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流星のヴァルキリー  作者: 夢見 旅路
第3章 反骨の星
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第1話 不穏と平穏

 帝国の精鋭騎士であるアイル・ガーランドは不機嫌さを隠せないでいた。その険しい瞳は戦艦から降ろされていく物資や双腕肢乗機に向けられていて、周りの部下たちは声をかけるのを躊躇っている。ただその不機嫌な理由を知っている副官だけが静かに溜息をついていた。

 彼が不機嫌でいる理由は3つ。

 1つは本作戦の全貌を知る事が出来なかった事。第28次星間連合侵攻作戦と銘打たれたこの作戦を聞かされた時、アイルはデ・クラマナン星系のある惑星に向かい制圧せよとだけ命令を受けた。

 アイルは上官に尋ねた。デ・クラマナン星系は最前線の1つ、どう言ったルートで進行を行うのか、と。上官は答えた。知る必要はない、と。

 アイルは更に尋ねた。ある惑星と言ったが具体的にどこなのか、情報は揃っているのか、と。上官も答えた。追って連絡する、と。

 最後にアイルは尋ねた。この制圧作戦の目的は、と。上官は苦虫を噛んだ顔で答えた。

 機密事項である、と。

 長年の付き合いと恩義ある上官でなければきっと掴みかかっていた。またあの時の上官の顔が全てを物語っていた。恐らく彼も詳しく聞かされていないのだと。

 2つ目の理由は期日である。幸いにして作戦の決行日までは教えてくれた。そしてアイルはその準備に追われた。自分の部下である<青翼>中隊に指示と装備の準備をさせ、更にこの作戦で使用されるという新型機の練習に明け暮れた。

 どうにかして期日までに全ての準備を終えられてアイルたちは故郷のダーナ帝国を出発する事が出来た。

 ただその出発日が問題だった。その日はアイルの姪っ子の誕生日、その前日であった。前々からバースデー・パーティーを盛大にしようと約束していた可愛い姪っ子には思いっきり拗ねられた。アレはそう簡単には許してはもらえそうもない。山ほど誕生日プレゼントを用意してきたが箱すら開けてもらえない可能性がある。

 姪っ子が大好きであると公言して憚らないアイルにとってそれは胃に穴が空きそうになるほどの痛みだった。

 そして3つ目の理由は、

「ガーランド中佐、お時間よろしいですかな?」

 背後から声をかけられてアイルは不機嫌な顔のまま振り向いた。

 そこには3つ目の理由がいた。

「…なにか?」

「物資の積み下ろしはこれで完了いたします。私はこれで失礼させていただきますのでご挨拶に伺いました」

「そうですか。それは何よりです。貴殿の顔を見ないで済むと思うと清々します」

 アイルの言葉遣いはとても丁寧だ。しかしその声に込められている感情はとても非友好的だった。そして非友好的な視線を正面からぶつけたにも関わらず目の前の男の表情は1ミリも変わらなかった。

 その男は凡そ軍人には見えなかった。肩まである灰色の髪と柔和な顔つきは中性的だ。片眼鏡から垂れ下がる銀細工は精巧で戦火の中ではすぐに壊れてしまうだろう。何より黒いローブから覗くそのか細い腕や指は拳銃の引き金を引く事さえ困難に決まっている。

 アイルが不機嫌でいる理由の最後はこの目の前の男が軍人でないにも関わらず作戦の関与しその上、アイルやその上官でさえ知らなかった侵攻方法の要であったという事実。加えて男の気味悪さ、それが不機嫌である最後の理由にして最大の理由だった。

