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流星のヴァルキリー  作者: 夢見 旅路
第3章 反骨の星
42/95

第5話 パルム惑星軍①

引っ越し完、りょ…う……


バタバタしていたら1ヶ月以上時間が経っていました。歳とると時間が流れるのが早く感じるね!!


………言い訳はそろそろにして第5話です。ハイ…

 護衛艦に率いられての航海は順調に進んだ。元々、惑星パルムに近い地点に空間転移した事もあり10時間と経たずに目的地まで辿り着く事が出来た。

 しかし惑星パルムに到着するなり問題が発生した。

「ステーションがない?本当かい?」

 ケインズは眉を寄せた。マイカの方も予想していなかったのか困惑している。

「はい。どうやら事前情報に記載されていなかったようです…申し訳ありません、私もあるものだとばかり考えていました」

「開拓惑星だしね…ステーションも未完成と言う場合もあるか…」

 ステーションは平たく言えば宇宙と地上を結ぶ玄関口だ。宇宙船は基本的にステーションに停泊する。巨大な鉄の塊を地上から宇宙へ上げたり下ろしたりするよりも宇宙で停泊させていた方がコストも抑えられるからだ。

「本来の予定ではステーションに停泊後、軌道エレベータで地上へ降下。そこで現地のパルム惑星軍と合流し、スプーニー女史の護衛はパルム惑星軍と合同で行う予定でしたが」

「仕方ないね。このままシルバー・ファング号で地上へ降りよう。リリア君、問題は無いね?」

 ケインズもシルバー・ファング号のスペックは熟知している。大気圏突入には何ら問題はない。艦の状態を逐一、観ているリリアもコクリと首を縦に振ったのを見てケインズは地上への降下を決めた。

「マイカ君はクロスフォード大佐にこれから降下すると伝え、ここまでの護衛任務に関して感謝の意を。それからクルーにも大気圏突入の準備をするように連絡を流して」

「了解しました。全員の準備が完了次第、降下の開始でよろしいでしょうか?」

「うん。特にスプーニー女史たちにはよく気を使ってあげて。普段は軌道エレベータしか利用していないだろうから相当に過酷だろう」

「分かりました」

 マイカは敬礼をするとそのまま艦橋のクルーに指示を出したり連絡を取る為に空間ウィンドウを開いたりとテキパキと動き出した。

 その間にケインズは現地で合流する予定だったパルム惑星軍と連絡を取ろうとする。しかし、

「ん…?リリア君、ちょっとイイ?」

「何…?」

 リリアは数枚の空間ウィンドウの操作を片手で行いながらケインズの方へ振り向く。

「地上で合流する予定だった…えーっと何だっけエリア37担当、陸戦大隊だっけ?そこの担当者か若しくは司令官に連絡をしたいんだけど、繋がらないんだ。何か通信状況に不具合でも生じているかい?」

「…?確認する」

 リリアは少し首を傾げた後、直ぐに別の空間ウィンドウを開いて通信に関わるシステムのチェックを行う。しかしここに至るまで護衛を務めていた第12朱雀艦隊とも通信はスムーズに行えていた。リリアの予想通り、シルバー・ファング号の通信システム異常は見られなかった。リリアは首を横に振ってケインズに返答すると、

「ふむ…」

 ケインズは顎に手を当てて考える。何かあったのだろうかと不安が胸をよぎる。元々、開拓惑星では外部からの侵攻以外にも惑星内部での問題も起こり易い。連絡が繋がらないのもその為かもしれないと考えたが、

「マイカ君もう一つ良いかい?」

「何でしょうか?」

「双腕肢乗機小隊に準戦闘待機を出しておいて。スプーニー女史もそれとなく隔離しておいた方が良いかな」

「艦長…それは…?」

「只の杞憂であればいいんだけどね。念には念を入れてだ。何せここは」

 ケインズは背もたれに体重を預けながらそっと呟いた。

「―最前線だ」


 陸戦用ブーツユニットの打ち合わせをしている最中で準戦闘待機の連絡を受けたフィオはパイロット・スーツへと着替えながらフランに質問を投げかけた。

「なぁ。確か、工房でヴァルキリーを組み立てた時はどんなに頑張っても強度が足りず自立するのは無理だって聞いたんだけど」

「その通りよ。ヴァルキリーは汎用兵器を謳っているけど重力下では2足歩行若しくは直立での体勢維持は不可能。でも重力下や陸上での戦闘にも対応できないと汎用兵器とは呼べないでしょ?その為に造られたのがこの陸戦用ブーツユニット、<ランドユニット>よ」

