第16話 夜間の攻防
重い。何がって機体が重いのだ。
索敵に特化した装備は普段よりも高性能なレーダーで細かく且つ広大な範囲の情報を得る事が出来る。
しかしその分だけ専用のレドームには重量がある。普段装備しているマシンガンもこれ以上重量が重くなるとフレデリックの技量ではS2-27を飛ばすのが難しくなるとの事で取り払っている。
今ここで襲われたら間違いなく一巻の終わりだ。
だと言うのにだ。こっちが機体を飛ばすのにすら苦労していると言うのに向こうは変わらず眠たげな眼で機体をスムーズに動かしている。
その上、右腕は愛用している電磁投射砲のままだ。技量の差に泣けてくる。
「今に始まった話じゃないけどよ」
『何が?』
「何でもねぇよ。それよかそっちは何か見つかったか?」
『…何もない。艦長の言う通り行動を起こすのは』
「夜になってから、か」
フレデリックはそう呟いた。こうやって索敵を行っているのは敵がこちらの予想外の行動に出た時に対処する為、ダーナ帝国が仕掛けてくるのは日が暮れてからだろうとケインズは言っていた。
それは偏に敵の新型機の仕様と指揮官を鑑みての事だ。
電撃戦を得意とする精鋭騎士、アイル・ガーランド。
「なんだってこんな辺境の惑星に帝国のエースが来るんだよ」
フレデリックはそうぼやいた。ダーナ帝国がこの惑星、と言うよりもこのエリア37を狙っていると言うのは説明されたがその理由までは聞かされていなかった。
『……』
アリアにはそれに心当たりがあった。
遺伝子技術、それに関係した研究施設。
しかし、
『…理由が分からない』
そう目的が分かっていても理由までが分からなかった。
何故、狙うのか。破壊してどうするのか。
その辺りが一切不明なのだ。
ケインズ辺りは何か気付いているのかもしれないがそれを知らせてこないという事は自分たちが知る必要ないかもしくは確証がないのか。
そこまで考えてアリアは静かに首を横に振った。
あれこれ疑問を持つ前に目の前の任務をこなす方が優先だ。
『アイザー、補給しに後退して』
「あぁもうそんな時間か」
フレデリックは時間を確認してシルバー・ファング号に連絡を入れて後退する旨を伝えた。
「…ん?」
『どうかした?』
「いや、一瞬。何かノイズが…?気のせいか?」
通信が僅かにだが不安定になった、様な気がした。しかしその時間は極僅かでフレデリックはそれが偶々の事だと判断した。
何でもないとアリアに断ってフレデリックは艦へと後退を始めた。
アイルは額から落ちた冷や汗で自分が緊張している事に気付いた。
二度目とは言え、本当にこの男の言う通りなのか疑っていたからだ。
しかしここまでくるともう認めざるを得ない。
この男、メルクリウスの言う話を。
「どうやら1機、下がったようですね」
「……恐らく補給に向かったのでしょう。暫くすれば戻ってくる。その直後に今いる機体が補給に向かう」
「成程」
メルクリウスは頷いた。
「ではこのまま日が暮れるまで待機という事でよろしいでしょうか?ガーランド中佐」
「…その前に確認したい事があります。この艦は本当に相手から見えていないのですね?」
「ご覧いただいた通りですよ中佐。目標である街から僅か3キロ、この地点にいるにも関わらずあの索敵機に感知されていないのですから」
そうメルクリウスが駆る戦艦は今、街のすぐ近くにまで接近していた。
相手の眼から逃れる光学迷彩。
俄かには信じられなかったがこうして目の前で敵がこちらに目もくれない様子を見ていると認めるしかなかった。
「ならばこのまま艦砲なりで攻撃することは出来ないのですか?相手から見えていないのならば後ろからだろうと正面からだろうと一撃で撃ち落とす事も出来るでしょう」
アイルはそう尋ねた。
