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流星のヴァルキリー  作者: 夢見 旅路
第1章 Boy and Girl engage Valkyrie
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第1話 少年の日常

主人公の登場です。

フィオ・ランスター 15歳。歳不相応に様々な技術を身に付けているけど今一番欲しい物は別の物。


 目を開けて一番最初に思ったのは、「あぁ今日は家賃の支払い日だったなぁ」だった。寂れたアパートだろうと超高級マンションであってもこの日は必ず月に1度はやってくる。平等万歳、払う額には天と地ほどかけ離れているが。

 電子バンクに幾ら入っていたか思い出そうとし、すぐに昨日の夜も同じこと考えていたことに気付いた。思い出すまでもなく、貯金なんてほとんど無かったことに。如何にかしないと最悪、ロケットに詰められて宇宙に飛ばされてしまう。

 3ヶ月家賃を滞納したバッカルさんは先月以来姿を見ていない。ちょうど先月の家賃支払い日に打ち上げられたロケットとは無関係であることを願う。

「死にたくないしなぁ」

 簡易ベッドから起き上がり、カーテンを開ける。硝子に浮かぶ自分の顔を見て、少年―フィオは顔をしかめる。15歳というには幼すぎる顔つき、薄茶色の髪と青い瞳は女の子みたいだと言われることが多い。肉体労働に従事している割に体つきは細く、背は小さい。年頃の男子をしてはもう少し、身長が欲しいと思わざるを得ない。

「いや、まだ可能性が無いわけじゃない」

 今からだって伸びる。むしろこれからだ。そのためには待っているだけでは駄目だ。冷蔵庫から牛乳のパックを取り出し、注ぎ口に直接口をつける。

 誰に憚る事もない。一人暮らしなのだし、他の誰かが気にするわけでもない。

 朝食だって半固形状の栄養食だ。西暦が使われていた旧時代の宇宙食みたいな形だが、手軽で手間もかからないという事で工場労働者などの間では結構人気なのだ。フィオも同じ理由でこの半固形状の栄養食を好んで食べていた。空になった栄養食のパックをゴミ箱に放り込むと、寝巻から着替える。擦り切れたジーパンとシャツの上から濃い青色のジャケットを着る。マネーカードや必要なものを小さなバックに詰め込むと扉を開け外に出る。


 相も変わらず動き続ける工場が土地の半分以上を占める街並み。朝から晩どころか、朝も晩も動き続ける銀河連邦にあるこの工場惑星ではその光景は大して珍しくはない。

 動き続ける工場というフレーズにフィオは昔聞いた旧時代にあったという産業革命について思い出した。たしか蒸気で機械を動かす仕組みを作ったそうだが、現物なんて見たことが無いのでよくは知らない。フィオが知っていることと言えば、産業革命期に工場から吹き流れる有害な煙や垂れ流れる有毒な工場排水によって酷く環境が壊されたということくらいだ。

「有毒なガスや煙ばかり出す工場なんて想像つかないけどな。第一、空気が汚れたら生物なんて住めないじゃないか」

 工場惑星では特にそういった環境面への配慮は他の惑星とは比較にならないほどに気を使う。工場一つ一つに環境汚染物質を浄化する装置を設置することが義務付けられるまでもなく自主的に設置している。中には工場の外壁に宇宙戦艦に使われるE(エネルギー)R(リフレクター)を施している所もある。工場と安全は切っても切れない間柄なのだ。最もこうして環境への配慮だとか安全も過去に産業革命のような失敗があったからこそ人が思い立った結論なのだが、まだ幼いフィオにはそれがピンとは来なかった。

 錆ついた階段を下りて、共有駐輪所に止めてあるスクーターに跨るとフィオは仕事場に向かう。フィオは技術屋だ。基本的にフリーでその時々によって工場に雇われたりする。今の仕事場も前に一緒に働いた事のあるフリーの技術屋から誘われ契約を結んだ。

