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流星のヴァルキリー  作者: 夢見 旅路
第2章 命と覚悟
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第7話 海賊退治②

 仕事が一段落したのでボチボチ執筆をすすめて参ります。

 格納庫へと向かう途中、ロイ達は空間ウィンドウを開き作戦内容を確認し合っていた。

「…第9艦隊からの戦力は?」

「んー…大斧槍(ハルバード)級宇宙戦艦3隻と短剣(ダガー)級駆逐艦が2隻だそうだ。双腕肢乗機はS2-27が3個小隊」

 ロイは空間ディスプレイに映し出された情報を見ながら顎に手をやり、

「正面は第9艦隊が相手してくれるからそっちに戦力はそっちに割かれるはず。敵側の母艦や他の艦の情報を見る限りだと、軍艦とやり合うには戦力不足だな。多分、向こうの双腕肢乗機のほとんどは正面から来る第9艦隊に向かう。側面から付く俺たちに向けられるとしたら…まぁ最大でも1個小隊が限界だろうな」

「その1個小隊を抑えている内に後詰めの第9艦隊が敵を突く…って感じですか」

 フレデリックの言葉にロイは首肯する。

「1個小隊くらいなら強引に撃破して突破するって手もあるが」

「私たちはあくまで撹乱に徹した方がいい。艦隊戦で母艦を抑えた方が無難」

 ロイの言葉にアリアは即座に否定意見を出す。ロイも本気で言ったわけではないので軽く肩をすくめてみせ、

「そのための露払いも必要だ。俺たちと同じく側面から奇襲を仕掛ける短剣級駆逐艦は2世代前の艦で火力に不安がある。代わりに電子迷彩機能(ECM)を改修してあって奇襲向き。シルバー・ファング号と協力して撹乱役に徹底して上手く敵の双腕肢乗機を削った後は第9艦隊にごり押ししてもらうってのが細かい作戦内容だな」

 ごり押しと言っている時点で細かい作戦内容とは言えないんじゃないかとフレデリックは思った。あとでもう一度よく作戦内容を確認しておこうと心に決めながら口を開いた。

「こっちもシルバー・ファング号は一応、戦艦クラスですよね?横から押しこめないんですか?」

 フレデリックが親指を艦首の方に向け、

「例えばアレを使うとか」

 フレデリックは名前を出さなかったがロイもアリアも何が言いたいのかは理解出来た。

 なので即座に首を横に振った。

「いや無理だろ。試射も碌にした事無いんだぞ?味方ごと巻き込みましたとか艦が負荷に耐えられなくて爆散しましたとかじゃ話にならんぞ」

「ちょっと待った。アレってそんなにヤバイものだったんですか?!搭載されているとは聞いたけど今まで一度も使わなかったのって……!!」

「一度も使って来なかった時点で気付くべき」

 フレデリックは愕然として艦首の方へと視線をやる。

 すると今まで黙っていたフィオがおずおずと言った感で口を開く。

「なぁ…やっぱり戦闘になるんだよな」

「……?はぁ?何言っているんだお前」

 当り前の事聞くなよとフレデリックは呆れた声を出す。

「あぁ…うん、まぁそうなんだけどさ」

 フィオは歯切れ悪く何か言おうとしているが言葉にならない。

 そんなフィオをジッとアリアは見つめ、不意にフィオの手首を掴んだ。

「……こっち」

「お、おいっ!」

 フィオの手首を掴んでそのまま何処かへと連れて行こうとするアリアに抗議の声を上げる。

「先、行っていて」

「おーい。一応、任務の最中だから勝手な行動するなよぉ」

 口ではそう言いながらもロイには止める意志は無いようでヤレヤレと首を振り、さっさと格納庫へと向かってしまう。フレデリックは如何したものかと少し思案したが結局、触らぬ神にたたりなしと判断したのかロイの後を追う。

 暫くして人通りの少ない通路に辿り着くとアリアは手首を離し、じっとフィオの顔を凝視する。

「な、なんだよ」

「…悩んでいる」

「え…?」

 唐突なアリアの言葉にフィオは目を瞬かせる。

 だがそれは確信を突いていた。

「……敵を倒す事?それとも死ぬかもしれない事……?ううん、両方」

「っ!!」

「任務で…敵を倒す事は罪ではない」

「わ、分かっている…けど俺は……」

 言い淀むフィオにアリアは眼を細めた。

 何時もの眠たげな眼ではなくその時だけは猛禽を思わせるようなそんな鋭い眼だった。

 フィオがそんなアリアの眼に気を奪われたその瞬間、

「知らない。貴方の事情なんて関係ない」

「な…っ!?」

 言い切った。

 普段と雰囲気の違うの気配に飲み込まれてフィオは息を止めた。

「貴方がどうして軍人になったのか……そんな事情は関係ない。事実は今、貴方がここに居ると言う事。星間連合軍の軍人として存在している以上、貴方には任務に殉じ戦う義務がある」