するとメルクリウスは眦を下げて困った表情を見せた。
「いえ、仰る通りそれが出来れば一番いいのですが出来ない事情がありまして」
「その事情とは?」
「私の光学迷彩の根幹にかかわる部分なのでお話しできません…が、まぁ簡単に言うとですね。攻撃を行うと光学迷彩が解けてしまうのですよ」
シャボン玉の内側にいる様なものだとお考え下さいとメルクリウスは言った。
その比喩を信じるとすれば光学迷彩はあまり安定しない代物なのかもしれない。
「分かりました。ではやはり作戦通り進める事にしましょう」
「夜まで待つと?」
「えぇ。星間連合軍がこうして索敵機を飛ばしている事から推測するにもう私たちの狙いがこの街にある事は気付かれているのでしょう」
となれば警戒している所に迂闊に飛び込めば痛い目を見るに間違いはない。
特に日が出ている内は困難だ。要塞化されたあの街は高い城壁で囲まれている。索敵機以外の監視網も広く迂闊には近づけない。
日が落ちればまだ夜の闇に紛れて近づく事も出来る
「夜になるのを待ち、攻撃を掛けます。貴方は手筈通りに準備をしていて下さい」
「承知しましたよ。ガーランド中佐」
メルクリウスはそう言って怪しく微笑んで見せた。
シルバー・ファング号に帰艦したフレデリックはその後、数度の補給をアリアと共に行い、フィオやロイ達も準備を進めていた。動き出すのは夜とは言え敵の姿を早期に発見できるに越した事はない。索敵範囲が広められ2人でそれをやらなければならない、フレデリックは思わず天を仰いだ。
パルム惑星軍でも東西の門へと戦力を固める動きが取られ始めた。機動力のある戦車は数少ない。その代わりに巨大な陸戦用双腕肢乗機であるソード・ブレイカーが鎮座している。
その物々しい雰囲気に街の住民たちも緊張している。街中では緊急の避難所が設けられ住民の殆どがそこに移動している。その様子を潜入していた<ポラリス>達はアイルに報告したが問題ないの一言で通信は切られてしまった。
そして日が落ち、夜の闇に包まれた頃。
「…最後の作戦を実行します。<青翼>中隊、出撃」
鳴り渡る警報にグレリオは声を張り上げた。
「状況報告‼」
「哨戒中の星間連合軍より入電‼東よりダーナ帝国が接近中です‼敵戦力は確認できている時点で新型が1、デュランダルが4、装甲車が6です‼」
報告を受けグレリオは予想通りかと呟いた。
前日にケインズより今回の作戦を説明された時にり敵は歩兵を使った市街地戦へ持ち込もうとしていると聞いた。
近辺で起きている同時多発テロはこの町に兵士を集めない為だとケインズは言った。各地で事件を起こす事で兵力を分散させる事で町の兵士の数を極力減らす事、それが狙いだと断言した上で無理に兵力をかき集めない様にと提言した。
何でだとグレリオは問うた。敵の狙いが分かっているのならその通りに動いてやる必要はない。だがケインズは別の視点で物事を見ていた。
「逆に相手の思うように動いてやるのです。その方が相手の動きが読みやすいですから」
ケインズのその予測は的中した。
後の流れはグレリオにも分かる。新型機とデュランダルが正門を破壊して装甲車が侵入。デュランダルが外から援護している間に装甲車から降りた歩兵が町を強襲し新型機がそれを援護する。概ねこう言った流れだろうと考えた。
ケインズの言う通り相手の流れに乗ってやった。しかしそれもここまでだ。
「ソード・ブレイカーの準備は?」
「すでに完了しています」
「よし。シルバー・ファング号に連絡、これより作戦通りに砲撃を開始する。ソード・ブレイカー隊全機、砲撃開始!!」
グレリオの指示の下、8つ脚の双腕肢乗機が両腕の大砲を構えた。戦車砲の数倍の口径を持つそれは当然、放つ砲弾の大きさも威力も違った。