「こんにちはー」

 仕事場に行くと既に何人かの同僚が出勤していた。その中でも特に目立つのが現場監督であるスキンヘッドの大男だ。

「おう、ランスターのガキんちょか」

「ガキ扱いはやめてくれってよロンドさん……それより、さ。今日の給料なんだけど明日の分も含めて前倒しで貰えないかな?家賃代に困っていて……」

「あぁ、ロゥの婆さんはおっかねぇからな。バッカルの奴も……」

「え、バッカルさん?」

「………何でもねぇよ」

「いや、あるよ!先月から姿見えないし……本当に打ち上げられたの!?」

「……」

「嘘でもいいから否定してくれないと、マジっぽく思えるからやめて!?」

 どうやら先月のロケットとは無関係ではないらしい。問題はどこに飛ばされたかだが……聞くよりも先に本能がそれを聞く事を拒否した。真面目にお仕事をして家賃を支払った方が建設的だ。

「で?給料の前借りか?ガキのくせに図太い事言うよなお前も」

「生きるか死ぬかが掛かっているからねこっちも」

「違ぇねぇ……まぁいい。今日の仕事はお前さんにしか出来ない事もあるからな」

「は?なにそれ?」

 フィオが首を傾け尋ねるとスキンヘッドの男は機械仕掛けの右腕を振り、

「双腕肢乗機だよ双腕肢乗機。作業乗機(ワーク・ライド)での運搬業務だ」

 作業乗機とは双腕肢乗機(ARM)の一種だ。1対の腕を持ち、人が乗り込んで操作する乗り物をAll-purpose Ride Mobile―略して双腕肢乗機(ARM)と呼び、民間の船外活動(EVA)から軍隊用の戦闘機にまでこの双腕肢乗機は使用されている。

 民間機が主に作業乗機と呼ばれているのに対し、Fighting-Attacker―略して軍用機(F・A)と称されるのが一般的だ。星間連合で使用されている多くの双腕肢乗機は機体の下部に稼働領域を持つメイン・スラスター、アクティブ・スラスターを備えている。基本的に操作の仕方は同じで、双腕肢乗機専用の免許さえあれば作業乗気だろうと軍用機だろうと大概の双腕肢乗機は操作できる。そして適正さえあれば免許を取るのに年齢は関係ない。現にフィオも2年前に所得している。

「作業乗機での運搬って……受け取り場所はステーションか?宇宙まで態々取りに行かなくても運搬業者に頼むとかしないの?」

「知るか。クライアントのご要望だ」

 詳しい話は向こうについてからだとロンドは言った。そしてロンドは仕事場の外に止めてあったトラックに乗り込みフィオもその助手席に座ると軌道エレベータへと向かう。


 軌道エレベータとは地上と(そら)を繋ぐ円柱型の建物でどの惑星に言っても存在する。円柱の内部には超高速昇降機がありそれに乗って遥か上空―重力圏外を離れ辺りが真っ暗な宇宙空間しかなくなった一くらいに宇宙船などが停泊するための施設、ステーションが存在する。誰もが使うものだからステーションに上がるまでに料金はいらない。ただし許可書が必要となる。惑星の生命線ともいえる軌道エレベータ故、テロなどの被害には敏感だ。ボディチェックを2回受けてやっとステーションへ直通する超高速昇降機の使用許可が下りる。

 超高速昇降機は僅か15分ほどで大気圏外に出る事が出来る。かつて旧時代では大規模な設備と費用を使って宇宙船を地上から飛ばしていた。地上から宇宙に出るまで10分弱、すぐ近くの衛星に行くのにも2、3日掛かった。今では軌道エレベータなら15分、宇宙船なら地上からなら5分くらいだ。費用も大して掛からない。それほどまでに宇宙との距離は縮まっていた。

 しかしフィオや今の人にその感覚はピンとは来ない。何せ軌道エレベータも宇宙に出る技術も、もう普遍的な技術にへと落ち着いているからだ。だから何の疑問も感じずむしろ旧時代の不便さに首をかしげる。

「そいつはC2エネルギー機関やら空間移動法なんかにも言える話だがな……2000年以上続いた旧時代とまだ300年と立っていない新暦で尤も違うのは技術の格差だと言われているくらいだからな」

「ふーん……でも、さ。やっぱ想像できなくね?軌道エレベータが無い世界とか恒星間移動できない宇宙とか」

「それだけもう当たり前になり過ぎているって事だろ」

 ロンドはつまらなそうに鼻を鳴らす。やがてステーションに到着するとトラックを預けあらかじめ指定されていた会議室へと向かう。

 そこにクライアントが待っていると言う。

「くれぐれも失礼の無い様にな」

「はいよ…ってか、さすがに時と場合は考えますって」

 そうかよとロンドは言うと指定された部屋をノックする。

 どうぞと中から女性の声がする。大男が扉を開けるとそこに居たのは1人の女性だった。肩のあたりまで延ばされた赤毛と長身にぴったりと決まったスーツ姿が知的な印象を大きく与えた。大男はその外見からは思いもよらず礼儀正しく腰を折り挨拶をする。

