頂いた小さな唇。そして最後の言葉。

 それが今の自分を作り上げた。

 けれどそれが彼女と自分の道を分かつ最後の瞬間だった。

 彼女は遠く頂きへと旅立ち自分はそれを見届けるしかなかった。

 それが何よりも苦しかった。

 苦しくて苦しくて。

 それでもきっと貴女が私の幸い。だからこの苦しみも呑みこんで貴女の為だけに剣を取りましょう。

 例えこの身が薄汚い烏だとしても。


 一年振り以上になる自分の家のベッドの上で眼を覚ましたカラスは思わず顔を覆った。

「全く…女々しいだろう……」

 夢に見た女性の事を思い出しカラスは深いため息をついた。

 想う事など許される筈がない。彼女はもう天上の人だ。畏敬と忠誠を誓った皇帝の伴侶となった彼女。いくら家族とは言ってもその身分は自分とは違うのだ。

「忘れろよカラス…そして忠誠だけに生きろ」

 そう自分に言い聞かせてカラスは枕元の十字架を大事に握りしめた。


 ダーナ帝国の首都はローグ・ハインケル星系にある。星系とは言っても人が住む事の出来る惑星は数少なく、その中で最も大きく且つ環境が良いのが惑星ローグ・ハインケルだった。

惑星ローグ・ハインケルは惑星全土が1年を通して霧が濃くて寒い。

 特に皇帝が住む都市は古き言葉で<霧の(ネーベル・ゼー)>と呼ばれるほどに霧が立つ。そんな故郷の霧を窓から見つめながらカラスはその霧の向こうにそびえ立つ皇帝の城、アーデル・フリューゲル城を見つめた。とは言っても霧に包まれその姿はぼんやりとしか見えない。

「うーん…やっぱりまだこの時間だと外は真っ白だなぁ」

 幼いころから慣れ親しんだ故郷の霧とは言え、1年以上も離れていると流石に身体が忘れてしまっているらしい。ただ帰国してからもう1ヶ月、大分感覚は戻ってきた。外では霧が濃いにも拘らず早朝から働いている人もいる。一寸先も見えないだろうに彼らはそれを苦にする事無く道を歩いている。カラスはその気配を感じ取りながらも遥か先のアーデル・フリューゲル城を見続けた。

「旦那さま、食事の用意が出来ました」

 後ろから声をかけられてカラスが振り返ればそこには壮年の執事が恭しく腰を折り佇んでいた。

「分かったよロドフィール」

「それとバーバロイ卿より晩餐会の招待状が届いております」

「バーバロイ大佐から?あの方も本国に戻ってきていたのか」

 朝食の席に座りながらカラスは驚いていた。

 自分と同じく精鋭騎士の名を冠し、そして帝国最強と謳われる騎士。

 黒髪の騎士として忌み嫌われる帝国騎士団の中で数少ないカラスの味方でもあった。

 普段は前線に出ている事が多くそして潜入工作が多いカラスとは顔を合わせる機会は少ない。

「ぜひ、出席させていただくと返事をしておいてくれ」

「かしこまりました」

 朝食で並ぶのは貴族の食卓にしては質素な物だった。貧相と言っても良いくらいだ。小さな白身魚のソテーが1つにジャガイモのポタージュ、暖められた白いパンだけが並ぶ食卓にカラスは不満も何も感じない。

 ただ1つ、何か感じるとしたらこの広過ぎる食堂の事だけだ。

「なぁロドフィール。やっぱり食事は俺の部屋に持ってきてくれないか?」

「そうは参りません。旦那様は家に居らっしゃる時は何時もお部屋に篭ったままではないですか。この上、お食事までお部屋で取られるようになりますと旦那様は部屋から一歩も出なくなります」

