第10話 動く策謀
グレリオは首を横に振った。
「駄目だ。許可できん」
その短い一言にロビンソンは大袈裟に両手を肩の高さまで上げて驚いて見せた。
「いやいや。そりゃ無いですよ。無いったら無いです。なぁ司令官殿。捕虜の口を割らせないでどうやって敵の根城を探すって言うんですか?」
「捕虜から聞きだすのは構わん。だがその方法は人倫に則ったものにしろ」
「十分に考慮してますぜ?」
無駄に苦しませる事も無ければ痕を残すような事もしない。
しかしグレリオは首を縦に振る事は無かった。
「厄介な記者達の目もある。大人しくしていろ」
分かったなと鋭い視線を浴びせてみせればロビンソンは渋々と言った表情で頷いた。
グレリオは手元の資料に目を落とし、片手で下がれと合図を出した。
ロビンソンは司令官室から退出すると人目の付かない場所まで向かい、そこでグレリオを口汚く罵った。
「あのロートルっ!!出世した途端に<お星様>に尻尾振りやがって!!」
近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばすとロビンソンは苛立たしげに煙草を取り出した。噛みつくようにして煙草を咥えるがライターの火を切らしている事を思い出し舌打ちをした。
「良かったらどうぞ」
と、ロビンソンの横から手が伸びてきた。その手にはライターが握られていた。
「アンタ…確か記者さんの付き人だったな」
「ケイリーン、皆はケイと呼びます」
良かったらそうお呼び下さいと言って彼女はロビンソンの咥えた煙草に火を着けた。
その動作はとても自然だった。普段から接待慣れしているのだろうか。
そう感じさせた。
「実はお聞きした事があって…」
「何だ。取材って奴か」
ライターを胸ポケットに仕舞うのを何となく目で追ってしまった。
豊かな膨らみを持つ彼女は暑さの為かシャツのボタンを3つ開けていた。その胸元に注視してしまっているのに気付きハッとロビンソンは目を逸らした。
「えぇ。少しお時間いただけませんか?」
「…バハムーシュ司令官の許可を取って来な」
ロビンソンは紫煙を吐き出しながらお決まりのセリフを吐いた。
情報漏洩の観点からでもあるが、個別の記者を一々相手にしていてはきりが無い。記者はスプーニー達以外にも基地の外でスクープを狙っている輩も多い。
その中に敵のスパイも紛れ込んでいる可能性も無い訳では無いので、取材に関しては全てトップからの許可制だ。基地や戦艦のトップにはそう簡単には直ぐに会えないし、多忙を理由にすれば幾らでも会うのを断る事ができる。つまり許可が下りる事は無い。
これもまた戦場の、最前線でのルールだった。
外にいるスクープ狙いの輩もそれが分かっているから、基地の中にまで入り込みはせず外で特ダネを待っているのだ。
だがスプーニー達は違うらしい。戦場でのルールと言う物を知らないのだ。ロビンソンは手っ取り早くルールを教え込んでやろうと彼女の胸倉へ手を伸ばそうとして、
「…あ?」
空振った。何も無い場所を手が扇ぐ。何だと疑問に思うより前に身体が急に傾いた。
気付けば頭が霞みがかっている。まさか毒か、いやここまで来るまでに口にしたものは殆んどない。その何れも安全の確認は取れている。今口に咥えている煙草だってそうだ。
なのに何故だと考える頭も働かなくなってきた。
視界に迫るのは大きく開いた彼女の胸元。
甘い匂いが漂ってくる。
「さぁ教えて下さい。この惑星の秘密を……」
その声にロビンソンはいつの間にか逆らえなくなっていた。
「ガーランド隊長。協力者による妨害工作ですが現在、45%まで達成しています」
「引き続き作戦の進行を行うように伝えておきなさい」
「了解しました。それと…」
副官は視線を一度逸らした。それから嘆息して、
「ブルック小隊長との連絡が途絶えました。恐らくは…」
「…そうですか」
アイルは手を組み口元を隠した。事態は由々しき状態だ。信頼できる部下の数はどんどん減っていき、本国からの増援も期待できない。