「失礼します。ゴルヴァーン重工のロンド・ゴルヴァーンと申します」

「はじめましてミスタ・ゴルヴァーン…私はフラン。フラン・ノーランドです」

 フランと名乗った女性は柔らかく微笑み握手を求める。大男、ロンドもそれに応える。

 手を握った時に一瞬、ロンドが怪訝な顔をしたがすぐに話は仕事の事に移った。

「こうして顔を合わせるのはお互いに初めてですが……申し訳ありません、時間が切迫していますので」

「分かりました。今日は資材の受け取りだと聞いていますが……?」

「はい。今お願いしています例の機体……それの部品です」

 機体と聞いてフィオはピクリと眉を動かす。

 ゴルヴァーン重工は基本的に外部委託を受け様々な機械を作るのを生業にしている。フィオもゴルヴァーン重工が受けた大口の外部委託、その手伝いとして臨時に雇われた。フィオは依頼主に関する詳しい情報を今日まで知らされていなかった。恐らく工房のほかの技術者にしても同じだろう。ロンドが意図的にその話題を避けていたようにも思える。依頼主との間に強い守秘義務があるらしく何と身内にも話せない内容らしい。造っているのが双腕肢乗機である事は分かっていたが一体どんな双腕肢乗機なのか全く聞かされず作業は続けられた。

 尤も4か月も作業に携わっていればなんとなく察しはつく。そしてそれは確信に至った。守秘義務が発生する様な代物となると恐らく他の誰も知らない――そう、新型だ。それが何処からの受注なのか非常に気になる所なのだがフィオには大体予想がついていた。

「……成程、分かりました。すぐに作業を開始しましょう。ランスター頼むぞ」

「はいよ」

 ロンドがフィオに目配せするとフランは怪訝な眼をする。

「…作業はそちらの、方が?」

「えぇ。臨時で雇っているフィオ・ランスターって奴なんですが腕は確かなんでご心配無く」

「いえ、失礼しました」

 フランは完ぺきな微笑をフィオに向け、

「よろしくお願いしますね。ランスター君」

「あ、はい……分かりました」

 フィオがそう汐らしく答えるとロンドはプッと吹き出した。入る前は時と場合を考えろとか言いながらなんだその苦笑はとフィオはロンドを睨むが全く動じようともしない。そんな様子をフランはほほえましそうに見つめながら室内に設置されていたディスプレイを操作して何事か通信する。するとすぐに室内に1人の男がやってきた。

「彼はボルド・ホーナー、私の同僚で双腕肢乗機の操縦免許を持っています。ランスター君は彼とともに仕事に当たって下さい」

「よろしくな」

 そういって手を差し出してくるボルドは厳つい顔つきで頬に走る大きな傷跡もあって筋ものですと言われたら納得してしまいそうな迫力があった。思わず差し伸ばされた手に躊躇してしまうが意を決して手を伸ばすと力強い握手で迎えてくれた。


 自己紹介もそこそこにフィオ達は作業乗機がある格納庫まで案内されると宇宙服に着替え早速作業に移る事になった。

 格納庫に鎮座する作業乗機は旧式で見た目は黄色い箱型だ。それでも整備と回収が施されたその作業乗機はフィオには良い機体に見えた。

 操縦席に乗り込むとフィオは機体のチェックに入る。

 操縦桿は双腕を動かすだけでなく機体の下部にある推進装置、多方向にノズルを向ける事が出来る稼働領域を持つアクティブ・スラスターを動かすのにも使用するので具合をよく確認する。その他にも細かいスイッチやレーダーが備わっているがそれらを一つ一つ異常が無いか確認していく。