「そう、だけどっ!!俺にだって覚悟が、まだ決まらなくて!!」

 フィオは壁を叩いた。纏まらない頭で必死に言葉を探す。

 訓練の最中から言われてはきた事だ。そして散々、注意されてきた事。

 覚悟を決める。撃たれ合うのが当り前な戦場(せかい)

 工場惑星でのテロや囮役をやらされたその時とは違う。成り行きではなく自らの意思で戦場に立ち引き金を引かなければならない。

 そして当然、自分の命も危険に晒される。そんな場所に自分は立てるのか。戦えるのか。それが不安で仕方無かった。

「俺に、命のやり取りが出来る、覚悟が……どう、区切りをつけたらいいのか分からないんだよ…っ!!」

「分からない?だから何?私だって覚悟の付け方(そんなこと)は知らない」

「そんなことって…!」

「敵を倒すのに覚悟なんていらない」

 アリアは人差し指で銃の形を作るとそれをフィオに突き付ける。

「任務、だから敵を倒す。悩む必要性は無い。軍人(わたしたち)に求められているのは任務を達成する事(それ)だけ。余計な悩みや恐怖は必要ない」

 アリアの脳裏に過去の記憶が走る。

 敵を撃つのを躊躇ったが故に頭を弾かれた軍人。

 迫りくる敵に恐怖して味方を誤射した軍人。

 そんな人間を沢山見てきた。そして理解できなかった。

 理解するつもりも無いが。

「捨てて。その悩みを今すぐここで」

 突き付けられた指に、アリアから零れる言葉にフィオは後ずさりする。

 目の前の少女が何を言っているのか理解できなくなる、否、理解したくない。

「何で……何でそんな事、簡単に言えるんだよ!!」

「邪魔だから」

「……え?」

「悩みを抱えた兵士と共には戦えない。その悩みが隙となって味方の命を危険に晒すかもしれない。そんな兵士、邪魔なだけ」

 アリアは付き付けた人差し指でトンとフィオの胸を叩き、

「……邪魔になるようなら私は誰であろうと容赦なく消す」

 ゾッと背中が震える言葉を放った。







 後の事はよく覚えていない。たった3分にも満たない時間だったのに気付けばいつの間にかアリアの姿は見えなくなっていた。







 寝耳に水とはまさにこの事だとフレデリックは思った。

 S2-27に搭乗し出撃の準備をしている最中、ロイが通信をしてきたかと思えば開口一番、こんな事を言い出した。

『今回は俺とお前がアタッカーだから』

「……は?」

 アタッカーとはメインで攻撃を行う役割である。ロイの様に前衛で役割を果たす者もいれば、アリアの様に後衛から狙撃で役割を果たす者もいる。尤も前衛、後衛に関わらずアタッカーは敵から狙われ易い。

「な、何でだよ!!俺、今までアシストだったじゃないですか!!」

 アシストとは文字通り、アタッカーの補助を行う役割だ。敵の追い込みや誘導など多種な役割を求められる。

「急に、アタッカーやれって言われても……そもそも誰がアシストするんですか?!」

 基本的にアタッカーとアシストはセットだ。

 小隊内の数によってその役割構成にばらつきが出る事はあってもアタッカーだけ、アシストだけと言った構成はされる事は無い。どちらも必要不可欠であり、戦闘に支障が出ない様に構成されるのが常だ。

