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流星のヴァルキリー  作者: 夢見 旅路
第3章 反骨の星
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第13話 スプーニーの取材・下

 突然出されたヴァーナンドの名前にフィオは驚きを隠せなかった。しかしそれはケインズもフランも同じだった。技術連合の出身とは聞いていたがまさか連合総長の弟子とまでは知らなかった。それ程の人物が技術連合を出て流れの技術者になった理由がより気になるなとケインズは考えた。

「ヴァーナンド…養父に関しては自分もあまり覚えていません。3年前に亡くなっているので」

「存じています。私もお会いしたのは1度きりなのですがとても残念ですわ。今となってはもっとお話を聞きたかったと切に思いますもの」

「失礼ですがヴァーナンド・ランスター氏とは何処で?」

 ケインズがそう尋ねるとスプーニーはある惑星の軌道エレベータの話を挙げた。

「ご存知でしょうか?あの軌道エレベータには技術連合の最新技術が適用されておりその設計をなされたのがヴァーナンド・ランスター氏なのですよ」

 事実なのかとケインズが目線でフィオに訴えるとフィオはコクリと頷いた。以前に軌道エレベータの設計に携わった話を聞いたことがあった。

「あの方もまたジェネラリストとしての素質を持っていましたが流石はネメシス博士の高弟の1人ですね。双腕肢乗機の設計まで行えるのもネメシス博士の指導力によるものなのでしょう」

「ほう、ヴァーナンド・ランスター氏も双腕肢乗機の設計ができたのですか?」

 思わず聞き逃してしまいそうになる会話の流れをケインズは察知した。スプーニーはヴァーナンドが双腕肢乗機の設計が出来ると言った。どこまで掴んでいるか知らないが今の言葉をスルーする事は、

「…えぇ。何でもこの惑星パルムにある双腕肢乗機の設計をヴァーナンド・ランスター氏が行ったとか」

 こちらが設計が出来ることを知っていてかつソード・ブレイカーの設計に携わったことを認めるのに繋がりかねない。故に取るべき手段は知らなかったというポーズだ。

「初耳ですね。ですが技術者連合の出身者がこの最前線にやって来る事はないでしょう」

 そのポーズを取る事で同時にヴァーナンドがこの惑星パルムに来たという事実はないとケインズは否定した。それが事実かどうかは関係ない。ここで否定しておかないと星間連合軍としてその事実を知っていたのに取るべき手段を取らなかったとスプーニーが世論を煽りかねないからだ。

 スプーニーが目を細める。流石に記者としてこれまで海千山千の取材をこなして来た事はある。ケインズがスプーニーの取りたい言質を先んじて封じてきたのに気付いた。この2人の言葉の攻防にフィオとフランは追いつけていない。だが2人の間に流れる空気が若干変わったことには感づいた。

「星間連合条約に明記されておりますものね。技術連合の出身者は最前線へと向かうことを禁ずると」

「星間連合の要とも呼ぶべき技術力、その流出の危険を鑑みれば当然の事でしょう」

「仰る通りですわ閣下。それを技術連合の方々も分かっていられるのかは問題が別ですが」

「当然、その点に関しては歴代の総長が責任を果たして下さっていますよ。第一、宇宙港で技術連合の出身者が恒星間移動許可書を出したら一発で分かってしまう仕様になっているではありませんか」

「しかしそれは軌道エレベータがあり且つ宇宙港が整備されている惑星に限られますわね」

 暗にこの惑星パルムでは両方ともないのだから忍び込めるのではと問いかけてくる。

「それでも無理でしょう。例えばこの惑星パルムに来るのに幾つものクロス・ディメンジョンを通る必要がある事をスプーニー女史もご存知でしょう?」

「勿論、ここに来るまでに実際に通りましたしね」

「ならばその所々を我が軍が監視していたのも気付いていますよね?」

 クロス・ディメンジョンは基本的に全て軍隊によって監視されている。クロス・ディメンジョンはただの通り道ではなく、場合によっては敵の侵入経路ともなるのだ。そこに監視の目がつくのは当然の事だ。

「何かしらの抜け道があるのでは?」

「戦艦の横を素通りして気付かれないという技術は聞いたことがないですし素通りされて気付かない様な阿呆は星間連合軍にはいませんよ。監視衛星に至ってはもっと融通が利きません。不審な船に関しては一切の躊躇なく沈めに来ますよ」