 僅かなトラブルが宇宙では引き金となって無情にも命を奪い去っていく。

「……」

 それは肉親でもう十分に経験している。フィオは苦い物を思い出して顔を顰める。

『準備はいい……どうした?』

 通信越しに浮かんだロンドはフィオの顔を見て眉を軽く上げる。フィオは何でも無いと首を横に振り機体の最終チェックを済ます。

「最終チェック完了…っと。いつでもどうぞ」

『…あいよ。そんじゃあハッチ開けるぞ』

程なくして作業乗機の前の扉が広がり、暗い宇宙が目の前に現れる。フィオは温めていたスラスターを吹かせてハッチから出る。その滑らかな動きにボルドは口笛を吹く。

『へぇ……良い腕しているな』

「そうか?」

 周りに双腕肢乗機を動かせる人間が少ないので今一自分の技量と言うのが良く分からない。そう言うとボルドは苦笑して、

『俺もあまり双腕肢乗機について詳しいと言う訳ではないがそれでも見れば分かるよ。君の技量は軍隊でも通用するさ』

「なんでそこで軍隊が出てくるか良く分からんが…ま、ほめてくれてアリガト」

 適当に返事を返すと今度はフランから通信が入った。

『そろそろいいかしら?』

『あぁ…すいません。輸送船はもう来ているんですか?』

 フランにボルドが尋ねる。するとフランは首を横に振り、

『いいえ。もう帰った後よ』

「……は?」

 フランの言葉にフィオは首をひねる。物資を受け取るはずなのにその物資を運ぶ船がもう既にいないと言うのはどういう事か。ロンドに尋ねようとしたがどうやらロンドも聞かされていなかったらしくフィオと同じく険しい顔をしている。

 1人、ボルドだけが状況を分かっているらしく首を縦に振り、

『了解……ということはそろそろですな』

 そう言って明後日の方向へ機体を向ける。そこに何があると言うのだとフィオは同じように機体を動かす。

「……ん?」

 すると視界の隅に何かが映った様な気がした。気のせいかと思ったがそうではないらしい。センサーに反応があり遠隔カメラを起動させて確認する。

「おい……まさか」

 遠隔カメラに映ったのは浮遊する幾つかのコンテナだ。フラフラと漂うそれらを見てフィオはヒクヒクと唇が引きつるのを感じた。それを肯定するかのようにボルドが肩をすくめてみせ、

『残念ながらその通り。回収する荷物はあれだ』

「なんで漂っている」

『輸送船がこの近くで捨てたからだ』

「なんで捨てた」

『それはちょっとした秘密……聞いたらきっと呆れるだろうから聞かない方が良いよ』

 ボルドは視線を合わせずそう答える。フランも若干あきれ顔だ。

 気を取り直したようにフランは漂ってくるコンテナを指さし、

『ではこのコンテナを全て回収して下さい……どれが正解かは私も聞かされていないので』

「…ダミーもあるってこと?」

『面倒かもしれませんがよろしくお願いします』

 フランはハァとため息をついてお願いする。その様子を見る限り、この人も不本意でこんな真似をしているのだろうと言うのが分かった。まぁそうだろう。なんとなしにフィオにもこの運搬方法が非効率に見えるしフランにもそう思えたからなのだろう。

 フィオは小さく了解と答えると漂うコンテナの回収を始める。無重力の中を泳ぐコンテナは少し触れるだけでフラフラと流されて行ってしまう。大小様々な大きさがあるがとにかく拾えるものから拾っていかないと何処に流れていくか分かったものではない。

 フィオは片手で拾えるものから次々と拾っていきステーションとの間を往復する。

『ランスター、とりあえず運んできたコンテナは適当に積んどけ。とにかく全部回収する事を優先しろ』

「あいよ……しかし何だってこんな面倒な事をするかね」

『向こうさんの事情だ。深くは関わるな』

「いやだってさ。こんな訳の分からない寄こし方しておいて何考えてんだって思うだろ普通?」

『そうだな……だが考えるな。お前だから言うがな…相手さんは少し特別な事情がおありなんだよ。こっちが口出しできることなんてそうありはしないのさ』

「特別な事情って……相手は軍人さんなんだろ?」

「おま……っ!!」

 ロンドが慌てたように周りを見渡すがフランたちに気付かれている様子はないと分かると一先ず胸を撫で下ろし、

『……いつ気付いた?』

「機体のスペック見てりゃあ分かるよ…明らかに民間機の出力じゃない。OSに兵装関連のプログラムがあるのに気付かないと思ったか?誰がこの4カ月ばかしマニューバ・パターンの入力をしていたと思ってんだよ」