『流石に俺も2人分、面倒を見るのは骨が折れるんでな』

「2人分…?面倒…?」

『分からないのアイザー』

 そこへ後からやってきたアリアが通信を繋げてきた。

 眠たげな瞳に2つに括った金髪の髪。

『半人前と新人2人もいるって事』

「……あぁアイツか」

 半人前と言われて少し釈然としない部分もあるがこの2人からしてみれば確かに自分は半人前なのだろうと納得するしかなかった。

 そしてもう1人、新人。厳密に言えば以前にも囮役とは言え戦闘には参加してはいるが、実質これが初陣と言っても構わないだろう。

 思い返せば先程の歯切れの悪い質問も、初陣の緊張によるものかとフレデリックは考えた。

『アリア、お前は少年のフォローに回れ。万が一…って事は無いとは思うが油断はするなよ?』

『……了解』

 聞いていて不安になる返答だ。眠たげな目は何処を見ているか分からないしそもそも今の話、ちゃんと聞いていたのだろうか。目でロイに訴えて見るがロイも苦笑するだけで、

『何時もこんなもんだろ?お前の時だってそうだったじゃないか』

「……まぁそうっすけど…」

 フレデリックは眉を顰め、内心で呟いた。

 こんな状態でアイツは大丈夫なのだろうか。


 先程のアリアの言葉が頭の中を反芻する。

 悩むな?覚悟なんていらない?無理だ。悩まずにはいられない。

 けれど悩めば悩むほど集中力は途切れ思考は錯乱し、上手く体が動かない。

 こんな状態で戦場に出たらどうなるかなんて素人にでも分かる展開だ。

「くそ…どうすりゃあ……」

 心臓がバクバクと音を立てている。頭の中を血が回る感触は気持ち悪い位に感じるのに指先は血の気が失せ震えている。

 どうしよう。どうしようもない。けれどどうにかしなければ。

 悪循環に陥った思考はまともな回答を生み出さない。

『ランスター少尉、出撃準備を……?』

 そんなフィオの前に通信が開かれた。空間ディスプレイの向こうにリリアの姿が映し出されたのを見て、フィオはアリアと瓜二つのその容姿にギクリと身を震わせる。

 怪訝な顔をするリリアの顔をフィオはまともに直視する事が出来ない。

「あ…いや、何でも…ない」

『……緊張している?』

「緊張していると言うか…」

『…敵は海賊船、3隻。規模としては大きくないし初陣としてはベストだと<アトラスⅢ>も判断している』

「<アトラスⅢ>…?あぁ艦のメインOSだっけ…そんな事も分かるのか?」

『過去の実戦データや現状の戦力分析―それらを考慮して<アトラスⅢ>はデータを解析して予測を立てられる』

「……」

 そんなことまで分かるなら、今の自分の悩みにも答えて欲しい位だ。

 フィオはそう思った。

 だが意外にも答えを返してくれたのは画面越しの少女だった。

『……戦いが怖い?何時、命を落とすか分からない恐怖……』

 それともとリリアは言葉を切り、

『命を、奪ってしまうことへの恐怖』

「っ!」

 図星だ。姉妹に揃って直球で当てられるとは思ってもいなかったのでフィオは思わず息を呑んだ。

『……表情からそうじゃないかと判断した』

「…それも<アトラスⅢ>が?」

『私の直感』

 なんてことは無い様にリリアは言ったが普段、綿密な情報から物事を判断するメイン・オペレータが判断基準の曖昧な物を信じた事にフィオは少し可笑しくなった。

 リリアはその瞳を一瞬揺らして、

『……悩んでいるなら』

「……?」

 揺らいだのはたった一瞬。

『悩んでいるなら、悩めばいい』

 もう既にその瞳は何の色も浮かべなければ何の表情も映さない。

 正に瓜二つだった。先程の彼女と全く。

「……」

 けれどその台詞は、

『怖いなら、怖くても良い。誰しも皆、英雄とかヒーローになれるわけじゃないから。誰しも皆、割り切って生きていける訳じゃないから。だから……』

 続けられた言葉はフィオの耳に入って来なかった。

瓜二つに見えたはずの彼女たちの顔が今は全く別のものに思えた。

 けれど眼に写るのはアリアと一卵双生児の姉妹であるリリア。眼に写る彼女の顔はやっぱりアリアと一緒だった。

 だからまるでアリアが喋っているように思えてその台詞が―

「……んで」

 フィオは乾いた唇で呟く。

『ん…?』

「なんで…お前ら同じ顔して全然、違う事言うんだよ……」

『え……』

 フィオは何でも無いと強引に首を横に振り、操縦桿を握りしめる。

「フィオ・ランスター、出撃します!!」

 リニア・カタパルトを起動させ白の戦乙女を宇宙へと羽ばたかせる。

 目指す先へと真っ直ぐ目を向けるフィオのその瞳には、迷いの色は消えていなかった。



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