ケインズは肩をすくめて言う。

「いいえ閣下。そう言った意味での抜け道ではありませんわ。その様な遠回しな意味ではなく、もっと直接的な意味での抜け道ですわ」

「直接的な意味での抜け道?」

ケインズの背筋に嫌な寒気が通った。嫌な予感がする。そう思った時だ。スプーニーの口から思いがけない言葉が出てきたのは。

「例えばそう、未発見の航路とか」

 フィオとフランはその言葉が何を意味するか考えてしまった。そしてアースガルド王国の王家、その秘中の秘を見せられた時の事を思い出してしまう。

 スプーニーの眼が二人を射抜く。その眼はとても危険だ。レポーターとしてこれまで様々な相手を見てきたスプーニーの観察眼は一級品の物だ。

 年若く顔にすぐに動揺が浮かんでしまうフィオや感情が爆発しやすいフランではその眼の観る力ですぐに感づかれてしまう。だからこそケインズは殊更自分をアピールするように大きな声で笑った。

「アハハハハ!!面白い意見ですね。しかし難しいでしょう」

 その声に驚いてフィオとフランはケインズを見て目を見開く。スプーニーが発した言葉に驚きを露にしようとしてしまった二人は似合わないケインズの大笑いにハッと気付かされた。

 幸いにしてスプーニーの観察眼が発揮するよりも前で済んだ。スプーニーには二人が何に驚いたのか気付かれなかったはずだ。

 それを証明するかのようにスプーニーは顔を顰め苛立たし気な表情を作った。

「そうでしょうか?技術連合の力なら新しい航路を発見するくらいわけないと思いますが。その航路を独占しているとしたら?技術連合は自由に星間連合の宙域を行き来できて最前線にも来ているかもしれません」

「面白いお話ですが、証明出来る手段がありませんね」

 ケインズがそういうとスプーニーはフィオのほうへ視線を向ける。

「ランスター少尉は何かご存じではないですか?」

「いえ特にそう言った話は」

フィオがそう言うとスプーニーは嘘ではないだろうなと険しい顔付きで睨んでくる。

 フィオはこの時、ある疑問を感じた。この女性は何故これ程までにこの事案に関して固執してくるのだろうかと。思わずそれを口に仕掛けた時、

「申し訳ないが、今は今回の作戦とヴァルキリー・プロジェクト以外に関する話はご遠慮いただきたい」

 フィオとスプーニーの会話を断つようにケインズが割って入る。ケインズの眼は真剣だ。これ以上、この話題を続ける気はないと眼で訴えている。スプーニーもその視線に気付いて居る。恐らくこのまま話を進めても必ず邪魔されるし、場合によっては取材そのものを強制的に終わらせ惑星パルムから引き離されるかもしれない。<アンジェリカ・スピーカー>が騒ぎ立てるよりも強制的に追い出したほうが利になると判断すればこの男だったらそうするだろうと考えスプーニーは嘆息した。

「失礼しました。では話を戻しまして…」

 その後の会談は無難な話題が終始続いた。スプーニーも引き際は心得ているのかヴァーナンドの事に触れてくることはなかった。そして会談が終わりスプーニーが立ち去ると、フィオは机に突っ伏した。