その代わりに現れたのが、
「おや此方でしたかガーランド中佐」
薄気味悪い笑みを浮かべた線の細い男―自称メルクリウスだった。
時間は十数時間前に遡る。アイルが直接、本国に連絡を取ったが返答は同じく3個大隊の派遣は取り止め、現存の戦力で対応せよとの事だった。その通信を横から聞いていたのだろう、2時間も経たずにアイルの目の前にこの男は現れた。
「後詰めの部隊が中止になったと聞きまして。お力になれないかと思い参上しました」
無論、手ぶらではありませんよとメルクリウスが見せたのは肌の浅黒い屈強な男たちだった。その男たちは首から同じ形をした十字架を掛けていた。
それを見てアイルは彼らが何者か察した。
「<ポラリス>…ですね」
「えぇ。ちょっとした伝手がありまして。こうして来て頂いたのですよ」
メルクリウスの言葉にリーダー格の男はフンと鼻を鳴らし、
「よく言うぜ。俺たちの船ごと捕虜にしておいてな」
「おや?ではあのまま沈んでしまった方が良かったと?組織から離反しようとして追手を掛けられていたのでしょう?そこを私が助けてあげたのですよ」
そう言うとリーダー格の男は舌打ちをした。離反と言う言葉にアイルはピクリと眉を動かした。
「離反…裏切り者と言う事ですか?」
「裏切りなんかじゃねぇ!!俺たちは<ポラリス>の本来の意義を忘れたアイツらを見限っただけだ!!」
「まぁまぁ落ち着いてオストーさん。ガーランド中佐、貴方の心配する所も分かりますがそれには及びませんよ」
怒鳴り出した男―オストーを宥めながらメルクリウスは言う。
<ポラリス>は十字星教の教えを固く守る組織だった。偉大な教えを軽んじる新派や時の権力者に媚を売る教祖派とは異なり、十字星教の主義を信奉しそれによって国や世界は動かされるべきだ。なのに、
「ガルムの奴は最近、新派や教祖派への抗議活動を控えるようになりがやった。噂によりゃあどちらかに寝返るんじゃねぇっかって…それじゃ駄目なんだよ!!全ての信徒が俺たちの主義に賛同し、十字星教が、本当の十字星教が認められるようにならなければ!!」
「その尊い志に私も心を打たれたのですよ」
とメルクリウスはオストーの肩に手を置いて励ます。その光景を見てアイルは白々しいと心の中で呟いた。どう考えてもこの男たちを利用する為に口説いているだけだ。追手を掛けられていた所を助けた、と言っていたがそれも事実なのだろうか。怪しいものだとアイルは呆れた面持ちで眺め、
「……それで?」
「彼らの悲願を達成するお手伝いを交換条件で約束しました。この地の不信者を退治する手助けをして欲しいと」
「……先立つ物が無けりゃあどうしようもないからな。どんな事情やら何やらがあろうと協力させてもらうさ。それに今のダーナ帝国皇帝は十字星教に信仰が厚い。きっと俺たちの考えも分かってくれるだろう」
本音は最初の部分だけ。後は取って付けたかのように言った出鱈目だ。特に今の皇帝陛下がテロ組織の考えに賛同してくれると言ったその口にアイルは拳をぶつけたくなった。
しかしそれを仕事と割り切って小さく息を吐き、
「分かりました。協力に感謝しましょう。その上で貴方がたにやって頂きたい事があります」
そう言ってアイルは作戦を指示した。
オストーの部下の数、装備や錬度を確認しつつ襲撃する場所と順番を説明していく。
その襲撃する場所と数にオストーは目を見開き驚き、予め傍受していたから知っていたメルクリウスは何も言わず嫌な笑みを浮かべていた。
「それは…いいのか?」
「逆に聞きますが出来ないのですか?」
「いや、出来ない訳ではないが…それではまるで…」
「無差別テロと変わりないですね。帝国騎士団の威信に傷はつきませんか?」
メルクリウスが嘲るようにそう言うとアイルは鼻でそれを笑い飛ばした。
「それは私たちが直接手を下せば、そう騒ぐ輩もいるでしょう。しかし手を下すのは私たちでは無い」