「そんな事はないぞ。風呂やトイレには行く」

「それは人として最低限の行動でしょう」

 取り付くしまもない執事にカラスは溜息をついて、

「じゃあせめてお前も席に座ってくれ。朝食はまだなんだろう?」

「主人より先に食事を済ませる執事などおりますまい」

 ましてや同じ席で取るなど論外ですとこれまた取り合おうとしてくれない。

 カラスはこの1人では広過ぎる食堂が嫌いだった。幾ら暖房が利いていても空気が寒々しく暖かいパンすらも冷たく感じてしまう。そしてこの食堂いるとどうしても思い出してしまうのだ。過去、ここには彼女と彼女の家族が座っていた事を。

 苦い顔でポタージュを飲み干すとカラスはパンでカップを拭った。貴族の振る舞いとしては最低だとディーン辺りには言われそうだがこの家には今、カラスとロドフィールしかいない。昔からカラスの事を知っている壮年の執事はもうカラスの食事作法に関して何も言うつもりはなかった。

 食後のコーヒーに手を付けようとしたところで玄関のチャイムが鳴った。

「出て参ります」

「頼んだよ」

 ロドフィールは執事だ。しかしこの家にはロドフィール以外の執事はおらず、それどころかロドフィール以外にこの家で働く人間はいない。理由は言わずともこの黒髪のせい。

 暫くしてロドフィールが戻って来るとその後ろには珍しい客人が付いてきていた。

「ドーラ!!珍しいな家に来るなんて」

「お休みの日に申し訳ありません隊長。そう急にお伝えしなければならない事がありまして」

 カラスの副官であるドーラは敬礼を解き、カラスに一言詫びる。気にするなと軽く手を振りロドフィールにコーヒーの準備をさせる。

「それで?何があった。星間連合軍の新型機破壊任務の失敗に関してはもう報告書は作って送ってあるから…その処分に関してか?」

「はい。その通りです」

 カラスは溜息をついた。件の報告書に関しては散々と叩かれた。帰国して直ぐに軍法会議に掛けられた時は流石にこれまでかと思ったが、何やかんやあり今でも首は繋がっている。尤も無罪放免と言う訳にはいかない事はカラスも分かっている。

「で?降格か、それとも左遷か?」

「…どちらでもありません」

「となると…また無理難題を突き付けられたか」

 正直言えば前者2つの方がカラスもまだ気が楽だった。降格か左遷であれば迷惑がかかるのは自分1人だけだ。ただ処分と称して難易度の高い任務を付けつけられるのは部下たちにも迷惑がかかる事になる。

 1年や2年じゃあ済まされない潜入任務とかじゃ無ければいいんだがとカラスが考えていると、ドーラは静かに首を横に振り、

「違います隊長」

「は?それ以外だと、後は精鋭騎士の剥奪くらいしか思い浮かばないがそれもまぁ降格と言ったら降格みたいなもんだろ?」

 カラスがそう言って首を傾げるとドーラは緊張した面持ちで告げた。

「処分内容に関しては私も聞いておりません」

「ん?処分が出たからお前が来たんじゃないのか?」

「……処分内容に関してはこれから告げられるそうです」

 ドーラはそこで一度言葉を切り、カラスに告げた。

「本日、アーデル・フリューゲル城にて皇帝陛下が御自ら降されるとの事です」

 カラスはその言葉を聞き表情を引き締めた。ドーラは懐から一通の書状を出すとカラスに手渡した。ロドフィールがペーパーナイフを持って来るよりも先に手で封を切って中身を確認する。

「……間違い無く皇帝陛下直筆による召喚命令の書状だな」

 これは予想以上に厳しい処分になりそうだとカラスは覚悟した。余程の事が無い限り、皇帝自らがこの様な処分に関して告げる事は無い。有体に言えばその様な瑣事に構っていられるほど皇帝も暇ではない。