「……疲れた」

「分かるわ。私もよ」

 フランは煙草に火をつけて盛大にため息をついた。スプーニーに対して言いたい事は山ほどにもあるがスラングの1つも吐く気にもならない。それ位に疲れていた。

「と言うか、艦長。あの女、とんでもない爆弾落としていったわよ」

「そうだね。流石に予想外だったよ」

 ケインズはそう言って椅子にもたれ掛かった。その表情は険しい。

「抜け道-例の<王家の路>に気付いているみたいだね」

「ゴシップ程度の噂話で流れている事もあるけど、それをあのスプーニーが信じるとは思えないから…」

「何かしらの根拠があって口にしたんだろうね」

 件の<王家の路>は重大に隠されていて如何にスプーニーと言えどその秘密を知る事は出来ない筈だ。

「けれどそれは星間連合、アースガルド王国の中ではと言う注釈がつくがね」

「そこ以外から漏れたと?まさか…」

 アースガルド王国以外でその事を知っているとなると目下疑わしいのはそれを利用していると考えられる相手だけだ。

 フランはあり得ないと顔を顰めて、

「ダーナ帝国から情報を仕入れたって事?それこそどうやってよ」

「……そういう風に仕向けられた、いや妨害の為か…?」

「艦長?」

 ケインズは一人、何かを考える。しかしすぐに考えが煮詰まったのか渋い表情で首を横に振る。

「いや。何でもないよ。それよりもフラン君、この前の話に戻るんだけどヴァーナンド・ランスター氏がこの惑星に訪れるとしたら…」

「何が目的かって話?それはやっぱり分からないわね。あの後、色々と考えてみたんだけどどうにも理由が見当たらないのよ。私たちが知らない何かがこの惑星にはやっぱりあるんじゃないかしら」

「そうなると一番手っ取り早いのはバハムーシュ司令官に聞く事なんだけど答えてくれるかなぁ」

 難しいだろうなぁとケインズはため息をついた。

 その一方でフィオは<目的>と<隠された何か>に関して心当たりを思い出した。報告しなければと思っていたがスプーニーの取材が入りすっかり忘れていた。

 そーっと手を伸ばして恐る恐る口を開いた。

「あのー…その技術連合に関してちょっと報告が…」

 首を傾げるケインズとフランにフィオはケビンに連れられ見た研究施設について説明をした。最初は驚いた顔をしていたフランだが徐々に眉間にしわが寄り、

「そういう大切な事はさっさと報告しなさい!!」

 そう言ってフランはフィオに特大の拳骨を振り下ろした。目から火花が飛び散るかと思ったがこれは自分が悪いとフィオ自身分かっていたので黙って受け止める。

「謎の研究施設ね。フラン君」

「すぐに整備班から何人か向かわせるわ。データは残っていない可能性が高いけど」

 フランは携帯端末を使い連絡を取る。殴られたフィオはタンコブのできた頭を擦りながら、

「そういや水槽が幾つかあって3800とか番号が書いてあったけど…」

「水槽?どれ位の大きさよ?」

「…ヴァルキリーの操縦席くらい、か?」

 フィオの言葉にフランは眉をピクリと動かす。

「そ。ランスター、あんたも整備班の連中と合流してその研究施設まで案内しなさい。艦長、いいわね?」

「構わないよ」

 ホラさっさと行けとフィオはフランに艦長室から追い出された。

 フランは重たいため息をついてからケインズのほうへ振り向いた。

「艦長、ヴァーナンド・ランスター氏、もしくは技術連合がこの惑星に持っていた目的に関して推測が一つあるわ」

 何時になく真剣な雰囲気にケインズは何かを感じた。

「ん?もしかして何か気付いたのかい?」

 フランは頷くと、

「恐らくは禁忌技術の研究よ」

「禁忌技術?」

 ケインズが首を傾げる。そう言えばこれは世間一般ではあまり使わない単語だったなとフランは思い出した。

「星間連合条約で定められている研究開発が制限されている分野を技術者や科学者の間ではそれを禁忌技術と呼ぶの」

「条約で研究開発が制限されている分野…まさか」

「…恐らくは遺伝子研究」

 その言葉を聞きケインズは天井を仰ぎ見て片手で目を覆った。

 操縦席ほどの大きさの水槽、つまりは人が1人はいれる大きさであるという事だ。それ程大きな水槽を用意するという事は自ずとその使用目的も限られてくる。

「遺伝子研究は星間連合条約だけじゃない。ダーナ帝国や宗教惑星との条約でも特定の許可なしには研究することが禁止されている分野だ。知れたら大変なことになるぞ」

「故に厳重に隠すために戦力を用意した」

 間違ってもダーナ帝国に見つかり大きな問題に発展にさせない為にだ。その為に町の規模に見合わない城壁と巨大な双腕肢乗機を用意したのだ。

「成程、ソード・ブレイカーはその為の拠点防衛型の双腕肢乗機か」

ケインズはうめき声を上げる。

「どうするの艦長?これが知れ渡れば内戦は避けられない確実なものになるわ」

「信頼のおける所に情報は上げる。下手な行動を取れば星間連合の崩壊になりかねない」

そのうちの一人にケインズはカイト・ハヤカワを候補に入れた。

 フランは額を抑えて重くため息をついた。

「これってスプーニーはどこまで感づいていると思う?」

「<王家の路>までかな。遺伝子研究に関してまでは知らないだろう」

 もし気付いていれば確実にそのことも話に盛り込んでくるはずだ。それに遺伝子研究の可能性が出てきたのはケビンと言う少年が秘密にしていた研究施設の存在があったからだ。手入れが全くされていないという話を聞く限り、恐らくケビン以外に誰も見付けてはいない筈だからだ。