開き直っているとメルクリウスは苦笑した。
「貴方がたには汚れ役を任せます」
「……そうはっきりと汚れ役だと言われるとむしろ、腹もたたないな」
オストーも苦笑し肩を竦めた。そしてアイルに手を差し伸べる。
アイルもまたその手を握り、
「最大限のバックアップはしましょう」
「その言葉、信じさせてもらう」
それから直ぐに<ポラリス>は行動を起こした。
メルクリウスはまた元に居た場所へ戻るという旨を伝えアイルの部屋から出て行った。アイルとしてはそれ位の用事なら伝言で済ませて欲しかったのだがこれ以上、話を伸ばしてメルクリウスの為に時間を費やすのは億劫だった。
アイルは副官が淹れたコーヒーを一口飲むと、
「デーヴァ小隊長をここに呼んで来て下さい」
計画は順調に進んでいる。テロを受けた町や軍では警戒が強まっている。
それこそがアイルの狙いだった。
しかし副官は表情を暗くし、
「…ガーランド隊長、やはりこの作戦は…」
「言った筈です。この作戦は何があっても完遂せねばならないと」
その為には如何なる犠牲も厭わない。この身を削る事も、己を慕う部下たちの命を消費する事にもだ。
「デーヴァ小隊長を呼びなさい。彼と彼の小隊には捨て駒になって貰います」
貴重な食事時間は大抵の兵士たちは目の前の食事と同僚との会話に費やす。しかし今日は違った。シルバー・ファング号の食堂では目の前の食事が冷めるのにも拘らず皆、テレビに注視していた。
『現在、惑星パルムで起きた同時多発テロは十字星教過激派<ポラリス>によるものだと判明されています。星間連合議会は<ポラリス>に対し非難と、また惑星パルムに対して充分な支援を行う事を公言しました』
『また今回の同時多発テロにより惑星パルムで現在、ダーナ帝国による侵略も行われている事が現地での取材で判明しました。星間連合軍はこの事実を把握しながらも、惑星パルムへの艦隊派遣を行わず、また緊急措置としてデ・クラマナン星系の恒星間移動を制限していました。銀河放送局独自の世論調査によりますと今回の星間連合軍の行動に関し、ダーナ帝国の侵攻を止められなかった事に対する隠蔽ではないかと言う声も上がっています。スタジオには軍事関係に詳しい評論家のマッキンシー氏をお呼びしています。マッキンシー氏、今回のこの星間連合軍の行動をどうお考えになりますか?』
『まず一番の問題は連合内の惑星にダーナ帝国が侵攻してきた事を公表しなかったのが問題ですね。侵攻の事実を確認出来た所でデ・クラマナン星系の司令部は本部に一報を入れるべきでした。そうすれば既に侵攻され後手に回っているこの状況の中でも打てる手は幾らでもありました。バルバス星系には常備艦隊として6個師団、戦艦の数で言えば7000を超える戦艦を保持しているのです。それらの戦艦は非常時にはアースガルドの国王の命令で全てを動かす事ができるとされています。迅速にバルバス星系から援軍を派遣していればダーナ帝国の侵攻も同時多発テロも防げたのではないかと私は考えます』
『やはり問題はデ・クラマナン星系司令部の情報伝達が遅れた為と?』
『要因の一端であると考えるべきでしょうね』
芋の煮ころがしを口に運びながらフィオはロイに尋ねた。
「アースガルドの王様ってそんな権限があるのか?」
「まぁ名目上はな。だけど実際にアースガルドの国王が星間連合軍に何か命令を出そうとしたら議会やらなんやらの真偽だとか許可が必要になるから無理だぞ」
「今の星間連合軍ってのは簡単に言うとアースガルド王国軍が基になっていると言えるからな。慣習上、本当に形式上だけどアースガルド王国の国王が星間連合軍の元帥って地位に就いているんだ」
フレデリックは最近、フィオに影響されてか焼き魚定食を頼むようになった。今の最大の課題は如何にしてフォークとナイフを使って焼き鮭を綺麗に食べられるからしい。
しかし主食がパンであると言うのがいただけない。フィオは機会を見て白米の素晴らしさを説明しなければならないと心に決めた。
