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流星のヴァルキリー  作者: 夢見 旅路
第1章 Boy and Girl engage Valkyrie
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第4話 そして日常は終わりを迎え

 何時も手塩にかけて整備している愛用スクーターは何時もだったら快適な―とは大げさだが―乗り心地をフィオに味あわせてくれる。しかし今日は違った。これほどまでに自分の小さなスクーターを呪った事は無い。

「どうかしましたか?フィオさん」

「……なんでもない。それより運転中なんだからあまり動くな」

 フィオの顔を覗き込もうと前のめりになったエルムをフィオは注意する。スクーターの上でフィオとエルムの体はほぼ密着しており、エルムが体を前に寄せた事でほぼあった隙間は限りなく0に近づいた。

 なるべく意識しないでおこうとしたのだが身体が近くなればなる程、エルムの柔らかい体が気になり始める。こんな事で事故でも起こしたら目も当てられない。目的地に早くつく事を祈りながらフィオは運転に集中する事に決めた。

 初歩的なミスをやらかしたフィオは近くの弁当屋まで買い出しをさせられ、そのついでと言わんばかりに「ちょっとあの子に外の空気を吸わせてきてやれ」とロンドから命じられこうして2人で小さなスクーターに乗っていると言う訳だ。パシらされた挙句、子守までもかと思いほんの少しの抵抗のつもりで遠回りしたのだが逆に裏目に出てしまった。

 近所でも評判な弁当屋はこの日も混んでいた。安くて腹に貯まる。味もそこそこと時間に追われる肉体労働者にとってありがたい仕様の弁当なのだ。出来上がるまでの間、情報端末を弄ってニュースを眺めていると何処もかしこも同じニュースで賑わっていた。

「アースガルド王国王女、来るねぇ……」

「………?フィオさん、アースガルド王国と言うのは?」

「え?あぁ…そっかその辺も分からないのか。えっと」

 フィオはニュースサイトを閉じると顎に手を当て考える。

「何処から説明したら良いかなぁ…まず俺たちが今いるこの工場惑星は銀河連邦っって言う惑星国家群の1つ何だ……惑星国家群って分かるか?」

「んー……<1つの惑星を国家として見た>のが惑星国家で、惑星国家群はその集まりと言う事で良いですか?」

「正解。まぁ俺も惑星国家の正確な定義とかは知らないけど概ねそんな感じ。今のところ惑星国家群は5つあるんだけど……そのうちの1つ銀河連邦は各惑星国家がそれぞれ自治権を持っていて自分たちの惑星国家を運営しているけど銀河連邦全体的な事に関わる物は各惑星国家群から選出された議員によって構成される銀河議員会によって色々採決されるんだ。旧暦の頃はこれ、連邦制とか言われてたらしいけど今も言うのかな……?」

 学校に通っていないフィオも詳しくは知らない。一応、最低限な事は育て親から教わっているだけでフィオも銀河連邦の成り立ちやアースガルド王国に対して詳しい訳ではないのだ。

「で次にアースガルド王国なんだけど…ここもやっぱり惑星国家群の1つだけど銀河連邦とはちょっと政治体系が異なる」

「王様がいるんですか?」

 エルムの質問にフィオは正解と頷く。

「惑星国家の自治権と中央政府があるのは同じなんだけど、アースガルド王国では惑星国家のトップがそのまま中央政府での議員を兼ねるんだ。まぁそれとは別に各地から擁立された議員もいるんだけど…そう言った人たちで構成された王国議会が銀河連邦と同じようにアースガルド王国にはある。ただアースガルド王国にはその議会の上に更に国王ってのがいてな。この国王が形式上、最高権力を持っている事になっている」

「形式上ですか?と言う事は実際には違うんですか?」

「んー…らしいとしか言えないんだけど……色々、議会に口出せる権限があるらしいぞ?ただあんまり議会に口出してかき回すのも良くないから大概は議会に任せっぱなしなんだって。俺もそれくらいしか知らないや」