砲弾は空に湾曲を描きながら目標地点に命中、爆発の余波で装甲車は転倒し1機のデュランダルが大破した。それでも砲弾の雨の中を掻き分けこちらに接近してくる帝国騎士団の技量に舌を巻きつつグレリオは次の指示を出す。
「戦車隊の準備は完了しているか!!」
「第1、第3分隊が既に向かって…いえ!!今、会敵しました!!」
『エリア37本部、こちらシルバー・ファング号。これより双腕肢乗機小隊を出撃させます』
「シルバー・ファング号、すでにこちらは戦車隊が会敵している。だが長くは持たないぞ」
『バハムーシュ司令官、マクシミリアンです。既に1機、そちらへ急行しているのでご安心を』
「索敵機か?だが重量の都合で武装を殆んど積んで…」
『いえ、向かっているのはS2-27ではありません』
まさかとグレリオは呟いた。
『ヴァルキリーです。夜間なんで大丈夫だと思いますが、見回りの兵士たちには道路に飛び出さないように伝えておいて下さい』
履帯が砂を巻き上げる。何かを噛み砕いたような音がしたが無機物である事をフィオは祈る。と言うか無茶だこんなの。真っ暗な闇の中を時速100キロオーバーで数十トンの鉄の塊を操縦するっていやマジで怖い。
「あと本当にこのルートで合っているんだろうな!!さっきから肩がガンガン建物にぶつかりそうなんだが!!」
『それが最短ルート。お得意の反射神経でどうにかして』
「どうしろと!?」
幾ら反射神経が良くても間に合わない距離に障害物が出てこられては無理と言うもの。曲がってすぐ目の前に現れた看板をまた弾き飛ばしてしまった。
それでも速度を緩める事はしない。敵をわざと自分たちの懐へ誘い込むこの作戦、1分1秒が命取りとなるのだ。
『右に曲がって。ラストスパート』
開けた大通りに出る。その先には巨大な門、フィオはグッと機体を更に加速させた。ソード・ブレイカーと戦車隊が迫りくる帝国の双腕肢乗機を撃退すべく砲撃を繰り返している。しかしその砲撃の合間を縫って1機のデュランダルが戦車の頭上を飛び越え、ソード・ブレイカーの横を駆け抜ける。その体が門を抜けようとしたその瞬間、
「させるかぁぁ!!」
フィオはアサルト・ライフルの引き金を引く。放たれた弾丸がデュランダルの装甲を撃ち抜き機能を停止させる。落下するよりも早くフィオはヴァルキリーで肩からぶつかった。追加で備え付けた装備が気にはなったがそのおかげもあってデュランダルは勢いよく吹き飛ばされた。デュランダルも相当な質量だが加速と重量の付いたヴァルキリーの方が勝った様だ。開かれた門から離れた場所で撃ち抜かれたデュランダルは爆散し夜空を赤く染める。
「こちらフィオ・ランスター!!これより交戦に入ります!!」
アサルト・ライフルを構えビームブレードを反対側の手に展開した戦乙女は敵陣へと真っ直ぐ飛び込んだ。
2機のデュランダルと1機の新型機に対して相手の戦力は今現れた人型を合わせて6機の双腕肢乗機が立ち塞がる。更に戦車隊が3分隊、絶え間なく砲撃を行い装甲車の接近を許さない。
ダーナ帝国騎士団のデーヴァはグッと唇を噛みしめ、
「後はお願いたします!!ガーランド隊長!!」
自分に託された新型機を駆り人型へと襲い掛かる。と
フィオはアサルト・ライフルを仕舞い両腕のビームブレードを展開した。射出される鉤爪付きのアンカーを切り払う。種さえ分かればフィオの動体視力の前では無意味だ。驚く敵の操縦者を他所にフィオは後退する。直後、デーヴァの駆るハティにソード・ブレイカーと戦車隊の砲弾が雨の様に注がれた。
作戦開始直後に上がった煙を見てアイルはこちらの強襲が見抜かれていた事を改めて悟った。索敵機を出して警戒していたのだからそうだろうとは考えていた。そして今、デーヴァとの最後の通信が途切れた。
しかしそれも考慮した上での作戦だ。
