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流星のヴァルキリー  作者: 夢見 旅路
第3章 反骨の星
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閑話―<青翼>アイル・ガーランド③―

 <青翼>のアイルは目を細めた。何とも意外な人物が通信に出たからだ。

「何故、貴方が通信に出るのですか<灰翼>」

『私から説明するのが筋だろうと判断したからだ』

 そう言ってダーナ帝国が誇る参謀、<灰翼>のディーンは眼鏡を押し上げた。

『3個大隊の派遣は一時取り止め、いやもっと正確に言おう。派遣は中止だ。現存の戦力で任務に当たれガーランド中佐』

「2つ訊きます。まず貴方は確か輸送任務が担当の筈でしょう。何の権限があっての事ですか?」

『新たに任務を言い渡された。3個大隊はその任務で用いる。ガーランド中佐には悪いがこれはダーナ帝国騎士団最高位の決定、つまりは皇帝陛下のご意思だ』

 そう言われてしまうとアイルと言えども否とは言えない。

 だが、

「では他の部隊を派遣して下さい。<緑翼>騎兵大隊や<銀翼>航空隊でも構いません。何処か手の空いている部隊は無いのですか?」

『無い。あと精鋭騎士が率いる部隊をそう簡単に回せる訳がないだろう』

「<紅翼>騎兵大隊を求めなかっただけ遠慮したつもりなのですが」

 そう言って眉を顰めた。ディーンは半眼で悟る。この男は本気で遠慮しているつもりなのだと。だが<紅翼>騎兵大隊など帝国騎士団最大戦力をそんな簡単に出せる訳がない。

『現存の戦力で任務の達成が不可能であるのならば潜伏又は惑星パルムからの脱出も視野に入れるべきだ。そちらにいるメルクリウス殿ならば可能だろう』

 ディーンはそう言いながら気は乗らないがと心の中で呟いた。あの胡散臭い男をディーンも信用できないでいた。所属も身元も不明なのだ。にも拘らず皇帝陛下からの直筆の書状を持っている。怪しい事この上ない。

「それは出来ませんカノータス中佐。我々はこの命に代えても任務を達成しなければならないのです」

『…貴官を送り届けた時にはそこまでの意気込みがあるとは知らなかったが。何かあったのか?』

「成程、やはり貴方にも知らされていなかったのですね」

 アイルも作戦を実行するにあたり始めて聞かされたのだ。

 この作戦の目的をだ。

「惑星パルムに潜入していた工作員と他の組織からの情報でこの惑星にある研究施設が隠されているのが判明しました」

『研究施設?最前線にか?』

 おかしな話だとディーンは思った。その様な危険な場所で何を研究すると言うのだろうか。

「最前線だからですよカノータス中佐。最前線だからこそ彼らが欲する情報が集められる」

『情報…?』

「戦闘の情報ですよ。もっと言えば双腕肢乗機での戦闘、特に欲しただろうは私たち精鋭騎士の物でしょう」

 その言葉にディーンはある考えが思い浮かんだ。

『まさか…AIによる運用を目的とした双腕肢乗機自動制御ネットワーク…あのシステムがまた作り出されようとしているのか』

 過去に星間連合軍がAIによる双腕肢乗機の自動操縦を行うシステムを構築しようとした。それはダーナ帝国に大きな危機感を齎した。現状、資源力に乏しいダーナ帝国が戦線を維持できているのは騎士団の優れたる技量によるものだ。高水準を保つダーナ帝国騎士団の技量をもしも星間連合軍が手に入れれば戦線は危うくなる可能性がある。

 だが結局はAIによる運用も星間連合軍はその問題点―最適な解を求めるあまりAI同士の戦いでは膠着状態に陥ってしまう事から失敗に終わった。

「その失敗を糧に研究を行っているらしいです。しかもあの技術連合がです」

『…最悪だな。今度こそ実現してしまうかもしれない可能性があると言う事か』

 ディーンは舌打ちをした。技術連合の悪名を知らぬ者はこの銀河でいない。技術の進歩を行き過ぎる余りにそれについていく事が出来ずに星間連合からも独立した位置にある異端の研究者集団、いや研究者国家だ。ディーンはあの組織が明日にでもタイムマシンを作ったと発表しても驚かないと考えている。