「兎に角、その研究施設をよく調べてくれ。研究内容が何であれまずは確証が欲しい」

「分かったわ。私も向こうに合流を…」

 とフランが言いかけた所でブザーが鳴り、来客を告げる。ケインズは来客者を確かめて艦長室の扉を開けると中に入ってきたのは険しい顔をしたベンだった。

「艦長、ちょっと妙な事になっています」

「こっちも雲行きは怪しいんだけどね。どうかしたかい?確か捕らえた帝国兵たちの尋問に付き合っていた筈だけど」

「パルム惑星軍の奴らが拷問でも始めたの?」

「そうさせない為に俺たちが出張っていたんだけど、それよりひどい状況になりそうです」

 フランの軽口を受け流しベンは首を横に振った。

「あいつら<ポラリス>の関与を知らなかったんです」

「知らなかった?という事は<ポラリス>によるテロは」

「予めダーナ帝国によって計画されていたものではなかったという事です」

「<ポラリス>の単独犯っていう可能性は?」

 フランがそう言うとケインズは首を横に振って否定した。幾ら何でもダーナ帝国の襲撃と言いタイミングが良過ぎる。無関係である可能性は無いに等しい。

「何かあって計画が変更された、という事か」

「帝国兵たちも詳しい作戦内容は聞かされていない様です。例の戦略兵器を何処かに打ち込む程度しか知らされていなかったですね」

 その目標地点すらも末端の兵は知りませんでした。

 そうベンが言うとケインズは目を細めて、

「じゃあもう少し上の兵士だったら知っているのかな?」

「そう思って階級が少しでも高い奴に話を聞きました。口を割らせるのに時間が掛かりましたが、何とか人道的な範囲内で済みました」

 ベンは重くため息をつく。ケインズの眼には殺気立って帝国兵たちに掴みかかろうとするパルム惑星軍の兵士たちの姿が浮かんだ。ご苦労さまとケインズは呟き、

「で?やっぱり目的地はこの町かい?」

「お察しの通りで。ただそいつも何でこの町にミサイルを撃ち込むのかまでは知らされていなかったですがね」

 ベンはそう言って肩を竦めたがケインズは目的がこの町だと帝国兵からの確証があった事で嫌な予感を覚えた。

「あと確定した情報ではないですけど悪い話が2つあります」

「聞こうか」

「まず1つ。<ポラリス>と思われる不審者がこの町に侵入したようです。ですがパルム惑星軍からは何も教えては貰えませんでした」

 ケインズは額を抑えた。元々、星間連合軍と地方の惑星軍とでは対立が生じ易いがこの惑星はその溝がとても深い。急遽な事なのでケインズたち上官層での話し合いも現場で動く兵士たちの連動も儘ならない状況で事だけが進んでいる。非常に不味い状況だ。ケインズはグレリオと腰を据えて話す必要があると心のメモに書き加えた。

「もう一つは何だい?」

「シルバー・ファング号のクルーが先ほど、医務室に運び込まれました。急性アルコール中毒だそうです」

「は?」

 フランは眉を顰める。この緊迫化の中で酒を飲み過ぎたバカがいるという事かと呆れた。

 しかしベンとそしてケインズだけはそれを別の視点で捉えていた。

「そのクルーだけか?他には?」

「うちのクルーは1人だけですがどうもパルム惑星軍でも同様の事が起きているようです。向こうは気付いていないようですが周先生の話だと使われたのは間違いないとの事です」

 軍医の周は患者の容態から直ぐに感づき近くにいたベンにそれを伝えたのだ。安易に話すとケインズの耳に届く前に何処かで気付かれてしまう可能性があり、その点ではベンはケインズとの付き合いも長くその可能性は無いと周は判断した。