 酷く大雑把な説明をしてフィオは苦笑する。

「あと技術連合とか宗教惑星系とかあるんだけど……まぁそうそう行く事無いから政治の仕組みとか聞かなくても大丈夫だと思うぞ」

「……?フィオさんフィオさん。さっき惑星国家群は5つあるって言ってましたけど最後の1つは?」

 エルムが可愛らしく首を傾けるのを見てフィオは「あー……えっと…」と視線を逸らして口を濁す。純粋な瞳は只単に疑問を口にしただけなのでフィオは観念して口を開く。

「ダーナ帝国。こっちは俺も全く知らないし絶対行く事は無いから安心していいと思うぞ。何せ現在進行形で戦争している相手なんだから」


 人数分の弁当を買いこむとフィオは収納スペースに無理やりそれを押し入れ工房に戻る。

 行きは嫌がらせを兼ね何時もの倍の時間をかけ弁当屋向かったが苦行だったと気付き逆に帰る時は何時もの倍のスピードで工房に戻った。

「ところで……こいつ組み上がったのは良いけどこの後どうするんだ?依頼主に10日で組み上がりそうですって言って報告するつもりか?」

 技術者の1人がロンドに尋ねる。

「それに関しちゃあさっき報告してきた……曰く、3日後にステーションまで持って来いだそうだ」

「それだけかよ…もっと驚けよなぁったく……」

 3週間の予定を10日で組み上げたのだ。もっと何かあってもいいじゃないかと技術者たちはぶつぶつ言っている。発破をかけた張本人であるロンドは苦笑し、

「ま、依頼主から手当を弾んで貰えるように交渉はしてみるさ…っつう訳だ。フィオ、あの機体をトレーラーに乗せて運ぶぞ」

「えぇー……それも俺なのかよ」

「この中で大型免許持っているのお前だけだろ」

 確かにそうなのだがとフィオはぶつぶつ言いながら弁当の残りを一気に平らげると「トレーラーの燃料ってまだあったっけか…?」と支度をするためにその場から離れる。その後ろ姿を見ながら男たちは、

「なんでアイツ、あんなに芸達者なんですかね」

「器用貧乏…というより節操がないよな。双腕肢乗機の操縦免許以外にも大型車両や小型宇宙船あと…何だっけかな色々持っていたよな?」

「大体、どこの担当に回しても作業こなしてくれますしね」

「ま、だからこそアイツを雇っている訳なんだが……」

 ひそひそと本人に聞こえないように話しているのは使い勝手が良くて色々こき使っている自覚があるからだろうか。

 そんな中、エルムは一人にっこりと笑いアンナに顔を向け、

「フィオさん、モテモテですねっ!」

「それ言ったら多分あの子、凹むと思うから内緒よ?」


 それから3日後。無事に組み上がった新型機をトレーラーに乗せるとフィオはロンドからトレーラーの鍵を受け取った。

「フィオ」

 ロンドはこれまで見たことも無いくらいに真剣な表情でフィオに話しかけてくる。その様子にフィオは若干引き気味になる。

「なんだよ……真面目な顔をしちゃって……」

「茶化すなよ。真面目な話さ……あの娘の事でな」

 そう言ってロンドが視線をやった先にはエルムがアンナと何か話していた。ここからでは何を話しているか聞こえないが表情からして暗い話の様には思えない。

「彼女がここに住み着いてだいぶ経つが……そろそろステーションに連れて行こうかと思う」

「…やっとかよって感じだがな」

「言うな。色々あっただろ?」

 そう言ってロンドが指さすのはトレーラーの中身。確かに色々あった。フィオはハァとため息をついて、

「これでもやっとアンナの奴を説得できたんだからな……まぁアイツにとって本当に娘が出来たみたいで嬉しかったんだろうさ。別れるのが惜しいくらいに」

「…あの性格だぜ?よしんば何処の誰だか分かってもきっとそれで『はいサヨウナラ』みたいな展開にはならないよ」

「そうだな。そうだと俺たちも嬉しいよ……何にせよいい機会だからな。コイツを届けに行くついでにちょっとステーションの入国管理課に行って来い。連絡は俺の方からしておく」