「しかしダーナ帝国の侵攻まで話に上がるとはなぁ。そっちはまだ、連中を刺激するといけないから控えて欲しかったんだが」
「…<ポラリス>の犯行とダーナ帝国は繋がっている。どの道、バレてた」
アリアは3杯目の牛丼のどんぶりをテーブルに置いた。無論、3杯とも大盛である。
「やっぱりこの同時多発テロもダーナ帝国がらみか?」
フィオがそうアリアに尋ねると頷いて見せ、
「タイミングが良過ぎる」
「いや。だけど元々<ポラリス>の奴らがテロを計画していてダーナ帝国の侵攻に便乗してきた可能性だってあるだろ?」
「いや行動が早過ぎる。確かに<ポラリス>は過激派組織の中では一番デカイがこの規模のテロを実行できるほど地力は無い筈だ。まぁ繋がっている証拠もないんだがな」
ロイは冷めたフライドポテトを手掴みすると纏めて頬張った。目の前の皿に置かれているのは大きなハンバーガーとフライドポテト、どちらもフォークやナイフを使うような真似をロイはしない。
種族柄、食事に制限が付いている者や出身惑星の慣わしで変わった作法をする者もいる。手掴み位ではこの食堂ではうるさく言われる様な事は無いが、
「コラ!!アンタらテレビばっかり見ていないでさっさと食事を済ませちまいな!!折角の料理が台無しじゃないか!!」
厨房から叫ぶハリオンの声に食堂に居た全員が慌てて食事を進める。
食堂では敵無しのルビア・ハリオン曹長、彼女の機嫌を損なえば明日以降の食事は白米に梅干だけと言う事になりかねない。
フィオも慌てて橋を動かし、喉に芋を詰まらせそうになり横から差し出された湯呑を受け取り飲み干した。
「フィオさん。幾らなんでも慌て過ぎです」
ちゃんと味わって食べて下さいよと言ってエルムはフィオの湯呑に新しい緑茶を注ぎ、ロイ達の前にはコーヒーを出した。
「あの…フィオさん」
「ん?どうした?」
エルムは少し言い辛そうな顔をしてそっとフィオの耳元に顔を近づけた。
ふわりと香る髪の匂いにフィオは一瞬、どきりとした。
「スプーニーさんにフィオさんの事を聞かれました」
だがそれもすぐに冷たい物に変わる。耳元で話したがロイ達の耳にも届いたらしく表情が固くなる。フィオはちらりと食堂を見渡す。
例の記者たち一行の姿は無い。
「フィオさん達が来るちょっと前まで居たんです。レギン曹長が席を離れたタイミングで私に声を掛けてきたんです」
「具体的にどんな事を聞かれた?」
少し真剣な表情でロイは尋ねた。
「ヴァルキリーのパイロットであるフィオ・ランスターと言う人に会わせて欲しいって最初は言われました。私的に交流があると聞いているとも言ってたのですが…」
「……マズイな。フィオの事がバレているのか」
フレデリックは顔を顰めた。
ヴァルキリーは星間連合軍の最新鋭試験機だ。その情報は秘匿されており、それはパイロットにも及んでいる。つまり基本的にフィオの情報はこの艦に居る人間以外はあまり知りえはしないのだ。それを知っているとなると内部から情報が漏れたかあるいは、
「噂だけど…ヴァルキリーの部品を提供している企業と何かあったらしい」
アリアがそう言うとロイは溜息をついて、
「そっちから情報が流れた可能性があるか…」
「それでエルムはなんて答えたんだ?」
「取材に関しては艦長の許可なしにはお話しできる事はありませんと断りました」
「それでいい。何かあっても艦長がどうにかしてくれる」
エルムの返答は最善だと言える。迂闊な事を言って言質を取られてしまえば危うい。
「艦長さんにはさっき報告しておきました。フィオさんの耳にも入れておいた方が良いと思って…」
「うん、ありがと。断ってくれて助かったよ」
そう言ってフィオは笑って見せた。ここで困った顔をして見せてもエルムに気を使わせるだけだ。感謝の意志を伝えるようにエルムの肩を軽く叩いたがエルムの表情は晴れない。
まだ何か不安な事がある。そんな感じだ。
「他にも何か言われたのか?」