「安直な名前は良いとして言っている事が矛盾していないか?だってヴァルキリーは立てないんだろ?」

 フィオは下半身の血流をコントロールするハーフパンツに脚を通しながら首を傾げる。

 陸戦用兵器と聞いて最初に思い浮かんだ疑問がそこだからだ。

「じゃあ何で直立できないんだと思う?」

「ヴァルキリーに限らず、人型ってあの大きさになると足の裏で自重を支えるのが困難だからだろ」

「正確には股関節にも結構な負担が掛かっているんだけど、ほぼ正解と言っていいわね。でもそこさえ問題を解決できれば人型でも陸戦機、と言うよりも直立歩行は可能と言う事よ」

「その結果がこの形って事か?でもこれさぁ」

 フィオはライフ・ジャケットを着けながら珍妙な物を見る顔でその<ランドユニット>に目を向ける。そこには<スラスターユニット>を目にした時よりもさらに説明が難しい形状の兵器があった。<スラスターユニット>がブーツの様な円筒と表現するのならこれは直角三角形だ。着地面積は広く、安定性はありそうだ。しかし広いがアレは脚とは言えないだろう。

「履帯…キャタピラっていうか戦車みたいじゃないかアレじゃあ」

「膝から下が無限軌道であるだけでちゃんと膝も曲がるし可動に制限は無いわ。アレよ、人間がローラースケートを履いても脚が車輪だからって車両には分類されないでしょ?」

「スゲェ無茶苦茶な例え出している自覚あるか?」

 フィオが呆れて言うとフランはお黙りとフィオの頭を軽く叩く。こうして手が出るのを見ると自覚があるらしいとフィオは頭を撫でながら思った。

「接地面積を増やして自重が掛かる部分を分散したって事か?でも股関節の部分にも負担掛かるんだろ?」

「あれ見える?<ランドユニット>に支柱みたいのが付いているでしょ?アレでヴァルキリーの体を支えるの。完全には支える訳では無くてほ関節部分の負担を減らす程度にあの支柱で安定させるの」

「なんでそうまでして立たせようとするんだよ」

 呆れ顔でフィオが言う。

「ヴァルキリーの売りは半永久稼働とその汎用性よ。どのような環境下でも稼働でき高い火力を誇る。それを目的に作られている以上は重力下や陸上での戦闘は出来ませんとは言えないのよ。建前上ね」

「本音は?」

「技術開発局の同僚はこう言ったわ『2足歩行は男のロマン』と」

「偶に思うけど、技術者って馬鹿になる時あるよな」

 それが才覚ある人物だと尚その傾向が高い。フランも特には否定しなかった。

「あとこの複合防壁とか言う兵装だけど…」

「その前にそろそろ時間よ」

 フランは時計を見ながら言う。何が時間だとフィオが首を傾げるとフランは呆れた顔をして、

「さっき連絡が来たでしょうが。準戦闘待機だけでなくこれから大気圏突入を行うって」

「あぁ…でも大気圏突入って何が大変なんだ?」

 フィオが尋ねるとフランは怪訝な顔をして、それから「あぁ…」と小さく頷き納得した。まだ軍人になって日の浅いフィオは大気圏突入を経験したことが無いのだろう。

 普段、惑星から宇宙に上がる時は専ら軌道エレベータが使われる。恒星間移動の際にも軌道エレベータからステーションへ向かい、そこから宇宙船に乗る。

 故に一般人の間では大気圏を突破して地上に降りたり宇宙に上がったりする経験を持たない人が多い。しかしこれが軍人となると作戦上そう言った事もしなくてはならない時があってフランも機体の実験やら何やらで経験した事はある。

「あれね…普段、軌道エレベータばっか使っていると分からなくなる物なのよね」

「だから何が?」

「旧暦では軌道エレベータは一般的な建造物は言えず、人類が宇宙に出るのには宇宙船を使うのが一番手っ取り早かった。軌道エレベータの普及は今の世代に宇宙船が重力下を行き来するとどうなるかを忘れさせてしまったの」