『だが今、らしいと言ったな。確定した情報ではないのか?』

「えぇ。施設自体は5年前に廃棄されたらしく今は使われていません。只、研究施設の存在を守る為かエリア37には技術連合が提供した陸戦型双腕肢乗機に加えて定期的な援助がされている様です」

『そうか…その研究はまだ技術連合だけが進めている状況なんだな』

「そう言う事です。恐らく星間連合軍自体は関わっていません。知っていたら警備はもっと厳重だったでしょう」

 そうなれば潜入も困難だったに違いない。

「あの狂信的な技術者集団が自分たちの知的好奇心の為に研究をしている間はそれで構わないでしょう。しかしそれが星間連合軍に知られ軍事利用される事になれば話は別です。星間連合軍にはこの事を知られる訳にはいかない」

『その前に研究施設そのものを抹消する。惑星侵攻に見立ててか』

「そう言う事です。お話が分かって頂けたのなら今度こそ3個大隊の派遣をお願いしたい」

 アイルがそう言うとディーンは深くため息をついた。

『…駄目だ』

 事情は良く分かった。叶う事なら現地に直接、赴いて作戦指揮を執りたい位だ。何なら<紅翼>騎兵大隊を派遣してもいいと今では考えてしまう。

 それでも引く訳にはいかない事情がこちらにはあるのだ。

『ガーランド中佐…貴官が本国にいないこの3か月の間に深刻な事態が起きているのだ』

「深刻な事態?」

 アイルは怪訝な顔をした。遠い地にいるとは言え帝国騎士団の精鋭騎士である自分の耳にも届かない様な深刻な事態とは何なのか。

 ディーンは意を決してその口を開いた。

『第2皇太子様が暗殺により御隠れになられた』

「な、にを」

 アイルは驚きの余り身を乗り出した。信じられない事だ。

 本国にいる皇太子が暗殺された?まさか絶対防衛線を超えて星間連合軍が資格を放ってきたと言うのか。

 だがそれだけではなかった。

『同じく、第1皇女様、第2皇女様それに第3皇女様も御隠れになられた。いずれも毒殺だ』

「<灰翼>!!貴方がたが本国に居ながら何故、その様な事態を防げなかったのですか!!」

 アイルは声を荒げた。彼はダーナ帝国と皇帝に忠誠を誓っている。その皇帝の御子たちが相次いで暗殺されたと聞かされ黙ってはいられなかった。

『…申し開きはしない。前兆を全く気付く事が出来なかったのは私の未熟さだ』

「…いえ貴方の表情を見れば分かります。何もかもが想定外の事だったのだと」

 声を荒げて申し訳ないとアイルは謝罪した。しかしこれで3個大隊の派遣が取りやめに会った理由が分かった。

「本国の防衛の為ですか」

『あぁ。目下、<白翼>守護艦隊が2個大隊を配下にローグ・ハインケル星系の防衛に当たっている』

「妥当な考えですね。残りの1個大隊は?」

『…今回の暗殺は星間連合軍によるものではない』

「………何ですって?」

 星間連合軍によるものでないと言うのなら一体誰の仕業だと言うのか。

 だがアイルにも分かってはいる。ダーナ帝国と比肩しうるとすれば星間連合を除き1つしかない事を。

 分かってはいても理解は出来ない。何故、自分たちの首を絞めるような真似をするのか。

 ディーンもそれは同じ気持ちだった。何故、このタイミングで対立を望んで来たのか。それを知る為にも1個大隊と同じ精鋭騎士の2人と共に彼の地へと向かわなければならないのだ。

『暗殺の犯人は宗教惑星系、その教皇派によるものだ』

 そして物語は1か月前に遡る。

 騎士の国と称されるダーナ帝国。彼の地で起きた大きな異変が切っ掛けで星間連合軍とダーナ帝国の戦いに誰もが予想だにしなかった事態を及ぼす事になる。


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