「ロドフィール、直ぐに軍服を用意してくれ。面倒だが頂いた勲章の準備も」

 皇帝の御前に出るのに普段の軍服姿とはいかない。勲章やらを付けて礼装として整える必要がある。

「お手伝いします。隊長」

 ザーノス家の家臣がロドフィールしかいない事を知っている為、ドーラはカラスの家まで来て勅命を告げたのだろう。

 申し出を有難く受け入れてカラスも身支度を整える事にした。

 カラスが身支度を整え普段は絶対にしない整髪料で髪形を整え終わると外の霧は薄れ視界は晴れていた。何時の間に呼んだのかカラスの家の前にはラウルとフローラが車で来ていた。

「隊長、城までお送りします」

「おいおい。大袈裟すぎやしないか?子供じゃあるまいし」

「ここに来るまでに3度、怪しい人物を見ました。何処の派閥かは知りませんが万が一の事も考えて自分が呼びました」

 とドーラがいうとカラスは頭を抱えた。

 自分がいなかった1年の間で随分と帝国首都は危険な場所になった様だ。

「そうか…じゃあ一昨日からウチを見張っていたのも何処かの派閥の手先だと言う事か」

「隊長。そう言った事は早めに教えて頂けませんか」

「迂闊に手を出して問題にするのもなぁと思って…」

「問題にならない様に処理しますのでご安心を。今はどの辺りに居ますか?」

「裏手だな。行商人の振りをして何度か往復しているがその都度、屋敷の中の様子を探ろうとしている」

 更にカラスが具体的な特徴を告げるとドーラは何処かに連絡を取る。ガタンと屋敷の裏で音が鳴った。ラウルとフローラは顔を見合わせる。

「屋敷の中に居たのに外の不審者に気付ける隊長も隊長だけど、連絡一本でその不審者を捉える副隊長も何者だよ」

「私達、いる意味あるのかなぁ…」


 城に向かう途中でカラスはドーラと情報の交換をしていた。

「懇意にしています貴族から聞いた話なのですが議会派が第5皇妃とよく会合されているそうです。3ヶ月前にお生まれになった第6皇太子のお祝いと称しているそうですが…実際の所は皇太子への縁談だそうです」

「おいおい…1歳にもならない子供に何をしているんだ議会派は。そもそも彼らは専守政治では無く、議会による国家運営を主張しているんだろ?皇帝の血筋に近づくのは矛盾しないのかね」

「議会と言っても銀河連邦の様に人民による議会では無いですから。たかが100人程度の貴族の集まりです。血統や権威に群がっているだけでしょう」

 騎士とは言え一応、ドーラも貴族なんだけどなぁと子爵のカラスはぼんやりと思った。下級騎士の出であるラウルはドーラの言葉にその通りだと頷き、伯爵令嬢であるフローラは思い当たる節があるらしく顔を伏せている。

「それ以外にも恐らくはまだ後宮に入って間もない第5皇妃を自分たちの派閥に引き込もうとしているのかもしれませんが」

「言っては何だが第5皇妃では旨みは少ないだろうな。確か第2皇妃の侍女だったのが皇帝の目にお留まりになって後宮に上がられたのだろう?噂ではそうした派閥争いから距離を置いている人らしいし、何より元は第2皇妃の侍女だ。議会派に組入ろうものなら後宮で肩身が狭くなるだろう」

「でも今は皇妃のお一人なんですよね?第2皇妃がどうとか関係ないんじゃないんですか?」

 そうラウルが言うとフローラは呆れたように溜息をつき、

「アンタねぇ…後宮は序列社会なのよ。同じ皇妃だからって第5皇妃と第2皇妃じゃあ後宮での権力が違うの」

「極論だがその通りだな」

 とドーラもフローラの意見に賛同する。

「あとやっぱりお世継ぎの問題もありますよね」

「そうだな。特に第1皇妃の御子である第1皇太子と第2皇妃の御子、第4皇太子のどちらかが次の皇帝になるのではないかと言われている。次期皇帝の母となれば後宮での地位も揺ぎ無いものになるからな」