「…何が言いたいんだ結局?」

「大気圏突入を甘く見るなって事よ。さっさと身体を固定しなさい」

 フランはそう言うと壁に備え付けられた椅子とベルトに向かう。ベルトできつく体を固定しているのを見ながらフィオはよく分からないまま見よう見まねで体を固定した。

 周りの整備員たちの顔つきも真剣そのものだ。緊張が顔に滲み出ている。

 そんなに大変な物なのだろうか。フィオには双腕肢乗機で高速戦闘する方が余程、キツイと思うと呟いたが誰も反応を返してくれなかった。

 何故、これほどまでに緊張しているのか。フィオが身を持って知ったのはこの3分後だった。

「…………もう2度、大気圏突入なんてヤダ」

「無理ね。帰りは今度、大気圏を突破しなくちゃいけないから」

 負担はどっちも変わらないわよとフランはぐったりとしているフィオに容赦なく追いうちを掛けた。


 その頃、艦橋ではケインズが難しい顔をしていた。

「以前、パルム惑星軍とは連絡が付かないのかい?」

「こちらから何度も通信を送っているが返答する様子が無い」

「何かあったと考えるべきですね」

 マイカも表情を険しくする。ケインズとマイカは今後の行動について意見を重ねる。その間もリリアは連絡を取るべく様々なチャンネルで通信を繋げようとしていた。するとある電波をキャッチした。一瞬、怪訝な顔をしてそれからその電波を拾い中身を確認した。その内容を2度確認してからリリアは後ろを振り向き、

「艦長」

「んー?何かなリリア君」

「パルム惑星軍の通信を傍受した」

「…はい?」

 ケインズは目を丸くした。傍受とはまた物騒な単語が出てきた。友軍とは言え星間連合軍とパルム惑星軍は別の組織なので下手をすればスパイ容疑がかけられなくもない。

 リリアもその辺りは分かっているのだろう。直ぐに首を横に振り、

「オープンチャンネルで流れている」

「それは…マズイでしょう。何かのミスだとしても機密情報でも流れたりしたら軍法会議ではすみませんよ」

「それか若しくは余程の事が起きて慌てているんだろうねぇ。内容は?」

 傍受してしまった件を突かれたらオープンチャンネルだった事を理由にはぐらかそうとケインズは決めてリリアに尋ねた。

 肝心なのは内容だ。マイカが人為的なミスなのかそれともケインズが言った様な余程の事態なのか。

 答えは、

「応援要請、帝国に襲われているって何度も繰り返している」

 後者であった。

 