「いえ…直ぐにレギン曹長も戻ってきてこの話は終わったのですが…ちょっと気になる事があるんです」
そう言ってエルムが口にした気になる事の内容を聞いてフィオ達は顔を見合わせた。
「……そういや何でだ?どこから情報が漏れた?」
「これに関しては内部の人しか知らない…」
「クルーたちの誰かが漏らした?いや、でもレギン曹長が付いている訳だし、迂闊におかしな情報が漏れるとは……?」
「嫌な予感がするな……艦長には?」
ロイが尋ねるとエルムは言いましたと答えた。
「少し考えてみると言っていましたが、艦長さんも嫌な感じがするって」
「マジかよ……」
フィオは天井を見上げた。此処に来て更に問題が浮上するとは思わず、しばし呆然としていた。
ケインズとマイカは艦長室でレギンから頭の痛い報告を受けていた。
「世論に今回の事件で星間連合軍がダーナ帝国と懸命に闘っていると報道する為にランスター君に取材させてくれと…?」
「はい。先の奇襲を成功に導いた立役者として取り上げると言っていました」
レギンは呆れた表情でそう言った。
別にあの奇襲はフィオ1人の功績では無い。ロイ達が制空権を確保し、フィオが敵の新型を抑えている間にシルバー・ファング号の白兵戦部隊とパルム惑星軍の部隊が合同で速やかに強襲出来たからこそ成功したのだ。
作戦の立案はケインズだし現場での細かな指揮はグレリオが取った。シルバー・ファング号も後方からの支援に徹した。誰もがあの奇襲を成功に導いた人間なのだ。
ケインズは民衆に分かり易い英雄を造りたいだけだと呟いた。
「誰もが理解しやすい記号だよ。大衆の注目を集め、熱を高める為の材料だ。チーム戦で必要な戦術や理論など大衆には難し過ぎるからね。バハムーシュ司令官の地理を活かした的確な指示の何が素晴らしいか私が説明しても大衆の受けは悪いだろうね」
「<この人がいたから勝てた>とか<この人がいるから勝つ>みたいな分かり易いロジックの方が好まれると言う事ですか…?」
「まぁね。チーム戦においてそのロジックが正しいかどうかは別としてだ」
ケインズは軽く頭を振り天井を見上げる。
先程、エルムからも似た様な報告を受けていた。加えてエルムが気付いた些細な違和感。それは確かに聞き逃してしまいそうな一言であったが、ケインズはエルムから言われて息を呑んだ。
「レギン曹長。確認するがスプーニー女史は艦内のクルーに何度か取材を試みたが、誰も取り合わなかったんだね?」
「はい。艦長からの許可なしにはお話しできないと皆、答えました」
食堂の彼女からも後でそう聞きましたと付け加える。そうかとケインズは呟いてから、
「しかし彼女はランスター君とリュンネ君に交流がある事を知っていたよ」
「は…?」
「分からないかい?この艦に居る間、ランスター君とリュンネ君は食堂でしか会っていない筈だ。2人は互いの自室で密会するほど仲が良いのか?」
その場面を見られたなら私的に交流があると思うだろうねとケインズは言った。その言葉の意味を考え先に思いついたのはマイカだった。
「予め…知っていた?ランスター少尉の事を、それにリュンネさんと交流がある事も?」
「そんなどうして…?」
困惑した表情を浮かべるマイカとレギン。2人にはどうして知っていたのか、そして目的―フィオとエルムに交流がある事を調べたその目的は何なのか。
それが全く分からなかった。
ケインズも現状では判断はついていなかった。
しかし仮説は幾つかあった。その中でも一番可能性が高そうなのは、
「…マズイな。一番、最悪なパターンかもしれない」
アンジェリカ・スプーニーの目的はヴァルキリーではないかもしれない。
アンジェリカ・スプーニーの目的はダーナ帝国の侵攻や同時多発テロではないかもしれない。
アンジェリカ・スプーニーの目的は…惑星パルムそのものにあるのかもしれない。
そしてその目的の鍵となるのが、
「我々に近づいてきたのは…もしかしたらフィオ君が狙いなのかもしれない」