「そう邪見にしないで頂きたいですね。この惑星―パルムまで来れたのは私の協力あってのことでしょう?」

「あぁ確かにそうですね。だからと言って味方とは思えない貴殿にどう愛想良くしろと?」

「おや?味方ですよ私は」

「ならば貴殿の所属をお伺いしたいものですね。あと本名も」

「所属に関してはお答えできませんよ。しかし名前なら最初に名乗った筈ですが?」

 人小馬鹿にした笑みを浮かべる目の前の男にアイルは白けた目を向ける。

<水銀の神>(メルクリウス)なんて名前をどう信じろというのですか」

「そう呼ばれているもので」

 そう言って肩を竦めてみせる男―自称メルクリウスは必要以上に自分の事を話そうとしなかった。否、必要な事さえも分かっていない。

 一体何処の誰なのか、民間人なのか軍人なのか。そもそも何処の星の生まれの何の種族なのか。分からない事ばかりでアイルは目の前の男を半分、敵ではないのかと思っていた。

「ご安心ください。私が味方であるという証明はホラ、この通りダーナ帝国唯一無二の皇帝陛下様が直筆のサインで認めて下さっているでしょう?」

 そう言ってメルクリウスが手にしてみせたのは一枚の指令書だ。

 曰く、この者はダーナ帝国騎士団の協力者であり現場指揮官はその協力を受け入れ必要あれば要請に応える様にとある。

「間違い無くジェガス17世陛下のサインですね。それを貴殿が持っているというのが非常に危険だと私は考えています」

 アイルは歯に衣着せるような人間では無かった。与えられた使命を果たす事に尽力はするがその使命が帝国そのものに大きな傷を付けるとなれば話は別だ。

「もう一度言います。正体も分からない貴殿がそれを持っている事は非常に危険だ。正直に言いまして私は今、貴殿をこの場で撃ち殺しておくべきではないかと考えています」

「噂通りの人物でいられるようで」

 慇懃無礼な表情で笑うメルクリウスにアイルは半ば手を拳銃に向けかけた。

 それを察してかメルクリウスは両手を上げて降参のポーズを取るが表情はそのままだ。

「このままではガーランド中佐の邪魔になってしまうようですのですぐにでも退散させていただきましょう」

 ご武運をお祈りしていますよとメルクリウスは言い背を向けて去っていく。その背をアイルは油断なく睨みつけ、

「最後に1つだけ。貴殿の目的は何なのですか?」

 そう尋ねた。相手が軍人であれ何であれ、何か目的があって行動している筈。アイルはその目的を問うた。

 メルクリウスは足を止めるとアイルへ顔を振り向けた。その顔に張り付く笑みは陰鬱な何かを感じさせる不気味な物だった。

 そうこの男が支配するあの不気味な戦艦、艦首から青白い光を放つあの戦艦と同じ薄気味悪さを感じさせるそんな笑みだった。

「フフ…良いでしょう。1つだけ最後に答えてあげましょうか。えぇ私の目的、いえ私たちの目的について」

 アイルはこの時、初めてメルクリウスが複数称を使うのを聞いた。何せメルクリウスの戦艦ではクルーと言う存在を見た事が無かった。

 凡そ信じられない事にこの男1人で戦艦を1隻、動かしていると言う。

 その様な戦艦をアイルは見たことも聞いたことも無かったし、不可能だと今でも断言できる。目の前の男が人間でもない限り。

 そしてメルクリウスの笑みはアイルに彼が人間なのかどうか疑わせるのに十分な不気味さを与えた。この時アイルは拳銃を手にしなかった事を後悔した。後悔したままアイルはメルクリウスが口を開くのを聞いた。

「私たちの目的―それは<星砕き>ですよ」


 携帯端末にメールが受信した音でフィオは眼を覚ました。布団に篭ったまま手を伸ばして寝ぼけた眼を擦りながらメールを開くと秘かに片思いしている少女―エルムからだった。

件名は『デート中です!(^^)!』だ。

「……」

 意識が急浮上し同時にテンションは奈落の底まで下降した。仮にも片思いしている相手からこんな件名でメールを貰っては気分が沈むのも無理はない。

 一度目は悲鳴を上げた。

 そう一度目。一度目がある、つまりはコレが初めてではない。これまでに6度ばかし似た件名のメールを貰っていた。だからオチも見えている。

 嫌々ながらメールを開くとご丁寧に写真付きだった。

 銀髪の少女は楽しそうにデート相手とパフェを食べていた。

どこの喫茶店だろう。あぁそう言えば一昨日くらい前にデート相手と熱心に情報誌を見て話していたっけ。どこぞのパフェが美味しいとかここは今、キャンペーンをやっていて期間限定のスペシャルなのがどうとか。