艦内に警告音が流れる。クルーたちの顔つきが一瞬で変わった。初めは泡を吹いて慌てていたフィオも既に一端の軍人としての自覚が出てきたのか直ぐに行動を開始する。

「戦闘態勢かよ!!しかも地上でか!!」

「ヴァルキリーの発信準備急ぎなさい!!ブーツシステムはスラスターユニットを選択! !」

「陸上だろ?新兵器は使わないのか?」

「この高度から着地する気?衝撃で粉々になるのがオチよ!!」

「そりゃそうか」

 フィオとて本気で言ったわけではないので操縦席に乗り込むとすでに小隊の面々と通信が繋がっていた。

『さてと全員揃ったことだし作戦会議と行きますか』

『敵の数は?』

 アリアが尋ねるとロイは艦橋から送られてきた情報に目をやる。

『6機だ。いずれもデュランダルと確定済み、あと味方の戦車が8両ほど見えるとの事だ』

「味方?」

『・・・パルム惑星軍ですか!!応戦中のとこに乗り込むって事ですかそれ!!』

『そうなるな。どうにも押されているみたいで救難信号飛ばしまくりだ。無視する訳にも行かないだろ?』

 あとで絶対揉めそうだなとフレデリックは渋い顔をしている。管轄争いと言うやつなのだろうかとフィオは考えた。しかし、

「命あっての物種だろ。そんなの」

『ランスターの言う通りだ。難しい交渉ごとは艦長がやってくれるさ。俺たちの役目は艦長から下った命令をこなすだけさ』

『その命令は?』

 アリアが聞くとロイは獰猛な笑みを見せて、

『兜野郎共を弾き飛ばせのことだ』

「-了解!!」

 白銀の戦乙女はフィオの掛け声と共にカタパルトによって空へと放たれた。


 デュランダルを駆るダーナ帝国の小隊長は唇を噛んだ。部下から上がって来る増援の報告に分かっていると怒鳴り返したくなるのを堪える為だ。

 空から降りてくる戦艦に気付かないわけがない。しかしここまで追い詰めた敵をみすみす逃して撤退するかそれとも撃破してから撤退するか、小隊長は決めかねた。

 そして一瞬の躊躇は容赦なく牙を剥いた。

 デュランダル達へ向けてシルバー・ファング号はビームを地上へ放つ。

 命中させるつもりはない。牽制の一撃はそれでも敵機の動きを乱すのには十分だった。すかさずそこへフィオとロイが切り込む。デュランダルはそのペンチのような指を開き、ビームブレードを展開する。しかし振り翳すより早くロイのS2-27はその細剣のようなビームブレードでデュランダルの腕を貫いた。そして素早く至近距離からマシンガンを撃ち込む。動力と操縦席を打ち抜かれ機体は爆散する。フィオもS2-27よりも高出力なビームブレードでデュランダルを胴を薙いで切り裂く。帝国の大剣とまで言われるデュランダルのビームブレード、その出力と互角とされるヴァルキリーの光刃は分厚いデュランダルの装甲をも意とも容易く断ち切った。この時点になってやっと後退を決めた敵機は退路を確保しようとするがそこへフレデリックが割り込みマシンガンを見舞う。更に壊滅しかけていた戦車隊からも榴弾が撃ち込まれ逃げ場を失い立ち止まる。

 狙撃手(アリア)を前にしてそれは愚の骨頂だった。すぐさまその胴体を電磁投射砲の弾丸で撃ち抜かれ塵と消える。

 一瞬の判断を迷った。デュランダルの小隊長が犯した痛恨のミスは隊の全滅という結果を残すことになる。耳に残る部下の断末魔を聞き噛みしめた唇から血が流れる。最早、あの方に合わせる顔もない。そう思った小隊長は一矢報いる為にビームブレードを展開し突き出す。けれどもビームブレードは届く事無くフィオが放った電磁投射砲の一撃によってデュランダルは地に墜ちた。


 たった数分の出来事だった。その数分で劣勢に追い込まれていたパルム惑星軍は生き延びる事が出来た。敵も弱い訳では無かった。しかしそれを感じさせなかったのは曲がりなりにも双腕肢乗機(アーム)操縦者としての力量がフィオ達の方が勝っていたからだろう。以前と比べて自分たちの成長具合は感じてはいるだろう。しかしフィオやフレデリックには伝えていないがシルバー・ファング号の双腕肢乗機小隊の錬度は星間連合軍の中でもかなりの位置にある。それを知っているのはケインズやロイだけだ。

 ともあれ特にここ数カ月、訓練漬けのフレデリックは自身の成長ぶりを感じているだろうにその表情はとても憂鬱だった。

『問題はここからだよなぁ』

「なんだよまだ言っているのかよフレディ。命が助かったんだから良いだろ?」

『確かにそうなんだがな…』

 歯に物が詰まった顔をするフレデリックにフィオは首を傾げる。地上ではパルム惑星軍が戦車から顔を出しこちらを見ている。艦長からこちらが友軍である事は伝えてある。フィオはふと地上の映像を拡大してみた。どんな人たちなのだろうそんな興味からだ。

 そしてフィオはフレデリックの懸念を理解した。

 こちらを見上げる戦車隊の面々の表情は皆同じだ。思わず目を背けてフレデリックに尋ねた。

「…なんか、随分と戦車隊の顔が怖いんだけど」

『あぁそうだな』

 フレデリックは素っ気なく答えた。見なくてもそうだろうとフレデリックは分かっていたからだ。強面とかではなく只単に表情が怖い。アレは敵を睨む目ではないのかとフィオは思った。更にフィオは気付きたくない事にもう一つ気付いた。

「戦車の砲塔、こっち向いていないか?」

『敵味方識別信号があれば問題ないからじゃないか?』

「戦車にそれはねぇだろ」

『そうとでも思っておかなきゃこれからが大変なんだよ』

 フィオはよく理解した。

それは自分たちが非常にパルム惑星軍から歓迎されていないことにだ。



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