「そーいうもんなんですか…?」

 あまりそうした貴族社会に縁の無いラウルはしっくりこないらしい。

「話が出てきたついで何だが第1皇太子と第4皇太子をそれぞれ押す派閥はどうなっているか情報はあるか?」

「相変わらず仲が悪く水面下で足の引っ張り合いをしているとの事です」

「…大丈夫なんだろうな。第1皇太子は貿易港の惑星デヴァンタールを統治されているし第4皇太子は帝国最大規模の鉱山がある惑星アッシュバルトを任されているんだぞ」

「問題無いのでは?最近では宗教惑星系との交易も下がる一方ですし、鉱山の採掘量も悪くなるばかりです。足を引っ張り合った所でこれ以上悪くなる事はありません」

 カラスは頭を抱えた。1年前と何も変わりない事にだ。

「ただ幾つか気掛かりな話があります。ルーゼン辺境伯の孫娘が第5皇太子と婚約されたとか」

「…なんだって?」

 その言葉にカラスはピクリと眉を動かした。それから顎に手を当て暫し固い表情で思案する。車内に緊張が漂う。その雰囲気に耐え切れず、ハンドルを握っていたラウルは信号待ちが長い交差点で赤になったタイミングでカラスに声を掛けた。

「…隊長すいません」

「ん?どうしたラウル?」

「俺、何がヤバいのか全然分かりません。あと、さっきから出て来ている派閥とかも全く初耳です」

 ラウルの至って真面目な台詞にフローラはその頭を勢い良く叩いた。

「アンタ、馬っ鹿じゃないの!!自分の国の問題なのに全然、分からないってどういう事よ!!普段その目と耳でニュースの何を見て聞いているのよ!!」

「うるせぇな!!と言うか一々叩くな!!」

「…車内で騒ぐな2人とも」

 ドーラはぎゃあぎゃあ騒ぐ部下2人を窘める。カラスはそんな光景を見て苦笑し、

「ではラブレス少尉。ガーナッシュ少尉に権力を巡る各派閥について説明してみろ」

「え!?そ、それはですね、えーっと…」

 ちょっと意地悪げに上官口調で命令してみるとフローラは視線をあちらこちらに泳がせては「あー」だとか「うー」と唸っている。

 それを見てラウルは、

「何だ。要はお前も説明できないんだろ」

「な、何言っているのよ!!私だって3つだか4つあるって事くらい分かっているわよ!!」

「いや、それ結局わかって無いんだろ」

「因みに正しくは4つの派閥に分かれるぞ」

 カラスの指摘にフローラは顔を真っ赤にした。

 そんなフローラの頭を軽く撫でてからカラスは自分の黒髪を手で弄くった。

「俺はこの通り嫌われ者(黒髪)だ。何の拍子で目を付けられるか分からないから、今から言う事をちょっと覚えていてくれ」

 そう言ってカラスは指を4つ立てた。

「権力を巡る世界では今、4つの派閥がある。まず1つは現皇帝であるジェガス17世陛下を指示する一派だ。これはまぁ分かるな」

「そりゃあまぁ皇帝陛下ですし」

 ラウルにもそれは分かる。

「次に次期皇帝となる皇太子を押す一派…これが2つあってな。1つは第1皇太子派で第1皇妃の息子である第1皇太子を次期皇帝に押している」

 第1皇太子の名前はニコラス。ダーナ帝国でも指折りの学院(カレッジ)を出ており、見識に優れ自分を支持する一派を纏め上げる非常に野心の高い人物とされている。第1皇妃には他に第2皇太子と第5皇太子の息子がいる。母を同じにするこの兄弟は長男であるニコラスを支持しており、ニコラスの学院時代の人脈から第1皇太子派は貴族としての地位が高い陣営で纏められている。