最近になって急激に中を進展させた2人は休み時間が重なると毎日のようにお喋りに花を咲かせ、休みの日が重なれば2人きりで出かけている。

 ストロベリーパフェが人気だと言う喫茶店を見ておいしそうとエルムのデート相手は言った。するとエルムは柔らかな笑みを浮かべ、

「じゃあ次のお休みに一緒に食べに行きませんか?」

 そう提案するエルムに相手は少し照れた顔で頷いていた。その時の光景を思い出してフィオは歯ぎしりをした。何故その相手が自分で無いのかと。

 前日がヴァルキリーの機動実験で朝方まで付き合わされる予定でなければと後悔した。

 写真のエルムは本当に幸せそうでデートを楽しんでいるのが良く分かる。

「畜生…」

 フィオは布団の中で蹲った。悔しくて涙が出てきた。

 何故、何故なのだと自問する。

「なんで毎回……デート相手が女なんだ」

 一緒に写っているアリアはビールジョッキみたいなグラスに入ったパフェを一心不乱に食べていた。


 メールを送り終えたエルムを見てアリアは最後に残していたサクランボを口に含んだ。

「誰に送ったの?」

「フィオさんです。一昨日、一緒に雑誌を見ていた時にフィオさんも凄く羨ましそうな顔をしていたので…きっとフィオさんも食べたかったんですねパフェ」

 そう言ってエルムは鮮やかなピンク色のストロベリーアイスを匙で掬った。アリアも先程、同じパフェを食べたが雑誌に紹介される事は確かにある。苺の酸味と甘さがとても心地よい。思い出したら食べたくなってしまった。もう1つ頼もうとアリアは心に決めた。

「でも意外ですね。フィオさんも甘い物が好きだったなんて」

 その言葉を聞いてアリアは胡乱気に眉を寄せた。

 この少女は如何して気付かないのだろうか。一昨日、フィオが羨ましそうに見ていたのは雑誌の記事などではなく、エルムと一緒に出かける自分だ。

 この前の映画鑑賞の時もその前のケーキバイキングの時も「デートですね!!」と喜ぶエルムの横顔をフィオは絶望しきった顔で見ていたのにそれに全く気付いていない。

普段のフィオの態度を見ればすぐに気付くであろうに。

現にエルム以外はほとんどが気付いている。

「エルム」

 2か月前の海賊による襲撃、あの一件以来アリアはエルムを名前で呼ぶようになった。

「あんまり、ランスターの前でデートって口にしない方が良いよ」

「どうしてです?」

 キョトンと首を傾げるエルムを見て思わずこの天然めと呟きかけた。無自覚で同性から見ても可愛く見えるのだから余計に罪深い。

 尤も原因を正せばさっさと告白をしないフィオにも罪の一端はある。

「仲良くお出かけする事…それをデートって呼ぶと聞いたのですが?」

「誰から?」

「シャルロットさんです」

 この前もデートに行ったんですよとエルムは携帯端末の写真を見せてくれた。

 大きなスタジアムの前でお揃いのサッカーチームのTシャツを着ている。そう言えば先々週くらいに有名チーム同士の試合があったんだっけとアリアは思いだしながらTシャツと顔にペイントをしたエルムと王女殿下の写真を見る。

 確かこの人、アースガルド王国王位継承権第一位の人じゃなかったけ。物凄く庶民に混じってチームの勝利を喜んでいる。周囲は赤ら顔で酔いが回っていて近くに居るのが自国の殿下だとは気付いていないらしい。よく見ると後ろの方に疲れた顔をしたご同業者様(軍人)がいるのを見つけた。私服で変装しているが立ち姿などで分かった。酔っ払いに絡まれている人もいる。近衛兵と言うのも楽ではないらしい。