「よくやってくれましたデーヴァ小隊長」
アイルはそう呟いた。部下の捨て身の陽動で相手の注意は正門側に向いている。勿論、相手の指揮官が間抜けではなければ伏兵の存在にも憂慮しているだろう。
こちらの正体にも気付かれており、戦力が中隊規模しかいない事も知られているかもしれない。
既にその半数がやられた。最早、負け戦だ。そう考えるだろう。
「甘い…甘いとしか言いようがありません」
戦の常識?定説?それがどうした。
それを覆して勝利を手に入れる。それが精鋭騎士の役割だ。
電撃戦の名手。<青翼>中隊を率いる指揮官。
そう言った肩書を抜きにすればアイル・ガーランドは―ダーナ帝国が誇る精鋭騎士の一人なのだ。
操縦桿を握る手に力を入れる。駆るは二輪の機体、青く塗装され自身の称号である伝説上の生き物とされるサンダーバードの姿が刻まれている。
エンジンに火が入り陸戦用双腕肢乗機ハティがその目を覚ました。
一瞬の出来事だったとその場にいた誰もが語る。センサーに反応したかと振り返れば既にそこには敵影はなく、代わりに横からアンカー付きの鉤爪が突き刺さっていた。
「な、にが‼」
資格を失ったソード・ブレイカーの操縦者は息を呑む。やられると思ったからだ。
しかし操縦者の予想に反して攻撃は来なかった。
アイルにはそんな時間がなかったからだ。部下が命がけ―文字通り命を捨てて作った時間を無駄には出来ない。ソード・ブレイカーの間と間をすり抜けて西の裏門に向かう。そこから一気に最短ルートで目標まで近付き―
「ちっ」
アイルは舌打ちをして回避行動をとった。直後、激しい弾幕が降り注ぐ。上空からの襲撃者はそのまま急降下し地面のギリギリを飛ぶ。そしてアイルの正面に立つと再び銃弾を放った。アイルは怯む事無く撃ち合いに応じる。背に付けられた全方位ビーム砲球で正面の敵を狙う。敵はそれを絶妙なタイミングでかわし再び上空へと飛び上がった。
アイルは攻防の中で相手の機体がS2-27だと気付いた。機首の形からして恐らくは指揮官機だ。
一方のS2-27の操縦者、ロイも今の銃撃で落とせなかった事に顔を顰めながらもある事に気付いた。
「んん?相手さんの狙いはこの街の何かの破壊だろ?例のすげぇ威力のミサイルを持っていないぞ‼」
ロイの報告は直ぐにケインズの下に届けられた。
敵の目標は例のミサイルを使った破壊活動、そのミサイルが無いという事は、
「陽動か」
「正門側から攻めて来た敵機にもミサイルの姿は見えません」
「リリア君、周囲の状況は?」
「近くに他の反応は無し」
リリアがそう短く返答するとケインズは腕を組んで唸る。
「ミサイルを使うと言うのはこちらの思い違いか?いやあれだけの破壊力の兵器を使わないと言うのは考えにくい、と考えさせるのも罠だとすると」
「あの、結局どちらのでしょうか?」
裏の裏をかこうとする策略家たちの考え方についていけずにマイカはげんなりとした表情を見せる。
そんなマイカを他所にケインズは思考を止めない。
城壁に囲まれたこの街の出入り口は東側にある正門とその反対側にある裏門だけ。
北と南には索敵装備を施したフレデリックとアリアのS2-27が飛んでいるが敵影を捉えてはいない。潜り込んでいる伏兵か?いやそれも違う。
ケインズは前髪をかき上げた。
「…上空、全方位に向けて照明弾」
「っ!了解!照明弾、上空に向けて発射!全方位をカバーできるようにしなさい‼」
ケインズの言葉をマイカはすぐに理解した。上空に向けられて放たれた照明弾が次々に辺りを照らす。
そしてその光に照らされて現れたのは戦艦の影だった。
その影にケインズは目を見張った。
半信半疑だったとは言えまさか本当にいるとは思わなかった。
マイカもその影を見て息を呑み、呟いた。
「幽霊船…」