「もう1つは第4皇太子派だ」

「第2皇太子が第1皇太子を支持しているから次は第3皇太子じゃあないんですか?」

 信号は青になりラウルは車を動かしながら尋ねる。カラスは首を横に振り、

「その辺は事情があってな」

 第4皇太子の名前はガルバニオ、第2皇妃の息子でダーナ帝国騎士団にも名を連ねていた時期もあり武人としての側面も持つと聞く。

「双腕肢乗機の操縦者では無く、白兵戦部隊の指揮を執っていたとの事で腕っ節は中々なものだという話なんだが…うん、なんだアレなんだよ」

「あ、俺分かりましたよ。所謂、脳筋って奴なんでしょ」

「それ、間違っても外で言うんじゃないぞ。不敬罪だからな」

 しかしカラスにも否定できない。片手で数えるほどだが実際に顔を合わせた事があるのだが噂に違わぬ人物だったからだ。

 第1皇太子と比べたらお世辞にも対抗できるとは言い難い。

「まぁ第4皇太子派と謳ってはいるがその実質、裏で支えているのは第1皇女だ」

 第1皇女―ルーツィエは第2皇妃の娘でガルバニオの姉に当たる。裏で支えていると言ったが操っていると言って間違いは無い。女の身で皇帝の地位に就くのは難しいと判断するや否や、ガルバニオを旗印に上げて派閥を作った。

 そしてその派閥にまず招き入れたのは第3皇太子だった。

「実は第3皇太子と第4皇太子は生まれた年が同じでな。異母兄弟ではあったが非常に仲が良かったんだ」

 第3皇妃の第一子であった第3皇太子は第2皇妃の顔を立て、ガルバニオを支持した。無論その説得をしたのはルーツィエだ。

「第3皇妃との繋がりも造った第4皇太子派は貴族社会の中で広い繋がりを持っているんだ。言ってしまえば第1皇太子派は質で、第4皇太子派は量で勝っていると言った感じかな」

「最後の1つは最初の方に行っていた議会派ってのですか」

 ラウルの問い掛けにその通りとカラスは頷いた。

「流石に帝国議会は知っているよな?」

「……議長の名前は勘弁して下さい」

「うん。それは予想していたから大丈夫だ」

 ラウルの情けない答えにカラスは鷹揚に頷いた。その隣の助手席ではフローラも明後日の方向を向いていた。今時の若い子なんてこんなものだろうとカラスが感じている横でドーラは冷やかな眼で部下達の一般常識の再教育を検討していた。

「国家運営に関わる各省庁を取りまとめる帝国議会―まぁ議会と言っても銀河連邦の物とは全く異なるし、アースガルド王国の議会ともまだ違う」

 各省庁の大臣と議会の承認を受けた貴族からなる帝国議会はあくまで国家運営の決定権を持つ皇帝を補佐する為の下部組織であり、省庁間での横の繋がりを密にする為の場であった。しかし近年、法や経済など各省庁の専門化が進み皇帝1人では決定しきれない部分も出てきたことから権限の譲渡が進んでいる。議会派はその権限の譲渡を更に進め、国家運営を自分たちの手に収めようとしている派閥だ。

「権力を巡る派閥はこんな所だな。さて話を戻すが第5皇太子にルーゼン辺境伯の孫娘が輿入りする。これがどう言ったことを意味するか分かるか?」

「えーっと第5皇太子は第1皇太子を支持している訳ですから、その皇太子に自分の孫を送るってのは……ルーゼン辺境伯も第1皇太子を支持するってことですか?」

「そうだろうな」

 ラウルの答えにカラスは頷いた。

 ルーゼン辺境伯はダーナ帝国の建国に深く関わった貴族の末裔だ。貴族社会では誰もが知っている名前である。

「ルーゼン辺境伯の現当主はお人柄も優れています。彼の御仁に追随して第1皇太子派に味方する貴族は増えるのではないでしょうか?」

「第4皇太子派…と言うより第1皇女がそれを見過ごしたままだとは思えないな」

「情報の収集を行っています。近い内に報告できるかと」

 ドーラがそう言うと車が止まった。話している内に目的地まで着いたのだった。

 見上げれば黒く大きな城。アーデル・フリューゲル城が巨大な威圧感と共にそこにあった。


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