「あいよ。俺はそこに連れていけばいいのね」

「あぁついでにこいつも預けておく」

 そう言ってロンドが手渡したのはエルムの恒星間入港許可書だ。黒色のそれをフィオは雑にポケットの中に仕舞うとトレーラーの扉を開ける。

「エルムっ!!」

 フィオはアンナと喋っているエルムの名前を読んだ。呼ばれたエルムはキョトンとしていたが直にこちらへと走り寄って来る。

「ちょっとステーションまで荷物運ぶんだけど…手伝ってくれるか?」

「分かりました良いですよ」

 そう言ってエルムは微笑む。そしてロンドの方へと向いて頭を下げる。

「あの……いってきます」

「…おう」

 聡明な子だとロンドは心の中で呟いた。ステーションへ自分がいく意味をちゃんと理解している。遠回しにしていた問題に向き合う時が来たのだと。

 その上で彼女は言った。いってきますと。

 それはここに帰ってきますと言う意味で捉えても良いのだろうか。ロンドは目から何かが滲みそうになる。ちらりとアンナの方を見れば同じような顔をしていた。

 たった10日ほどの間柄だった。けれど忘れ難い10日だった。

 だからロンドは短く返答しエルムの頭を撫でるだけにした。

 きっと彼女はここに帰って来てくれるから今はこれだけで良い。

 そう言う意味を込めて。

 



 その願いは儚くも崩れる。


「――隊長、目標に動きありです」

「予想よりも早かったな…仕方ないな。各員に通達、プランAを破棄。プランBに移行する。ラウル、艦長殿に連絡を入れるんだ」

 工房の向かい側のビル、そこからカラスは例の機体が載せられたトレーラーをじっと見つめる。

 戦争の火種、排除すべき敵の牙。そのための準備と覚悟はもう出来ている。

「悪いがその機体、戦争に使わせる訳にはいかない……ここで消えてもらおう」

 帝国騎士の剣が今ここに振り下ろされようとしていた。


 ステーションまで30分、何時もだったらそれくらいで到着するのだが、

「渋滞……?」

 フィオは訝しげに呟く。リアルタイムで交通状況を把握し最適な交通整理を行うはずの道路の信号機はどういう訳か赤のまま変わらない。フィオの前にも後ろにも車が並び、身動きが取れない状態だ。

 完璧に近い交通整理がなされる道路管理システムは滅多なことでは渋滞を生むようなことはない。

「何か事故でもあったのでしょうか?」

 助手席に座るエルムが首を傾げる。

「いや、それにしては様子が変だな。警察車両とかが出張っている感じも無いし…」

 フィオは眉を顰めながら交通情報をラジオで探してみる。

 程なくしてあるラジオ番組で信号機のトラブルがあった事を伝えるニュースが流れてきた。

「システム的な問題か……?だとすると回復までに時間がかかりそうだな」

 ラジオ番組によると20分前に信号機の色が変わったままだと言う。警察にも連絡して交通整理のプログラムを一括して管理している施設に赴いているらしいが、いまだ復旧していない。

 業を煮やした誰か技術者が信号機に上って修理し出さないかと思ったが、流石に公共の設備に手を出す勇気はないらしく、皆一様に復旧を待っている。

「しかし…大変だなこりゃ。何時も以上に大型トラックがいるぞ」

 工場惑星で大型トラックは珍しくない。むしろ、頻繁に大量の物資を運んでいるのだから惑星の必需品といっても過言ではない。1日に惑星中のトラックが走る距離を総計すると惑星2周分になるというデータもあるらしい。

 それを差し引いても今日は数が多い。道路の70%近くがトラックで埋もれている。

「でも……あれ」

 エルムが何かに気付いたらしく小首を傾げる。

「同じトラックが何台も並んでいませんか?」

「ん?……言われてみれば社章が同じだな……どっかの会社が大口の依頼でも設けたのか?それにしても見ない社章だな。どこの工房だ……?」

 トラックの窓から身を乗り出し目を凝らす。

 すると偶然か、前のトラックの運転手と目があった。その瞬間、運転手は慌てて眼を逸らすがフィオの眼にはしっかりとその様子が映った。その行動にフィオは首を傾げる。

 しかしそれもラジオから流れてきた次の情報に一瞬で頭の隅に追いやられた。

「―市民の皆さんにお伝えします。ただ今、惑星統括機構より第1非常事態宣言が発令されました。市民の皆さんは落ち着いて行動し、公共職員の――」

「っ!!第1次非常事態宣言だって!?ウソだろおい!!!!」

「フィオさん、何ですかそれって?」

 フィオのただならぬ気配にエルムも不安げに眉を顰める。

 実際、フィオに心のゆとりは無かった。何故なら、

「戦争だよ!!!!この惑星の近くで、信じられないけどダーナ帝国の奴らと戦闘が起きたんだ……っ!!!!奴らがここまで侵略に来たんだ!!!!」


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