幽霊船―メルクリウスも驚いていた。
存在は完全に隠蔽していた。相手の艦のセンサーの類には全く反応は無い筈だ。
光学迷彩だけは使えないので解除していたがセンサーで捉えきれない以上、姿は見えていなかった筈だ。
「どこにも気付かれる要素はなかったはずですが」
メルクリウスは眉を顰める。尤も今更気付かれてもどうという事はなかったが。
「何せこれを落とすだけですから」
光学迷彩を解いていた理由。それは攻撃を行うためだ。
光学迷彩をしたままでは攻撃できない。そう言うとアイルはならば攻撃する直前まで解かなければ良いと言った。
敵の眼が自分たちの方へと向いている間に上空から落とせば良いと言った。
成程、確かにそれならば直前まで相手に察知される事はない。
その上、落とすだけならば照準だの点火などの時間も掛からないので光学迷彩を解いてすぐに使える。
「ではこれで終わりです」
メルクリウスはそう言うと艦の下部ハッチを開き巨大ミサイルを投下した。
目標物はすぐ真下にあり、ミサイルは標的とぶつかった衝撃で起爆するようにセットされている。例え戦艦を盾にしたところでもう躱し様がない。そうメルクリウスは考えた。
突如、飛んできたミサイルさえなければ。
「―は?」
メルクリウスは呆然とそれを眺めた。巨大ミサイルの横っ腹にそのミサイルは飛んできた。いやそもそもアレはミサイルなのだろうか。
なにせそのミサイルの先端には3本の指がついているのだ。巨大ミサイルの横っ腹にその3本の指を喰い込ませて6発のミサイルがぐんぐんと巨大ミサイルを押していく。重量差があるにもかかわらず指付きミサイルは上昇を続ける。
そしてメルクリウスの真横を通り過ぎてミサイルは諸共、爆発して消えた。メルクリウスが落とした巨大ミサイルは中の装置がうまく働かなかったせいか推進剤に引火しただけで大きな爆発にはならなかった。しかしその余波に煽られてメルクリウスは漸く我に返った。
「何ですか…‼今のはっ‼」
見た事のない兵器に驚かされ飛んできた方を見る。
そこにいたのは件の新型機―ヴァルキリーだった。
ヴァルキリーの両肩には追加兵装が施されている。本来はS2-27用の兵装だがアタッチメントを改造する事で強引に取り付けた物だ。
連装ミサイルポット、目的に合わせて多種多様なミサイルを運用できる兵装だ。目的に合わせて多様なミサイルを運用できる反面、重量があり飛行するS2-27には負担が大きいと使用するのを拒むパイロットも多い。
なのでシルバー・ファング号でも使われる事なく倉庫に置かれていたが、
「陸戦用のヴァルキリーだったら問題はないな」
重いと言ってもまだ<ランド・ユニット>の仕様範囲内だ。フィオは更にミサイルを放つ。先ほどの試作対ミサイル迎撃弾頭とは違い今度は通常弾頭だ。
上空の戦艦に向けて放たれたミサイルは弧を描くように上昇していったが直ぐに横に逸れた。
「くそ、レーダーが反応しないって事はやっぱりジャミングされているのか」
『周囲に強力なECMが行われている。通常カメラで目視による狙撃しか効果はない』
「狙撃言われても…この距離じゃアサルト・ライフルなんか届かねぇよ」
リリアから通信を受けてフィオは口を尖らせる。シルバー・ファング号の艦砲もこんな街中で使って逸れたりでもしたら一大事だ。
かと言ってあの戦艦を見逃すわけにはいかない。あの戦艦―幽霊船には以前の海賊騒ぎの時に借りがあるのだ。何か手はないかフィオが考えているとリリアは無表情なまま首を横に振った。
『ランスターがやる必要はない』
「は?」
リリアはスッと人差し指で横を指す。つられてフィオがそちらに目を向けると、
『―アリアがいる』
8キロ先から放たれた電磁投射砲の弾丸が幽霊船の艦橋を叩いた。