 ケインズは深刻な事態に陥っているなと呟き、

「ベン・キーストン曹長、君が信頼のおけると思う人物にだけその情報を話しすぐに調査に入るんだ。これは正式な命令だ、白兵戦隊隊長すら疑わしいと思えば君の判断で行動すればいい」

「了解しました。すぐに調査を開始します」

 ケインズは真剣な面持ちで告げるとベンもそれに応え敬礼を行って艦長室を後にした。驚いたのフランだ。ベンは白兵戦隊の数ある班の内の1つ、その班長であるに過ぎない。経歴が少し特殊であるとは言え、艦長から直々にこんな命令を下されるのは異例と言ってもいい。しかもその内容は、

「自分の直属の上官すら疑えって内偵にしか聞こえないんだけど」

「実際その通りだよ。フラン君、非常に不味い事ながら今この近くには……」

 そこから紡がれた言葉にフランは眩暈を覚え危うく倒れる所であった。


 それは一瞬の事だった。グレリオ・バハムーシュ司令官の招集命令を受けて基地に向かっていた戦車部隊の小隊長は突如の大きな揺れに額をぶつけた。

「何事だ!!」

 軍帽が何処かに落ちてぶつけた額からは血が流れている。浅く切ったようだが場所が悪く血が止まらない。

「わ、分かりません!!何かが横を通り過ぎて行って…!!」

 流れ出る血をそのままに小隊長はモニターで周囲を探る。しかしその影を捉えるよりも先に味方の戦車が1台、また1台と数を減らしていく。そして再びの強烈な揺れに分隊長が乗る戦車はひっくり返った。

 頭を強く打ち薄れゆく意識の中、壊れたモニターに映っていたのは青く染められた帝国の新型機。小隊長はその正体を知る事なく意識を手放した。


「…流石は精鋭騎士様だな」

 <ポラリス>のオストーは感嘆交じりにそう呟いた。

 戦車と双腕肢乗機では力の差に大きな隔たりがある。兵装や装甲に大きな違いがあるので当然の事ではあるがそれでも1個小隊の戦車をたった1機で瞬殺できるのはパイロットの技量によるものだ。その上、戦車の1台はほぼ無傷で倒している。

 文字通り、横転させたのだ。指揮官機と思われる戦車を鹵獲するために取り巻きの戦車を一瞬で撃破し、相手が応戦態勢に入るよりも先に猛スピードで接近、直前で前輪をロックして機体を滑らしたのだ。後輪が尾を振るように前へと滑り、戦車の横っ腹を叩くと戦車はその衝撃で横転、すぐにアンカーでその戦車の身動きを封じると同時に態勢を崩した自身を立て直した。

 瞬き一つの間に起きた出来事にオスカーは改めてダーナ帝国騎士団が誇ると言う精鋭騎士を、アイル・ガーランドの実力に身を震わせた。

「この先、あいつらの期待やら何やらを裏切ったらああいった連中の相手をしなくちゃいけなくなるわけだ」

 そう漏らした言葉に周囲にいた男たちも唾を飲み込んだ。すでに大元の<ポラリス>とは袂を分かっている。この上、ダーナ帝国とまで事を構えたくはない。

「行くぞ。騎士様がお呼びだ」

 オスカーはそう言って鹵獲された戦車へと向かった。

 オスカー達に与えられた仕事は大詰めを迎えている。鹵獲された戦車から兵士を引きずり出すと帝国兵たちはとどめを刺していく。

「おいおいおい!!殺しちまうとやり難いんだから勘弁してくれよ」

「下手に抵抗されても困ります。これが確実です」

 そう言ってアイルの副官は最後の一人にとどめを刺した。オスカーは仕方ねぇと言うと、

「さっさと始めるぞ。まずはこいつらの軍服を脱がすんだ」

 部下にそう命じて死んだ兵士たちから軍服と装備を剥ぎ取らせていく。その間に横転した戦車の中を覗き込み内部を確認する。

「どうですか?」

「問題ねぇや。この型は使った事がある。損傷を最小限にしてくれたからこのまま使用もできる」

「では手筈通りに」

 おうとオスカーは言うと戦車の中に転がっていた軍帽を見つけそれを手に取った。

「それじゃあまぁ、精々汚れ役を演じさせてもらうとするか」

 そう言って血で少し汚れた軍帽を被り醜悪な笑みを浮かべた。


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