「アリアさん」

 何と口を開いた所へアイスが乗った匙が差し出された。苺の匂いにつられてパクリと食べるとエルムはにこやかに笑い、

「食べたそうだったので。もう一口食べます?」

「ん」

 あーんと口を開いた所へまた匙が差し出された。

 初めての友達。リリアと一緒にいる時とはまた別の安らぎを感じさせてくれる少女。きっと頬が緩むのは苺の甘さのせいだけでは無い。

 ランスターには悪いがもう少しだけ彼の想い人とのデートを楽しませてもらおう。

そうアリアは決めた。


 フィオは今日もまたフィオはヴァルキリーの機動実験に勤しむ。例え彼の想い人が彼以外の人とデートをしていようとも彼には彼の仕事がある。

 そのデート相手が同僚でも王位継承者でも両方ともエルムと同性でも涙を堪えて仕事に向かわなければならないのだ。

 ただその日は何時もとは少し異なっていた。

「と言う訳で2人乗りよ」

「いやいやいや。どう言う訳だよ。もう一回説明してくれ」

 フィオは顔の前で手を振り抗議する。物分かりの悪いやつねとフランは鼻を鳴らす。

 ちなみにフランが説明したのは「OSの実験よ」の一言のみである。

「それがどうして2人乗りの話になるんだよ。きちんと説明してくれ」

「はいはい。今日は操縦系統と情報処理プログラムの最適化を行うのが目的よ。これはアンタの為…いや、アンタのせい?」

「はぁ?なんだそりゃ?」

 フィオが首を傾けるとフランは溜息をつき、

「アンタの反応速度にヴァルキリーが追いつけていないのよ。最新鋭の技術を駆使して造りあげたのにアンタのその反射神経が高過ぎるせいで動きに遅れが生じているの」

 そうフランは言ったがフィオにはあまりピンとこなかった。正直、ヴァルキリーの動きに不満など感じた事は無かった。そう言うとフランは不機嫌そうに眉を寄せて、

「アンタが気付いていなくても私たちは分かっているのよ。細かな数値や損耗率…それにアンタ自身の才能を鑑みればまだヴァルキリーが追いついていないって結論になるの」

「まぁアンタがそう言うのならそうなのかもしれないけど…」

「だからその動きの遅れを修正する為に実際に機体を動かしながら同時にフィードバックしようってわけ」

「それで2人乗り?」

「そうよ」

 理由は分かったが方法には納得がいかなかった。別に遠隔操作なり何なりでフィードバックすればいいんじゃないかと言えば、

「直接やった方が早い」

 と相乗りする方から言われた。

 パイロット・スーツに身を包んだ姿はもう1人の方で見慣れていたが、どこか着なれていない感があって不思議だ。

「本当に乗るのかよリリア」

「さっきからそう言っている」

 シルバー・ファング号のメイン・オペレータであるリリアはそう言ってさっさとヴァルキリーに乗り込む。前に聞いた話だとヴァルキリーに使われているOSもリリアが組んだと言う。情報処理のスペシャリストと言うのも伊達では無いと言う事か。フィオもフランに背中を小突かれて渋々、ヴァルキリーの操縦席へと向かった。

「操縦席の後ろ、スペースあるからそこで作業する」

「はいはい」

 リリアの淡々とした言葉に流されるままフィオは席をずらしてスペースを造る。

 その隙間にリリアは入り込むと端末を起動させる。途端に幾つもの空間ウィンドウに囲まれ姿が見えなくなった。

「何時も思うんだがそんなに沢山見ていて酔わないのか?」

「慣れているから平気」

 滝の様に流れていく情報をリリアは的確に処理していく。淡々と語るリリアの声を聞いてフィオはあっそとだけ答え返した。

 2ヶ月前の海賊たちとの戦闘で感情を取りみだした人物と同じだとは到底思えない。泣き叫んで無事に帰還したアリアをリリアは人目を憚る事無く抱きしめた。あの時のリリアは大粒の涙を流していた。同じように涙を流していたアリアを見てフィオは2人の姉妹が見せた感情の表れに心を惹かれたのを覚えている。

彼女たちはやっぱり人形なんかじゃないとそう感じさせた。

けれどアレ以来、フィオが知る限りでは2人の姉妹が大きな感情の表れを見せているのを知らない。涙顔をもう一度見たいとは言わないがもう少し感情を出している所を見てみたい。只単に好奇心から。

 そんな風に考えながら発進する準備を整え、

「そんじゃあ出るぞ」

「ん」

 リニア・カタパルトで宇宙へ射出された時も特には何も反応は見せなかった。耐衝撃構造が施されているとはいえそれなりに射出される時には衝撃が掛かるのだがリリアは何ともなさそうだった。