『……まぁいつかばれるのは分かっていたが…あまり吹聴するんじゃねぇ』

 その言葉にフィオはふと気付く。ロンドがここまで気を使っている所など始めて見た。普段は気に入らない相手ならすぐに怒鳴り飛ばす粗野な部分が目立つ男なのだがここではだいぶ紳士的な行動に出ている。今までにも軍の受注を受けたことはあるがそのどの時よりも表情が硬い。新型開発だからだろうか。何かありそうだが恐らく教えてはくれないだろう・

 諦めてコンテナ回収に集中していると1つおかしなコンテナを見つけた。

「ん?…やけにへこんでいるな」

 何かに衝突でもしたのだろうかへこんで壊れかけたコンテナ。近づいてみるとそれがコンテナで無い事が分かった。

「なんだこれ…脱出ポットか?」

 それは随分とひしゃげて使い物にならなくなった緊急脱出用のポットだった。これでは誰かが乗っていても生命維持装置がちゃんと働かず、助からないだろう。明らかに今回の仕事とは無関係のものだが見つけてしまったものを放置するのは些か良心が痛む。

 とりあえずそのポットを回収して他のコンテナと一緒にしておく。


 その後も幾つものコンテナが運びこまれ最後にようやく一番大きなコンテナを運び終わり作業は終わった。

「お、終わった……」

 予想以上に体力と時間を使いフィオはその場に崩れ落ちる様にして倒れる。

 何処に流れていくか分からないコンテナを運ぶのは時間との戦いだ。当然、休憩など無く4時間以上操縦席に座りっ放しだった。

 禿頭のボルドは苦笑しながらフィオに飲み物を手渡す。

「お疲れさん。やっぱり良い腕してるじゃないか。一個の取りこぼしも無く全部回収できるとは思わなかったよ」

「…そんな褒められるほどの腕前だとは思わないけどね」

 などと平静を装っているが人に褒められることの少ないフィオは内心、心が躍っていた。極力表情に出さないように努めているが口の端がピクピクと震えていた。

 その頃、ロンドとフランはテーブルの上で書類にサインをしながら今後の予定について話し合っていた。右腕の義椀でサラサラと達筆な署名をする。外見に見合わず器用―と言う訳ではなく只単に義椀にそう言った機能があるだけだ。

「……ではミスタ・ゴルヴァーン。今日の機材を基に作業を進めて下さい。3週間後にそちらへ伺わせていただきます」

「…3週間と言わずにあと2週間で完成させてみせるが?」

「いえ。作業はそのままのペースで大丈夫ですので……それに今回お渡しした機材ですが恐らく組み上げるのに大変時間がかかると思います。間違いの無いようにお願いいたします」

「間違いね……。分かりましたよ。3週間後には完成させておきましょう」

 ロンドはそう言うと最後の書類にサインをすまして渡す。それを一読しフランは頷く。

「では宜しくお願いしますミスタ・ゴルヴァーン」

 スッと立ち上がるとフィオの側に居たボルドは最後にフィオと握手を交わし立ち去る。

「そんじゃあ俺たちも戻るぞ」

「あー……もう少し休みてぇ」

「若い奴が何言ってんだ。とっとと立て」

 へいへいとフィオは呟いて立ち上がるとふと思い出した。

「あぁそういえば……作業の途中で変なもん拾ったんだけど」

「お前…そう言う事は拾った時点で報告を入れろよ」

「明らかにただのデブリぽかったから忘れていたんだよ」

 フィオは壊れた脱出ポットの話をするとロンドは微妙な顔をして、

「まぁ気持ち的に拾いたくなるのは分かるが……チャレンジャーだなお前も」

「は?何が?」

 フィオが首を傾けるとロンドは肩を竦め、

「考えてみろ…もしその中に人が乗って言ったらどうする?」

「どうって……」

 ひしゃげて使い物にならなくなった脱出ポット。

 もしそれが壊れる前に使われていたとしたらどうなるか。

 当然、誰かが乗って使う。そして乗った後に何らかの要因であのようになったとしたら中に居た人は、

「…うぇ」

「そう言う事だ。ま、拾ったからにはお前が責任を持って処理しろよ」

 それは間違いなく中身についても言っているのだろう。フィオは重たくため息をついた。


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