「で?具体的に何すればいいわけ?」

「適当に動いて。動きを見ながらプログラムの書き換えを行う。何か欲しい動作モーションがあったら言う」

 適当と言われフィオは考えた。本当に適当で良いのならこの前、フレデリックと訓練した時の様にグルグルと円運動を繰り返すのもありだがきっとそう言った事を求めている訳ではないだろう。

 好奇心が鎌首を上げた。

「俺の反応速度にヴァルキリーが着いていけていないからその修正をしなくちゃいけないんだよな」

「そう」

「と言う事は俺の反応速度にヴァルキリーが着いて来れない様な動きをしなくちゃいけないんだよな」

「そう、だけど」

 リリアが怪訝な声で頷く。フィオはニヤリと笑った。

 これは正当な機動実験だ。ヴァルキリーの性能向上のために必要な事なのでフィオがちょっと本気になって機体を動かさなければならない。

 そう自分に言い訳しながら、

「じゃあ行くぞ!!」

「え―」

 フルスロットル、直後に急上昇をしてからの後方への3回転。まだまだ序の口。ジグザグに前進して錐揉みになりながら右へ旋回して降下、上昇、降下を繰り返して急静止。

「ちょ―」

「はーいもう一回」

 後ろから何か聞こえてきたが無視。フルスロットルからの急上昇で今度は前方への3回転、ジグザグに前進して急降下。これを3回くらい繰り返した。途中でフランから馬鹿とかやめろとか艦にぶつかるとか壊す気かとか色々聞こえてきたがとりあえずこれも無視しておいた。後ろからは既に何も聞こえてこない。

最後に後方宙返りを5回くらいしてからヴァルキリーを止めた。

 そしてわざとらしく笑顔を浮かべて振り返り、

「いやー流石、最新機。こんな機動しても動く事は動くんだもんな。で?どう?プログラムの修正は出来た?」

「…」

 何も反応が返ってこない。遣り過ぎたかと思ったら空間ウィンドウの1枚がフィオの眼の前に現れた。どうやらヴァルキリーのOSの様だ。素人目には何が何だか分からないがご丁寧に赤字になっている個所が多く見られる。恐らく修正した箇所なのだろう。

 本当にあの機動の中、プログラムの修正をやってのけたのかとフィオは驚いた。

 リリアは普段と変わらない声で、

「甘い…」

 と呟いた。その言葉にフィオはピクリと口角を震わせた。

空間ウィンドウにまみれて分からないが鼻で笑われた。気配で何となく察したフィオは引き攣った笑みを浮かべ、

「と言う事はまだまだ余裕だって事なんだな」

「その無駄に張り合おうとするところ……幼稚」

「宣戦布告と捉えるぞそれ」

「そう言うところが幼稚」

 ちょっとした好奇心からだったが決めた。絶対泣かす。フィオはそう決めた。

実のところ、リリアの顔はもう真っ青で乙女の意地で口から出てしまいそうな物を抑え込んでいるだけだった。

「ぬぉぉぉりゃああぁぁ!!」

「……っ」

 意地でも泣かすとフィオは自分への負担も無視しヴァルキリーを出鱈目に動かし、リリアはクールと言う自分のキャラクターを守る為に口元を押さえる。

「どうだ!!ぶっちゃけ泣きそうなんだろ!!」

「全、然。むしろ泣きそうなのはそっち」

「はぁぁ?」

「アリアに彼女とられて可哀想。でもそう思うと泣けてくるかも」

「トリプルループからのトリプルループのトリプルループ行くぞぉぉ!!」

「のぞむところ…!」

 ちなみにリリアの様子は空間ウィンドウに紛れフィオからは見えないがシルバー・ファング号でモニターしているフランからは丸見えだった。

 こちらの言葉に耳を貸さない2人に諦めの境地へ入っていたフランは煙草をふかしながら、

「どっちも幼稚よ」

 と呆れ声と共に紫煙を吐き出した。


 リリアの乙女としての意地は守られた。

時間が来てシルバー・ファング号に戻った際、フラフラになりながらも誰の手も借りずに操縦席から降りたリリアはフィオに向けて親指を下に突き付けた。

 リリアの辛勝かと思われた。

 しかし結果は無茶な機動を繰り返したフィオと挑発を繰り返したリリアを叱り飛ばすフランによる喧嘩両成敗で終わった。



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